Informed Consent



informed consent・・・原義:知らされた上での同意。医師は患者に十分に説明し、その処置には患者の同意が必要だとする考え方。医学用語。

カタカナ新語辞典より






 「―――では先日の青学戦における各自の問題点を改善するため、皆さんこれから渡すメニューをこなしてください」
 と、カルテを彷彿させるボードを手にした観月が、スクール生4人に何枚かにまとめられた紙を渡していった。
 それに一通りざっと目を通す4人。
 「何か質問はありますか?」
 「はい」
 観月の言葉に、即座に木更津が手を上げた。
 「おや? 木更津、珍しいですね。何ですか?」
 「このメニュー、
安全なの?」
 「はい・・・?」
 「現在のみではなく、後の身体及び精神への悪影響はないのかって訊いてるんだけど?」
 首を傾げる観月に噛み砕いて説明する。が、どうやら彼が首を傾げた理由はそこではなかったらしい。
 眉を顰めたまま観月が尋ね返してきた。
 「そう言う意味では安全、ですけど・・・。また何故そのような質問を?」
 この様子からわかるように、木更津がこのような質問をしてきたのはこれが初めてだ。いや、このような質問、出てくること事態が初めてだ。
 (木更津・・・。前から他の人とは少々違うように思っていましたが・・・・・・)
 質問の意図が読めず、観月にしては珍しく相手に話の主導権を渡す事にした。
 が、それが全ての間違いだった。
 「昨日の青学戦考えたら当然の質問じゃない?」
 その言葉にはっとする一同。視線が裕太―――観月の策略の『犠牲者』へと向けられる。昨日の青学戦、
S2にて不二と観月が交わした会話。さほど大きな声ではなく、更に観月にリーチがかかった状態で周りは盛り上がっていたが、たまたますれ違う2人の近くにいた彼ら、何より歩く不二を追っていた裕太にははっきり聞こえていた。
 『ボクに言わせれば勝利に犠牲はつきものですよ』
 この台詞を聞かされて、無邪気に彼に従えと言う方に無理がある。特に次控えるのは5位決定戦[コンソレーション]。ここで負ければもう後がない。
 ―――また何かやるんじゃないか。そう思うのも当然だろう。
 「ね?」
 「そ、そう言われてみれば・・・・・・!」
 「み、観月、実際のところどうなんだ〜ね!?」
 「観月さん!!」
 「〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 あっさり納得する一同に、観月が拳を震わせた。
 「貴方達はボクの言う事に逆らう気ですか!?」
 4人を指差し怒鳴る観月。が、
 「当然でしょう?」
 木更津に即答される。
 「患者は医師の治療に対し質問し、納得できないようならそれを拒否するだけの権利を持っている。なら僕達も同等の権利を持っていて当然だと思うけど?」
 『なるほど』
 木更津の理論に観月除く3人が手を叩いた。最近何かと話題な診療ミスに対応した自己防衛手段の1つ。
 「だからちゃんと説明したでしょう!? このメニューは先日の青学戦における各自の問題点を改善するためのものだと!!」
 「だからもっと深く内容を説明するように要求しているんだけど?」
 「それは各自に渡した紙に書かれているでしょう!?」
 「けどそれはあくまで方法だけでしょう? 効果・負担等については一切記述されていなかった」
 「そこまでしたら膨大な量になるでしょう!? そういう質問なら各自受け付けます!」
 「つまり聞き、判断するのは本人のみ。なおかつ本人が疑問に思い、問わない限り本人にすら公開はしない、という訳?」
 「どうしてそういう穿った点ばかり問い詰めるんですか貴方は!?」
 「危険[リスク]管理は最終的にはその本人がするしかないからね。僕はそれの補佐案を出したに過ぎない。それとも君はこの場で全員に公表するのには何かためらいがあるのかな?」
 「あるワケないでしょう!? ただボクはそれをやると時間の無駄だと言いたいだけです!!」
 「1人1人が練習の目的を把握する。それのどこが時間の無駄? むしろはっきりした方がより練習を行い易いんじゃないかな?」
 「確かに・・・」
 「それは言えてるだ〜ね・・・」
 「はっきりしているとより身が入る。それには俺も賛成です」
 「ほら」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」
 木更津支持派に回った3人を指し示し、いつも通りの能面のような無表情で言う木更津に、観月の怒りはピークに達した。
 (このボクよりなぜ木更津を支持する・・・・・・!!!!!)
 かつてない屈辱。自分に反対する者など今まで皆無だったというのに・・・・・・!!!
 ばん!!
 「やってられません!! ボクの言う事に賛成できないと言うのであればどうぞ皆さんご自由に練習なさって下さい!!」
 ボードを地面に叩きつけ、観月は4人に背を向けコートを出た。
 「あ、ちょっと観月君・・・!!」
 「淳! 観月がいなくなったらこれからどうするだ〜ね!!」
 「そうですよ木更津さん! 謝った方が―――!!」
 後ろで慌てる3人お声を聞き、怒っていたのもどこへやら、小さく笑みを浮かべる観月。
 (んふ・・・。やはりいざとなれば木更津よりボクをとるでしょう。なにせボクはルドルフにいなければならない存在なんですから)
 自己陶酔に浸り、だんだんその笑みも深くなり、終いには「んふふふふ・・・」と声まで漏れ出す。だが・・・・・・
 「そうだね。確かに観月はいなければならない存在だ」
 (そうでしょうそうでしょう・・・!!!)
 「―――ところで観月、君今出て行くと僕の言った事を認める事になるけど、その状態じゃ戻りにくくない?」
 「は・・・・・・?」
 突如飛び出した謎の言葉に、観月が足を止め振り返った。
 そこに突き刺さる、木更津の言葉。それは彼の『シナリオ』を完全にぶち壊すものだった。
 「今の状況、わかってる? もし僕が言い過ぎたと謝り、それによって君が戻ってきたとしたとしても、根本的な解決にはなってないんだよ? あくまで僕が謝るのは『言い過ぎた』ことについて。発言そのものには触れてないし、ましてやそれをなかった事にするつもりもないよ。
  それで君が戻ってくると大変だね。結局君は一切説明をしないまま僕らを操る事になる。僕ら自身は君が戻ってきてくれたと単純に喜び、そもそもの問題点を『忘れる』だろうね。けどここにいるのは僕たちだけじゃない。さて、周りに君はどういう風に映るかな?」
 「ぐ・・・・・・!!」
 「君が周りからの評判を回復させようと思ったら僕たちに納得出来る説明をすればいい。簡単な事じゃない?」
 「それは確かに・・・」
 「言えてるだ〜ね」
 「観月さん・・・!!」
 3人及び、周りで聞いていた者らも首肯し、そして感動の眼差しで観月と木更津を見やった。なんて良い話なんだ。彼は怒って飛び出した友人に自ら謝り、なおかつ戻って来やすいようその方法まで考えた。まさしく友情・・・!!
 拍手でもされかねない状況の中、『現実』に気付いている者は2名のみ。1人は全員を扇動した木更津。そしてもう1人、もちろんやられた側の観月は・・・・・・
 (なぜここは単純バカばっかりが集まってるんだ・・・・・・!!!)
 今の木更津の『案』。よくよく考えずともわかるように、最初に彼が要求したものそのままである。つまり彼は最後まで己の要求を通し、自分が絶対反論できなくなるまで追い詰めた。しかも彼自身は全く手を汚さないまま、周りに自分に非があるという認識を植え付けてである。ここで反論すれば自分は間違いなく悪者扱いされる。
 木更津の完全勝利である。
 「・・・・・・・・・・・・んふっ。わかりました。すみませんでした。説明が足りなかったようでしたね。ではまず柳沢の練習について―――」
 何事もなかったかのように説明しだす観月。彼は『単純バカ』ではない。自分に最も有利な選択をするためには感情など簡単に切り離せる。
 が・・・・・・
 「くす・・・・・・」
 それも含めて全てを見透かした木更津の、彼独特の笑みを聞き、僅かに頬を引きつらせる事だけは止められなかった・・・・・・。





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 その後行なわれた5位決定戦。ルドルフ対氷帝にて、ルドルフが負けた理由は―――
 ―――実力差というより、氷帝以上のチームワークのなさが原因だったらしい。



―――Fin










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 というわけでルドルフの日常。いいのかこれで・・・? いえ、なんていうか一番チームワークのないのって、青学より氷帝よりルドルフのような・・・・・・。司令塔の命令は逆らうわチームメイトを駒に使うわ。絶対青学戦以降さらにその溝は深まったと思うんですけどねえ・・・。それでも許すのは器量が大きいというより単純バ―――ごふがふ! いえ、何でもありません。
 さて木更津さん
vs観月。なんだかこのサイトでは恒例のものと化しているような。本当は不二先輩でも更に乱入させようかと思ったんですけど、一応ルドルフ中心の企画なので。
 と、いうわけで、遅ればせながら裕太と木更津さん
&柳沢、CD発売おめでとーv
 ・・・あ、ちなみに今回は
CD絡みと言う事でアニプリ調。なのでトレカ第4弾を元にし、観月の一人称は『ボク』になりました。カタカナかい・・・。

2003.3.89