さいごのカウンター?







 「これから見せるのが、最後のトリプルカウンター。
  ―――白鯨」
 不二の宣言に、青学が、氷帝がざわめく。誰も知らないトリプルカウンター第3の技―――白鯨。一体どんな技なのか。
 「白鯨・・・・・・」
 呟く手塚。
 「なるほど。白鯨か」
 「乾、知ってるのか!?」
 「いや。ただ、いいネーミングだな、と思って」
 ノート片手にそんな感想を漏らす乾。
 さらに、
 「お願いしまーす」
 ベンチにて、リョーマが口の端を吊り上げ言った。
 くすりと不二が笑う。
 そして―――



 直後、全員がその『技』の全てをこの目でしっかりと見る事になった。そう・・・・・・不二の『宣言』通りに。







×     ×     ×     ×     ×








 「うお―――!!」
 ネットに詰めていたジローが、爪先立ちのまま硬直する。
 目を見開く彼の横を、バックスピンをかけられたボールが戻って―――来なかった。
 
ごん!
 ジローの体がくの字に折れる。前かがみに倒れ、ネットにぶら下がる形となった彼。その頭を足がかりに、さらに跳ねたボールが不二の元へと戻ってきた。
 『・・・・・・・・・・・・』
 誰も何も言えずに固まる。ピクリとも動かなくなったジローを前に、手を掲げボールを受け止めた姿勢のまま、不二が静かに言葉を紡ぎ出した。
 「今のが―――さいごのトリプルカウンター、『つげい』」
 『は・・・・・・・・・・・・?』
 やっぱり不二の言葉の意味がわからず全員(ジロー除く)間抜けな声を上げて呆けた。
 その中で、ようやく納得のいった乾がぽん、と手を―――ではなく、ペンでノートを叩く。
 「なるほど。『白い鯨』の『白鯨[はくげい]』ではなく『殺す芸』と書いて『殺芸[さつげい]』か。となると今までのトリプルカウンターに動物の名前を入れていたのは伏線[ブラフ]というわけか。そのおかげで俺達は全員今の技の名前を『白鯨』だと思い込んだ。いいネーミングだな」
 「やるっスね、不二先輩」
 「全くだ。
  しかも『さいご』という言い方も間違ってはいない。トリプルカウンターの『最後』であると同時に、相手の死まであと一歩という意味での『最期』か・・・・・・。恐るべし不二」
 「そうだな・・・・・・」
 珍しく冷や汗をかいての乾の言葉に、手塚が重々しく頷いた。なぜ彼は不二の宣言に対し、特に驚かなかったのか。答えは―――知っていたからだ。それがどんな技なのか。
 トリプルカウンターの1つでありながら、この技が他の2つと違う点は相手のボールに対するカウンターではない事。平たく言えば1人でも練習できる事。だが、いくらそうであろうとそれだけでいきなり実戦で使うというのはさすがにきつい。
 そんなわけで手塚は今回の対戦前、『トリプルカウンターの練習に付き合って欲しいんだ』と言う不二に『構わない』と返事をしたのだ。不二が今回の対戦に熱を入れていたのは知っている。それに誰も知らない(この時点では正真正銘)最後の1つ。それは自分も気になる。
 そして付き合い―――現在のジローと同じ結果になったのだ。正確には、なり『かけた』。誰が思う? ボールがバックスピンで戻ってくるなど。
 ボールが後頭部にぶつかる事自体はそこまで珍しい事ではない。かつてのリョーマと桃とのダブルスのように2人の息が合わない場合、また何らかの都合でたまたま後ろを向いていた場合。だが、シングルスで前を向いていたにも関わらず、危うく本当に『最期』となるところだった。その時はまだ実戦初という事で不二のコントロールも甘く、また寸前でボールのスピン音に気が付き、振り向きかけたおかげで急所は避けられた。
 が・・・・・・
 (今の『殺芸』、あの時より格段にコントロールが上がってるな。それにスピンが増したおかげでバウンド後の速度の落ちが極めて少ない・・・・・・)
 どうも不二はあの『模擬演習』で学習したらしい。前回は首の付け根を狙っていたが、今回は振り向こうとする事前提でこめかみを狙いにいったようだ。こめかみに当たれば致命傷。振り向かなければただの後頭部への打撃。少々脳震盪になるかもしれない程度。
 一見完全な賭けのようだが、今までのジローの態度で彼の性格を把握し、彼なら振り向くと判断したのだろう。尚且つ向こうには跡部がいる。彼ならばあれをただの失敗だとは思わないであろう。そして警告を出す。それすらも考慮して。
 (恐るべし不二、か・・・・・・)
 乾の言葉を心の中で反復する。
 (確かにその通りだな・・・・・・)
 格闘技ではないのだ。誰がテニスの試合で勝つために相手を殺すなどという選択肢を選ぶ?
 「―――っておい3人!! ポイントが違うだろ!? 感心するな!!!」
 ようやく我に返ってきた一同の中、大石が珍しくリョーマ、乾、手塚の3人を順に指差し怒鳴り散らした。







×     ×     ×     ×     ×








 「審判。コールを」
 ベンチで腕を組んだまま、淡々と榊が審判に話し掛けた。
 「は、はい・・・・・・?」
 何をどうコールすべきなのか悩む審判を見やり、
 「いいんですよ。コールを」
 「え、え〜っと・・・・・・
  芥川棄権により、この試合、青学不二の勝利とします」
 『ええ〜〜〜〜〜〜!!!!!!??????』
 信じられない結果に、会場中の誰しもが目を見開いて叫んだ。
 ベンチから立ち上がりぺこぺこと頭を下げてくる竜崎。それに軽く手を上げて答え、榊はため息をついた。
 「この程度が読めないとは。ジロー。お前はレギュラー失格だな」







 こうして、氷帝相手にリーチをかけた青学。また、不二は裕太の敵が取れてとても満足げにコートを去っていった・・・・・・。



―――End













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 そんなわけでDVD16巻発売記念でした(企画じゃないけど)。しかしあのアニメの作り方、元々白鯨の性質を知っていた人なら絶対こういった考えに陥ると思うんですけど・・・。技の瞬間は出ずに空が映ってジローは目を開けたまま硬直して。ありゃ当たっただろ・・・・・・。残念ながらコミックス派の私はこの話で(正確には1つ前のマジックボレーの途中から)アニメに抜かれたため初めて観た時この技の性質を知らず、普通に『何があったんだろう・・・』ってな感じで受け止めましたが、よくよく今観るとかなりおかしい―――というか誤解を生み易い展開だったような・・・・・・。
 そんなわけで(仕切り直し)
DVD16巻。不二様ハーレム状態の氷帝戦S2にユタ不二・不二リョ(どちらも攻受は固定せず)が楽しめるお正月特番の『てにぷり』付き。くくうっ! 嬉しいぜ!!
 そんなわけで今度は『てにぷり』にてです。もちろん不二リョ万歳の《飛び出せ! 青学》より。ただし下品なネタ(大爆笑)が入るため裏直行となりました。興味のある方(いるのか?)はそちらもどうぞv

2003.4.26