目的とすべき場所に針を落とす。この瞬間、全てが始まる。
Thrill
目の前に置かれたもの。それを見下ろす僕。
手には針。
さあ、どこに針を落とそう。
生きるか死ぬか、全てはそこにかかっている。
そう思うと緊張する。
ああ、ダメだ。右手が震えてきた。
落ち着け。自分に暗示をかけ、左手で手首を握る。いつもは冷たい手が、今は手首よりも熱い。
しっとりと汗ばんでいる。僕にしては珍しい。やはり緊張している。
ごくりと喉を鳴らす。そうとうに渇いていたようだ。粘つく唾を、無理やり飲み込んだ。
一度目を閉じる。目の前が暗くなって、少し落ち着いた気がした。
その中で、手に握られた針が、しっかりとした感触を伝えていた。これからの僕の、そして目の前のものの運命を左右するもの。
再び目の前のものと向き直る。変化はない。当たり前だが。
手を動かし、針がそれに触れる寸前で再び止める。
本当にここでいいのか?
何度も自分に確認する。
何度も何度も。
いや。
何回したとしても、多分し足りることはないのだろう。
不安は常に付きまとうものなのだから。
確認は不安を取り除くために行われるものではない。
不安の上に、『安心』というベールを張り巡らせるために行うのだ。
そのベールで全てを覆い、不安を忘れ去るために。
ふと思う。
そういえばテニスの試合の前に似ているな、と。
サーブを打つ前にも、こんなことを考えているような気がする。
まあ多分そのとおりなのだろうけれど。
―――無意識にしろ、意識的にしろ。
そして、
この瞬間の緊迫感[スリル]を楽しむ。
そう考えればこの不安もスリルを盛り上げるための材料なのかもしれない。
ああ、少し長く浸りすぎていた。
そろそろ始めようか。
止まっていた手を進める。針が標的に当たる、わずかな感触が針越しに手に伝わる。
ついつい笑みがこぼれる。
さあ、これからこれは僕に何を見せてくれるんだろう・・・・・・。
「――――――――――――って、不〜〜〜二〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
はっ!
ゲロゲロ
メスを持ったまま半眼で友人を見やる英二。
彼の目の前では、
四肢を止められたカエルを目の前に、麻酔入りの注射針を手にしてサディスティックな笑みを浮かべる不二がいた・・・・・・。
―――正式タイトル:どっきどき☆解剖実験!
目次(?)の通り、不二様のレコード好きは針を落とす瞬間の期待感とスリルを楽しむ、というのがその1つのようです。他にもCDなんかでは消された音が聴けるから、などなどあるようですが。
ちなみに、冗談抜きで解剖実験は最初にカエルを寝かせるまでで全てが決まるそうです。まあこれは普通注射ではなくクロロホルムを染み込ませた綿をかがせるのですが。そして小学生のころそれで実験全班カエルを殺して解剖失敗などということをやらかした先輩(大笑い。大丈夫さ。彼女はここは見ない。多分)がいました。彼女らのその成果により、私たちの学年からカエルの解剖がなくなりました。
どうでもいいですが、当初は注射針ではなくメスを持ってぜ〜は〜やってる不二先輩にしようとしてました。みなさんどっちがいいですか? どっちもいやでしょうが(爆)。
そして不二様。一瞬のスリルを楽しむ、という事は・・・・・・コレのほかにこんなものも好きと見た!
・針に糸を通す。
・オムレツ・ホットケーキなどをひっくり返す。
・積み将棋・棒倒しといった遊び。
・リコーダーで最初に低音を出す。
そしてなにより―――真剣白刃取り。
・・・・・・・・・・・・私は彼に何を望んでいるんだろう・・・?
2003.5.9