今の世の中、『普通の人』がテレビに出る事は珍しくもなんともありません。これは、そんな『普通の小学生』がメインのコーナー・・・・・・・・・・・・の、筈でした。
小学生の旅
〜氷帝学園幼稚舎の場合〜
「―――と、いうわけで今日は東京にあります氷帝学園幼稚舎へ来ています。ではさっそくみんなに声をかけてみましょう!」
幼稚舎廊下にて。カメラに向かい明るい声でレポートする女性スタッフ。丁度歩いてきた2人組みの、4年生程度の少年たちに声をかけた。
「こんにちは!」
「あ? 何だ?」
「どーも」
方や小柄でちょっと髪色が赤の入ったおかっぱ頭の子。方や背が高めで髪を長めに伸ばしたメガネの子。
不審げにこちらを見る―――どーでもいいけどこの年代の子どもならもうちょっと興味深げに見ないかしら? 他の学校では大抵興味示してくれるんだけどなあ・・・・・・などと心の中で思う―――2人に、得意の笑顔で尋ねた。
「ちょっと聞きたいんだけど、この学校に面白い子っていないかしら?」
が、
「おもしれえヤツぅ〜?」
「そらまたきっつい質問やなあ・・・・・・」
なぜかこんな反応が帰ってきた。
「あら? いないのかしら?」
「つーかい過ぎだろ」
「い過ぎ言うな。俺らが虚しなるわ。特異なんはあいつらだけやで」
「まー『アレ』基準で考えるとむしろ凡人が多いか」
「せやろ? 俺ら含めてな」
「いや・・・。お前は充分ヘンだろ、侑士」
「お前も人の事は言えへんで、岳人」
「俺は普通だ!!」
などなど言う彼ら―――侑士君と岳人君というらしい―――に、彼女は質問の内容を少々変更して再トライしてみた。
「じゃあ、一番面白い子って誰かしら? 知ってる?」
「『一番』言うたら跡部やろ」
「だな。何を差し置いてもとりあえず跡部選んどけ」
「? ? ?」
「ホラ、噂しとったら来たで」
「あ、そういや言うな。『噂をすれば影』だっけ?
―――ってか、アイツなんであんな慌ててんだよ。珍しいじゃねーか」
指で目線で、指し示されるまま後ろを向く。カメラも合わせて向かせたところ、確かにそこから彼ら2人と同い年程度の少年がずたばたと思いっきり廊下を全力疾走していた。
全力疾走して―――
目の前でストップをかける。侑士君と岳人君の襟首を掴みながら。
「おい、忍足、向日。俺はこっちへは来てねえ。アイツらに聞かれたらそう答えろよ? いいな?」
「そらええけどな。それ以上手ェ捻られるとホンマに首絞まってまうしなあ」
「ところでお前に用があるってヤツがそこにいんだけどな。カメラ回して。テレビの取材らしいぜ? よかったな。目立てるじゃねえか」
「アーン? テレビだあ?」
なぜだろう・・・? 私立だからとかそんな理由じゃなくって他の小学校とは全然違う対応を受けているような気がするのは・・・・・・。
新たに現れた少年―――跡部君に凄まじいガン付けをされつつも、彼女は本職を忘れはしなかった。
「あの、今『小学生の旅』っていうコーナーをやってるんだけど、それでここの学校が当たって、どんな小学生がいるのか取材に来たんだけど・・・・・・」
「俺が知るかンなモン。勝手にやってろ。俺は今忙しいんだ」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もの凄い切り捨て発言。さすがに凍るしかない。
「用ねーんなら行くからな。
忍足。向日。てめぇらさっき俺様が言った事破りやがったら後でどうなるか覚えとけよ」
「怖いなあ。そないな無謀な事せえへんって」
「はいはい。てめーはこっち来てねえ。それでいーんだろ?」
「よし」
一言頷き、その少年はは来た勢いそのままに走り去っていった。
乱れた襟元を直す2人。と、そこへ―――
「け〜い〜。どこいったの〜?」
今度はぱたぱたと軽い音を響かせ、これまた今まで会ったのと同じ位の少年が走ってきた。
「周ちゃん、跡部いた?」
「ううん。いないの」
「まあ、跡部くんも必死に逃げてるワケだし―――じゃなくって、鬼ごっこだったら不二くんの方が得意だしね。頑張って探そ♪」
さらにまた現れる少年2人。最初の1人は栗色の髪に碧い瞳、後から現れた2人は銀髪に、金髪にも見えるさらに薄い栗色。目の色も翠と碧。そういえばさっきの少年、跡部君も灰白色[アッシュ・グレイ]の髪に碧い目。国際交流でもしているのかしら? そういえば授業の中にふつーに英語やら第2外国語やらが入ってたりしたし。
「なんや。不二に佐伯に千石まで」
「あ、忍足くん、向日くん。景こっちに来なかった?」
「跡部か? さあ。こっちには来いへんかったで?」
「お前らなんで跡部探してんだよ?」
さっき言われた(脅された)事を忠実に守っているらしい。しれっと答え聞き返す2人。嘘の上手さをどう突っ込むべきか悩むスタッフらだったが。
最初に反応したのは銀髪の少年だった。
「そっか。『来なかった』んだ。
―――ところで忍足、向日。周ちゃんが理科の時間に人間も食せるかもしれないモノ作ったんだけど、試食してみる気ないか?」
「跡部なら今そっち行くん見たで」
「そーそー。そっちそっち」
「ああ。ありがとう」
「てめぇらあっさり俺様売ってんじゃねえ!!!」
逃げたようで逃げていなかったらしい。まあもしも本当に2人がちゃんと言ってくれたなら追手も『そっち』へは来なかったわけだし、だとするとヘタにさらに動いて鉢合わせするよりはその場に留まっていた方が安全だからだろうけど。
『そっち』 から再び現れた跡部君へと2人が冷めた目で答えた。
「売るに決まってんだろーが。如何にもヤバそうな物件食わされるなんて聞いたら」
「それに売るなんて人聞き悪いで。大体俺らお前との約束は破っとらんやん」
「あーそーかよ! どーせ『来たとは言ってない』とか言い訳するつもりだろ!?」
「なんやよーわかっとるやん」
「―――もーいい。
くそ・・・・・・」
舌打ちする跡部君。その腕をぎゅっと抱き締め不二君―――だと思う。呼び順からすると―――が嬉しそうに微笑んだ。
「景捕まえた〜v」
それはもう嬉しそうに。見ていてこちらも微笑ましいくらいに。
微笑ましいままに―――
「じゃあこれどーぞv」
「食うかンなモン!!」
持っていた袋から取り出した何か白球を差し出し―――あっさり拒否された。
ばしりと持つ手ごとはたかれ、
「何で!? 何でそういう事すんのさ!!」
「するに決まってんだろーが!! むしろてめぇの方が自分の行動振り返れ!!」
「だって景のために作ったんだよ!? 食べてほしいって思って当然じゃない!!」
「ンなモン俺のためとか言って作んじゃねえ!! 大体そう言うんだったらまずてめぇが食ってみろ!!」
「じゃあ―――」
「―――って本気で食うんじゃねえ!!」
「・・・・・・。じゃあどうすればいいのさ」
「何だよその不満だらけの顔は。ああ? 俺様が悪いってのか?」
「ゔ〜・・・・・・」
「だから泣き真似してんじゃねえ!!」
「まあまあ跡部も周ちゃんも」
「とりあえず落ち着いて、ね?」
「っててめぇら何しやがる!!」
「ん? 何にもしてないだろ?」
「ただ跡部くんが暴れないように押さえつけてるだけで」
「充分してんだろーが!!」
「跡部・・・・・・。
お前が食べてくれないと俺達が食わされるんだ」
「大丈夫。跡部くんの犠牲はムダにはしないよ。その上で俺たちは幸せに生きるからね」
「お前の墓はちゃんと作ってくれるだろうししっかり毎年墓参りには行くからな。
――――――――――――だから食え」
先程の跡部君以上にドスの入った声と据わった目で佐伯君がそんな事を言う。見れば千石君もそんな感じで。にこにこ笑いながら痙攣するほど押さえ込む手に力を篭めていたり。
目の前では不二君がうるうると涙ぐむ目で見上げていたりして。
「くそ・・・っ!!」
先ほど以上の舌打ちで、観念したらしく跡部君が口を開けた。
「あ〜んvv」
これはなかなかにシャッター(じゃないけど)チャ〜ンス! 男の子同士だけど充っっっ分! 可愛い!!
カメラも同じ事を思ったみたいで、しっかりと撮っている。
しっかりと、跡部君の口へと不二君が白球を入れるトコロを。
しっかりと、食べた跡部君が白目を向いて倒れるトコロを・・・・・・・・・・・・
『え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?』
ぽか〜んとする一同の中で、跡部君の体をぱっと離した佐伯君と千石君が呟いた。
「やっぱ死んだか」
「う〜ん。さ〜っすが一撃必殺の猛毒だね」
「でも人間にも効くんだな」
「いい実験になったね」
「跡部の墓には『科学の進歩にその身を捧げた男、ここに眠る』とでも彫っとこうか」
それを聞き―――
「なあ、佐伯、千石。
不二、何跡部に食わせたん?」
「ホウ酸団子」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――そら死ぬな」
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
「景、おいしかった?
ねえ、言ってくれなきゃわかんないんだけど」
跡部(の死体とおぼしきもの)に話し掛ける不二。取材も忘れついでに現実全てから逃げる撮影スタッフへと。
「まあ、一応こいつ等が氷帝[ウチ]一押しの『面白い人』やな。参考になったかはわからへんが」
いつもの事に忍足は1人、しみじみと呟いていた。
―――さて結局この学校はテレビに出られるのか否か
はい。アニプリを観ている方はご存知なのかそれとも否か。同時刻(厳密には7時から8時まで)にやってる所さんの番組よりです。た〜し〜か、小学校の旅もあったような気はするんだけどなあ・・・・・・。
そしてちょっぴり過去話にして一同が氷帝幼稚舎にいた頃の話です。私立の事がよくわからないのでどうも『幼稚』とつくと『幼稚園』とかそういったイメージが拭えない為妙な感じですが、FB20.5より幼稚舎から直接中等部へ上がった以上初等部と同じ感じでいいのかなあ・・・・・・? ちなみに今回の話の突っ込み所はそこではないような気もしますが。
さて、ホウ酸団子。なにゆえわざわざ氷帝で作る!? ―――ンな話は置いておいて。
さて、今回さり気に好きな第三者視点でいってみました。なので彼らを外人だと思っていたり。ついでにMy設定より千石さんが今のオレンジ頭にしたのは山吹入学時。そのため今回『金髪にも見える薄い栗色』と表現されていたりします。さすがにわかりにくいかということで即座に名前呼ばせましたが。
では、幼稚舎からキケンな遊びの絶えなかった『面白い人』一同。こんな小学生がいたらとことん嫌だ〜〜〜!! なんて思いつつ終わりです。
2003.1.30