なんだかいろんな意味で騒々しいけどとりあえず思い出にはよく残るコース
〜不二が拾った場合〜
「あれ?」
裕太に着替えを持って行く―――事を口実に裕太に会いにいこうとスクールへ向かった不二は、地面に落ちていた箱を拾い上げ首をかしげた。表面の丁寧なラッピングを見る限り誰かへの贈り物だろう。が、
「なんでこんなところに?」
箱の大きさはホールケーキ1個分くらい。間違って、とかふと弾みで、とか気づかずに、とかいうようなことはないだろう。
「ん?」
リボンに隠れてよく見えなかったが、カードが差し込まれていた。
悪いとは思うが、開いて見てみる。
<木更津さん。HAPPY BIRTHDAY!!>
「木更津、っていったらルドルフの・・・・・・?」
一度都大会で対戦しただけだが、確かルドルフにそんな名前の人がいたはずだ。
バッグから携帯を取り出し、メモリーを呼び出した先は木更津の―――なわけはもちろんなく、乾の電話番号だった。
「もしもし乾? ちょっと聞きたいんだけど君他校のデータってわかる?」
『内容にもよるな。さすがに青学ほどのデータは集められないよ』
受話器の向こうで愛用のデータノートでも広げているのだろうか、パラパラと紙のめくれる音がする。
「じゃあたとえば生年月日とかだったら?」
『そんな事でいいのか? だったら大体揃ってるよ』
「なら―――」
乾との電話を切って、プレゼント片手に不二はいつも通りの笑みを浮かべルドルフへと向かっていった。
§ § § § §
「さて、誰が持っていったのかな?」
暫くしてルドルフへと帰ってきた木更津。帰ってきたはいいが手がかりが少なすぎてしょっぱなから行き詰まっていたりする。
「とりあえずは、テニス部かな?」
自分宛の物をわざわざここまで持ってきたからには、自分のことを知っている人が拾ったのだろう。まあ何も知らないルドルフ生がたまたま拾った場合も考えられるがそれは無視して。
と―――
「あれ?」
校門を入ったところに人だかりが出来ていた。特に今日何かがあるわけではない筈だ。
とりあえず木更津は身近にいた知り合いに声を掛けてみた。
「―――裕太? どうしたの?」
「あ、木更津さん・・・」
肩を叩かれ振り向く裕太。その顔にはなんともいえないものが浮かんでいた。あえて言うなれば―――諦念と歓喜の入り混じった苦すぎる笑みか。
「なんか・・・・・・兄貴が来てて・・・・・・」
―――なんとなく事情はわかった。
§ § § § §
それより少し前。
「来たはいいけど・・・・・・どうしよう、コレ・・・・・・」
校門から数歩入ったところで不二もまた行き詰まっていた。カードの内容と今日11月20日が本当に木更津の誕生日であることを考えれば、これが彼のものであることに疑いはないだろう。
が―――
「僕が渡しちゃっていいのかな?」
自分と木更津はほとんど赤の他人だ。その他人がいきなりやってきて拾い物とはいえプレゼントを渡すというのもどうだろう?
「やっぱり、誰かに頼んだ方がいいか・・・・・・」
ならば一番早いのは弟の裕太だろう。木更津とも知り合いだし何より頼みやすい。それに―――
「―――口実としては完璧だね」
小さく呟き、笑みが更に深まる不二。だが、彼をもってしても人生というものはそこまで甘いものではなかった。
歩み出した足が、そして浮かべられていた笑みがぴたりと止まる。向かい側から歩いてきたのは―――
「・・・・・・・・・・・・観月」
「ふ・・・不二、周助・・・・・・」
嫌だったのはお互い様らしい。観月もまた不二の姿を認め、ぴたりと止まった。
「何の用ですか? わざわざ」
「別に? 大した事じゃないんだけど?」
硬直したのは一瞬のみ。その後はお互いいつも通りの笑みを浮かべ、いつも通りに言葉を交わした―――見かけは。
「困りますよ。他人に無断で入られては」
「他人? 家族は『他人』とは言わないんじゃないの?」
「ああ。また裕太君に会いに来たんですか。随分と過保護なお兄さんですね。だから嫌がって逃げられたんじゃないですか?」
ぴく・・・・・・
せせら笑う観月に不二のこめかみがピクリと動いた。ちょうど会ったので彼に頼もうかという考えも浮かんでいたりしたのだが――今この瞬間をもって綺麗にそれは消滅した。
「けどなんだか裕太に悪さする人がいたりするからさ。つい弟想いの兄としては過保護にもなっちゃうんだよね」
言外に『裕太は僕のものなんだから手を出すな』と言っていることは観月も理解したらしい。彼の口元が引きつったのを見て不二はそう判断した。
プレゼントを見せ付け、続ける。
「それに今日は違う用事だよ。木更津君、いる?」
にっこりと微笑んでみせると面白いように観月が動揺した。
「裕太君の次は木更津ですか。まったくどこまで他人を自分のものにすれば気が済むんですか、貴方は!」
観月のその言葉に、不二は薄く目を開け微笑んだ。絶対零度の微笑み。『それ』を知る者たちの間で密かにそう呼ばれている笑みだ。
その通称どおり、見せられた者は何人たりとも逃れることは出来ない氷の微笑。
「自分のものにする? それは『君が』の間違いじゃないの?」
「な・・・何を・・・!?」
「そうなんじゃないの? あの都大会、どう見ても君の命令に逆らったのは裕太と彼だけだよね? 君の思い通りにならなかったのは、2人だけだよね?」
「そ、それが何ですか!? 別に僕は最善と思うアドバイスをするだけですよ!?」
「『アドバイス』をして―――それで自分の駒にするのが君のやり方でしょう?」
「何を根拠に―――!!」
「都大会戦。あれ以上の証拠はないと思うけどなあ・・・・・・」
「ぐ・・・・・・」
§ § § § §
(なるほど・・・・・・)
いくらなんでも2人が人ごみ全てに聞こえるほどの大声で話している訳ではない。だが不二の手に持たれた箱―――恐らく『プレゼント』だろう―――を見て大体の事情を察した木更津。
(どうしようかな・・・・・・?)
ここで自分が出て行ってもいいのだが、それをすると自分も巻き込んで火に油が注がれそうだ。ただでさえルドルフにも(いろんな意味で)ファンの多い不二の突然の訪問。その上あの沈着冷静な観月が感情剥き出しにして叫んでいたりするという、正に絶好の見物といえるこの事態。目立つのが好きではない自分としては巻き込まれてもあまり面白いものでもない。
と、いうわけで―――
「大変だね。毎回毎回」
「う゛・・・・・・。やっぱ俺が止めるんですか?」
「他に人もいないし、これ以上あの2人に争わせても周りに迷惑じゃない?」
「そ・・・それ、は・・・・・・」
(『単純で操り易い』ね・・・・・・)
かつて観月がそう評した事を思い出す。観月のやり方に対しどうこう言うつもりはないが、彼の洞察力は1目置けるものだと思う。
今だ火花を散らし続ける2人。そしてそこへと足を踏み入れようとする裕太を見送って―――木更津は踵を返した。
§ § § § §
「淳、さっき管理人に呼ばれてたみたいだけど何かあっただ〜ね?」
既に寮に戻っていた柳沢の質問に、木更津はいつも通りの薄い笑みを浮かべ、答えた。
「さあ。別に何もなかったみたいだよ?」
「それならいいだ〜ね」
あっさり納得する柳沢に、木更津はふと何かを言いかけ、結局止めていつもの如く笑った。
「くす・・・・・・」
「な、何だ〜ね?」
「何でもないよ」
「そ、そうだ〜ねか?」
「うん。そう・・・・・・」
「ならいいだ〜ね」
やはりあっさり納得する柳沢。どうやら『単純』なのはルドルフテニス部員共通らしい―――その結論が、木更津が自分の誕生日に手に入れた一番の成果だった。
―――fin
木更津:「ところでこれ、誰が主役?」
哀里:「もちろんあなたですよ、木更津さん」
木更津:「その割には他の人の出番の方が多くなかった?」
哀里:「気のせい。―――だから冗談だって」
木更津:「・・・・・・その上妙なCP入ってたし」
哀里:「いやあ、気が付くとなぜかユタ不二。けどユタ不二の話って実際upしたのは―――というか書き終わったのはこれが初めて」
木更津:「これで『ユタ不二』って言い切る辺り1回CP論についてじっくり考えてみたら?」
哀里:「むう・・・・・・。けど不二兄弟モノで周裕っていうのもなあ。読むのはいいんだけど私が書くと裕太がひたすら情けなくなりそうだ・・・・・・」
木更津:「今でも十分情けないよ?」
哀里:「(ゴスッ・・・・・・)放っといてくれ〜〜〜〜〜〜〜!!!(夕日に向かってダ〜〜〜ッシュ!)」
木更津:「くす・・・。まあこんな管理人だけど読んでくれてありがとう。これからもよろしくね」
2002.11.20 ―HAPPY BIRTHDAY 木更津さん―