「じゃあ跡部、ゲームしよ?」

「はあ? 馬鹿かてめぇは」







Let's Fight !
          〜闘いの理由〜










 「あ・・・?」
 「やあ、跡部」
 
10月4日。その日、諸事情により出かけようとした跡部は門から出るなりばったり隣人と出くわした。それもなぜか彼の家からは逆方向にて。
 「不二・・・。てめぇん家は逆だろ? なんでそっちから来やがる?」
 2人の家は隣同士。あえて逆から来ようと思えばぐるりと大回りする必要があるのだが・・・・・・不二ならば平然とやってのけるだろう。
 が、
 「ああ・・・。買い物に出かけてたんだよね」
 今回は、まともな理由だったらしい―――それはともかく。
 ほら、と手荷物を掲げて見せる不二。そこには、彼に合うのか合わないのか判定に困るスーパーのビニール袋が下げられていた。不二を見ては悲鳴を上げる女どもから見れば果てしなく似合わないだろう。というかイメージ完全ぶち壊しであろう。が、幼い頃からの付き合いでこんな事見慣れまくっていた跡部からすればそれは驚くには値しない光景で。
 「なるほどな」
 他に何のコメントのしようもなく、結局ありふれた返答をする。とりあえず逆方向から来た謎については解けた。ビニールに書かれたスーパーは確かに不二が歩いてきた方向にある。
 「ちょうどよかった。これから君の家に行こうとしてたんだよね」
 「俺ん家? なんでまた」
 「それはね―――」
 ビニールを下げ笑顔で言おうとし・・・・・・ふと気付く。耳元から離れるビニール。それそのものの音に加え、揺られるまま互いにぶつかり合う中身が音を立てていた。やはりビニール音、紙箱がぶつかる音、ビンの硬い音、そして・・・・・・
 「―――あれ?」
 「どうした?」
 跡部の問いを無視し、首を傾げた不二がビニールを覗き込んだ。肝心のアレの音がしない。
 ガサゴソと慎重に中をかき回し―――
 「卵買い忘れた・・・・・・・・・・・・」
 「あん・・・・・・・・・・・・?」
 みーんみーんみーん・・・・・・・・・・・・
 「――――――――――――って今秋だろ? なんでセミが鳴いてやがるんだよ・・・?」
 ごもっともです。







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ







 閑話休題。
 「跡部〜」
 「断る」
 「ってまだ何にも言ってないじゃないか」
 「どうせてめぇのことだ。出かけるついでに買って来いとか言うんだろ?」
 「うっわ〜。すっごい跡部v 大正解vv」
 「・・・・・・。
  お前最近言動が千石のアホに似てきたぞ」
 「そうかな?」
 ぱちぱちと手を叩いて喜ぶ不二に半眼で跡部が突っ込む。不二に会う度に感じていた頭痛が、ここ最近収まるどころかますます激しく酷く悪質になってきたような気がする。
 ―――決して気のせいではないだろうが。
 それはともかくとして。
 「でもどうせ出かけるんでしょ? じゃあ丁度いいじゃない」
 「なんで俺様がてめぇの買い物代理なんてしてやらなきゃなんねーんだよ」
 「だって僕忙しいから」
 「なんでだ?」
 「それは秘密v」
 人差し指を口元に当てそんな事をほざいてくる不二。男がやると問答無用で張り倒したくなる仕草だが―――不二がやるとますます張り倒したくてたまらない。
 そんな衝動はとりあえず収めて。
 「そういや俺ん家に用があるとか言ってやがったな。何の用だ?」
 「それも秘密v」
 「ああ? 理由も言わずに俺様の家に上がるってか?」
 「小母さんの許可はもらってるよ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 ちなみに跡部はその『小母さん』―――つまり母親の命令により現在外出を余儀なくされている。
 ―――『景吾。ちょっと悪いんだけれど、今日一日家空けててくれないかしら?』
 口元を嫌味にならない程度に手で覆い、上品な口調でそんな事を言って来た母親。控えめな勧めながら全く反論を許さない辺り、何となく目の前の幼馴染を彷彿とさせる。
 (逆か・・・・・・)
 もしかしたら母親を彷彿とさせるからこの男が苦手なのかもしれない―――もちろん嫌いなわけではないが。あくまで母親は
 まあそんな解き詰めれば解き詰めるほど不幸になりそうな考えは頭から追い出すとして、
 「てめぇのミスだろ? 人になすりつけずに自分で尻拭いしろよ」
 「でも跡部、ヒマなんでしょ?」
 「ぐ・・・・・・!」
 さすがカウンターの使い手。今のはなかなかに痛い一撃だった。
 今日部活はない。久し振りの休みを家で満喫しようと思っていたら追い出された。一人でぶらつくには場所を思いつけない。人を呼ぼうにもこんなくだらない理由は言いにくい。
 ―――総じて、家を出たはいいがぶっちゃけこの後どうしようか全く予定は成り立っていなかった。
 が、それを素直に認めるのはとてつもなく嫌だった。そんなワケで眉をひくつかせたまま黙りこくる跡部へと、不二はこんな提案をした。
 「じゃあ跡部、ゲームしよ? 負けた方が卵を買ってくる」
 「はあ? 馬鹿かてめぇは。それで俺になんの得があるんだよ」
 「ヒマは潰せるよ?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 結局、跡部はその『ゲーム』とやらをする事にした。







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ







 勝負は不二家同様裏庭にテニスコートのある跡部邸にて行われる事となった。
 テニスプレイヤー、それも超中学生級の2人の『ゲーム』といったらもちろんコレ・・・・・・・・・・・・
 「サーブ1球であれに当てた方が勝ちね」
 「ちょっと待て。普通『ゲーム』っつったら試合になんねーか?」
 「時間ないから」
 ならやるなよ・・・・・・。
 もちろんそんな突っ込みは今更入れず、跡部はボールとラケットを持って所定の位置へとついた。なおサーブは公平を期すため(不二曰く)2人同時に行う事となった。ジャンケンにて跡部は右側から、不二は左側からに決定。
 軽くトスをしつつ、標的を見据える跡部。コート丁度中央に置かれた、幅約
5.5cm、奥行き約5cm、高さ約9cmと推測されるそれは、不二の鞄についていたぬいぐるみだった。何でも以前菊丸とゲーセンに行った際ダブって取ったため1つもらったらしい。可愛い見た目のそれは通称『不二ヒグマ』。―――聞いた瞬間可愛さが半減するのはなぜだろう? その他特記事項としてバランスが悪く倒れやすい。
 手を離された次の瞬間にはこてりと倒れ、開かれた脚をこちらに見せるそれを見ていると、『ゲーム』の内容無視で思い切りボールをぶつけたくてたまらない。
 「じゃあ―――
  
Leady Go!!」
 そんな衝動にまかせるまま、跡部は不二の合図と同時に絶望への前奏曲を放った・・・・・・。







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 「―――じゃあ跡部、行ってらっしゃ〜いvv」
 「くそ・・・。なんで俺様が卵なんて買いに・・・・・・!!!」
 勝負の結果は―――まあこの会話を聞けばわかるだろう。跡部と共に放たれた不二のサーブは、あからさまにぬいぐるみを狙ってはいなかった
 不二のボールと接触し、軌道を僅かに逸らされた跡部のサーブは惜しいところでぬいぐるみに届かず。
 そして跡部のボールと接触し、軌道を大きく逸らされた不二のサーブはピンポイントでぬいぐるみに当たった。
 『てめぇ何妨害してんだよ!!』
 憤る跡部に、不二は爽やかに笑って言った。
 『だって、しちゃいけないなんてルールなかったし』
 みーんみーんみーん・・・・・・・・・・・・
 『だからな・・・・・・・・・・・・』







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ







 「さって、と」
 跡部の姿が見えなくなったことを確認し、不二は宣言どおり跡部邸へと足を踏み入れた。
 「―――あ、不二くん。跡部くんは?」
 「今卵買いに行ってるよ」
 「卵・・・・・・?」
 「僕との勝負に負けてね」
 「災難だな・・・。跡部・・・・・・」
 そこへさらに2名が合流し、軽い会話の後各自両手に荷物を抱えチャイムを鳴らした。
 「こんにちは。小母さん」
 「あらみんな。待っていたわよ」
 「本日はよろしくお願いします」
 「いえいえこちらこそ。周くん達にそんな事してもらえるなんて、景吾も喜ぶわ」
 「あはは。そうだといいですね〜。
  ―――では台所をお借りしま〜す」
 「私も何か手伝いましょうか?」
 「そうですか? では部屋の飾り付けをお願いします」
 「わかったわ」







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 「不二く〜ん! そっちの用意出来た〜!?」
 「あとちょっと!!」
 「周ちゃん、サラダこの位でいい?」
 「うん。いいんじゃない? じゃあ次サンドイッチ作って」







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ







 「景―――」
 「跡部くん―――」
 「跡部―――」
 「景吾―――」
 『
HAPPY BIRTHDAY!!
 パンパンパ―――ン!!
 「な・・・・・・?」
 (嫌がらせの如く1日外で潰してから)家に帰るなりこの騒ぎ。クラッカーと手製紙ふぶきを頭から被ったまま、跡部は世にも珍しく呆然としていた。
 「
15歳おめでとう! 景!!」
 「よかったわね景吾。周くんたち景吾のためにずっと前からこのパーティーを計画しててくれたのよ」
 「こいつらが・・・・・・?」
 驚き呟く跡部へと、頬を僅かに赤く染めた不二がはにかみ笑いを見せた。
 「うん・・・。みんなも呼んでにぎやかにやろうかな、って最初は思ったんだけどさ、跡部あんまり騒がれるの好きじゃないでしょ? だから―――」
 試合中など周りに注目される事はもちろん大好きだが(ナルシスト的思考)、プライベートであまり他人に関与されるのは好きではない。
 わかっていたからこそ家族と自分・佐伯・千石のみで祝うことにしたのだ。
 跡部にとって嫌がらせしかしていないようなイメージのあった彼らのこの気遣い。くすぐったいような、でも決して嫌ではなくて。
 恐らく不二が、そしてその他2名がしているのと同じであろう笑みを浮かべ、
 「俺様の誕生日祝いっつーんならそれ相応のモンがあんだろ? 行くぞ」
 『おー!!』
 パン―――!!
 ハイタッチを交わす幼馴染たる4人。リビングへ―――パーティー会場へと入っていく彼らを見送り、
 「よかったわね、景吾。いいお友達がいてくれて」
 跡部の母親は、優しそうに微笑みそう呟いた。





 そして―――














ψ     ψ     ψ     ψ     ψ







 「ぐ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!
 出されたケーキの火を消し、一口食べるなりかろうじて洩れ出た呻きと引き換えに、跡部はばったりと倒れた。
 「跡部くん!?」
 慌てて体を揺り動かす千石。それを見下ろし―――
 「周ちゃん・・・」
 「何? サエ」
 「ケーキって・・・、周ちゃんの担当だったよね・・・・・・?
  ―――何仕込んだ・・・?」
 「仕込むだなんてそんな。
  ただプレゼントその1の意味合いも込めて、跡部にはこれからも元気でいてもらおうとスポンジとクリームに赤酢を」
 「・・・・・・・・・・・・。
  なるほどな」
 通りでイチゴを潰していた記憶もないのに真っ赤なケーキが出来たなと思ったら。
 ため息をつく佐伯の足元で・・・・・・
 「
てめえ・・・・・・・・・・・・
 地の底から這い上がるような声。だがそれを発した主はやはりその呻きと引き換えに、今度こそ闇へと没した。
 薄れゆく意識の中、改めて跡部は思い直した。
 (やっぱ・・・、コイツら嫌がらせしかしねーのか・・・・・・!!!)









 
15歳のバースデー。
 この日跡部は―――



 ―――今年一年の自分の扱いを予言するかのような・・・というかそう確定されたメに凝縮して遭っていた。

―――End
















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 よし! 跡部様の誕生日!! ネタはPS2ソフト『Kiss of Prince ice』よりでした。とはいってももちろんまだ発売されていないのですが。
 
WJで少し内容が紹介されていたとき、不二vs跡部シーンがあったのですが、その際の不二先輩の台詞がこうなんですよね。
 『さてっと、もう買い忘れたものはないかな・・・。まったく、姉さんも母さんも、何気に人使い荒いんだから』
 ―――2人の対戦理由は買い物権争いとみた(いやありえないから・・・・・・)!!
 というか買い物帰りに跡部様と遭遇、というのが一番ビビりましたが。
 さてそんなこんなで相も変わらず幼馴染設定の元まずは、


跡部様 ご生誕日おめでとうございます!!

2003.10.67


ちなみに。
 話に出てきたぬいぐるみ。プライスグッズ9月
verの不二ヒグマキーホルダーでした。寸法はほぼそのまま。
 ・・・・・・意外と大きいなあ。大ぬいぐるみの前に置いておくとちっちゃく見えるのに・・・。
さらに余談。
 跡部・佐伯・千石そして不二。彼ら4人、並ばせると背、低いなあ・・・。いや中学生としては高いほうでしょうが、最高
175cmか・・・・・・。