隣人事情
Act6.千石と天根の場合〔ダビサエ・千サエにあらず〕
前回、亜久津と跡部が会ったのと同じ夕方、ただし夕方としては同じだが日にちは別だったりするこの時、千石は川辺の道路を1人、とぼとぼと―――一応分類すればそんな擬音ももしかしたら出ているのかもしれない感じで歩いていた。
「あー、疲れた! こんな時、可愛い女の子とでもバッタリ会えたりしないかなあ。そしたら、疲れなんて吹っ飛ぶのに・・・」
―――などという台詞を学校終了から何度もぶっこいては、その度に『可愛い』のかどうか微妙な感じの男とというかつまるところ知り合いに遭遇しまくっていた千石。もちろんこの時のみ例外となるワケもなく、またも彼は遭遇していた。『可愛い女の子』にするには1/2の確率で無理な存在、いや問題はそこではなく知っている存在に。
「ん?」
「うーん。やっぱり駄目だ、何も浮かばない・・・」
そいつは、道のど真ん中でウロウロしながら悩みこんでいた。何をかはわからないが、とりあえず悩んでいるらしい。台詞からも、雰囲気からも。
「初めて来る場所なら、気分が変わって何かいいダジャレが浮かぶかと思ったんだが・・・」
「あのー、ちょっとキミ」
「ん?」
さほど重要なことは悩んではいないのか、意外とあっさりと振り向いてきた。丁度夕日と同じ色の髪。彫りの深い顔の中央で、彫りは深いが表情には乏しい目を見やり、千石は明るく笑った。
「やっぱり、六角の天根くんだろ? そんなところで何やってんの?」
疲れてはいてもいつもの体面の良さは忘れない。好感度それなりに良しと自負している笑顔で話しかける。が、
「山吹・・・。山吹か・・・」
「はい?」
彼―――天根はなぜかさらに悩みこんだ。さらには―――
「・・・駄目だ、何も思い浮かばん。これがスランプってやつなのか・・・」
「な、何だかわかんないけど、そんなに落ち込まないで。元気だしなよ」
いや実はわかったんだけど。何悩んでんのか。
ついでに聞いたことあるけど! そういえば彼ってこんなキャラだったなって!
でもさ!!
(なんか自分がダジャレに使われそうになったら全力で拒否するっしょ!? 俺がおかしいワケじゃないよねえ!?)
誰に向かってだかはわからないが、とりあえず誰かに向かって力説する千石。もちろんそれは表に出さず、それこそ全力で話題をずらす。
「そうだ。俺でよかったら相手になるけど? 何か吹っ切れるかもよ」
(お願いだからそのまんま思いっきり吹っ切って・・・・・・!!)
そんな千石の願いを、最早彼の持ち霊と言い切ってどこからも文句は来なさげなラッキーの神様が聞き入れでもしてくれたか、天根も乗ってきた。
「・・・恩に着る。アンタいい奴だな」
「いやあ。それほどでも」
(いやそう言われると痛いな・・・・・・)
これまた心の中でダラダラ汗を流しつつ、それも表には出さず頭を掻いた。一応照れたフリで。
さこさこ話題をずらす。
「その代わり、お礼に君の知ってる可愛い女の子、紹介してくんない?」
「ダーメ」
「ちえっ」
「でも―――『可愛い男の子』だったらいいけど?」
「え・・・・・・?」
心底嫌な予感がする。『食わせ者』としての勘が、この展開はマズいと告げている。どころか今までの比ではないほど思いっきり! 警鐘を鳴らしている。
(この展開だと・・・『紹介』されんのって、もしかしなくてもテニス部・・・・・・?)
「あ、もしかしてキミのパートナーの? え〜っと、黒羽くんだっけ?」
必死で予想から外していく。他ならどこででもいいから『彼』になる前に首を振って欲しい!
というわけでまず1人目。
「いや。バネさん可愛くはないだろ? 『かっこいい』んだから」
「は、はは・・・。あ、そう・・・・・・」
(たーしーかー黒羽くんって、天根くんのツッコミ役じゃなかったっけ。かっこいいんだ、それはそれで・・・・・・)
まあこの辺りは差し迫った問題と比べればささいな事情だ。気にせずいく。
「なら年齢的に見て葵くんとか?」
「葵・・・・・・可愛いか?」
「うわキミさりげにチームメイトに向かって失礼な台詞言うね。いいけどさ。
ああ、なら樹くんかな? 確かに言動可愛いよね」
「樹・・・・・・」
「・・・違うんだ。
あ! 亮くんかあ! 可愛い―――っていうか美人さんそうだよねえ。亮くんなかなか帽子取ってくれないけど、淳くん考えると亮くんも絶対いいよね!」
「そうか。亮もいたか」
(『も』・・・・・・?)
嫌な予感MAX。
(てかもー残り2人しかいないじゃん!!)
確率それこそ1/2。外れなのか当たりなのかどっちなのかよくわからないが、とりあえず予感とは別であることを願い、実質ラスト1人の名を上げた。
「あとひとり〜・・・。え〜っと、誰だっけ? ゴメン。忘れた」
「首藤の事か?」
「そうそう彼! いっや〜メンゴメンゴ。ド忘れしちゃった」
「違うけどな」
「ううううう〜。わかってたけどさあ・・・・・・」
決定。わかってはいたが予想通りの『彼』だった。
それでも千石は頑張る道を選んだ。
「え〜っと他に? 誰だろ〜。俺わかんな〜いv」
「サエさ―――」
「すみません結構です紹介してくれなくて」
「―――どういう意味かな? 千石」
「おわっ!!」
突如後ろから響く第3の声。彼のファンからすると耳を心地よく撫でるのだそうだが、自分からするとむしろ背骨を指一本で撫でられて―――なぞられているように感じるのはなぜだろう?
飛びのき振り向くその先に、もちろんいたのはこの人佐伯。
「や、やあサエくん」
「ああサエさん。どうしたの? こんなところで」
「むしろその台詞お前に返したいんだけどさ、ダビデ。バネさんお前いないって困ってたよ?」
「ああ、そういえばオジイの用事で来てたんだっけ」
「は〜あ。俺ら迷子多すぎ。樹ちゃん見なかった?」
「樹ちゃんあっち行っちゃん駄―――」
「突っ込んでくれる相方いないけど?」
「・・・・・・・・・・・・」
実のところ黒羽以上の冷たい突っ込み人佐伯。彼の前でヘタなボケはかまさないほうが身のためである。
「というわけで、バネさんあっちにいたから」
と、佐伯が指差すほうに天根も去ろうとし―――
「サエさん、ありがと―――」
「『三角』は葵のパクリだからな」
「・・・じゃあアリが十匹で―――」
「『ありがとう』はもう古いよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「とりあえず『3×9でサンキューさんくす』なんて言わないだけマシかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・負けました」
「いや。勝って嬉しくないから」
毒舌最高。腹黒万歳。
完全に意気消沈した天根は放っておくとして。
佐伯は腕を組み改めて千石と向き合った。
笑顔全開で。
「で、千石。随分と面白そうな話してたなあ。俺が何だって?」
「え、い、いや・・・。べっつにそんな面白い話なんて全っ然!」
「へぇ〜。『全っ然』ねえ・・・・・・。
―――ところで聞くけど、なんで俺の可愛さが首藤以下なんだ?」
「・・・ねえ、もしかしなくても天根くんのさり気に酷い台詞ってサエくん譲り? てゆーか最初っから聞いてたんじゃん」
「お前が俺の名前言ったら後ろから可愛く登場しようと思ったけどな」
「寒・・・・・・」
「ん? 何か言ったか?
にしても酷い奴だなお前。なんで俺の名前ラストまで出てこなかったんだよ」
「あ、ホラサエくんと俺はもー知り合いだし? 今更紹介する仲でもないっしょ!」
「そうだな。だからあんなに真剣に辞退してたんだ〜」
「ゔ・・・・・・」
「その様子じゃクリティカルヒットってとこ?」
「そ、そーそーv そんなワケでもー俺ダメっぽい」
「ダメっ『ぽい』。つまりダメじゃあないんだな? じゃあ完全に『ダメ』になるまでいってみようか」
「ぐ・・・! そんな国語のテストじゃないんだから揚げ足取んないでさ、ね?」
えへv と極上の笑みを浮かべる千石へ、
佐伯もまた極上の―――誰が見ても『可愛い』笑みを浮かべた。
「『ダメ』」
―――この後の千石の運命は・・・・・・言うまでもありませんね
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
さってむしろダビデの運命は? って感じですね。サエ強いぞv ついでにサエのダジャレはサムさ前提で言ったので引かないでもらえると嬉しいです。難しいぞダジャレ(逆ギレ)!!
ダビデはいろいろ面白いです。曲もめちゃめちゃかっこいいし! また思いついたらダビデでやりたいなあ。出来ればvsリョーマで。気分転換なにやらそ・・・vvv
2004.2.28