ボールを追って
お題
|
Act1 山吹中の場合(千リョ前提)
「あれ?」
コートにて練習していた千石はコートの端をちらちらと動くものに目を細めた。フェンスの下をフラフラと動くテニスラケット。と思ったらフェンスの外にはそれを動かす少女の姿もあった。
「何やってんの?」
近付いて聞いてみる。
「あっあのボールが入っちゃったんです・・・・・・」
言われてラケットの先を見る。確かにちょっと先にはボールが1つ。山吹中のボールかもしれないがまさか嘘をついてまでとろうとはしないだろう。
「ああ、これ?」
千石はそのボールを拾い上げ、手の中で弄んだ。と―――
「あ!」
少女が声を上げる。
「あの、もしかして千石さんですか!? 山吹中の」
驚いた顔で少女がこちらを指差す。が、そんな事よりもっと気になる事を聞こうと千石は口を開いた。
「あのさ、キミ確か青学の子だよね?」
確か以前青学の偵察をしたときにいた少女だ。
「あ、はい。あ! あの時はすみませんでした! ボールぶつけてしまって・・・」
厳密にはボールをぶつけたのは彼女ではないのだが、まあそれもいいとして。
「今日キミ1人なの?」
「え? いえ。あそこにいた友達の子とあと―――」
「―――また女の子ナンパしてるんスか、千石さん?」
肝心なところで後ろから声がかかる。敬語を使っているようでその実全く持って相手を敬っているようには聞こえないという特異な声の持ち主といえばこの山吹中に1人しかいない。いや正確には彼がそう接するのは自分に対してだけなのだが。
勢い良く振り向き、笑顔で叫ぶ。
「聞いてよ室町クン! って言うか見てよコレ!!」
「・・・・・・ボールっスね。それが?」
「ここ! ここ!!」
「・・・・・・。似顔絵っスか? 知ってる人なんですか?」
ボールに書かれた似顔絵を見てもまだ気付かない室町に千石は肩を落とし――ようやく気が付いた。そういえば山吹内であの子に会ったのはまだ自分だけだった。
「リョーマ君だよ! ホラ青学の!! なんか今日彼女と一緒に来てるみたいだよ!?」
(・・・・・・まだはっきりとそうだとは言ってなかったような気もするけど)
「リョーマ・・・・・・ああ、越前ですか」
あっさり納得する室町。それもその筈、千石はリョーマに会って以来「あの青学の子が凄く可愛かった〜〜〜vvv」と誰彼構わず言いまくり、その上昨日の都大会では告白してOKもらったと今日は朝から惚気つづけていたのた。
「そう!! 今日の恋愛運×だったけどなんだ良い事あんじゃん。っていうかむしろ◎?」
「・・・・・・あれだけいつも信じてる運勢よくそこまで変えられますね」
「だって〜v リョーマ君が俺に逢いに来てくれたんだよ? これ以上ラッキーな事がどこにあるのさ!?」
「・・・・・・。別にいいっスけどね、千石さんがそこまで言い張るんだったら。
けどやっぱその占いあってると思うっスよ?」
「え?」
ヒュオオ―――
ゴン!!
顔を上げかけた千石の額に見事テニスボールがクリーンヒット。倒れる彼から目を外し、室町はボールの飛んできたほうを見やった。
(なるほど、あれが『越前リョーマ』か・・・・・・)
確かにそこにはあの似顔絵によく似た背の低い少年がいた。ラケットを片手に。見てわかるほどの怒りのオーラを沸き立たせて。
「悪いね!! ボール入っちゃった!!」
「リョ、リョーマ君!?」
わけがわからないのか立ち上がって驚く少女の後ろで、室町はやはりずけずけと握りこぶしでこちらに歩いてくる少年を何も言わず見ていた。
「行くよ! 竜崎!!」
「え? リョーマ、君・・・?」
腕を引かれて引きずられる少女に、千石の持っていたものと先程故意に入れられたもの、2つのボールを投げ返す。
「ありがとうございます・・・・・・」
引かれたままも律儀に振り返って礼を言う彼女に室町も軽く手を振って―――ようやく気が付いた千石に静かに一言言う。
(嫉妬深い恋人を持つって言うのも大変なもんだ・・・・・・)
「恋人生活1日で終わりっスね」
「なんで〜〜〜〜〜〜〜!!!?」
日が暮れ部活も終わりという頃、まだ千石の魂の叫びは続いていた。
「リョーマ君カムバ〜〜〜ック!!!」
「アレ何とかならないか?」
「無理っスね」
「うるさいです」
「俺が黙らせてやろうか? ついでに永遠に」
南・室町・壇・亜久津の4人が半眼で眺める中、悲劇のヒロインよろしく地面に座り込んで手を伸ばす千石の姿はその後一晩中見られたという。
「リョ〜〜〜マく〜〜〜〜〜ん・・・!!!!!」
山吹編終わる
――ちょっと休んで中書き。千石さんって初登場時から何かとリョーマに構ってますよね。都大会初日にも会ってるし亜久津にも「俺のターゲットだからお前手を出すなよ」とか釘刺してるしあげくに決勝でははっきりとアタックしてるし。う〜ん、しっかし見事に空回り。ここまで空回りしまくると千石さんFanに怒られそうですね。
Act2 氷帝学園の場合
「―――何や?」
コートにて練習していた忍足はコートの端をちらちらと動くものに目を細めた。フェンスの下をフラフラと動くテニスラケット。と思ったらフェンスの外にはそれを動かす少女の姿もあった。
「何やっとるん、自分?」
近付いて聞いてみる。
「あっあのボールが入っちゃったんです・・・・・・」
言われてラケットの先を見る。確かにちょっと先にはボールが1つ。氷帝のボールかもしれないがまさか嘘をついてまでとろうとはしないだろう。
「ああ、これか?」
忍足はそのボールを拾い上げ、手の中で弄んだ。と、
「おい侑士、何やってんだよ」
後ろから声がかかる。振り向くと、まあ予想通り向日が腰に手を当てて立っていた。
「ナンパでもしてんのか?」
「アホ。誰がや」
「けど可愛い子じゃん。小っちぇーし」
「おんなじ『小さい子』やったら青学の越前君の方がええわ」
「え・・・・・・?」
その言葉に反応したのは少女の方だった。がとりあえず忍足は向日に説明した。手の中のボールを―――そこに描かれた彼と思わしき似顔絵を見せて。
「コレコレ。コイツ」
「うわ生意気そー。けど青学ってあの青学だろ? そんな名前聞いた事ねーぜ?」
「そらそやろ。なんせ『青学ルーキー』やし」
「ルーキー? ってことは1年か?」
「せやせや。都大会唯一の1年。メッチャ強いて話題になっとるで」
「・・・・・・ってなんでお前そんな事知ってるんだよ?」
自分達正レギュラー(一部)の出番は関東大会から。ならば忍足が都大会の様子を知っているわけはない。
「ああ、昨日見に行ったんや。ヒマやったし」
もちろん昨日も練習はあったのだが。
「ふ〜ん。けど珍しいじゃねえか。侑士がそんな理由で他人に興味もつなんてよ。大体お前は不二一筋じゃねーのか?」
「それは今かて変わとらへんわ。昨日も不二君見に行ったんやし。せやけどなあ・・・・・・」
昨日の試合を思い出しため息が洩れる。
「相手弱すぎやっちゅうねん! おかげでめっちゃつまらんかったわ〜。不二トリプルカウンター1回も使てくれへんかったし」
「仕方ねーじゃねーか。たかが都大会だし。しかも初日だろ?」
「せやけどな〜、もうちょっと何とかならへんかな〜」
「―――で、見つけたのがその越前って奴か」
向日の相槌に暗くなりかけていた気分が吹き飛ぶ。
「せやせや! ベスト8で不二の弟と当たったんやけどな、めっちゃおもろかったでー!」
「不二の弟? なんか左殺しとか言われてる? けど普通だろ、別に?」
「そらまーあの不二君と比べると普通やけどな、せやけど試合はおもろかったで! ドライブB言うたか、あの越前君の必殺技。スライディングかけよったん。しかも頭やのうて足から。誰やねん、テニスの技でスライディングなんてかける奴!?」
「はあ? 足からスライディング? それで何が出来るんだよ?」
「そー思うやろ、普通? 不二のトリプルカウンターにしろ越前君のそれにしろ普通考えつかへんで、ンな技!」
だからこそ興味を持ったのだ。強さや可愛さなど興味の対象ではない。面白いか否か。自分の判断基準はそれだけだった。
「ああなるほどな。で、越前にもはまった訳か。
んで、次は越前のそのドライブ何とか真似すんのかよ?」
「『真似』ゆーな。おもろそーな技やったらちょっと試してみたくなるもんやろ?」
「なんねーだろ普通は」
「『羆落とし』はクリアしたんや。あと2種類やで。せやけどホンマあと2種類って何やねん!?」
「いいかげん諦めろよ。実はねーんじゃね―のか? 後2種類なんて。あくまで迫付けで『3種の[トリプル]』なんていってんのかもよ」
「ンな訳あらへんやろ、あの不二が!! ってゆーかそれはマジで恥ずかしいで・・・」
「大体『面白い奴』だったら氷帝にだっていくらでもいんだろ?」
「ちゃうわ!! 俺がゆーとんのは『面白いテニスをする奴』や!! 誰が『生活全般指差して笑いたい奴』なんぞに興味もつか!!」
「ちなみにそれにもう俺たちも入ってるよな」
「・・・・・・虚しくなるからゆわへんといて・・・・・・」
と、
「あ、岳人、気いつけーや」
「何―――?」
ヒュオオ―――
パン!!
「―――がっ!?」
突如飛んできたボールをよけようとして後ろに倒れる向日。勢いそのままに1回転して立ち上がると同じ方向から声がかかった。
「悪いね。ボール入っちゃった」
「て、てめえ・・・!!」
人にボールをぶつけようとしてその態度。頭にきた向日がフェンスに詰め寄ろうとしたところで忍足の気の抜けた声がかけられた。
「何や。越前君やあらへんか」
「・・・誰、アンタ」
「ああ、せやな。会うんは初めてか。
―――俺は氷帝の忍足っちゅうもんや。で、こっちが向日」
「氷帝? って不動峰に3−0でボロ負けしたあの? 一応No.1シードだった」
「このヤロ・・・・・・」
あの不本意極まりない一戦を鼻で嘲われ向日のこめかみに青筋が浮き上がる。が、対する忍足は楽しそうに笑うだけだった。
「せやせやその氷帝」
「ふ〜ん。けどアンタ達で出てなかったじゃん。あいつらより下なわけ?」
「ちゃうで。俺達は正レギュラーや。あそこにおったダブルスは全員準レギュラーやで」
「へえ。って事はあんたたちはあいつらより強いって事? それともただの負け惜しみ?」
「どっちやろな? まあ答えは関東大会までおあずけな」
「まあいいけど。それよりボールとってくれない?」
「ああ、これやな」
今まで自分の持っていたボールを見て目的を思い出す。そう言えばこれを取ろうとしていた少女に返すはずだった。
それと向日に向かい現在その近くを転がっていたボールを手に取り―――ちょっと笑う。
「返してもええけど、代わりに1つ頼まれてくれへん?」
「はあ? 何を?」
「越前君青学やろ? せやったら不二に『出し惜しみすな』ゆうといて」
その第3者には完全に意味不明であろう言葉に少年―――リョーマは暫し悩み込み、ふと何かに気付いたのか顔を上げた。
生意気げに口を歪め、言う。
「ならアンタが先輩の相手したら? アンタが強かったら出してくれるんじゃない? トリプルカウンター」
その笑みの通り生意気な一言に、忍足はやはり楽しそうに笑った。
「それもそうやな」
そう呟き、ボール2個を同時に投げ上げる。上がった高さの違う2つのボールにラケットを当てると、5m程度のフェンスを越え1つは座り込んだままの少女の手に、もう1つは10mほど離れたリョーマのラケットへ収まった。
「ふ〜ん・・・・・・」
かなり難易度の高い曲芸(笑)に感嘆する様子もなく、リョーマは軽く声を上げると少女を放って歩き出した。
「あ、ま、待って、リョーマ君!!」
走り去る少女を見送って、忍足は今だフェンスにギリギリと指を書ける向日に言った。
「な? おもろいやろ、青学って?」
「むちゃくちゃムカつくーーー!!!」
氷帝編終わる
―――というわけで初氷帝。氷帝では忍足さんが好きです。たとえ手塚のドリーだろうが不二のレプリカだろうが(ヒド!)。何となく彼って強い人より面白い人の方が好きそう、というのは私のイメージです。ナチュラルに強い(たぶん)し。あ、ちなみに不二様も同類のような・・・・・・。
けど難しいですね、関西弁。両親関西人な割にはずっと関東にいるもので。どのくらいこの中での忍足氏の台詞がおかしいかわかりません。わかるんならもちろん直してます。てなわけでおかしいあたりは皆様の頭の中で変換していただけると幸いです。
しっかしこの話書くに当たって裕太をこき下ろしたのが一番辛かったよ〜(泣)。ごめんよ〜、裕太〜〜〜。
Act3 聖ルドルフ学院の場合(正確には彼らの通うテニススクールの場合)
「―――ん?」
コートにて練習していた裕太はコートの端をちらちらと動くものに目を細めた。フェンスの下をフラフラと動くテニスラケット。と思ったらフェンスの外にはそれを動かす少女の姿もあった。
「何やってんだ?」
近付いて聞いてみる。
「あっあのボールが入っちゃったんです・・・・・・」
言われてラケットの先を見る。確かにちょっと先にはボールが1つ。ここのボールかもしれないがまさか嘘をついてまでとろうとはしないだろう。
「ああ、これか?」
裕太はそのボールを拾い上げ、手の中で弄んだ。と、
「あ!」
少女がこちらの顔を見て口に手を当て驚く。
「あ、あの、もしかして不二先輩の―――」
「『弟』とか言うんじゃねえ!!」
言われ飽きた言葉に条件反射で反応する彼に―――
「あ、すみません・・・・・・」
泣きそうな顔で少女が謝った。
(ちょっと言い過ぎたか・・・・・・)
怒鳴ってしまったがあの越前との試合以来そう言われることに以前ほどの嫌悪感はない。誰がどう言おうと自分は自分なのだから。
「あ、わ、わりい・・・・・・。
んで、ボールだったよな。ほらよ」
ちょうどフェンスに穴のあいたところがあったのでそこから押し出してやろうとし、向きを変えたボールに見えたマークに硬直する。
「な、なあ・・・・・・」
「はい?」
「聞きてーんだけど、ここで何やってたんだ・・・?」
尋ねる声が震える。
「え? リョーマ君にテニスを習ってたんですけど・・・・・・」
「やっぱり・・・・・・」
がっくりと肩が落ちる。あの似顔絵はやはり越前のものだったのか・・・・・・。
「んで、じゃあ――」
最も恐るべき質問をしようとしたところで、
「クスクス・・・裕太、危ないよ?」
いつからそこにいたのか木更津が注意なのかなんなのかわからない言葉を投げかけてきた。それに従い視線を上げる。と、
ヒュオオ―――
「うげっ!!」
パン!!
フェンスの向こうからかなりの勢いで飛んできたボールを何とかラケットで弾く。飛んでいったボールはフェンスを越え見事(偶然だが)飛ばしてきた本人の元へ返っていった。
戻って来たボールを手にとり、涼しげに話し掛けてくる張本人。
「悪いね。ボール入っちゃった」
「越前!!」
「あれ? アンタ確か不二先輩の弟」
「裕太だ裕太。いい加減覚えろよ対戦した相手の名前くらい。てか今のわざとだろ」
「なんだわかってんじゃん。裕太」
しれっと答えるリョーマに裕太は諦めてため息をついた。この生意気な1年には最早何を言っても無駄そうである。
「それはいいとして、お前今日1人で来たのか?」
「ここに? だったらそこにいるのと一緒に」
「他には?」
「あともう1人」
「だ、誰だ・・・!?」
あからさまにうろたえる裕太にリョーマがにやりと笑った。
「さあ、誰だと思う?」
「ま、まさか・・・!!」
冷や汗がだらだらと顔を伝う。その先を言いたくないのか裕太はひたすらに「まさか」を繰り返した。
そんな裕太に―――
「残念。不二先輩は一緒じゃないよ」
「そ、そうか〜・・・・・・」
ほ〜、と息が洩れる。安心して思わずフェンスに捕まったままへたり込むと、リョーマが首をかしげていた。
「びびった〜。俺はてっきり兄貴が敵情視察だかなんだかわけわかんねー理由つけて来たのかと思った〜・・・・・・」
「―――あ、裕太〜vv」
「そうそうそんな風に言って・・・・・・って・・・・・・」
安心した笑みのままフェンスに顔面をぶつける裕太。聞こえてきた新たな声にリョーマが振り向いた。
「あ、不二先輩」
「越前君、偶然だね。どうしたの、こんなところで?」
「ああ、竜崎と小坂田にテニス教えてたんスよ。親父に頼まれて」
「へえそうなんだ」
「そういう不二先輩は?」
「ああ僕?」
笑顔で首をかしげると不二は右肩に下げていたバッグを見やすいように前に回した。細身の体には不自然なほどに大きなバッグ。
「そろそろ季節の変わり目でしょ? だから裕太に着替えを持ってきたんだけど」
「それでなんでこんなトコにいるんスか?」
「たまたまここ通りかかって綺麗だったから写真でも撮ろうかなって思ってね。けどスクールってこんなところにあったんだ・・・」
「ってなんで兄貴が来るんだよ!! 着替えは姉さんに頼んだだろ!?」
硬直から脱したらしい裕太がフェンスを思い切り殴りつけて不二に詰め寄る。がやはり不二はいつもの笑みで―――どころかいつも以上の笑みでにこにこと答えた。
「姉さんは今日はデートだって」
「はあ!? 昨日はンな事言ってなかったじゃねーか!!」
「さっき相手の人から電話があったんだよ。弟としては姉さんの幸せを第一に考えるものでしょ? だから僕が代理で来たんだ」
「だったらさっさと寮の方に運べよ!! 場所知ってんだろ!?」
裕太の声に怒りよりも焦りが混ざり始める。まずいのだ。この兄がこれ以上ここにいると。
「―――んふ。何騒いでるんですか、裕太君」
・・・・・・遅かった。
さすがにこれだけ騒げば注目を集めたようだ。こちらを見るいくつもの視線。そしてこの兄とは違う意味での笑みを浮かべ歩み寄ってくる存在。
「み、観月さん・・・!!」
「やあ観月v」
「き、きさまは不二周助・・・!!」
笑みのまま手を挙げ挨拶する不二に対し観月はずざっ、と音がしそうなほどの勢いで後ろに下がった。
「きょ、今日は何の用事で・・・!!」
「ん? 兄として弟の様子を見に来ただけだよ? 別に普通でしょ? それとも何? 僕に見られちゃまずいことでも裕太にやってるのかな、キミは?」
「ぐ・・・・・・!!」
閉じられた目を徐々に開き、しかし口元は笑顔のままというなかなかに難しい芸当をする不二にたじろぐ観月。しかし負けてなるものかと再び笑い、言い放った。
「んふ。確かに裕太君のツイストスピンショットが彼の体に負担を与えていたというのは僕も知っていましたよ。ですがそれもあなたを倒したいと裕太君が強く思っていたからこそ無茶を承知で教えただけですよ」
「へえ・・・。けどキミ確か竜崎先生に注意された時『そんな事ボクの知ったこっちゃない』とか言ってたよねえ。おまけに『打倒兄に燃える馬鹿弟は単純で操り易かったよ』とかも」
(こ、怖ッ・・・!!)
顔だけは笑顔で、しかし背後にどす黒いオーラを沸き立たせてフェンス越しに2人が見つめ合う。なんだか『ゴゴゴゴゴ』とか音がしそうだ。
そんな騒ぎを無視して、
「―――じゃあボールも返してもらったし練習続けるよ、竜崎」
「あ、うん」
いつの間に中に入っていたのか裕太の手からボールが抜き取られる。そのまま去ろうとしたリョーマの腕を裕太はがっしと掴んだ。
「ちょっと待て越前」
「何?」
「このまま放って置く気か?」
「別に、俺が不二先輩連れて来たわけじゃないし」
「そ、そりゃまあ・・・・・・」
そう言われてひるむ裕太から腕を外し、リョーマは扉から外に出た。
後ろ手に手を振る。
「じゃあ頑張ってね、裕太」
「って、お〜い・・・・・・」
今だにオーラをまとって嫌味合戦を続ける不二と観月。その2人のせいで練習できないスクール生一同。その中で・・・・・・
「俺もうやだよ、ここ・・・・・・」
「クスクス、ご愁傷様」
ただ1人、本当の笑みを浮かべた木更津がしゃがみこんだ裕太に声をかけた。ルドルフ編終わる
―――裕太が出てくる話はいくつか書いたけど、終わったのはこれが始めてだったりします今日現在。ちなみにお題がアニプリになっていたのはこの話が書きたかったからです。原作じゃ桜乃都大会行ってなさそうだし。しかし台詞は全て原作より。そっちの方が好きなもんで。あ、ちなみにこの話も一見観月はやむを得ず教えたっぽい言い方してますがもちろん嘘。そういって責任裕太と不二になすりつけてるだけです。え? 読めばわかる? ていうか当り前? ごもっともです。
あ、そーそー1つ補足。何で昨日家に帰った(ハズ)のに裕太は着替えを持ってこなかったのか。答えは本文中にあるように姉の由美子に車で運んでもらおうと思っていたからです。裕太が帰るとき送っていってついでに渡せばよかったのでしょうが、裕太は部活があるからとかなり朝早く家を出て行き、その時点で由美子はまだ支度をしていなかった、という事で。
Act4 不動峰中の場合
「・・・・・・?」
コートにて練習していた伊武はコートの端をちらちらと動くものに目を細めた。フェンスの下をフラフラと動くテニスラケット。と思ったらフェンスの外にはそれを動かす少女の姿もあった。
「何やってんの?」
近付いて聞いてみる。
「あっあのボールが入っちゃったんです・・・・・・」
言われてラケットの先を見る。確かにちょっと先にはボールが1つ。不動峰のボールかもしれないがまさか嘘をついてまでとろうとはしないだろう。
「ああ、これ?」
伊武はそのボールを見つめ、聞き返した。拾いはしない。屈みもしない彼に近くで見ていた神尾がさすがにクレームを飛ばした。
「おい深司! 拾うくらいしてやれよ!」
だがクレームを飛ばされたというのに伊武の方は顔色一つ変える事無くボソボソとぼやいていた。
「・・・なんで。すぐそこに入り口あるんだから入ってとればいいじゃない。大体そんな外から楽して取ろうなんて考え自体甘いんじゃないの?」
「あのなあ・・・・・・」
突如ぼやきだした伊武に怖がる少女を見て、神尾はため息をつくと2人の元に駆け寄ってボールを拾い上げた。
「お前が愛想悪いのはよく知ってるけどせめて知ってる人間にはもうちょっと好意的に話したらどうだ?」
そりゃ青学はライバル校だけどな、と笑う。確かこの少女は越前が深司と試合をし、怪我したとき駆け寄ってきた子だ。
「・・・愛想の悪さじゃ俺より越前の方が問題だろ? 年上にはもっと礼儀を払うべきだよ」
「はは、そりゃまあ確かに・・・・・・」
否定の仕様もない言い草に乾いた笑いを送る。ボールに描かれた越前の似顔絵と目が合い、さらに虚しくなる。
「それに―――
―――そういう風に人に干渉するから厄介ごとに巻き込まれるんだよ」
「え?」
今までのボヤキの延長にも聞こえる。だが何となく違うようにも聞こえて神尾は聞き返した。この辺りが2人の長い付き合いを物語っている。
と、
ヒュオオ―――
バン!!
「うお!?」
フェンスの向かいから飛んできたボールに顔面を打たれ倒れる神尾。
「ホラだから言ったのに」
そんな彼を見て、静かに結論を言う伊武。
「悪いね。ボール入っちゃった」
謝るにしてはあまりにもふてぶてしく近づいてくる話題の人物越前リョーマ。意味もなく突如人にボールをぶつけた彼は何事もなかったかのように近付いて来た。
「ボール取ってくんない?」
「別にいいけど・・・・・・」
ようやく屈み込み最初のボールを取る伊武。ついでに倒れた神尾を跨ぎ2つ目のボールも取る。
「・・・キミさあ、自分がどういうことしたかわかってんの? 人にボールぶつけといて謝りもしないわけ?」
「いいじゃんアンタにぶつけた訳じゃないんだから。それより早くボール返してよ」
2つのボールをフェンスの隙間、先程リョーマがボールを打ち込んできた場所から押し出した。
「ありがと」
「・・・礼が言えるんならついでに謝ったら? マナー違反じゃないの?」
「行くよ、竜崎」
「え、ええ!?」
「・・・大体キミほんと失礼すぎ。今のが人に物頼む態度だったの? それに―――」
―――と、今だぼやきつづける伊武を放って去っていく2人。彼のぼやきが収まったのは神尾の意識が戻ってからだという。
不動峰編終わる
―――ちなみにアニメ版にしたのはこの話も関係してきますね。リョーマの礼儀知らずっぷりを伊武がぼやくのはアニプリオリジナル(とは言い切れないけど)話『薫の災難』よりですな。ラストでその回の登場人物ほぼ全員が入り乱れて騒ぐ中1分近くひたすらにぼやき続けてくれた内容をまとめると『リョーマの礼儀がなってない』でした。関係ないですがあの話よかったですね。あれだけまとまりのない話の連打で――というか小ネタの出しまくりでよくラスト完結したなあと感心します。
Act5 青春学園の場合
「―――んにゃ?」
コートにて練習していた英二はコートの端をちらちらと動くものに目を細めた。フェンスの下をフラフラと動くテニスラケット。と思ったらフェンスの外にはそれを動かす少女の姿もあった。
「確か竜崎先生のお孫さんだよね? 何やってんの?」
近付いて聞いてみる。
「あっあのボールが入っちゃったんです・・・・・・」
言われてラケットの先を見る。確かにちょっと先にはボールが1つ。うちのボールかもしれないがまさか嘘をついてまでとろうとはしないだろう。
「あ、これ?」
英二はそのボールを拾い上げ、手の中で弄んだ。と、
「どうしたんスか、英二先輩?」
練習相手だった桃城が駆け寄ってきた。都大会初日を終え今日は休みといえど元々テニス好きの少年たち、しかもこれからさらに激しい戦いが待っているとあってはうちでのんびりなど出来ない。そんな訳で学校に来た英二だったが同じ考えの人は他にもいた。何人か集まるコートの中で、同じくレギュラーの桃城を発見して一緒に練習してたのだ。
「ああ、竜崎先生のお孫さんの・・・え〜っと・・・」
「桜乃です」
「そうそう、この子が中にボール入れちゃったって」
「ああなるほど」
「ん、ちょっと待っててね」
と、英二がボールを拾おうと屈みこんだところ・・・・・・
ヒュオオ―――
パシ!
「ぁいて!!」
フェンスの向こうから放たれたボールが英二の頭上を通り過ぎて後ろにいた桃城の頭にヒットした。
「すんません。ボール入りました」
「―――ってこら越前!!」
「あ! おチビちゃん!!」
同じくフェンスの向こうから現れた1年ルーキーに桃城は頭を押さえて怒鳴りつけ、そして英二はいつの間に移動したのか走りこんで抱きついていた。
「偶然だね〜。ど〜したの? やる事ないんなら俺たちと一緒に練習しない?」
にこにこと笑って頭を撫でてくる英二をウザイと思いつつも先輩たちとの練習はやりたい。
(けど、そもそも親父が頼まれたことだし。ま、いっか)
「いいっスよ」
「よ〜しじゃあ決定!!」
そう言いほとんど引っ張る勢いでコートに引き返す英二。
「―――あ、コレ返すね〜」
入り口付近で呆然としている桜乃に持っていたボールを投げると早速コートの片側にリョーマを配置しもう片側に自分が立った。
「じゃあ練習試合だにゃ〜!!」
「ズルイっスよ英二先輩!! 俺だって越前とやりたいのに」
「にゃははははは。早い者勝ちだよ〜ん」
「そんな〜・・・!!!」
(そ、そんな〜〜〜〜〜〜・・・)
楽しく試合をするリョーマを見ながら、桜乃はただただその一言を繰り返すしかなかった。
青学編終わる
―――うわあ手抜き。さすがに5個目じゃオチが見つからんか・・・・・・。とりあえず知ってる学校という事でリョーマの対応に差がありますな。おかげでこれのみ元の展開無視しまくっちゃってるよ。
んで、総まとめ。同じお題で違うパターンのこの話、しょっぱな数行はもう最初に書いたのコピーして使い回しました(笑)。同じ状況下においてのそれぞれの反応の差が(主に台詞の差)表れてたら嬉しいです。
けどこの話、普段朋ちゃんLoveを言っている割には全く登場していませんでしたな。まあそもそも書きたかったのは他校(一部除く)サイドだし、さり気に王子ですら脇役扱いしてるのあるしま、いっか。その割には他校(?)中心のクセして最初こそ他校側視点で書いてたのに途中からただの3人称になってしまいました。失敗原因はルドルフにあるかと。裕太の出番が少なかった。 てへv
ところで王子、全話に渡って凶悪な攻撃を繰り返しておりますが理由があったのは山吹編のみ。その他はただ何となく。私リョ桜でも逆でもありませんので決して絡まれている(ように見える)桜乃を助けるためではありません。ええ決して(力説)!!
2002.9.23