普通に祝ってもらえるコース
〜裕太が拾った場合〜






 「なんだ?」
 スクールの練習が終わった帰り道、裕太は地面に落ちていた箱を拾い上げ首をかしげた。表面の丁寧なラッピングを見る限り誰かへの贈り物だろう。が、
 「なんでこんなトコに落ちてるんだ?」
 箱の大きさはホールケーキ1個分くらい。間違って、とかふと弾みで、とか気づかずに、とかいうようなことはないだろう。
 「ん?」
 リボンに隠れてよく見えなかったが、カードが差し込まれていた。
 悪いとは思うが、開いて見てみる。



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木更津さん。HAPPY BIRTHDAY!!



 「ああ、そういや観月さんがそんな事言ってたな・・・・・・」
 チームメイトのデータを収集する過程で全員の誕生日も訊いていた。確かそれによると、今日
1120日は木更津の誕生日だ。
 「・・・・・・そ〜だ♪」
 何かを思いついたらしく、裕太は某青学ルーキーそっくりの笑みを浮かべ、プレゼントを持ってルドルフへと帰っていった。





§     §     §     §     §






 「さて、誰が持っていったのかな?」
 暫くしてルドルフへと帰ってきた木更津。帰ってきたはいいが手がかりが少なすぎてしょっぱなから行き詰まっていたりする。
 「とりあえずは、テニス部かな?」
 自分宛の物をわざわざここまで持ってきたからには、自分のことを知っている人が拾ったのだろう。まあ何も知らないルドルフ生がたまたま拾った場合も考えられるがとりあえずそれは無視して。
 と―――
 「ああ、裕太」
 「あ、木更津さん・・・」
 丁度向かい側から急いで走ってきた裕太に声をかけた。急ぎつつも律儀に足を止め挨拶してくる裕太。家でのしつけが行き届いているのだろう―――と本人に面と向かっていったら何と返すか。
 「どうしたんですか?」
 「大した事じゃないんだけど・・・・・・」
 笑顔で尋ねてくる裕太に、事情を言いかけて言葉を止める。もしかしたら何か知っていないかと思ったのだが・・・・・・。
 「?」
 疑問符を浮かべる裕太にしばし悩んでから、木更津は先を続けた。
 「何か拾わなかった?」
 「え?」
 この上なく簡潔な言葉に、さすがにどう反応したらいいのかわからなかったらしく裕太が止まった。
 「何かって・・・・・・何を、ですか?」
 「さあ」
 「『さあ』・・・・・・って」
 「よくわからないんだけど、知り合いが僕に何かあげたかったらしくて、でも途中で落としちゃったらしくて」
 「は、はあ・・・。そうですか・・・・・・」
 「で、何か知らない?」
 木更津の言葉に裕太が悩み込む。が、
 「すみません。わかりません」
 「そう? ならいいんだ。悪いね、急いでるところ邪魔しちゃって」
 「いいえ」
 そんな短いやり取りで2人は別れていった。



 「は〜・・・。危なかった・・・・・・」
 木更津と別れて、裕太は1人物陰で胸をなでおろしていた。木更津に声をかけられたときはもしやバレたかとヒヤヒヤしたが、どうやらまだバレてはいないらしい。
 「けど、兄貴ゆずりの技がこんなところで役に立つなんてなあ・・・・・・」
 笑顔のポーカーフェイスは兄・周助の得意技だ。とりあえず真似してみたが、本当に効果があるらしい。
 「ま、あとちょっとだし、バレないようにしねーとな」
 呟く裕太の顔には、先ほどまでとはまったく違った笑みが浮かんでいた。



 さてそんな裕太と別れて。
 (とりあえずプレゼントのありかはわかった、と・・・・・・)
 観月のデータではないが、
100%間違いなく裕太は『プレゼント』の事を知っている。持っていった張本人か、それとも誰かから聞いたのかはわからないが、知っている人に会えれば問題は解決したも同じだ。しかもあの裕太の事だ。間違って捨てたなどというようなことはないだろう。
 (けど・・・・・・)
 くすりと笑う。爽やかすぎる裕太のあの笑みでは何か隠し事があるのは一目瞭然だ。
 「まあ裕太なら何か妙なことにもならないだろうしね」
 ふと思い出す。そういえばこちらは『普通に祝ってもらえるコース』だった。
 「ラストは想像しやすいけど、変に奇抜すぎるものよりはいいかな?」





§     §     §     §     §






 そして1時間後。
 『
HAPPY BIRTHDAY!!』
 部室にて、木更津は無事テニス部のみんなに祝ってもらっていた。
 「おめでとうございます、木更津さん!」
 「ほんと、めでたいだ〜ね」
 「これは全て裕太君の案なんですよ」
 (だろうね・・・・・・)
 全部知っていつつも顔には決して出さずにいつもどおりの薄い笑みを浮かべる木更津。これこそ本当のポーカーフェイスなのだと――裕太が知ることになるのは当分先になりそうだ。



―――fin









木更津:「ところでこれ、誰が主役?」

哀里:「もちろんあなたですよ、木更津さん」

木更津:「ついでに訊くけど、あの箱の中身って結局なんだったの?」

哀里:「空け損ねたの? なんだダメじゃん。
―――ウソですごめんなさい(なんだか薄い笑いのバックにオーラが沸き始めたように見えて言葉を取り消す)」

木更津:「(オーラは消して)まあいいけど。どうせ何も考えていなかったとか言うんでしょ?」

哀里:「そんなことはないわ。裕太が言ったように中身はケーキにしようと! でもってそれをみんなで食べてもらおうと!!」

木更津:「ラッピングまでされたものを裕太が空けるとは思えないし、そもそも差出人の名前を書いていないものを平気で空けて食べようとはしないんじゃないかな」

哀里:「をう・・・(そういえばそうだった)」

木更津:「くす・・・。まあこんな管理人だけど読んでくれてありがとう。これからもよろしくね」






2002.11.20 ―HAPPY BIRTHDAY 木更津さん―