容易に侵入するためか、それともこちらを動揺させるためか。よりによって工藤新一に変装した怪盗キッドは、なんとその上コナンの目の前で蘭を口説き始めた。
 展望台へ上った2人+コナンと園子。見回る《新一》にコナンはついて行き・・・・・・






Trick Star





 「おい! どういう事だよキッド!!」
 2人きりになるなり、さっそくコナンは《新一》へと詰め寄った。とはいってもズボンの裾を掴んで引き止めるのがせいぜいだったが。
 「ん?」
 止まり、振り向く《新一》というかキッド。元々の顔立ちが似ている―――とはいっても自分が見た事のあるそれが『素顔』だとは限らない。食えないこの男の事。今だに自分の前ですら素顔を見せてはいないのかもしれないが―――ため、直視すると少しドキリとする。
 (・・・ってそれじゃ俺がナルシストみてえじゃねえか)
 自分に突っ込み落ち着きを取り戻す。そんなのもまた見透かされているのだろう。見下ろすキッドは瞳を細め薄く笑っていた。
 睨み付けてやれば、笑みを消しわざとらしく大げさなため息などついてきて。
 「わざわざ2人っきりになっていきなりンな話からスタートかよ。もうちっとムードってモン考えろよ」
 「2人っきりにしたのはオメーだろ!?」
 「オメーがなりたそうだったんでな」
 「はあ!?」
 大口を開けて驚くコナン。その口を、
 しゃがみこんだキッドが塞いだ。
 「〜〜〜〜〜〜////!!??」
 突然のキスに顔が真っ赤になる。自分では意識していなかったが、息も止めていたようだ。
 口を離され、まずは空気を思いっきり吸い込んだ。
 吸い込んだ息で、怒鳴りつけようとして―――
 「そーいう風に騒いでっとさすがに蘭たちに見つかんぞ」
 今度は人差し指で塞がれ、コナンは渋々怒りを引っ込めた。
 不機嫌なまま、問う。
 「で?」
 「『で?』?」
 「だから、何でわざわざ俺なんかに変装してんだよオメーは」
 「いや別に? ただ面白そうだったからな」
 「『おまわりさ〜ん。ここにかいとーきっどがいま〜す』」
 「悪かった。ちゃんと答えるから。な? 機嫌直せよ? 飴玉やるからさ」
 「『おまわりさ〜ん!! 怪盗キッドが新一兄ちゃんに変装して徘徊してま〜す!!』」
 「訂正!! 俺が悪かった心の底から反省する!!」
 「・・・・・・ホントかよ?」
 「もちろんな。むしろオメーが飴くれ。千歳飴っぽいやつもちろんミルク味」
 「・・・・・・・・・・・・なんでオメーいつものキザ台詞とそういう下ネタ同じ口から出んだよ」
 半眼で突っ込む。怒りも苛立ちもすっかり収まった。こういう馬鹿は真面目に相手するだけ損だという悟りと共に。
 キッドが立ち上がった。《新一》の笑顔で言う。
 「たまにゃアイツにも会っとかねえとな。ずっと待ちぼうけ食わせちまってんだから」
 遠い目をするキッドを前に、コナンはむしろ視線を落とした。蘭の方に向けない。向けられない。
 「・・・・・・。そうだな」
 「お? 否定しねえのか? 『オメーは俺じゃねえだろ』とか何とか」
 「しねーよ。今のアイツにとっちゃオメーが俺だ」
 下を向いたままのコナン。その目に浮かぶは諦め、後悔、そして―――罪悪感と絶望。
 言葉にはされずとも一途な彼女の気持ち、まさかわかっていないなんて事はないだろう。この推理オタクならば。
 なのに直接受け取れない。なのに突き放す事も出来ない。
 突き放せない理由は何だろう。今自分が『新一』ではないから? ならばもし『新一』だったら? 小さくなっていなかったら? それなら彼女を突き放すか?
 考え、キッドは心の中だけで苦笑した。
 ありえない事だ。もし彼が小さくなっていなければ、そもそも自分とこんな関係になったワケがない。彼が『新一』だった頃、自分たちはただの怪盗と探偵、ライバル同士でしかなかった。
 変わったのは彼が『コナン』になったから。いつも子どもを演じる彼にとって、中身だけでも元に戻れる相手というのは貴重な存在だ。それも仲間として手を取り合うだけでなく、敵として凶暴性をむき出しに出来る相手というのは尚更。
 (探偵っつーのも難儀なモンだな)
 相手を追い詰める事に特化している分、ヘタな犯罪者よりタチが悪い―――と思うのは自分が逃げる側だからか。逃げれば逃がせばより深くなる自分たちの関係。他に相手が在ない分、コナンが深みに嵌るのは早かった。
 引き返せないライン。それを越え、なお自分を求め続けたコナン。まるで恋人を捕まえるかのように伸ばされた手を、自分はしっかりと受け取った。
 崩れるコナンが見たかった。求める相手を間違え、罪には問われずとも自分と共犯者として十字架を刻まれてしまった彼は一体どうするのか。
 今日《工藤新一》として現れたのもそのためだ。本来ならそうなるべき正しい恋人へ、誤った恋人が接触する。語り、笑い、触れ。
 自分たちを見、彼は何を思っただろう。今の彼の目を見れば、手に取るようにわかる。
 自分の残虐性については否定しない。自分は今のコナンを見て愉しんでおり・・・・・・嫉妬している。自分より彼女を気にする彼へと。
 彼を落とすはずが、どうやら自分が堕ちてしまったようだ。
 (この怪盗キッドともあろう者が、まさか盗み失敗どころか盗まれちまうなんてなあ)
 だが―――
 今だにそれは言っていない。態度にも現していない・・・・・・と言うと語弊があるが。
 実際好きと思ってはいてもそれを言葉にしていない、それでも気付かれている蘭と丁度逆だ。言葉に態度に愛してると乗せ、それでも自分は決して気付かれない。彼から見れば『いつものからかい』、ただそれだけだ。
 だからこそ、キッドは言葉に態度に乗せた。
 再びコナンを見下ろし、笑う。
 「何だよ拗ねてんのか? クールっぽいクセして可愛いじゃねえか」
 「だ・・・//!? ば、な・・・!!」
 「『誰が!? 馬鹿、何言ってんだよ!!』?」
 「繰り返してんじゃねえいちいち!!」
 「いや繰り返してねえし」
 睨め上げてくるコナン。怒る瞳に映るのは自分だけ。そんなところで後ろ向きに満足し、キッドは再びしゃがみこんだ。今度は警戒し下がろうとするコナンを逃がさないよう抱き締め、
 耳元に、囁いた。



 「心配しねーでも、俺が愛してんのはオメー1人だけだからな」



 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜////////!!!???」
 キスされた時以上に真っ赤になる。解放するなり後ろによろけ、ぱくぱく口を開いたり閉じたりするコナンにくつくつと笑い、
 《新一》はしゃがみ込んでいた体を起こした。
 「んじゃ、先行くぜ。あんま遅せーと心配されっからな」
 「あ、オイ―――!!」
 手を伸ばすコナンを、今度は振り切って。
 「オメーはまだ戻んなよ? その顔で戻ったら熱あんのかって訊かれんぞ」
 「誰のせいだ!!」







?     ?     ?     ?     ?








 キッドが消えた物陰にて。コナンは1人、ずるずると壁にもたれしゃがみ込んでいった。
 「ったくあのヤロー・・・・・・」
 ボヤき、顔を押さえる。確かに熱い。
 「あんな事平気で言いやがって・・・。俺がどういう気持ちで聞いてると思ってんだ・・・!!」
 それが、いつものキザ台詞の1つなら自分だって軽く聞き流すし「寒・・・」とかいくらでも突っ込む。
 それが・・・・・・・・・・・・本気で言われたのでなければ。
 「あれで隠してるつもりかよ・・・。俺がどれだけオメーの事見てたと思うんだよ・・・・・・」
 マズい。ロミオとジュリエットが始まるまで後数時間。キッドの『お遊び』は間違いなくそれまで続くだろう。
 後数時間、顔を合わせていなければならない。嘘を暴くのは得意でもつくのは苦手だというのに。
 「ったくあのヤロー・・・・・・//」
 コナンは呪詛を込めもう一度呟いた。頬を赤くしたまま・・・・・・・・・・・・。



―――Fin














 本日(既に昨日ですが)やっていたコナンの映画第8弾《銀翼の奇術師》を観、最初の方のシーンでいきなりキッド×コナンに萌えました。そんなこんなで書いてみた1本。元々コナンは普通に(?)好きで、いいのはコナン・新一・平次・キッドそして灰原さん。
CPならコナン×平次、キッド×コナンといったトコか。ただし私はコナンと新一はあまり区別して考えていませんが。
 ・・・・・・などとぬるま湯に浸かる気分でのんびり考えていたら、なぜか実際出来てしまいました。その場のノリっておっそろし〜なあ。最近ふてぶてしい攻が好きなのも影響アリですか誰が原因とは言いませんが!? ところでそのふてぶてしい攻がキッドとなるはずが、これまたなぜかものっそコナンの手の平で踊っております。やっぱヘンにシリアスぶらない方がよかったか・・・。
 と、初めてのための反省記はまあこの程度でいいとして、祝☆初経験をこの辺りで終わらせて頂きたいと思います。こんな僻地にまさかコナン
Fanは来ないだろうとタカをくくりつつ苦情は来ませんようにと手を合わせ一番星に祈る(注:現在午前1時43分)、そんな強気なんだか弱気なんだかわかんない管理人でした。ところで今回の映画、って・・・ラストの展開(コナンが新一として電話でアドバイス)が第1弾《時計じかけの摩天楼》にかなり被ってたような・・・。

余談。
 ・・・・・・・・・・・・今回、タイトル最高に気に食わないかもしれない・・・。は〜。せっかくの初モノなのにタイトルだけ思いつかない・・・・・・(泣)。

2005.3.2829