隣人事情
Act4.英二と跡部の場合〔跡不二前提〕
「んにゃ〜あっ、と!
あー、やれやれ。やっぱ図書館って落ちつかないなぁ。宿題で必要とかじゃなけりゃ、絶対こんなとこ来ないのに」
大きく伸びをしながら彼のイメージ通りの事をぼやく英二。今日ここ―――図書館へ来たのはまさしくそのぼやき通りの理由なのだが、本当に慣れないところは肩が凝る。
「早くかーえろっと」
と、出口に向かいかけていた足が止まった。
―――知った顔を見かけて。
「・・・おりょ?」
「てめぇは、青学の菊丸じゃねぇか」
「氷帝の跡部じゃん。こんなところで何してんの?」
訊いてみて―――それがアホな事だった事に気付く。図書館でやる事。そんなもの1つしかないに決まっていた。今の自分のように。
案の定・・・・・・
「見りゃ分かるだろ? 本なんて買えば済むモンなんだが、ここにしかねぇのがあって仕方無くな。忍足も一緒だったんだが、ダラダラ映画観てやがるから置いてきちまった」
「フーン。あっそ」
思った通りの返答をしてくる跡部に、他に返しようもなかったため英二は適当に相槌を打った。わざわざ訊いておいて何気に失礼な返し方だったようだが―――もとより彼はそれを気にするタチではない。英二がなのか、それとも跡部がなのかは触れないが。
やはりお互い気にせずに会話は進んでいく。
「そうだ。どうせテメェもこんなところにいるくらいだからヒマなんだろ? ちょっと付き合えよ」
「えっ? 付き合うって、何?」
本当にわからなかったため英二が首を傾げた。
が、それを見て―――
「馬鹿かてめぇは。付き合えっつったらテニスだろうが」
完全に半眼で跡部が呟く。
「あ、そっかそっか」
「全く、橘といいてめぇといい、他に何がやりてえんだよてめえらは・・・・・・」
思い出すは少し前の出来事。たまたま会った橘の妹に絡んでやれば兄の乱入。「代わりに相手をしよう」と言うから九州2強の実力拝見などと思えば「デートでも構わんが」などと返される始末。テメェらは天然ボケなのか笑えねえ冗談が言いてえのか俺に嫌がらせがしてえのかそれとも本気なのかとつくづく訊きたくてたまらない。
「わかったんならおら行くぞ。さっさと来い」
「あ、でも―――」
「俺様がさっさと来いっつってんだろ?」
「あ・・・・・・!」
なぜかためらう英二の腕を掴み、強制的に引きずり出そうとする。
その足が―――
―――出口寸前で止まった。
(何だ・・・? この殺気・・・・・・)
体中を襲う寒気。この感覚は、まさか・・・・・・
―――という跡部の予想に違わず、彼らの後ろから声がかかった。
「ふーん。随分仲良さそうだねえ、そこ2人」
「不二・・・・・・」
「不二ぃ〜・・・・・・」
冷気を引き連れ絶対零度の笑みでご登場なるはもちろんこの人不二様。冒頭で英二が『宿題』と言った時点で、同じクラスである不二もまたここにいたとして全く以って不思議ではない。
彼の怒りのオーラに気付かないのだろうか。ひるんで手を離した跡部から逃れた英二が、情けない声で縋りよっていく。
「不二〜。勝手に跡部が絡んできて、でもって無理矢理俺を連れ出そうとしたんだよ」
びしびしびし―――!!
不二の周りで空気中に混じっていた水蒸気が凍結した。
なぜか東京都内というかそれ以前に室内に突如現れたダイヤモンドダスト。図書館の柔らかい光に照らされとても綺麗に輝くそれを身に纏い・・・・・・
「そっか・・・・・・。
―――跡部〜。だったら僕が代わりに相手になってあげるよ〜vvv」
「ぐ・・・・・・!!!」
薄気味の悪い猫なで声で進み出た不二が跡部にしなだれかかる。その声が、その眼差しが、その全てが自分に突きつけられたとても鋭い刃物のようで―――
「・・・・・・・・・・・・あ、ああ・・・・・・」
他に何もなす術はなく、ただただ跡部は引きつった笑いで頷くしかなかった・・・・・・。
どごっ!
「ぐはっ・・・・・・!」
「跡部ってば酷い酷い!! 何僕の誘い断って英二なんか誘ってんのさ!!??」
「テ・・・メェが先に断ったんだろーが!! 今日図書館行くとか何とか言いやがって何菊丸といやがる!!!」
「それは跡部の方でしょ!? さっき忍足君にも会ったよ!? 跡部と来たって言ってたんだけど!?」
「それはアイツが勝手についてきただけだ!! だから置いてきたっつっただろーが!!」
「ええっと・・・・・・・・・・・・」
「それで今度は節操無く英二に変えたって言うの!?」
「人聞きの悪りい事言ってんじゃねえ!! ただヒマだったところに丁度いいヤツがいたから絡んだだけだろ!?」
「それが節操無しの証拠だって言ってんじゃないか!! 何!? 跡部ってば適当に良さそうなのなら誰だって相手するワケ!?」
「あくまでテニスの話だろーが!! 誤解招く言い方して勝手に怒ってんじゃねえ!!」
「どーだか!! そんな事言って実際コロコロ変えたいんじゃないの!?」
「あの〜・・・・・・」
「ああ!? テメェこそまで俺が信じられねえっつーのか!?」
「そーやって開き直る辺りどこをどうやって信用すればいいのさ!?」
「だったらテメェのお望み通り相手変えてやろーじゃねえか!!
―――オイ菊丸!!」
「いきなり俺!?」
「テメェ俺様の相手しろ!! 嫌とは言わせねえぞ!?」
「ほえ〜!!??」
「僕の目の前で堂々と他のヤツ誘うわけね!! それなら僕だってやらせてもらうよ!!
―――英二!! 僕の相手になってくれるよねもちろん!!」
「ぅええええええ!!!???」
「あ゙あ゙!? テメェ俺様の言う事が聞けねえってのか!? いい度胸じゃねえか!! オラさっさと来い!!」
「僕の相手しなかったら即座に不幸降りかけるよ!!」
「そんにゃ〜〜〜!!!!!!!」
「菊丸!!」
「英二!!」
「誰か助けて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
結局―――
「なんだよこの程度かよ」
「やっぱ跡部とじゃなきゃ満足は出来ないね」
「クッ・・・。ようやくお前も俺様の価値がわかってきたじゃねえか」
「君もね」
いつの間に仲直りしたか、コートの真ん中で艶やかに笑い軽くキスし合う2人を・・・・・・
・・・・・・地面に這いつくばって見上げながら、英二の思う事はひとつだった。
(だから何やりてえんだよこいつら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
―――跡菊・・・・・・やはりなりそうにもありませんでしたね・・・・・・。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
う〜む当り前に無理でしたね跡菊話。ちなみにこれを裏に持っていくと跡部&不二×英二のアオカ・・・・・・ごふげふごふ!! それはそれで興味ありましたがとりあえず表なので普通にテニスの試合をした、という事で。
では、表にしろ裏にしろ『どごっ!』という擬音の中身がとても気になるこの話でした。
2003.12.19