隣人事情





  Act1.千石と観月の場合



 どこぞの商店街にて。
 「さーって、今日のラッキーな方角は北西だったっけ。
  なーにがあるのかな〜っと」
 今日もいつもの如く朝の占いに従って行動する千石。おおむねその狙いは可愛いコウォッチングなのだが・・・・・・。
 どたっ!
 「おっと、メンゴ・・・って、あれ?」
 前方不注意でぶつかった相手へと微妙な誤り方もとい謝り方をしつつ、そちらを見て―――
 「フン、どこを見て歩いてるんだ。気をつけろ。
  ・・・おや? 山吹の千石君じゃないですか」
 本人の見た目と裏腹にいきなりなかなか高飛車な言い方をしてくる男。いや、よくよく考えてみると本人の見た目そのままだったのだが。
 それはまあとにかく、今更紳士的―――とでもいうのかなんというのか―――で来られても全然意味もないような気もするが、とりあえず礼儀正しい感じでくるかの人物に、千石も彼に見えないように軽く肩を竦め、何も思わなかったことにして普通に対応した。
 「ああ、聖ルドルフの観月くんだっけ。こんなところで何してるんだい?」
 「んふっ。買い物ですよ。
  この僕ともなると、口に合う紅茶もなかなか見つからなくてね」
 (うわあ・・・・・・・・・・・・)
 なんだかその口ぶりはやったらと近所に住む某帝王を思い出させる。今の感心?の声を口に出さずにいられたのはあの俺様至上主義ナルシー男のおかげか。
 「はは、あ、そう・・・」
 何とか引きつり笑いでごまかしつつ、千石は今の観月の台詞にふと思い当たるものがあった―――いや、上述の俺様以下略男の事ではなくて。
 (紅茶っていったら・・・・・・)
 「だったらさ、そこの店行ってみたら? 結構いいのがあるらしいよ?」
 「ん? どこですか?」
 「あそこあそこ。あの小さいお店。特にオリジナルの『サルサ・デス・ブレンド』っていうのがいいらしいよ?」
 「ああ、あれですね?
  では行ってみましょう。ありがとうございます」
 「いえいえ。じゃあ今度試合しようね」
 「僕でよければいつでもどうぞ」








 「―――というわけで観月君に君のオススメの紅茶勧めておいたよ」
 「・・・・・・へえ、そうなんだ」
 やはり近所の不二家に転がり込み今日あった事の顛末を話す千石。それを聞く不二の笑顔は―――
 ――――――妙に楽しそうだった。
 「ああ、じゃあちょっと待っててくれない?」
 「ん? いいよ?」
 話が終わるや否や不二が立ち上がった。
 (勝手に言って怒ってるのかな?)
 不二と観月の確執についてはもちろん知っている。やはり自分のお気に入りの店をそんなヤツに使われるのはイヤかもしれない。
 などと考えていると・・・・・・
 「―――お待たせ」
 出て行った不二が戻ってきた。その顔にはやはり笑み。いつものポーカーフェイスというわけでもない。人の喜怒哀楽には敏感な自分も今の不二からは『楽』しか感じられない―――あとは『喜』か。
 「ハイ。これ」
 「え? これって・・・・・・」
 ふいに手渡されたもの。温かいマグカップには透き通った紅い液体が。
 「僕のオススメ、『サルサ・デス・ブレンド』」
 「あれ? いいの?」
 紅茶の話を聞いて以来、千石は不二にこの紅茶を飲ませてもらった事はない。「君の口には合わないと思うよ」とはっきり言われると「それでも飲みたい」とは言いにくかったのだ。
 「どうぞどうぞv」
 「じゃあ、いっただっきま〜す♪」
 にこやかな笑みで勧められるまま、千石はカップに口をつけ―――
 「ぐおほっ!! がほっ!!」
 ―――思い切りむせ返った。
 「な、な、な、何!? これ、不二くん!!」
 「だから、『僕のオススメ、「サルサ・デス・ブレンド」』v」
 「てゆーかその前に『紅茶』!? コレ、めちゃくちゃ辛いんだけど!?」
 「『紅茶』だよ? ホラ、その証拠に紅いじゃない」
 「赤いのってタバスコじゃないの!? お茶じゃないってこれどう考えても!!」
 「そんな事ないよ。世界には『センブリ茶』なんていうむせ返るほど苦いお茶だってあるんだよ? じゃあ『サルサ・デス・ブレンド』っていうむせ返るほど辛いお茶があったっていいじゃない」
 「理屈として通用してないからそれは!! お茶のどこに辛い成分があるのさ!?」
 「ここに」
 「そんな局地的過ぎる話しないでよ!! もしかして何!? 『デス』ってやっぱ死とか死とか死とかなんかそういう感じの意味だったりするワケ!?」
 「ふふ」
 「そこ笑うポイントじゃないでしょ!?」
 「ああ、そうそう。このお茶ってさ―――」
 「話そらさない!!」
 「まあ聞いてよ。
  このお茶ってさ、一部の客用特別ブレンドだから、普通には売ってないんだよね。カウンターでちゃんと名前言わないと」
 「え・・・?」
 (それって、じゃあつまりまさか・・・・・・・・・・・・)
 千石の目が泳ぐ。背中にひたすら嫌な汗が流れる。
 そしてそれを裏付けるような、実に楽しげな不二の笑顔。
 「逆にカウンターで頼むと何も注意さ[いわ]れずに出されるんだよね」
 「うわああああああああ!!!!!!」








 「ぐっ・・・!! ごほっ!! げほっ・・・!!
  おのれ千石清純・・・・・・!!!」

 千石の予想通り―――
 やはり彼同様むせ返った観月が、不二に続き千石もまた滅殺対象へとランクを変えていた。








 「ふふ。おめでとう。千石くん」

 「誤解だあああああああああ!!!!!!!」



―――さあ、千石の言っていた占いは果たしてどこまで合っているのか!?











♪     ♪     ♪     ♪     ♪

 さて、『KofP』やってからは最初の話です。面白いですこのゲーム。単純にテニプリFan(あと各声優さんのFanか)しか楽しめないという欠点がありそうですが―――まさか全くテニスゲームではなかったとは思わなかった・・・・・・―――逆にテニプリFanにとってはなかなか涙モノです。試合前の会話が面白すぎる。なのでまずは千石vs観月(メイン&サブはどちらにしても同じ)。
 観月に紅茶の話されて乾いた笑い浮かべるまではそのままです。で、このあとそのまま別れてしまうと話が進まないのでもちろん試合していきますが、試合(曲)そっちのけでこんな事ばかり考えて一人笑ってました。『
SWEAT&TEARS2』では跡部がコーヒーについて語りまくり(ただし実際やってないのでどこまで語ってくれるのかは知らないのですが)そして今回は観月が紅茶を・・・。なんっかとことん中学生離れしてますね。皆様。フリスビーで遊んでる裕太(と柳沢)が可愛らしくて仕方ないよ・・・・・・。しかし会う人会う人にぶつけまくる辺り(しかも推測として後頭部)さっすが『不二の弟』。陰にいる人片っ端っから踏みつけるお兄ちゃんに負けてないぞ!!
 では話題が当然の如く観月からずれていったところでこの辺で。

2003.11.4

 そういや今回の余談はオン・ザ・レイディオ仕様で。

1 『サルサ・デス〜』。憶えてる方も多いかと。7月第2週、不二先輩がパーソナリティーでジローがゲストの週。テニプリ放送委員会で持ち出された『サルサ・デス・ソース』のパクリです。ただし『サルサ』で既に訳は『ソース』なので紅茶の名前としてはあからさまにおかしいのですが。
2 不二の『ふふ』。こちらは10月ラストから週目不二姉兄弟ショートコントことラジオドラマより。この回裕太の台詞、1/3はツッコミだったような・・・・・・。