今日はウチに人気アイドル『チョコレーツ』が来る日。家族も追い出し準備もバッチリ! 後はチョコレーツが来るのを待つだけ・・・のはずだった。
菊丸英二式休みのEnjoy法
たまたま出したハガキが当たり、なんとあの4人組人気アイドル『チョコレーツ』が菊丸家に来る事になった! そんなこんなで浮かれていた英二だった。
が!
(なんでこんな事になったワケ・・・・・・?)
来たメンツはなぜかチョコレーツではなく青学一同。ワケのわからん用事で居座り、正直に事を話せば冗談と取られ、挙句たまたま玄関にいて彼女らを出迎えることになった乾は自分が『菊丸英二』だとウソを言い歓迎される始末。それを生放送ゆえテレビ越しに遠くから観ながら・・・・・・
(そうか・・・。そうだよな・・・・・・)
英二はいっそ静かに納得していた。
(なんで俺ってばこんな下手に出てたんだろう・・・・・・?)
考えてみればおかしいじゃないか。いくらバレたくなかったからといって、なんで自分が他のヤツらに調子を合わせ穏便に事を済まそうとした。
(そうだよ。それがそもそもおかしかったんじゃん・・・・・・)
そうやって事を済ませようとしたから、現在最悪の状況へと転がっているんじゃないか。
(ああそうだ・・・。コイツらになんか殊勝な事期待した俺がバカなんじゃん・・・。コイツらに『労わり』とか『思いやり』とか、ンなモンあるワケないじゃんかよ・・・)
―――さりげにボロクソな物言いながら、英二の心の声なので誰も突っ込む者はいないのだが。
(ば〜かば〜か俺のばか〜♪ 何ンな勘違い出来てたんだよ。3年間一緒にいてとっくにわかってたことじゃんか・・・・・・)
上を見る。どこまでも白い。ああ、どこまでも昇っていけそうだ・・・・・・。
「は、は、ははははははははは・・・・・・・・・・・・」
「え・・・、英・・・二・・・・・・?」
さすがにおかしい英二の様子にようやっと気付いた大石が呼びかける。顔を上に向けたままほや〜〜〜っと焦点の合わない―――まあなんというかイっちゃった目で笑い続ける英二に誰もが引く。
「俺ってば納得したよ。よ〜くわかった。穏便に、とか、下手で、とか、そういうの俺に合わねーや。やっぱ俺って言ったらコレだよなv」
にっこりと、それこそ青学魔王以上のにっこりさで笑う英二。さらに引きまくる全員を放っておいて、玄関へとゆっくりと向かっていった。
玄関にはカメラにスタッフ、そして待ちわびていたアイドル4人に―――彼女らに近寄られほっぺ(とか)にちゅうされそうな乾・・・・・・。
決意してしまえば行動は迅速だった。靴すらも履かないまますたすたとそちらに歩み寄り―――
がすっ・・・
決して反動でバウンドしない鈍い音と共に、英二は自分より13cm高い乾の頭にかかと落としを見舞っていた。
いきなりの事に悲鳴すら上げられないチョコレーツ4人。それはいいとして、倒れた乾にさらに2度3度ヤクザキックを放った後、腰を落として襟元を掴み上げる。
眼鏡の割れた顔に薄く微笑み、
「よお乾。俺の名前語ってチョコレーツに歓迎されるたあいい度胸じゃねえか。ンな事したんだ。それなりの覚悟、ってモンは・・・・・・もちろん出来てるんだよなあ。ああ?」
「ま、待て菊丸・・・! それは誤解―――!!」
「出来てるんだよな?」
「・・・・・・」
どごがごげどすがすごすごぎしごげばすどごっ!!!
血まみれの乾を脇に蹴り転がし、英二は改めてにこ〜〜〜っと笑みを浮かべた。それこそ誰もが思わず笑みを返してしまう幸せそうな猫の笑みで。
「いらっしゃ〜いチョコレーツの皆さん! 俺が菊丸英二ですvv」
「あ、は、はい・・・」
「こ、こちらこそ初めまして・・・・・・」
「きょ、今日はよろしくね・・・。菊丸くん・・・・・・」
「あ、『英二』って呼んで下さいよvv」
「そ・・・、そう・・・? じゃあ・・・・・・英二、くん・・・・・・」
「わ〜いvv チョコレーツに名前で呼んでもらっちった♪」
『・・・・・・・・・・・・』
がくがくと震えるスタッフ及びチョコレーツを従え、英二はいそいそと中へ入っていった。
「え〜っと、今ちょ〜っと人が多くてうるさいかもしれませんけど、ぜ〜んぜん気にしないでにゃv まあ動く人型オブジェだとでも思ってねvv なんだったらすぐ始末しとくから」
「え・・・? 始末、って・・・・・・」
「しー! そこは聞かないほうが良さそうじゃない・・・!!」
「そうよそうよ・・・!!」
英二の説明に、チョコレーツのメンバーが内輪で問題を解決していく。
そして―――
「あ・・・。じゃあもしかして、私たちってお邪魔だった・・・かしら?」
―――失言も洩らす。
「え?」
鼻歌(もちろんチョコレーツの歌)を歌い跳ねていた英二が突如として止まる。振り向く彼の、茶色の瞳が―――気のせいだろうと思いたいが―――赤く染まった。
雰囲気一転。実のところ笑ってさえいなければ大人びて見えると評判の英二の顔が、この上なく男らしく見えた。それも、誰しもが1度は惹かれるあの死の香りを帯びた危険過ぎる顔。
薄く開かれた唇が紡ぐはこれから殺す相手への祈りか。笑っているのに笑っていない。だが彼が殺戮者だと自覚さえしてしまえば、それは真なる笑みなのだろう。
一瞬でそれら全てを消し、
「ああごめんね。邪魔が多くって。じゃあすぐ片付け―――」
『なくていいから!!』
再びにっこり笑い4人を残しリビングへ入ろうとする英二を、4人がかりで押さえ込む。
己の持てる力全てを駆使し、そしてついでにああなんでこの家引き当てちゃったんだろ私たち・・・などと自分達の運のなさを呪う彼女たちではあったが、
「そうにゃの? んじゃあみんなの事紹介するねvv」
憧れのチョコレーツに『お願い』されてしまった。それだけで英二が止まるには充分だった。
質問前のテンションに戻り、英二がリビングのドアを開ける。
「じゃ〜ん!! チョコレーツのみなさんで〜す!!!」
『おおおおおおお!!!!!!??????』
ぱちぱちぱちぱちぱち!!!!!!
中にいた青学一同(−何人か)が雄叫びと共に拍手する。英二に当選ハガキを見せられ、さらに先ほどからの騒動はテレビでしっかり生中継されているし映っている家は間違いなく自分達が今いるその家だとわかってはいても、それでも実物を見せられればその感動はまた別物だった。
「本当にチョコレーツが来たぁ!?」
驚き、ダッシュで近寄ってくる桃。彼女らに触れる―――寸前に英二に足を払われた。
「ぐあっ・・・!!」
払われ、体勢の崩れたところをみぞおちに一発。一言遺し呆気なく没した桃をこれまた蹴り転がし、英二はやはり青褪める一同に向けそれはそれは爽やかに微笑んでみせた。
「これよりチョコレーツの半径1m以内に近付いたヤツ、及び話し掛けたヤツ―――もちろん話し掛けられて答えたヤツも含む―――は、罰として1回目で利き腕と逆、2回目で利き脚と逆、3回目で利き脚、4回目で利き腕の、指含めて全部の骨砕くからよろしく。一応言っとくが単純骨折ならともかく砕けてその上神経裂断とかなったら治るのけっこーかかるぞ? 全国大会まであと少しだし、手塚がいねー以上代わりはいねーからな。特に3年。全国行く俺らを病院のベッドかあるいは仏壇の中で虚しく見送りたくなかったらしっかり肝に刻んどけよv」
さらに「5回目6回目で目ぇ潰して、7回目で頭砕くからなv」と続けられる英二の言葉をラストまで聞けた者はどれだけいるのだろう。その頃には帰り支度を終えた一同が、もちろんチョコレーツは避けついでに気絶しっぱなしの桃は捨ててにこやかに手を振った。
「じゃあね、英二」
「良かったな英二。楽しくやれよ」
「また明日」
「っス・・・」
「毎度あり〜」
「それじゃ先輩、明日部活で」
そそくさと帰っていく一同。(気絶者除き)ようやっと望みどおりのメンバーになったところで、英二は本日最高潮の笑みで彼女らを迎え入れた。
「ようこそ、菊丸家へvvv」
『あ、はははははははは・・・・・・』
・ ・ ・ ・ ・
後日談。
生放送だったこの番組。もちろん編集などし様はなく行なわれた事全てが全国へと流れた。普通に考えると部活内騒動により青学の全国大会出場は禁止となりそうだが、英二のあまりの怖さに誰もそれを通告できる者はいなかった。
そして―――
――――――チョコレーツによるこの突発企画は、これ1回のみで打ち切りとなったのはいうまでもないだろう。ただし怯える彼女たちが見られた、とこの回の放送はFanたちの間で伝説として取り上げられるほどの事となったのだった。
―――おわろ
はい、そんな感じでアニプリ第135話《菊丸の夏休み》よりでした。あ〜ひたすら物事を悪い方へ悪い方へ持って行く英二が歯がゆくてたまらなかった。
そして次回〜〜〜〜〜〜!!! 待ちに待ちまくりましたサエ〜〜〜〜〜〜!!!!!! もー予告見て嬉しくて嬉しくてたまらなかったですよ!! おかげでその3シーン前に出た跡部に関するコメントが「あ〜割と絵が綺麗だ」だけで終わるくらい!
実は今そんなワケで凄まじいハイテンションで書いてます。それでありながらなぜサエの話でないのか、それに関しては突っ込まないで下さると嬉しいです(爆)。わ〜いじっかいっ♪ じっかいっ♪ ひっさびさにアニプリをここまで心待ちにするなあ・・・・・・。
というわけで、そんな感じの話でした。ヤン菊も好きです。早くぶちきれて欲しかったよ今回の放送(無理)。
―――そういえばこの話、最近『魔術士オー●ェン無謀編』を読み漁っているせいか妙にぶち切れ英二の思考回路がオーフェン入ってるような気が・・・。なんか・・・、『幸せ』を求めて障害全てなぎ払おうとするあたりそっくりに見えてくる・・・。なので無理矢理逸らせましたが。
2004.5.28