「同じ考えの国」 Either will Do...






 1日目。その日、キノと相棒エルメスはとある国に入国しようとしていた。
 北にあった城門にて、入国手続きを行なう。
 「今日は。ボクはキノ。こちらは相棒のエルメス。休息と観光のため、3日間の入国を希望します」
 「解りました。少々お待ちください」
 丁寧にそう対応し、奥に引っ込む男性の入国審査官。それをのんびり見送り、
 「エルメス、前に旅人に聞いたんだけどさ、この国ってね、なんか面白いらしいよ」
 「なんか? 何が?」
 「さあ。ボクも実はよくわからないんだけどね。何でも国中の人が同じ考えらしいよ」
 「はあ。さいで」
 笑ってそういうキノに、わけがわからないよとエルメスがぼやく。そんなもののどこが面白いのか。
 「―――お待たせいたしました。我々はあなた方の入国を許可・歓迎いたします」
 そんなに待つこともなく、帰って来た審査官が笑顔で城門を開けてくれた。
 「ありがとうございます」
 お礼を言って、キノはエルメスを押して中に入った。審査官の隣を通り過ぎようとして、
 「あ、キノさん。その腿に吊っているのはひょっとして―――」
 「はい。パースエイダーです」
 目を少し開いて驚く彼に、キノは後ろ腰から『森の人』を、右腿から『カノン』を抜き出した。グリップを相手に向け、よく見えるように差し出す。
 「ちなみに、腕のほうは」
 「4段。黒帯びです」
 「はあ・・・・・・」
 呆けたように呟く審査官。その様を見て、キノは首を傾げた。
 「もしかして、武器を持っての入国は禁止ですか?」
 「え、いえ! むしろ大歓迎ですよ!!」
 「そうですか?」
 「ええ! あ・・・話は北地区代表者から直々お伺いいただけるかと。まあ今日はもう遅いですから詳しくはまた明日にでも」
 「はあ・・・それじゃ」
 ささ、と中へ手で招く審査官に従って、キノは2丁のパースエイダーを再び元の場所に収めてエルメスを押していった。
 「北地区代表? 何のことだろうね、キノ」
 「さあ。まあ、代表者さんが話してくれるみたいだし、とりあえず明日の行き先は決まったね」
 「・・・って、休養と観光じゃなかったっけ」
 「間違ってはいないよ。この国についていろいろ聞けるだろうし。それに―――」
 「それに?」
 「もしかしたら食事でも出してくれるかもしれないし」
 「そっちが実は目的?」
 「まあね」







・     ・     ・     ・     ・








 2日目。その日、シズと僕の陸はとある国に入国しようとしていた。
 南にあった城門にて、入国手続きを行なう。
 「今日は。私はシズ。こっちは相棒の陸。休息と観光のため、2日間滞在したい」
 「解りました。少々お待ちください」
 丁寧にそう対応し、奥に引っ込む女性の入国審査官。それをじっと見つめ、
 「陸、前に旅人に聞いたんだが、この国はどうも面白いらしい」
 「どうも、と申されますと?」
 「どうも、だ。私も実のところその理由はよくわからないんだが、何でも国中の人が同じ考えを持っているらしい」
 「同じ考え、ですか」
 笑ってそういうシズに、陸が愛らしい顔のまま首を傾げた。割と普通の事ではないか?
 「―――お待たせいたしました。我々はあなた方の入国を許可・歓迎いたします」
 そんなに待つこともなく、帰って来た審査官が笑顔で城門を開けてくれた。
 「どうも」
 礼を言って、シズはバギーのエンジンを入れた。発進させようとして、
 「あ、シズさん。1つお伺いしますが、何か武器はお持ちで?」
 「ええ。これを」
 軽く手を上げて止めてくる彼女に、シズは運転席脇にあった愛用の刀を取り上げた。鞘を手で持ち、よく見えるように差し出す。
 「ちなみに、腕のほうは」
 「とりあえず、最低限自分のみを守れる程度には」
 「はあ・・・・・・」
 呆けたように呟く審査官。その様を見て、シズは眉をひそめた。
 「武器を持ったままの入国は禁止ですか?」
 「え、いえ! むしろ大歓迎ですよ!!」
 「そうですか?」
 「ええ! あ・・・話は南地区代表者から直々お伺いいただけるかと。家まですぐですし、ぜひ1度お寄り下さい。手厚くもてなしてくれるでしょう」
 「そうですか。では、さっそく」
 ささ、と中へ手で招く審査官に従って、シズは刀を再び元の場所に収め、バギーのアクセルを緩く踏んだ。
 「南地区代表? 何のことでしょう、シズ様」
 「さあね。まあ、代表者とやらが話してくれるようだ。知らない事であれこれ悩んでもしょうがない」
 「では、そこへ行かれるのですか?」
 「ああ。この国についていろいろ聞けるだろうしね。それに―――」
 「それに?」
 「手厚くもてなしてくれるらしい。なら断るのも悪いだろ?」
 「わかりました。シズ様が言われるのでしたら」
 「・・・・・・。そう言われると嫌味に聞こえるよ」





 「この国は現在、『北地区』と『南地区』に分かれてるんです」
 「はあ」
 「それは、またどういった理由でですか?」
 北地区代表者の話。その一言目を聞き、曖昧に頷くエルメス。キノは出されたスープを飲む手を止めて、訊き返した。
 「それが・・・あいつら南地区の奴らは酷く野蛮で、我々文明を持つ者とは全く話が合わず、一緒の生活なんてとてもとても・・・・・・」
 眉を寄せ、吐き捨てるように言う代表者を見てきょとんとするキノに、別の場所から声がかかった。
 「キノ、どこが『国中おんなじ考え』?」
 「おかしいなあ。確かにそう聞いたんだけど」
 「なので国の中でさらに城壁、地区壁とでも言うんでしょうか、それを設けそれぞれ別の暮らしをしているんです」
 2人が小声で話をしているのに気付いているのかいないのか、そのまま代表者の話は続いた。
 「もしかして『北と南でそれぞれ』って意味だったのかなあ?」
 「そうだよそう。じゃなきゃ絶対ただのガセ」
 「だとすると・・・・・・何が面白いんだろう?」
 「それなのに1つの国だったりするところとか?」
 「それも考えられるけど―――」
 「ですが、南の奴らはそれで満足しないようで・・・。事ある毎にわたしたちの北地区を攻撃―――」
 「するんですか?」
 ひそひそ話から顔を上げ、キノが尋ねた。今日の今までいろいろ見回ってきたが、具体的な被害個所は見られなかった。
 キノの言葉に代表者はゆっくりと首を振り、
 「いえ、今のところはまだ。ですがいつそのようなことをし始めるかと思うと、気が気ではありません」
 苦悶に満ちた表情で呻く代表者。その周りでは、家族、それに料理を運んできてくれていた執事やメイドらがやはり同じような顔をしていた。
 「キノ、間違いないよ。ここは同じ地区ではおんなじ考え方の人たちだらけだね」
 「うるさいよ、エルメス」
 嬉しそうに小声で言うエルメスのタンクをとりあえず軽くぶっ叩いて黙らせてから、改めてキノは全員を見回した。冗談やからかいは一切含まれない彼らの表情。そこからはただひたすら恐怖と僅かな憤怒が見て取れた。
 がたん、と音を立てて代表者がいすを引いた。テーブルの端、料理の載っていない辺りに手を付き、頭を下げてくる。
 「お願いです! どうか! どうかわたし達のために力を貸してください!!」
 『お願いです!!』
 部屋中に響く声。驚いてキノが首をめぐらせると、そこにいた全員が土下座をしていた。
 「あ、あの・・・ちょっと・・・・・・」
 止めようとするキノを遮って、再び声が、今度はソロで響いた。
 「わたし達はもう限界なんです!! このままでは何をされるか!! それを考えると夜も眠れません!!
  お願いですキノさん!! どうか助けてください!!」
 「助ける・・・って言っても、その状態で僕に出来ることはあまりないかと。最初に申請しましたがこの国にいるのはあと1日です。警護でしたら他の方に頼んでください」
 「いえ。警護ではありません。確かに地区の若い者にやらせていますが、それだけではいざという時防げないかもしれません」
 「へ〜。そんなに弱っちいの? ここの守りって」
 またも茶化すエルメスをキノはまた叩こうとしたが、代表者の言葉の方が早かった。
 「いえ。南の奴らごときに負けるような軟弱ものはいません。ですが、やはり攻める方が有利になるものでしょう?」
 「必ずしもそうとはいえませんが・・・。まあ確かに一理ありますね」
 頷くキノに勇気付けられたか、いすから立って近寄ってきた代表者が、キノの手を握り締めた。
 「ですからキノさんには先に攻めていただきたいのです!!」
 「先・・・に・・・?」
 「ええ!! 攻められる前に攻めろ、というのが一般常識です!! 何でもキノさんはパースエイダーの有段者だと!! それほどの実力があるのならばあんな南の奴ら簡単に落とせます!!」
 「いや・・・でも・・・・・・」
 「お礼はちゃんとします!! 前払いで!!」
 「あの・・・・・・」
 「それにもしキノさんが引き受けて下さるのなら今夜は盛大なパーティーを開きます!!!」
 「だから・・・・・・」
 「そうだ!! そうしましょう!! 今夜は北地区全員を呼んでキノさんのために最高のもてなしをしましょう!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「あ、攻める際は全ての負担をこちらが持ちます!! おっしゃって下されば武器・弾薬・燃料、その他もろもろ。全てこちらで用意させて頂きます!!!」
 「・・・・・・・・・・・・はあ」
 「引き受けてくださいますか!! ありがとうございます!! このご恩は一生忘れません!! ではさっそく宴の準備にかかりますので、キノさんは戦闘の準備を。
  おーい!! 全員至急地区中に伝えろ!! 今夜はキノさんの歓迎会だ!!」
 『はい!!』
 「え〜っと・・・・・・」
 戸惑うキノをよそに、早口でそうまくし立てると全員飛び出していってしまった。
 「キノ・・・、引き受けるの?」
 かなり冷めた口調で訊いてくるエルメスに、逆にキノは自分を指して訊いた。
 「ボク、いつ引き受けたことになったの?」





 「この国は現在、『南地区』と『北地区』に分かれているんですの」
 「・・・・・・」
 「それは、またどういった理由で?」
 南地区代表者の話。その一言目を聞き、いつものように聞耳は立てていながらも会話には一切参加しない陸。シズは出されたパンをちぎる手を止めて、訊き返した。
 「それが・・・彼ら北地区の人々は酷く野蛮で、私たち文明を持つ者とは全く話が合わず、一緒の生活なんてとてもとても・・・・・・」
 言葉こそ丁寧だが、嫌悪感を露にして吐き捨てるように言う代表者からは視線を外して、シズは陸と目を合わせた。
 「シズ様、失礼ながら先程の説明と酷く違うような・・・」
 「おかしいな。確かにそう聞いたんだけど」
 「なので国の中でさらに城壁、地区壁とでも言うのでしょうか、それを設けそれぞれ別の暮らしをしているのです」
 2人が小声で話をしているのに気付いているのかいないのか、そのまま代表者の話は続いた。
 「ああ、もしかしたら『南と北でそれぞれ』といった意味だったのかもしれない」
 「そうですね。あるいは国を間違えたか」
 「いやそれはない。確かにこの国だ。だが・・・だとすると、どこが面白いのか・・・・・・」
 「それであるにも関わらず1つの国であるところなどですか?」
 「それも考えられるが―――」
 「ですが、北の人々はそれで満足しないようで・・・。事ある毎に私たちの南地区を攻撃―――」
 「するんですか?」
 ひそひそ話から顔を上げ、シズが尋ねた。短時間ながらいろいろ見回ってきたが、具体的な被害個所は見られなかった。
 シズの言葉に代表者はゆっくりと首を振り、
 「いえ、今のところはまだ。ですがいつそのようなことをし始めるかと思うと、気が気ではありません」
 苦悶に満ちた表情で呻く代表者。その周りでは、家族、それに料理を運んできてくれていた執事やメイドらがやはり同じような顔をしていた。
 「陸、間違いない。ここは同じ地区では同じ考え方の人たちばかりだ」
 「シズ様、それを喜ばれるのもどうかと」
 嬉しそうに小声で言うシズに陸が釘をさす。軽く肩を竦め、改めてシズは全員を見回した。冗談やからかいは一切含まれない彼らの表情。そこからはただひたすら恐怖と僅かな憤怒が見て取れた。
 がたん、と音を立てて代表者がいすを引いた。テーブルの端、料理の載っていない辺りに手を付き、頭を下げてくる。
 「お願いです! どうか! どうか私たちのために力を貸してください!!」
 『お願いです!!』
 部屋中に響く声。驚いてシズが首をめぐらせると、そこにいた全員が土下座をしていた。
 「あ、あの・・・こんな事をされても・・・・・・」
 止めようとするシズを遮って、再び声が、今度はソロで響いた。
 「私たちはもう限界なんです!! このままでは何をされるか!! それを考えると夜も眠れないんですの!!
  お願いですシズさん!! どうか助けてください!!」
 「助けろ、と言われても、その状態で私に出来ることはあまりないかと。最初に申請しましたがこの国にいるのはあと1日です。警護でしたら他の方に頼んでください」
 「いえ。警護ではありません。確かに地区の若い方にして頂いておりますが、それだけですといざという時防げないかもしれません」
 「ここの守りにはそれほどに問題が?」
 僅かに揶揄を含めたシズを再び陸は諌めようとしたが、代表者の言葉の方が早かった。
 「いえ。北の人々程度に負けるような軟弱な方はおりません。ですが、やはり攻める方が有利になるものなのでしょう?」
 「必ずしもそうとはいえませんが・・・。まあ確かに一理ありますね」
 頷くシズに勇気付けられたか、いすから立って近寄ってきた代表者が、シズの手を握り締めた。
 「ですからシズさんには先に攻めていただきたいのです!!」
 「先に?」
 「ええ!! 攻められる前に攻めろ、というのが一般常識じゃありませんか!? 聞く所によりますとシズさんは刀1本で旅をしていると!! 国の外に出るのなら危険な目にもお遭いでしょう!? それを刀1本で切り抜けられるほどの実力があるのならば北の人々など簡単に落とせますわ!!」
 「いや・・・しかし・・・・・・」
 「お礼はしっかりします!! 全て前払いで!!」
 「あの・・・・・・」
 「それにもしシズさんが引き受けて下さるのなら、今夜は盛大なパーティーを開きます!!!」
 「だから・・・・・・」
 「そうよ!! そうしましょう!! 今夜は南地区全員を呼んでシズさんのために最高のもてなしをしましょう!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「もちろん攻める際の負担は全てこちらが持ちます!! おっしゃって下されば武器・防具・燃料、その他もろもろ。全てこちらで用意させて頂きますわ!!!」
 「・・・・・・・・・・・・はあ」
 「引き受けてくださるのですね!! ありがとうございます!! このご恩は一生忘れません!! ではさっそく宴の準備にかかりますので、シズさんは戦闘の準備をお願いいたします。
  貴方達!! 全員至急地区中に伝えてちょうだい!! 今夜はシズさんの歓迎会よって!!」
 『はい!!』
 「え・・・と・・・・・・」
 戸惑うシズをよそに、早口でそうまくし立てると全員飛び出していってしまった。
 「シズ様・・・、引き受けるのですか?」
 笑ったような顔ながら、声には不安を露にして訊いてくる陸に、逆にシズは自分を指して訊いた。
 「陸、答えてくれ。私はいつから引き受けたことになっていたんだ?」







・     ・     ・     ・     ・








 3日目。地区中の人々に見送られ、キノとエルメスは『地区壁』から外へ走り出した。途端に砂ぼこりを浴びて、キノが軽く咳込む。今までいた北地区がとりわけ発達していた訳ではなかったが、同じ国内だというのに地区壁の中と外では大きく異なっていた。
 枯れた地の所々に荒れ草が生えるだけ。道どころかそれらしきものすらない。よっぽどお互い行き来していないらしい。
 「キノ〜」
 「ん?」
 「本っ当〜に、やんの?」
 「何か不満なのかい、エルメス?」
 「そりゃ不満でしょ。つまるところ正当防衛の先制攻撃って感じじゃん。それじゃ意味がないよ」
 「上手いねエルメス。確かにこの地区の人たちはただ疑心暗鬼に襲われてるだけだ。実際何かあったなんて事、1度もないだろうね」
 「何でそんな事わかるの?」
 「地区全体が攻撃に備えてるのはわかる。家も頑強なつくりになってたしね。けどそれが傷付いた形跡がなかった。警護をしてるって人たちの武器や防具もね。新品だった。少なくとも戦闘経験のある代物じゃない」
 「スゴいね、キノ。昨日1日でそれだけ見てわかったの?」
 「あれだけ目に付けばね」
 昨日のパーティーを思い出し、キノが笑った。いたるところにいた警備たち。若い者、と言っていたが、昨日見た限り子どもから老人まで、性別問わずにあらゆる人々が警備にあたっていた。もしかしたら地区の人全員がやっているのかもしれない。
 「じゃあやんない?」
 「う〜ん・・・・・・」
 話を戻すエルメスの速度を少し落とし、キノは少し目線を泳がせた。
 「けど料金は前払いでもらっちゃったし、あんなパーティーまで開いてもらっちゃったし、そのうえ弾丸も燃料も本当にただでもらっちゃったし・・・・・・」
 「じゃあやんの?」
 「う〜ん・・・・・・」
 「・・・・・・どっちさ、結局」
 「わからないから悩んでるんじゃないか」
 「あ、そ」
 どうでもよさげに呟いて、それきり黙りこくるエルメスをとりあえず南地区方向に向けたまま走らせる。と、
 「エルメス」
 「わかってる。この音、シエノウスのバギーだね。1台。ちょうど向かいから」
 「シエノウスのバギー?」
 エルメスの指摘に、キノは眉を潜めた。以前、同じバギーに乗る人と犬に会ったような・・・。
 「たまたま同じなだけ、かな?」
 「だったらよかったよ」
 心底嫌そうなエルメスの声。徐々にはっきりしてくる姿に、キノはああと頷いた。たまたまではなかったらしい。
 キノはエルメスのサイドスタンドを出して止め、自分もその隣に降り立った。
 「キノさん、それにエルメス君も!」
 キッと音を立ててバギーが停止した。運転席から降りた男性が声をかけてくる。その後ろには愛くるしい顔の犬を従えていた。
 「シズさん、陸君! お久しぶりです」
 「やあ。本当に久し振りだね。調子はどうだい?」
 「相変わらず気ままに旅をしてます。シズさんは?」
 「私たちも変わらず、だ」
 などと2人が挨拶をする傍らで、
 「また会ったね、ポンコツ」
 「まだ生きてたんだ、スケベ犬」
 「相変わらず走らさせてもらってるの?」
 「そっちこそ、相変わらず人間にくっついてるだけか? たまには役に立ってみせろよ」
 「全部世話してもらわなきゃ何も出来ないお前とは違うんだよ」
 「この・・・!!」
 「なんだよ・・・・・・!!」
 「陸、その辺でお止め」
 「エルメス、いい加減仲良くしなよ」
 「こんなのと仲良く!? できるわけないじゃん!!」
 「こんなの・・・!?」
 再びケンカが始まろうとしたが、今度はそれを無視し、キノはシズに尋ねた。
 「シズさん、質問がいくつかあるんですけど」
 「構わないよ」
 「南地区から来られましたか?」
 「ああ」
 「これから北地区に?」
 「ああ」
 「それじゃあ―――」
 「その前に私にも確認をさせてくれ。君達は北地区から来て、南地区へ行くのかい?」
 「ええ」
 「スゴいねキノ。質問、1つで終わったよ」
 しきりに感心した様子で、いきなり会話に参加してきたエルメスを軽く睨んでキノが先を促した。
 「それで?」
 「これから先の疑問は多分キミも同じになるんじゃないかな?」
 「そうですね。多分―――」
 『「北/南地区へ何をしに行くか」』
 「でしょ?」
 「だね」
 最初を除いて2人の声が綺麗にハモった。にっこり笑うキノ。苦笑するシズ。
 「ついでにもう1つ言わせてもらうなら・・・答えも多分一緒じゃないかな?」
 「でしょうね」
 「そなの? キノ」
 「もしかしたらそうじゃないかって思っただけなんだけどね」
 「ああ、触角ってやつだね」
 「・・・直感?」
 「そうそれ」
 「1文字しか合ってないじゃないか。まあ意味はまだ完全に違うとは言わないけど。ちなみにボクにはないけどね。触角」
 キノとエルメスが脱線していくそばで、陸がシズを見上げて尋ねた。
 「シズ様。と、おっしゃられますと―――」
 「私達『も』、北地区へ今から攻撃しに行くところなのだが」
 「シズ様!」
 「ええ。ボクたち『も』、今から南地区へ攻撃しに行くところです」
 「キノ!?」
 あっさりそう言ってくる主人に、相棒に、陸とエルメスが鋭い声を上げた。が、その2人はだからといって特にどうする事もなく、相も変わらずの苦笑と笑みでのんびり話を続けるだけだった。
 「それはまた、どういった理由で?」
 「南地区が攻撃をしてくる『かもしれない』からです」
 「つまり正当防衛を盾にとった先制攻撃をしに行く、と?」
 「のようですね」
 「君は―――失礼だけど、それに賛成なのかい? そんな筋の通っていない理屈に従えるのかい?」
 まくし立てるように訊いてくるシズをじっと見て、キノは逆に質問し返した。笑みのまま、シズから目は逸らさず、
 「ではあなたは賛成ですか? それとも反対ですか?」
 糾弾している訳ではない。ただ尋ねてくるだけのキノの目を暫し見て、シズは視線を下に落とした。
 「私は・・・・・・どちらだろうね。まだ悩んでいるよ。実のところここに今いるのは成り行きだって言い訳もできる」
 「成り行き?」
 「ああ。私はまだどちらとも決めていなかった。だがそれを伝えるよりも早く事態が進んでしまった。歓迎会までされて、燃料や食糧、全てを用意されればやらないわけには行くまい。
  本当に、ただの言い訳だよ」
 自嘲を浮かべるシズ。彼にエルメスのお気楽な声が突き刺さった。
 「な〜んだ。キノと一緒じゃん」
 「え・・・・・・?」
 「キノってば食事が食べたい一心で代表者さんに話聞きにいって、決まった後は弾薬も燃料も積めるだけ頼んでさ、そんなに必要ないのに。しかも歓迎会じゃ倒れるまで思いっきり食べてきたからね。やらないわけにはいかないっしょ。その上全額前金だもんね」
 ごんっ!
 余計な事を言うエルメスのタンクをぶっ叩いて、キノは呆気に取られるシズに照れ笑いを浮かべた。
 「まあボクたちはそんな理由で」
 「キノ1人」
 「お前だって燃料もらっただろう?」
 「・・・・・・なるほど」
 シズが再び苦笑を浮かべた。
 「あれ? 笑わないんですか?」
 「一応自覚あり?」
 「うるさいよ、エルメス」
 「私達も大体同じだからね。君達を笑う理由はない」
 「ああ、ここにもがめつい人間が1人」
 「お前シズ様に向かってなんて事言うんだよ!!」
 「べっつに〜。ただ思った事言っただけだけど?」
 「この・・・!!!」
 吠え掛かろうとする陸の頭を撫でてなだめ、シズは苦笑を消してキノを見た。今度は面白そうな笑みを浮かべ、
 「さて。お互いの事情はわかった。問題はこれからだ」
 「あ、はい! いい案!!」
 キノの隣でエルメスが喚く。
 「お互い会わなかった事にしてそれぞれの地区に行って、暴れてきたら?」
 「それでどうしろっていうのさ。全然解決になってないじゃないか」
 「じゃあキノとシズで勝負して、勝った方がその首持ち帰ったら? ちゃんと目的は果たしたよ」
 「・・・・・・馬鹿モトラド」
 「何〜〜〜!!!?」
 もう何度目になるのか言い合うエルメスと陸は放って置いて、キノはシズと同じ笑みを浮かべ、提案した。
 「このまま何もせず逃げましょうか」
 「それで? どうするつもりだい? 依頼を破る事になるよ?」
 「なりませんよ。ボクは南地区へ攻めようとしている。シズさんは北地区へ攻めようとしている。もし2人が何もせず一緒に逃げたとしたら? ボクはシズさんから北地区を、シズさんはボクから南地区を守った事になる。完全には違反していませんよ?」
 「なるほど、ね」
 この上なくおかしそうにシズが笑った。ものは言い様だ。キノの今の言葉も実のところ詭弁に過ぎない。だが、
 「いいね。じゃあそれで行こうか」
 「そうですか?」
 「ああ。詭弁ではあっても間違ってはいないからね」
 「ひどいなあ。真面目に言ったのに」
 「ああ、それは悪かったね。
  ―――おいで陸、この国を出るよ」
 「エルメス、じゃあボクたちも行こうか」
 「え・・・?」
 「シズ様・・・?」
 「申請期間は2日、今日までだ。早く出国しないとな」
 「ボクたちも丁度3日目だからね。そろそろ次へ向かおうか」
 肩を竦める2人にモトラドと犬がきょとんとし、反対する理由もなかったため従った。







 「『同じ考えの国』か・・・」
 モトラドと共に国外へ向かって走る最中、シズがぽつりと呟いた。
 「シズ様?」
 「確かに面白い国だったね」







 「キノ」
 「何?」
 バギーと共に国外へ向かって走る最中、エルメスがキノだけに聞こえるよう、呟いた。
 「最近特に言動が師匠に似てきたよ」
 「・・・・・・・・・・・・。誉められたのかな? それって・・・」


















・     ・     ・     ・     ・

 ふ〜。そんなワケで(どんなワケだ?)初、キノの旅でした。う〜みゅ。やっぱり1本目でリククリアは難しかったですオカン様。というわけでこちらへ。しかしよくよく考えると『エルメスと陸の口喧嘩』『それをやれやれと見つめるキノとシズ』・・・・・・一応合ってるといえば合ってるか・・・? これこそ『詭弁』か・・・・・・。
 今回シズ&陸でありながら陸視点ではなく3人称で行きました。キノ&エルメスが3人称だったので統一。ごちゃ混ぜにすると読みにくさが当社比3倍くらいに跳ね上がるかと思った・・・・・・んですが、読み直すとむしろ統一した方がどっちサイドかわからず読みにくいですな。
 反省のしどころが多いなあ・・・。ちなみに4人、というか2人と1匹と1台の言葉遣い、なんだかおかしいですねえ。むう! やはりキノの旅に対する愛情がまだ少ないのか!? しかし多くすればしたでそれこそ問題ばかりのような・・・!!! というか既に全員壊れ始めているような・・・・・・。ていうかシズ様、あんたそんなに流された挙句犬に突っ込まれてていいのか・・・(誰に対しても失礼)!!!
 ではそんなワケでキノの旅でした。さあ、リクをこなせるのはいつの日になることやら!

2003.3.2425

 ラストに、サブタイトルの英語は『どっちでもいいよ・・・』。エルメス辺りにぼやいてほしいですわ。