危険な夜にご用心




某日の新聞に、小さいながらもこんな記事が出ていた。
 《中学生、夜道で強姦魔を逮捕!!》
 と―――







∫   ∫   ∫   ∫   ∫








 その日部活を終えたリョーマは、いつもの如く桃城と一緒に(正確には桃城の自転車に乗って)帰るつもりだった。そこに同じく部活を終えた英二が「腹減った〜。何か食お〜」と誘ってきたため、これまた当然の如く先輩に奢らせて近くのバーガーショップでハンバーガーを買った。極めていつも通りの事だ。
 ハンバーガーも食べ終わってさて帰ろうかというところで桃城に呼び出しの電話が入った。携帯で一通り話し終わると、彼は妹を迎えに行くからと逆方向へ行ってしまった。自転車に乗れないのは残念だがそのためにわざわざ遠回りする事もない。リョーマは1つため息をつくとテニスバッグを背負い直した。
 「おチビ〜、途中まで一緒に帰ろv」
そう言い肩を並べる英二に、そう言えば英二先輩と2人で帰るのってなんか珍しいな、と思いつつリョーマは「いいっスよ」と短く答えた。







∫   ∫   ∫   ∫   ∫








 「そういえばおチビ〜」
 「何っスか?」
 今まで笑顔で他愛のない話を(ほぼ一方的に)していた英二が、突如真顔で呟く。
 「桃、何でさっき帰ったか知ってる?」
 「妹迎えに行くからでしょ?」
 そう本人も言っていたし、あの電話を聞いていれば大体の流れはわかる。
 何を今更と言おうとしたリョーマを遮って、英二が更に質問を重ねる。
 「けど妹っていったって、もう行き帰りにお迎えのいる年じゃないっしょ?」
 「もう暗いからじゃないっスか?」
 テニス部の練習は日が暮れるギリギリまで行われる。その後着替え、片付け(これはリョーマのみ)、そして寄り道とくればとっくに日は暮れている。
 「そりゃまそうだけどさ・・・」
 「なんなんスか?」
 それ以上いう事が思いつかないのか口篭もる英二に、とうとう諦めてリョーマは訊き返した。
 (言えなくなるなら前置きなんてしなきゃいいのに・・・)
 などど思いつつ。
 「あのね、最近出るんだって」
 「出る?」
 (何が? どこに?)
 これだけ主語も目的語も抜けまくった言い方ではさっぱり解らない。これが英二特有の話し方だが、この上更によく飛ぶ彼の話にまともについていけるのは、親友の不二か黄金コンビの大石か、あるいはそれすらも持ち前のデータ分析で先読みする乾くらいのものだろう。
 「変・質・者」
 「ヘンシツシャ・・・・・・ってあの、女の子とかいきなり捕まえて強姦したりする人の事っスか?」
 「そうそう―――って、おチビ何気にスゴい事言うね」
 頷き、英二は一歩引いた。まさしくその『女の子』のような容姿のリョーマが淡々と言うと、あまりシャレにならないような・・・。
 「そうっスか? けど別に間違ってないでしょ?」
 アメリカにいればその程度の事は別に珍しくもない。むしろ犯される程度で済まされるのならば儲けものだ。
 「ま、そうだけどね。
  ―――で、桃はそう言った危ない目から妹を守るために行ったんじゃないかにゃ〜」
 心配性だね、と笑う英二をリョーマは不思議そうに見上げた。
 「けど桃先輩がいたなら確かに手は出しにくいでしょうね。いい判断だと思いますよ、俺は」
 「だけど変質者が必ずしも出るとは限らないでしょ? ならあそこまで焦らなくても」
 別れ際の桃城の様子を思い出し、英二はそう言った。普段がさつなように見えて先輩をよく立てる桃城が、挨拶もそこそこに―――どころか残された2人がギリギリでわかる程度の事情しか説明せずに、大慌てで自転車に飛び乗ったのだ。
 「―――英二先輩、危機感薄いでしょ?」
 思いついて、ふと言ってみる。
 「んにゃ?」
 目を大きく開いて首をかしげる英二に、リョーマは心の中で苦笑しつつ答えた。
 「日本じゃ―――今はどうか知りませんけど―――水と安全はタダって言うでしょ? 英二先輩も思ってません? 自分は大丈夫だって」
 「ん〜・・・」
 リョーマの鋭い発言に、しかしながら特に怒るでもなく英二は眉を寄せた。
 「確かにそう思ってるかもね」
 「否定しないんスか?」
 「してもしょうがないっしょ? 本当に危険だって思ってるんならこんな時間にこんな場所で立ち話なんかしてないし」
 「一応歩いてますよ」
 「おチビヘリクツーー!!」
 「痛いっスよ、英二先輩・・・」
 口を尖らせて英二がリョーマの首を抱えこめかみをグリグリとこずいた。まあ夜道でこんなことをのんびりとやっている辺り、2人とも危機感はかなり薄かったのだろう。
 と・・・
 「うにゃ?」
 道の向こうに人影を見たような気がして英二の動きが止まった。
 「どうしたん・・・っスか・・・?」
 おかげでやっと苦しさと頭の痛みから解放されたリョーマが、息も絶え絶えに訊く。
 「今、そこに人がいたようにゃ・・・」
 「人?」
 首を傾げリョーマもそちらに目を凝らした。だが街灯の乏しい中ではただの暗闇にしか見えない。
 「・・・・・・気のせいじゃないっスか? それに人がいたって別に不思議じゃないでしょ?」
 暫く暗闇を見てリョーマはこう判断した。この時間なら別に人がいたところで不思議ではないだろう。
 「んにゃ〜、そーかも」
 リョーマの意見に英二も賛成し、落としていたテニスバッグを拾い上げた。本当に人がいないのならともかく、もしいたとしたらこの一本道でずっと止まっていた2人に何故追いつかないのか、そんな疑問はすっかり忘れて。
 「なら、行きましょうか」
 そう言い歩き出そうとした―――その刹那。
 「英二先輩!!」
 「うにゃ?」
 前を向いていたリョーマの叫びに英二もかがんだまま顔だけを上げ・・・・・・
 「に゙ゃ!?」
 進行方向から飛来してきた何かに息が止まる。
 「石!?」
 動体視力のいいリョーマがそれの正体を当てる。そのときには2人とも行動を起こしていた。2人の持ち味は動体視力の良さだけではない。そこから繋がる神経の働き。そしてそれに対応する筋肉の収縮。それらは全て毎日のテニスで鍛えている。
 無様に顔面に当たるなどという真似はせず、石が2人の元に到達する時には既に2人とも身をかわしていた。リョーマは横に一歩飛びのき、そして英二は更に身をかがめて。
 だが安心する暇もなく、次の攻撃が来た。今度は道の反対側から、鉄棒らしきものを持った男が体勢を崩した英二へと駆け寄る。
 「おらぁ!」
 頭を下げ半端にかがんだ今の英二では起き上がるかその姿勢で飛びのくかしかない。だが足元にはテニスバッグ。仮にうまく飛びのけたとしても、それに足をとられて転ぶ―――普通ならば。
 男もそう思ったのだろう。鉄棒を大上段に構え、ロクに警戒もせず突っ込んできた。
 その一方で・・・・・・
 攻撃の対象外となったリョーマは口の端に笑みを浮かべ、そして―――
 「へへへのカッパ!」
 余裕の笑みで頭を更に下げた英二が、地面に手をつき後ろに飛び上がった。きれいに伸びた足が男のあごを捉え、仰向きに倒れた男の頭上に着地する。
 「残念無念また来週〜♪」
 笑顔で手を振る英二。普段あれだけアクロバティックプレイをしているのだからこの程度は楽勝だろう。
 「この・・・!」
 今度は石の飛んで来た方から声があがった。同じく鉄棒を握った男が出てくる。
 「おチビ!!」
 「今度は俺ね・・・」
 どうせ英二の実力に驚いて体の小さい自分に向かってきた、といったところだろう。毎度の事ながらムカつくその判断に、リョーマは憮然として呟いた。
 「え・・・?」
 宙を舞う男にはわからなかっただろう、今自分が何をされたのか。
 「うっわ〜、おチビ強えー!」
 地面に叩きつけられ気絶した男から早くも視線を外して英二が目を見開いた。対するリョーマはさして面白くもなさそうに制服についたほこりを払う。
 「別に大したことじゃないっスよ。ただ相手の力を利用しただけですから」
 「けどそんなんドコで身につけたん?」
 「アメリカでっスよ。日本人のガキなら格好の餌食になりやすいから護身術の1つでも身につけておけって言われて」
 まあそう言った本人が平気で『日本人のガキ』を夜お使いに出したりしたのだから身について当然だろう。
 「にゃるほど〜」
 ため息をつくリョーマに何かを悟った英二が同情的な声をあげた。父親と兄姉。加害者こそ違うものの、身内におもちゃにされる経験は2人とも豊富である。恐らくその辺りを感じ取ったのだろう。
 「けどどーすんスか、この2人」
 このまま放っておくか、それとも警察にでも突き出すか。
 「そー言えばおチビ。携帯は?」
 「持ってないっスよ。先輩は?」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 警察への通報手段がないことはこの痛いほどの沈黙が雄弁に物語っていた。だがどちらかが交番へ行くとなれば残った方が当然危険だし、かといっていくら運動部で鍛えていたとしても、大の大人2人(それも気絶中)を担いで行けるとは思わないし。
 「おチビ役に立たない〜!!」
 「それなら英二先輩もでしょ?」
 「桃がいれば一発オッケーだったのに〜!!」
 「そういえば桃先輩は持ってたっスよね」
 なおもひとしきり喚き続ける英二を冷めた目で見つつ、リョーマは肩を落とした。
 「―――どうします? 人来るまで待ちます?」
 深くため息をつくリョーマの横で英二が手を打つ。
 「あ、い〜コト思いついちったv」
 「・・・・・・?」
 眉をひそめるリョーマをよそに、英二はそう言うとにっと笑った。







∫   ∫   ∫   ∫   ∫








 「―――で、どーしたんだ?」
 明くる日の部活にて、話題は今朝の朝刊の事で占められていた。名前こそ出ていなかったものの、S学園中等部男子とくればおおよそ見当はつく(身内には)。
 特に惜しくもその場にいられなかった桃城が、全員を代表するかのようにリョーマと英二を質問攻めにしていた。
 「しょうがないから男の持ってた携帯借りたんスよ」
 帽子を被り直したリョーマが不満げに言った。着替え終わったのだし早く部活をやりたいのだが、周りが解放してくれない。部活が始まる時間であるにも関わらずこんなところで話していたとなれば手塚部長にまた「グラウンド何十周」と言われそうだが、その本人は何故か今ここにいて2人の話に(一見)興味なさげに耳を傾けていたりする。本人曰く「部員の安全の確認は部長の大事な努め」だそうだが実際のところはもちろん不明である。部長がそんななのだから他のレギュラー及び部員も全員ここにいる。
 「けどいいんスかそれ。窃盗っスよ」
 「いんじゃん? すぐ返したし」
 電話代は払ってないケドね、と笑う英二の隣で、今までただ黙って2人の話しを聞いていた不二が笑顔のまま口を開いた。
 「けどその2人って強姦魔、だったんだよねぇ、新聞の話だと?」
 「そう言ってたにゃ」
 だから? と首を傾げるリョーマと英二をひたりと見つめ、不二は楽しそうに笑った。
 「じゃあどっちだろうね、犯人たちが狙ったのって?」
 『――――――!!?』
 その言葉に、今まで盛り上がっていた部室内の空気が一気に凍りついた・・・・・・。







∫   ∫   ∫   ∫   ∫








 「さあって、部活部活」
 不二がぱたりと閉めたドアの向こうで、今までと違う意味で部室内は盛り上がっていた。
 『え、英二先輩でしょう!? 線細いし髪も長いし―――!!』
 『お、おチビに決まってるにゃ!! 小さいしかわいいし―――!!』
 周りもを巻き込んだそんな争いは、手塚お得意の「全員グラウンド
30周!!」で収まるまで延々10分以上続いたという・・・・・・。



おしまいにゃv









 

 

∫   ∫   ∫   ∫   ∫   ∫   ∫   ∫   ∫   ∫   ∫   ∫   ∫

おわった〜v 昨日思いついて昨日のうちに書き上げようと思って時計を見たら.m.1140だったりする辺りダメじゃん自分、といった作品です。これで何かわかった人は凄いです(思いっきり壊れ中)。
 なんかテーマはサブタイトルそのまんまなんですけど、ラストの不二先輩と同じ考えに至り、『暴行犯』から『強姦魔』に変わりました。けどあそこに不二先輩いたら完璧だなあ・・・。いやその後の犯人らの運命考えたらいない方がいいんでしょうが。―――と書いてると、私の中の不二って、真っ黒だなあ・・・。いやいいけどね、カッコいいし。

 そうそう、今の
OPDriving Myself』って、なんか一部のキャラ(具体的にはリョーマと桃城と英二と不二)だけやたらと贔屓にされてません? スタッフのサービス(?)かキャラランキングを反映したのかそれとも私の見方が偏見ありすぎなのか。大石&河村とか海堂&乾とかはやたらと短いような。そりゃ曲にあわせればそうなるかもしれませんが何だかなあ、と。嬉しいけど。
 あとアニメと言えば先週の予告《兄、不二周助(つまりは不二
vs観月の回)》。不二先輩の予告がメチャメチャかっこよかった〜v テープに撮って保存したい! 最後に言った「僕の弱点? それはぜひ見てみたいなあ(絶対冷笑浮かべて)」がサイコーによかったです。アニメの不二先輩カッコ良過ぎですたい! なんか自分壊れ始めました! 最初はこの声イメージとちょっと違うかな、とか思ってたのに・・・。

 そうそう、声優と言えば、夏に発売される
PSソフト『SWETSTEARS』、予約特典の声のメッセージカード欲しさに予約しそうです。その前のソフト『GENIUS BOYS ACADEMY』も不二先輩のCMのカッコ良さに購入したくてたまりません! ゲームボーイアドバンス持ってないのが悔しすぎです!! バイトもやってないクセして乱費癖だけはありますから。 

 しっかしここまでハマったかテニプリ・・・。珍しく自力ではまったものだし・・・・・・。

200261516