カルピン  (笑)






 桃城の自転車を借り、家まで戻って来たリョーマ。しかし家で菜々子に聞くもカルピンの行方はわからなかった。
 制服も着替えず家中を探し回る。しかしやはりどこにもいない。
 「いた? リョーマさん」
 廊下を慌ただしく走っているところに
菜々子から声がかかる。窓から顔を覗かせてきたところからすると彼女は庭を見ていたのだろう。
 「いない。もういっぺん学校行ってくる」
 簡潔に答え、リョーマは玄関に向かって走り出そうとし・・・、
 「リョーマさん!」
 「ん・・・?」
 再び
菜々子から声がかかる。一応振り向くが正直なところ無視してでも早く探しに行きたかった。
 心配そうな上目遣いがリョ−マの焦りをそのまま表す。普段表情をあまり変化させない彼にしては極めて珍しいことだ。それだけに彼が今どれだけカルピンの事を想っているかよくわかった。
 その心配を少しでも取り除けるように、
菜々子は口を開いた。
 「大丈夫よ。カルピン、絶対見つかるから」
 その言葉を受け、リョ−マの足が止まった。根拠は無いだろうに力強く言う彼女を見つめ―――厳寒に再び向かう。先程までの不安そうな目は無い。歯を噛み締め、不安を打ち消し。
 靴を急いで履くと和風の家らしい木製の引き戸を勢い良く開けて・・・・・・
 「―――よう」
 入り口に立っていた桃城の笑顔を見て固まった。
 「・・・・・・」
 視線を左に動かすと桃城同様制服姿の手塚・大石、そしてなぜかまだレギュラージャージ姿の英二までいる。
 「・・・・・・・・・・・・」
 珍しい組み合わせに約1秒ほどそのままでいた後、
 −−−リョ−マはやはりそのままガラガラと引き戸を閉めた。
 「・・・こらこら越前」
 桃城の声とともに閉めかけた扉が開かれた。思わず前のめりにたたらを踏む。
 なんスか、と文句を言おうと桃城を見上げるリョーマ。だが彼がそれを実行するよりも早く。
 「ホレ」
 「ほぁら」
 桃城が開いた学ランの中からカルピンが顔を覗かせてきた。
 「カルピン!?」
 探していた存在のいきなりの出現に、目を見開いてリョーマが叫んだ。そんなご主人の驚きをわかっているのか、何事も無かったかのようにごく自然にリョーマの胸へ飛び込むカルピン。
 「おまえ・・・心配したんだぞ・・・・・・?」
 カルピンを胸元に抱き寄せ小さく叱咤する。いつものリョーマからは想像もできない弱々しい声。カルピンの背中を撫でる手は小さく震えており、その笑顔も今にも泣きそうなものだった。
 「ほぁ〜?」
 そんなリョーマの様子を敏感に察知したらしいカルピンが、胸から少し伸び上がると目を閉じ腕の中の存在を確かめているリョーマの頬を舐めた。
 「うわっ!? 
  ―――ってカルピン! くすぐったいって!!」
 舐められた方の瞳を閉じ、リョーマは身を竦めた。一応叱りつつもなじみのある感触に顔がほころぶ。
 なおも顔を舐めようとするカルピンをどかそうと手を伸ばすが、人間には無いすばしっこさでひょいひょいとかわされる。
 「―――リョーマさん?」
 どうやら玄関先での騒ぎに気付いたらしく、
菜々子が部屋の襖から軽く顔を覗かせてきた。
 「あ、
菜々姉! カルピン見つかったよ!!」
 「ホントに!?」
 廊下に出てくる彼女に良く見えるようカルピンを抱き替え、リョーマは体ごと振り返った。満面の笑みを称える彼の腕の中では、カルピンが不思議そうに小首をかしげている。
 元気そうなカルピンか、それとも帰って以来のリョーマの笑顔か、どちらを見てか
菜々子も安堵の笑みを浮かべた。
 「よかった・・・・・・。それで、一体どこに・・・?」
 「ああ、部活の先輩達が届けてくれ・・・・・・!」

 菜々子
の質問に答えかけ―――リョーマはその娘とに気が付き、再び固まった。カルピンが無事に帰って来てくれた事ですっかり忘れていたが、届けてくれた先輩方はまだここにいた。
 『・・・・・・・・・・・・』
 気まずい沈黙が続く。リョーマは喜んではしゃぎ回った恥ずかしさに、4人は初めて見た年相応の顔をしたリョーマへの驚きに、何もフォローの仕様が無かった。
 とりあえずいつまでもそのままでいても仕方ないので、近付いて来た
菜々子にカルピンを渡すとリョーマは務めて平静に玄関の方を向いた。
 「・・・ども」
 俯いて、小さく礼を言う。その頬が少し赤く染まっているのは気づかなかった事にしておいた。
 「い、いや。ソイツたまたま部室にいたし・・・・・・」
 「そ、そースか。で、後は・・・?」
 「あ、ああ・・・。越前、これは竜崎先生からだ」
 「・・・スミマセン」
 「え、越前、バッグはここに置いておくから・・・」
 ひたすらに棒読みで続く会話。
 ((き、気マズイ・・・・・・))
 「ん、んじゃあチビ、また明日〜・・・・・・」
 「あ、サヨーナラ・・・」
 英二の無理矢理な話題転換でどうにか会話は終了した。
 歩み去っていく先輩達を見送る事もせず、リョーマは引き戸をゆっくりと閉めるとそこにもたれ、ずるずると腰を落とした。今まで走り回った疲労感と、カルピンが見つかったという安堵感で一気に気が抜けた。
 座り込んで、一言。
 「・・・恥ずかしかった」






▲ △ ▲ △ ▲








 リョーマの家から出てきた4人は道が分かれるまでの間、暫く並んで歩いていた。
 「おチビ、かわいかったね・・・・・・」
 ポツリと英二が呟く。答えは返ってこない。
 ―――が、全員の顔にうっすらと朱が差しているのは決して夕日のせいだけではないだろう。


終わり











▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ 


 アニプリパロディ第2弾です。この回は語りたいこと多すぎ! 王子はひたすらに表情クルクル変えるし桃を上目遣いで見るし、英二は「大石〜。80円貸して80円貸して80円貸して〜!!」って言う間に上目遣いはするはブリっ子ポーズはするは、しかも不二様は開眼で微笑むしあげくに王子まで目を細めて同じ笑顔するし!!! ところであの話、やはり海堂はコミックスのリベンジですか? だからあそこまで嬉しそうなんですか? しっかしさらに疑問なのは不二様。アンタ碧眼なんかい(むしろ今まで気付かなかった自分に大爆笑)!? それじゃ裕太と兄弟になれないよ・・・・・・(以下30分ほど1人語り)

 ・・・・・・なんかうるさく語ったところでそろそろ終わりにします。あ、ちなみにこの話、カルピンが出てくるところまではアニメそのままです。アニメでは出てきたカルピンにリョーマは目を見開いて驚き、そして泣きそうな顔になるけど(でもって目がちょっと潤んでいるようにも見えるけど)先輩達がいる事に気がつき俯いて「ども」と言う。あとはスムーズにその後の会話、となってます。しかしこの話は文章よりもむしろ絵にした方がいいような。リョーマの表情の変わり方は文では――というより私の作文技術では表しきれません。頭の中ではメチャメチャ可愛いのに〜〜〜!!!

 

2002.8.25〜26