隣人事情
Act2.不二とジローの場合(跡不二前提)
どこぞの公園(テニスコート付属)にて。
「遅いなあ裕太・・・。3時にここで間違いないはずなんだけど」
部活の無い学校帰り。久し振りに―――実に久し振りに弟からテニスを誘われ、ウキウキ気分で来た不二だったが・・・・・・。
「ああ、もしかしてあっちで待ってるのかな? 行ってみよう」
『テニスコートの周りで』などというアバウトな約束はやはりまずかったか。とりあえず隣接する公園で待っていたのだが、バカ正直な(失礼)裕太のこと、入り口の扉脇で待ってるかもしれない。
急いでいこうとそちらを見やる不二の目に―――公園とテニスコートを隔てるサイクリングロードが映った。
「あ、ここ横切った方が近いかな?」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、小さな生垣を掻き分け影を作る木の間をすり抜け落ち葉を踏みしめがさごそと移動し―――
ぐしゃ!!
「ん?」
「いでっ!」
いきなり変わった足元の感触、そしていかにも苦しげに目を見開いた叫びを聞き、慌てて前進を止め謝った。
「うわっ。すいません! まさかこんなところに人がいるとは思わなくて・・・」
その謝りが―――だんだんトーンダウンしていく。
「君は・・・、芥川くん?」
「んー・・・?」
反射的に上半身を起こしつつもまだ意識がはっきりしていないか、右へ左へ振られるクリーム色の髪を見下ろし、不二がきょとんとした。着ているのはとっても見慣れた氷帝の制服。もちろん自分が知っているのはその中でも男子テニス部程度のごく限られた人物だが・・・・・・外見的特徴とこの言動を考えると該当者は1人しかいない。
案の定―――
こちらを10秒ほどぼーっと見上げ、ようやく目が覚めたらしい彼―――ジローがいきなりがばりと立ち上がった。
勢いそのままにびしりっ! と指差し。
「あー、オメェか! ひっさしぶりだなー!」
覚醒モード(別名ハイテンションモード)となったジローへ、不二がくすり、と笑った。
(可愛らしいなあ・・・・・・)
もちろんそんな事を考えているとはおくびにも出さず、
「久しぶりだね。こんなところまで来て寝てるのかい?」
「あー? ああ。学校で寝てると跡部とかがいろいろうるさいんよ。ふあ・・・」
「『跡部(とか)が』・・・・・・?」
再びトーンダウンする不二の声。というかテンション。理由はもちろん先程とは違う。
それには気付かず大あくびをするジローの肩を掴み、笑顔で尋ねる。
「それで? 跡部はどう『うるさい』のかな・・・・・・?」
それはそれは、とても綺麗な笑顔で。
「んー? うるさいって、別に普通に『おらジロー。起きねえか。さっさと部活に出やがれ』とかいろいろ。後サボっててもしょっちゅういろいろ言われるけど」
「へえ、そう・・・・・・」
覚醒モードのジローに対し、開眼モードとなっていく不二。
「そーそー。跡部ってば何気に世話女房って感じ? 何かっていうとすーぐ注意してきてさー」
「ふーん・・・・・・・・・・・・」
ジローはもちろん気付かなかった。自分の台詞が不二の中で地雷―――というか核弾頭―――いやむしろ黒魔術魔方陣の発動ポイントを思い切り踏み抜いたことなど。
それを全て隠した、この上なく綺麗な笑顔にて死刑宣告をかます。
「ねえ芥川くん。今僕裕太と待ち合わせしてるんだけど―――」
「あー! あの聖ルドルフの―――」
「そう。だけど裕太まだ来てないみたいなんだよね。それまで暇でさ、
―――よかったら『相手』してくれない?」
「マジマジ!? やーりぃ!!」
「いいの? よかった・・・・・・・・・・・・」
ごすがすげす・・・・・・
「ぐはっ・・・・・・・・・・・・!!!」
「跡部ってばヒドイよ!! 僕ってものがありながら!!」
「ああ? 何だよいきなりテメェは」
「同じ学校だからってなんで芥川くんの面倒ばっかりみてるのさ!! 僕の事なんてほったらかしのクセして!!」
「・・・何寝言ホザいてやがる。ワケわかんねえよ」
「今の『間』何さ!! しかも目線逸らして!!」
「あーはいはい。うるせーな。どうせ誰に何吹き込まれたんだか想像つくが俺はジロー相手に部長としてしか接してねえよ」
「そんなわけ無いじゃない!! 芥川くん、跡部の事『世話女房』とか言ってたよ!?」
「―――アイツか・・・・・・。
ジロー・・・。テメェ後で覚えてろよ・・・・・・」
不二狙いの忍足辺りが入れ知恵するかと思い先手を打っておいたのだが(内容は極秘)、本人の口から語られるとは・・・・・・。
なおも「ヒドイヒドイ!!」と両手と首をぶんぶん振った5歳児的行為を続ける『青学の天才』に頭を痛めつつ、跡部はその合間を縫って片手で不二の腰を抱き寄せた。元々不二が詰め寄っていたため移動した距離は互いに0なのだが、いきなりのことに不二の騒ぎがぴたりと収まった。
「あのなあ。俺がジローに構ってんのはアイツが行動不良でレギュラー落とされると迷惑だからだ。あくまであんなんでも正レギュラーだ。
それだけだ。
で? テメェは何が言いたい?」
「ゔ〜・・・・・・」
不二が一番好きで苦手な位置関係。抱き寄せられる一方でもう片方の手で頬を撫でられ顔を包み込まれて。
全身で感じる跡部の熱と鼓動。他人と触れ合うことを嫌う彼の、それを知っているのは―――そんな事を許されているのは自分だけで。
力強い、澄んだ瞳に映る不二にもう怒りは無かった。ただあるのは自分が丸め込まれているという悔しさ。
(そりゃわかってるけどさ、跡部はそんな事しないって)
でも彼は優しいから。こんな風に理不尽に怒る自分をも許すほど優しいから。
そして本人はわかっていないだろうけど、周りはみんなそんな彼の優しさを知っているから。
だからなんだかんだ言って誰もが彼に惹かれる。さらに大きな彼の容量はそれを全て受け入れてしまう。
―――怖い。自分が彼の中で『特別な存在』でなくなってしまうことが。
彼の中の『特別な存在』が自分ひとりではなくなってしまうことが。
だから・・・・・・
「だから、その・・・・・・」
「ジローに構うなっつーんなら無理だからな。
だが―――
―――『俺』が構うのはお前ひとりだからな」
『氷帝男子テニス部部長』とか『帝王』とか『俺様』とか。そんな肩書き無しに―――『跡部景吾』が構うのは自分ひとりだと。
そんな、一番欲しかった台詞を先回りして言ってくれる跡部に。
不二はにっこりと笑った。
「当り前でしょ?」
「テメェ・・・・・・・・・・・・」
呻く跡部。その戦慄きをやはり全身で感じ、
「『僕』も、だよ。
―――大好きだよ、跡部・・・・・・」
そう呟き、抱きついてくる不二を見下ろし―――
(ったく・・・。どーしよーもねえな・・・・・・)
不二も―――自分も。
不二がわざと怒って自分からの言葉を引き出させたのなら、自分はわざとそれを言って不二の言葉を引き出させた。
不安なのはお互い様。『大切なもの』の多い彼は今日も自分の誘いではなく弟との誘いを優先させた。
駆け引き[タスティクス]。不安だからこそちょっとしたやり取りでお互いの気持ちを確認する。
そんな事をしなければならないほど細い関係なのか。
―――違う。
違う・・・と、思いたい。
どんなに嫌われても自ら追い続け、そしてついに己の元へ戻すことに成功した彼と弟の関係のような、いや―――
もっと、もっと深い関係になることを望んでいる。
――――――彼の中での、『一番大切なもの』が自分になれる事を。
「当然だろ?」
「ぶ〜。僕だけ? ちゃんと言ってよ」
「ンなの言わなくたってわかんだろ?」
「うっわ。跡部キザすぎ」
「言ってろ」
言いながら、抱き締める手に力を込めてくれる事。
言いながら、腕の中で本当に楽しそうに笑ってくれる事。
それが、今の自分達には一番大切な事なのだろう。
―――さ〜ってすっかり忘れ去られたジローはどうなったんだろ〜?
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
続いて不二&ジロー? なんっかどころかどこをどうみてもその後出てきた不二と跡部が主役ですが。
この2人の会話可愛いなあ。ちなみに不二vsジロー→不二vs観月→不二vs裕太→観月vs裕太の順でプレイすると、まるで観月が裕太に八つ当たりしているかのように見えて大爆笑です。
そして不二と跡部。プレイ中の会話は普通なので(爆。当り前だっつーの)割愛。なお買い物ではなく図書館で会ってましたね。しかし―――制服で寄れる図書館の位置が一緒。やはり2人の家は近くでいいのか・・・・・・。
話は完全意味不明ですが、こんな跡不二いいなあ。跡部と佐伯には甘えそうだ。不二様・・・・・・。
2003.11.4