「国ではない国」 −Traveler's Rule−
壁があった。高さはさほどでもないが、どこまでも横に伸びる壁が。
壁には門があり、その前にはキノとエルメスが佇んでいた。
「壁、だね」
「壁、だね」
「城壁かな?」
「城壁かな?」
「繰り返さないでよエルメス」
「他に何て言えばいいのさキノ」
返され、キノがむ〜と呻いた。
壁は壁だった。それ以上ではなくそれ以下でもなく壁だった。
門があるからには中に入れるのだろう。問題は―――その門に誰もいない事だった。
「入ろうか」
「どうやって?」
「門あるじゃん。そこから入ったら?」
「誰もいないよ?」
「全自動かも」
「明らかに違うじゃないか」
「じゃあ無理やり」
「入った途端攻撃されたりしたらどうするのさ?」
「出ない向こうが悪いのさ」
「ボクが死んだらエルメスそう言っておいてね」
「ノックしようか?」
「それが無難かな?」
首を傾げ、キノは開いている扉をこんこんと叩いた。誰も出ない。
「入っていいっぽいよ?」
「何でそうなるのさ?」
「だって出ないもん」
「入るな、って意味かもしれないよ?」
「それならそう言うよ」
「入っていいなら入っていいって言うんじゃないかな?」
結局何の意味もなかったようだ。さらに首を傾げ。
「一発撃ってみようか。驚いて出てくるかも」
「・・・・・・・・・・・・」
特に反対されなかったので、キノは右腿からカノンを引き抜いた。
静かな辺りにゴウンッという轟音が響き渡り・・・・・・・・・・・・。
「誰も出てこないね」
「キノ・・・。最近特に言動が師匠に似てきたよ?」
「どこが?」
これ以上問答していても意味はなさそうだ。キノはエルメスに跨りエンジンを噴かした。
「どこ行くの?」
「次の国探そうか」
「入らないの?」
「勝手に入っちゃマズいだろ?」
「いんじゃん? 開いてるし」
「それじゃ不法侵入だよ」
「開けっ放しの向こうが悪いのさ」
「ボクが捕まったら―――」
「言っといてあげるから安心して」
「・・・・・・・・・・・・」
・ ・ ・ ・ ・
中に入った。中は何もなかった。外と同じように枯れた大地には草木が生え、それがどこまでも続いていた。
「・・・・・・『国』?」
「その国にはその国の特色があるものだよキノ。アウトドアが好きな国なのかもしれない」
「でも人いないよ?」
見渡す。人がいたような形跡すら見られない。
「もしかしたら地下とかにいるのかも」
「それでも扉くらいはあるんじゃないかな?」
見渡す。地下への入り口らしきものはなかった。
「城壁作って資財なくなったのかも」
「そんな馬鹿な」
今度は見渡さなかった。
・ ・ ・ ・ ・
走る。
走る。
走る。
走って3日が経った。
「困ったなエルメス」
「何が?」
「今日中に出ないと」
「『1つの国には3日』のルールに反する?」
頷くキノに、
「じゃあ大丈夫だよ」
「何で?」
「だってここ、国じゃないから」
「・・・何で?」
「人がいない」
「そんな国だって今まであっただろ?」
「何にもない」
「城壁があったよ?」
「きっとただの壁だったんだよ」
「そうかなあ?」
「今日中に出られそう?」
「・・・・・・。
まいっか。国じゃなかったっていう事で」
・ ・ ・ ・ ・
もう一度壁に当たった。それから5日後の事だった。
「国じゃなかった国じゃなかった」
「そうだね。国じゃなかった」
笑顔で呟き、キノはその門を開け、
『ようこそわが国へ!!』
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
了
・ ・ ・ ・ ・
最近キノの旅Uのゲームをずっとやっています。やってると無性に話が書きたくなりますね。ゲームオリジナルキャラ『セイ』と先代キノのイケナイ世界・・・・・・じゃなくって普通にキノの旅の話。
キノの旅独特の、こういう盛り上がりのない話(誉めてるのか・・・?)は書いていてもいいですねえ・・・vv
2005.12.23