隣人事情





  Act.佐伯と幸村と切原の場合


 「おーい、樹っちゃん! どこいっちゃったんだ?
  こんなところではぐれるなんて、ついてないな。オジイに頼まれた用事も済んだし、早く帰りたいのになあ」
 「おーい、赤也。どこだ?
  やれやれ。あいつ、練習試合すっぽかして、一体どこにいったんだ?」
 とある公園にて。似たような事をやっていた2人―――佐伯と幸村は、
 「ん?
  やあ、幸村じゃないか」
 「ああ、佐伯じゃないか。奇遇だな」
 何となくこんな感じで出会った。
 お互い探し人でなかった事に若干がっかりしつつ、それでも遭遇してしまった以上そのまま流すのもなんだかなあ・・・という事で、近付いて話し合う事にした。
 のんびりと歩み寄り、連れている黒犬の頭を撫で。
 「王者立海大の部長が、こんなところで何してるんだ?」
 そう問い掛ける千葉六角中の副部長を前に、幸村はぽんと手を叩いた。
 「あ、そうだ。うちの切原見なかったか?」
 「切原? 見てない・・・・・・なあ多分。俺も樹っちゃん探してたから周りは見てたつもりだけど、もしかしたら見逃したかも。
  切原ってアイツだろ? モアモアわかめヘアで誰彼構わずケンカ売る」
 「そうそうソイツ。でも従順なヤツには従順だから、慣れると結構可愛いよ?」
 「俺は別に慣れられなくていいかなあ。ケンカ売られる方が面白そうだ」
 「ハハハ。お前らしいなあ。
  けど―――、
  そうか。やっぱりそう簡単に見つからないよな。
  なあ、それより六角は最近どうだ? 1年部長だって?」
 「そうそう。こっちは普通に従順なヤツ。熱血漢溢れてて眩しいよ」
 「確かに、お前ならさぞかし眩しいだろうな」
 「あ、酷いなあ。俺だってこれでも見た目は真っ白だぞ?」
 「・・・本当に見た目は真っ白だな」
 「ところで切原はもういいのか?
  探してるんだろ?」
 「え?
  ああ、そうだけど。いいじゃないか。少しくらい世間話したって。
  俺、このところずっと退屈しててさ。いろんな話聞きたいんだ」
 「ハハハ、のん気だなあ。ま、それもそうだけどな。
  あ、そういやあの―――」








 などと、本気で世間話をして
30分経過。








 「―――そうだ、幸村。ちょっと俺と打っていかないか?」
 「えっ・・・、俺がかい?」
 「せっかくこんなところで会ったんだし、手ぶらで帰るのももったいないしな。
  土産話のネタにでも、どう? 相手してくれないかなあ。王者立海の部長の実力、いっちょ見せてくれよ」
 「ネタかあ・・・。
  まあいいよ。お前が相手ならこっちも充分ネタになるしね」
 「ハハハ・・・。ネタかあ・・・・・・」
 「お前が先に言い出したんだよ、佐伯」
 「ま、いっか。
  サンキュー、恩に着るよ。
  じゃあさっそく―――」



 「ちょーっと待ったァ!」



 隣接するコートに向かおうと足を動かす2人。そこに、第3の声が割り込んできた。
 ずだだだだと足音勇ましく駆け込んでくるのは、モアモアわかめヘアで誰彼構わずケンカを売りそうなヤツ・・・・・・
 「ああ、噂の切原じゃないか」
 「本当だな。『噂をすれば影』ってこういう事なんだな」
 「・・・・・・一体どーいう噂してたのかすっげー気になるんッスけど」
 「で、何だ?」
 「さらっと無視かよ・・・・・・。
  何でもいいだろ。王者立海の部長にテメェみたいな雑魚の相手気安くさせられるかっつーの」
 「そうか。自分が雑魚だと認めるのか。意外と潔いヤツだな。感心感心」
 「テメェだテメェ!! 人の話ちゃんと聞けよ!!」
 「何? 『テメェ』は自分の事を指す言葉じゃないのか? 確か広辞苑にはそう書いてあったぞ?」
 「知るかンなモン!! 俺はお前を指して『テメェ』っつってんだよ!!」
 「ちなみに噂してたのは、『お前が練習試合すっぽかしたおかげで幸村と真田がえらく大変なメに遭った。この落とし前はどうつけるべきか』、っていう事についてだぞ?
  ―――ホラ、ちゃんと話聞いてたじゃん」
 「・・・。すんませんでした幸村部長」
 「俺は別にいいけど、真田が随分怒ってたぞ? 急いで帰った方がよくないか?」
 「あ! んじゃあ俺今すぐ帰りますんで!!」
 「じゃ〜な〜切原。気をつけて帰れよ〜」
 「あ、どこのどなたか知りませんが親切にどうも――――――・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・
  ―――ってちょっと待てよ!! 話題ずれてんだろーが!!」
 「なるほどな。『誰彼構わずケンカ売る』んじゃなくって『誰にでもからかわれる』のか」
 「ホント、可愛いよなあ」
 「だなあ・・・vv」
 「なごむなあああ!!!
  馬鹿にしてんのかテメェ!!」
 「いや幸村が」
 「幸村部長がそんな事するワケねーだろ!?」
 「・・・」
 佐伯の視線が幸村へと向けられた。切原を笑顔で眺めた―――見物したままの幸村へと。
 「・・・大変だなあ。現実が見られないって」
 「こいよ、テニスなら俺が相手になってやるぜ。ついでに、今のうちにぶっ潰しちゃおっかな〜」
 「お前が? んじゃあ幸村の後にでも」
 「なんでそーなる!?
  物わかりの悪ィヤツだなあ。テメェなんか、幸村部長の手を煩わせるまでもないっつってんの。分かる?
  テニスなら俺が相手になるぜ。それで少しは、身の程ってモン知っとけ」
 「ほお・・・。身の程、なあ・・・」
 佐伯の目が、つと細まった。獲物[ターゲット]決定。
 一瞬でマーキングを消し、元の爽やかな笑みに戻す。
 「なるほどなあ。幸村とやりたければ、まずお前を倒せ、と。
  うんうん、さすが立海。一筋縄ではいかないなあ。
  いいぜ? 別にお前からで。いずれ倒すなら、誰からでも同じだろ?
  ――――――と、言ってやれればいいんだけど」
 「ああ?」
 怪訝な顔をする切原に、
 佐伯は最短で答えを告げた。



 「断る」



 「・・・・・・・・・・・・。
  ハッ! 所詮口先だけだってか! この腰抜けヤローが!!」
 数秒呆けた表情をした後、切原が若干引き攣った笑いを浮かべる。鬱憤を晴らし損ねたのが悔しいらしい。
 そんな彼を、佐伯は腕を組んで見下ろした。
 淡々と、続ける。
 「目上の人間に対する礼儀がなってない。基本的な礼儀作法一つ満足に身に付けられてないヤツはテニスのマナーも悪い。俺のモットーは『楽しいテニス』をする事だ。明らかに出来そうにないお前相手に受けるワケないだろ?」
 「ンだとオラァ・・・!!
  テメェの方がよっぽど礼儀知らずだろーが!! 大体どこが目上なんだよ!?」
 「『目上』だろ? ホラ」
 言いながら、佐伯が手を翳す。目の高さに。
 そのまま切原へと伸ばす。目の遥か上だった。



 佐伯:
174cm
 切原:
168cm



 ・・・かなり痛い身長差だった。
 「俺の方が上だぞ?」
 「そーいう意味でかよ!? だったらテメェだって幸村部長敬えよ!! 部長
175cmだぞ!?」
 「む・・・!?
  それは一本取られたな。さすが幸村が認めるだけある」
 「テニス全然関係ねえじゃねえか!! 何で認められてて何で慄いてんだよ!?」
 「え・・・? お前立海にはいと珍しき突っ込みエースじゃないのか? さすがあの立海で鍛えられてるだけあって、今の突っ込みなら跡部にも引けは取らないぞ?」
 「違あああああああああああああう!!!!!!!!!」
 「佐伯、言い過ぎだ。
  すまないな、赤也は血の気の多い奴なんだ。あまりからかわないでくれ」
 「そうだなあ。噂の切原赤也が脳血管切ったらさらに噂になるもんなあ。絶対真田の専売特許だってみんな思ってたのに」
 「だからどんな噂だよ!?」
 「でもまあ、お前が謝る事でもないよ。悪いのはどう見てもすぐキレるコイツなんだから」
 「わかってて煽るテメェが一番悪ィんだろ!?」
 「んじゃ謝る。
  ごめんな、切原」
 「しんみり言いながら頭撫でるなあああああああああ!!!!!!!!! 謝りてえのか挑発してえのかどっちかにしろ!!」
 「すぐ怒っちゃって。か〜わい〜いなあ切原vv」
 「うがあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
 「佐伯!」
 「ちっ・・・。
  はいはい。幸村に免じて今日だけは許してあげるよ。ありがたく思えよ?」
 「思えるかああああああああ!!!!!!
  ぜってー許さねえからな!! 今すぐぶっ潰してやる!! かかってこい!!」
 「やれやれ」
 「何か文句あんのかあ゙あ゙!!??」








 そして、試合が始まり。
 ―――
10分でカタがついた。








 「ゲームアンドマッチ。ウォンバイ佐伯。6−0」
 「よっしウォーミングアップ完了。んじゃ次やろうか幸村」
 審判幸村のコールと共に、佐伯は肩をぐりぐり回し切原はその場に崩れ落ちた。
 地に伏したまま、恨めしく見上げる。
 「幸村部長・・・
  ・・・コイツ、何なんッスか?」
 「佐伯か? 普段なかなか実力現さないから平凡な1プレイヤー扱いされてるけど、これでも
Jr.選抜経験者だぞ? 跡部を軽くあしらい鼻歌混じりに真田に勝つ実力者だ。
  お前には少し荷が重すぎたかもな」
 「すんません・・・。
  そーいう致命的な事、出来れば最初に言ってくれませんかね・・・・・・」
 「そういえば言ってなかったな。うちじゃ山吹の千石、四天宝寺の白石と並んで当たりたくない3大Sとして有名だから、てっきりお前も知ってるものかと思ったよ。
  でもまあ、良かったじゃないか切原」
 「何が・・・ッスか・・・?」





 「これでお前も学べただろ? 『身の程』」





 「・・・実はお前が一番酷くないか、幸村?」
 さすがにボヤく佐伯の隣では、
 切原が最早完全に朽ち果てていた。



―――この2人が本当に当たってたら、きっと普通の会話になってたでしょうに・・・。











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 佐伯と幸村。ソフトが違うのでもちろん実際当たる事はないですが、なので、千石さんのものと黒羽のものを足して2で割った会話です。切原登場までが千石編。登場後が黒羽編一部際どい台詞が千石編です。ゲームで実際プレイした事のある方にしか分かりづらいかと思いますが、幸村がフォローしたのはもちろん佐伯(=黒羽)ではなく切原の方です。当たり前ですが。幸村がここまで頑張ってフォローする相手が切原以外にいたら怖いよ・・・・・・。

2005.12.18