ただいま合宿中です。
合宿中といえば一緒にお泊まり、夜までお話。
となればコレしかないでしょう。


「おい! 俺は賛成してねえからな!!」


・・・・・・若干名の反対もあったようですが、それはあっさり黙殺されて。



かくて、合宿参加メンバーらは大広間を舞台に、


百物語をすることになりました。






−1人百鬼夜行−





     
   「百物語?」
 日本の夏の伝統行事たるこれ(誤)に首を傾げたのはもちろん帰国子女のリョーマ―――ではなく、意外な事に伊武だった。
 「ああ、それは―――」
 「ロウソク
100本つけて1つづつ怖い話していって、100本目が消えたとき本物の霊が現れるとか地獄への扉が開くとかそんな感じのゲーム」
 笑顔で解説しようとした不二を遮り、リョーマがすらすらと答える。
 「ゲーム・・・かなあ?」
 「にしても越前、お前よく知ってんな」
 「ああ―――」
 桃の感心したような言葉に軽く頷き、
 「ウチ家寺っスから。そんで親父とか母さんとかよくやるんスよ。まあそれで何か起こったって事はまだないっスけど」
  ((やるなよ寺なんかで・・・・・・))



 という感じで早くも始まった百物語。ただし今のはまだロウソクに火をつけ途中だったため第0話としてカウントされた。
 
     
  35話  佐伯


 「これは女の子だけど俺達とおおむね同じく全国大会を控え頑張っている子の話だ」
 「ああ・・・? 佐伯、そりゃ俺達にケンカ売ってんのか・・・・・・!?」
 関東大会1回戦であっさり負けてヒマなどこぞの帝王のクレームは、本件には関係ないからとこれまたあっさり無視された。
 「そう。その子にとっては念願の全国大会出場だ。次のチャンスはいつになるかわからない。だからこそ絶対に悔いを残さないよう、全力で挑めるよう日々練習に励んだ」
 「は? 全国大会なんて別にそんな気張るモンでもないっしょ?」
 全国常勝ただいま優勝記録伸ばし途中の某大学付属中2年エースの顔に、苦労を重ねたその他2年全員のツッコミ代用テニスボールがめり込んだ。
 気にせず話は続けられる。
 「ところが・・・。
  いよいよ明日が本番という時、
  ―――悲劇が起こった・・・」
 「食あたりで入院?」
 「入院ネタだったらストレスで胃に穴が空いたからっしょ」
 「夜学校帰り不審者と間違えられて補導されたとかじゃないんですか?」
 「補導はほどほどに・・・・・・ブッ!」
 「あ、わかった! 実は成績足りなくて補習が明日から始まる!」
 「ちゃうちゃう。この手の話のオチっちゅーんは実はそいつは女やあらへんかった、って事がバレて出場禁止になった、やろーが」
 「はいお前ら黙ってよーなvv」
 がすがすばすばすどすどごすっ!!
 ツッコミその2。佐伯が一気に放った6個のボールは、見事話の腰を折った6人―――千石・英二・裕太・天根・神尾・忍足の頭にクリティカルヒット。ちょっぴり口から魂吐き出しかける彼らを見向きもせず続きを述べる。
 「(ていうかこの話の怖いポイントは何より佐伯さん自身なんじゃ・・・・・・)」
 「(言うな長太郎。次はお前がターゲットになるぞ)」
 ぼそぼそと呟く鳳と宍戸。佐伯が後ろ手に再びラケットを握ろうとしているのを見て、両手と首をぶんぶんと振った。ついでに実は彼らの影で、何か口を開きかけていた真田がほ〜っと息を洩らしていた事を知っていたのは隣にいた柳のみだった。その場で彼のデータノートに『真田=顔に似合わず割とクイズ好き、かつボケ担当』と記されたのは・・・本人には言わない方がいいだろう。
 「で、悲劇が起こったんだ。まあどうせここまでくれば誰だって思うだろうしそれこそ忍足の言った通り『この手の話のオチ』そのものなんだけどさ、つまりは帰り道に事故に遭って死んだ、と」
 「ちょ、ちょっと待て佐伯」
 「ん? どうした大石」
 「あの・・・、そこはそんな軽く流すトコなのか? 普通それでその子の霊が出て云々、って来るんだろうけど、だったらもうちょっとその下地となるその辺りは深く突っ込んだ方がいいんじゃ・・・・・・」
 愛想笑いを浮かべ(攻撃回避コマンド発動中)オズオズと手を挙げる大石に、佐伯が笑顔で手を振る。
 「ああ大丈夫。最初に結論を言っただけだから。ホラ、先がわからない話っていうのもいいけど、あえて結論だけ言ってどうしてそうなるのか追っていく、っていうのも1つの手法だろ?」
 「それは小論文の書き方じゃあ・・・・・・」
 「じゃあささいな疑問も解決したところで先にいくとして―――」
 佐伯の笑顔が消える。目の前のロウソクたちのみで照らされる顔。端正で綺麗な顔立ちは、同時に実際以上の恐怖を相手に与えやすい。
 声が1トーン下がり、
 「・・・・・・その時走っていたのは大型トラックだった。運転ミスにより歩道へと突っ込んできたそれは、小さな彼女を簡単に跳ね飛ばし、電柱との間に挟み込んで停車した。
  フロントガラスに放射状に入ったヒビ。ブレーキの甲高い音で聞こえないはずなのに耳に届いた、ぐしゃりという何かを潰す音。タイヤからリアルに伝わった、柔らかい、まるでかつて猫の死体を踏み潰した時のようなこの感触は何だ?」
 佐伯の両手が上がる。微かに震えた手で、まるで何かを持つように、
 「運転手は慌てて外へ飛び出た。前へ回り、少女の元へと駆け寄る。いや、本気で駆け寄れていたのか。手を伸ばせば届きそうなほど近いはずなのに、なかなかそこまで辿り着けなかった。
  その間にも、微かに意識のあったらしい少女が首を上に固定された状態で目を開いた。眼球も傷付けたらしい。開ける彼女の目からはまるで涙のように血がつーっと滴り落ちる。
  ごふっ、ごふっ、と胸元が僅かに痙攣する。その度吐き出される真っ赤な鮮血。肺か気道もやられたようで、息を吸う彼女の喉元からは、ひゅうひゅうと、まるで秋の終わりに吹く風のような甲高い音が鳴っていた。
  耐え切れなくて運転手は下を向いた。下にあったのは更なる悲劇だった。
  足元にある血溜り。その足元へと、ずるりと何かが垂れ下がっている。根元を見れば、そこは彼女の切り裂かれた腹だった。
  そう。それは腹から飛び出た腸だったんだ。運転手は真っ白になった頭で、かつて生物の時間にやった蛙の解剖を思い出した。腹を切り開き内蔵を観察して―――、
  終わった後どうしただろう? ああ、腹に戻したんだ。そしてそれをみんなで供養したんだ。
  思い出し、運転手はそれを実践した。必死に彼女の腹へと飛び出したもの全てを戻そうとする。だがそれはなかなか上手くいかない。どうしてだ? 元々は収まってたじゃないか。なんで入り直されてくれないんだよ?
  そこでようやく気が付いた。ああ、挟まれたままだからいけないんだ。潰れてるからスペースがないんだ。
  運転手は彼女の体を引っ張り出そうとした。混乱していた運転手に、車をバックさせるという発想はもう残っていなかった。ずりずりと、必死に引っ張り出そうとして。
  電柱とトラック、両方に擦れて彼女の服が、さらに皮膚が剥がれていく。肉が抉れ、そこを真っ赤に染める筈の血すらもうなく骨や筋肉が剥き出しになっても、それでも運転手は構わず引っ張った。なんとかして外に出さないと。もうその考えしかなくて。
  そしてぶちっ!! っと―――」
 両手で何かを引き千切るジェスチャーをする佐伯の頭を、
 後ろからハリセンが襲った。
 スパ―――ン!!
 「―――って!!」
 「てめぇのそりゃどこが『怪談』だ。ただ単にグロい話なだけだろーが。しかも妙に生々しく話しやがって」
 跡部の指摘に、ようやく全員が気付く。そういえば今やっているのは救急
24時とか事故事件100連発とかそういうのではなかったはずだ。
 「でも・・・、ある意味これはこれで正解だよな・・・・・・」
 「すっげー鳥肌たった・・・・・・」
 真夏だというのに温めるように肘を擦る一同。さらに跡部のハリセンを持つ手に力が入ったところで、
 「ま、まあまあ跡部も落ち着いて。もしかしたらこの先何かあるのかも」
 2人の間に入った不二が、ね? と小首を傾げる。
 「・・・・・・・・・・・・。
  ――――――そうだな」
 随分長い逡巡の後、跡部の手が下がった。やはり彼も不二には逆らえないらしい。
 「なら佐伯、次話せ」
 尊大な態度で(本人視点)促す跡部。佐伯は彼を見上げ―――
 「は? 次?」
 不二同様、首を傾げたのだった。
 「だから次だよ。まだ続くんだろ?」
 「何言ってんだよ。これで終わりに決まってんだろ? 葬式の様子なんて知ってるワケないし。あ、もしかして医師の『ご臨終です』の辺りまで聞きたいのか? お前さりげにマニアックだな」
 「違げえよ! そんでその少女だかなんだかの霊が大会に現れるとか運転手に復讐するとか、そんな感じで続いてんだろ?」
 極めて当り前の発言をする跡部。今度は誰視点であろうと当り前だったと思う。
 が―――
 佐伯はさらに首を傾げた。
 「何言ってんだお前? 死んだらそれで終わりだろ?」



 ―――第
35話は跡部が佐伯の後頭部を踏みつけ、前倒れになった佐伯がロウソクを頭で踏み消して終わった。
 
     
  58話 木更津・・・


 「それはこの間僕が実家に帰った時の事だった。父さんも母さんも喜んでくれて、今夜は僕の好きなものにしよう、って言ってくれたんだ」
 「んふっ。木更津の実家ですか。これはぜひ興味がありますね」
 「何に対する興味かはそれこそ興味ないから先いくけどね」
 「ぐっ・・・!」
 毎度恒例相手にされない参謀の呻きが広がる。よくよく考えずとも何故彼が関東の代表たるこの合宿にいるのか怪奇現象[ふしぎ]だが、それに関しては第12話で不二がネタとして使ってしまったため流していく。
 「でもそうそう都合よく材料がそろってるわけはないから亮と買出しに行ったんだ」
 「それって何気に意味なくないか?」
 「かもね。でも大事なのはそう思ってくれることでしょ?」
 「まあ確かに」
 本日何度目もの妨害は、ここに来て初めてまともに受け止めてもらえた。同じく実家を離れた組である若人はうんうんと深く頷いた。
 「それで亮と買出しに出て、言われたとおりの物をカゴに入れてレジに並んだんだ。ところが―――」
 淳がここで一度切った。端正な以下略の理屈で場がしんと静まり返る。
 「ここで重大な事件が発生したんだ。そう―――
  ――――――亮の手には、そこにあるはずの財布が握られていなかった」
 『――――――!!!』
 その場に無音の悲鳴が広がる。あまりの衝撃的告白に何も言えない一同。沈黙の中で―――
 「あん? 財布1つ失くしたからどうしたよ?」
 ごすっ! がすっ!!
 ブルジョワの発言権を強制的に取り上げ(訳:殴って黙らせ)、
 「まさか・・・・・・、やってしまったのか・・・・・・!?」
 「そんな・・・!! なんて事を・・・・・・!!」
 驚きのあまり、全員キャラを崩して呻いた。たかが財布1つと言うなかれ。小遣いの少ない中学生男子は当然の如く財布1つに全財産を入れている。『貯金』などという金持ちの戯れに付き合っていられるワケがない。
 「そう―――」
 再び淳が呟く。その後ろでなぜか猿轡を噛まされ後ろ手に縛られた当事者の亮がむーむー唸っているが、それに関して突っ込める者はどこにもいなかった。
 髪に隠れているからという理由だけではなくどこを見ているのかわからない遠い瞳で、
 「亮ってば、無くすと危ないからって財布を僕に預けたのにすっかり忘れてたんだ・・・・・・。
  ・・・・・・ところでどうしたの? みんなコケて」
 「いや。気にしないでくれ」
 よたよたと起き上がりつつ梶本が呟く。親身になって聞いてしまった自分がちょっぴり哀しい・・・・・・。
 「で、それが怪談・・・・・・?」
 同じく親近感を覚えつつ聞いてしまった河村が半端な笑みで首を傾げた。
 それに淳はふるふると首を振り、
 「ここで終わったらただの亮のボケ話でしょ? 違うよ」
 「は、はは・・・。ボケ、ねえ・・・・・・」
 哀れみの視線が亮へと届けられる。
 「で、僕らの番になったから店員さんが値段を足していっていたんだ。合計されていく額を見て、やっぱり亮がはっとした。出てきた金額は、所持金ギリギリだったんだ・・・・・・」
 「ふむ。今度のオチは想像がついたな」
 「どういう事っスか?」
 乾の頷きに海堂が尋ねる。同じくわからなかったらしい8割方が乾の方を向いた。
 「どういう事だ? 普通に消費税分の額が足りなかったという事ではないのか?」
 神城の問い。それすらも気付かなかったらしい2割程度がああと頷いたりしてもいたが。
 「いや恐らく違う。
  ―――木更津、その買い物というか帰郷、
2004年4月1日より後の事じゃないのか?」
 妙に具体的な日付。眉を顰め―――
 「消費税総額表示!!」
 「さすが菊丸。よく買いものに行くだけあるね」
 ぱん! と手を叩き指を突き出す英二に、
10割ようやくタネを理解する。亮は金が足りないと焦ったようだが、これが法で定められた以降は各商品店頭に並んだ時点でもちろん表示価格は消費税込み。レジでもそのままの額が打ち出され、それで終了だ。つまりこの話はそれに気付かず青褪めた亮への笑い話が真だったようだ。
 「そうだろう? 木更津」
 やや自信込みで訊く乾。普段から不二や手塚以上の完全ポーカーフェイス―――表情のみではなく感情まで完全に平坦でこの上なく読みにくい彼の先読みが出来た事は、乾の中ではかなり嬉しい事らしい。
 が―――
 「残念乾。実は違うんだ」
 「何・・・・・・?」
 「本当はこれ違法なんだけどね、その店店員さんが足りなくって、まだ表示価格新しいのに付け替えてなかったんだ」
 「つまり・・・・・・」
 「実際に足りなかったんだ。そういえば総額表示だった、って安心した亮は完全に青褪めたよ。それでどうしよう、って悩んだ結果、払えない分はそこでただ働きをして返そうって事になったんだ」
 「あ、いやあの・・・・・・」
 さすがに今度は誰もが気付いたらしく、申し訳なさそうに手を挙げた。が、今度は完全に無視して淳が続ける。
 「でもそんなのわざわざ働かなくっても足りない分一度家に取りに帰ればいいんだし、そもそも1品返せば充分足りたのにね」
 「むぐー!! ぐー!!」
 「というわけでこの話はね、そんな馬鹿なのが自分の兄だと思うと怖くてたまらないっていうオチだったんだけど」
 『・・・・・・・・・・・・』
 ひたすらに寒い空気に支配される中、
 「―――というわけで、何より怖いのは全部気付いていながら何にも言ってくんない、こういうヤツを弟に持ったことだと思うぜ・・・・・・」
 ようやく猿轡を噛み千切ったらしい亮のため息によって、
58本目のロウソクは吹き消されたのだった。
 
     
  100話後


 「という事で、最後の1本、行きます」
 
100話目を話し終えた樺地(このような合宿での定番行事として、彼はその手の話を片っ端っから全て覚えてきたらしい。もちろん跡部に喜んでもらうために)は、残り1本となったロウソクに軽く息を吹きかけた。
 真っ暗になる部屋。何が起こるかどきどきわくわくする一同の中で―――
 (――――――あれ?)
 不二は、何かが触れたような気がして唇に指を当てた。少し湿っぽい。そういえば触れてきたものは少しざらざらしていたか。
 (え・・・? これって、もしかして・・・・・・)
 「僕、今キスされた・・・・・・?」
 それは微かな呟きに過ぎなかったのだが・・・
 『何いいいいいいいい!!!!!!??????』
 まるでどころか完璧それを聞いてだろう、暗闇で2つの声が唱和した。
 「不二にキスしただと!? 誰がやりやがった!!」
 「ははははは。誰だろうなあそんな命知らずの大馬鹿野郎vv」
 「ちょ、ちょっと待て跡部! 佐伯!!」
 「俺たちは無実だ!!」
 「そういう事を真っ先にいうヤツが怪しいんだぞっvv」
 「だ、な、そんな・・・!!」
 「冗談! 冗談っスよね・・・!?」
 「問答無用!! オラオラてめぇら覚悟しやがれ!!」
 『ッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
 
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
   100本目消火。その後地獄への扉が開き化物が現れる。
 (意外と本当かもしれないね・・・)
 電気をつけ、そこに広がる阿鼻叫喚の地獄絵図を前に不二は心の中で呟いた。なお鬼と化した2人は逃げ延びた者たちをどこまでも執拗に追い詰めているらしい。
 静かな大広間に・・・
 ほあら〜・・・・・・
 「あ、カルピン」
 鳴き声と共に一匹の猫が現れた。リョーマが連れて来た(本人曰く『勝手について来た』)彼の愛猫を抱き上げ、頭を撫でる。
 気持ち良さそうに目を細め、
 ぺろ。
 カルピンは不二の唇を軽く舐めた。この湿った感触。このざらざら感。
 「ああ、やっぱりさっきのカルピンだったんだ」
 くすくすと笑う不二に、カルピンも正解と言いたげにのんびりと鳴く。
 甘ったるい空気を撒き散らす1人と1匹に。





 『なんじゃそりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!





 ぶち倒された全員、魂からの叫び声を上げたとか上げなかったとか・・・・・・。



―――完了

 
     






 はい。合宿話その7は夜のお話。そして跡部&サエ→不二でその先はとても言えない物件と化しました。う〜む。カルか〜・・・。ちなみにカルをリョーマが合宿に連れて来たネタはその6よりです。またしても不二かい関わるのは!
 そして余談。実はこの話、さりげな〜く合宿参加メンバー全員1回は登場している(ハズ)です。ただし名前が直接出てこない人もいましたが。乾
&海堂が一番難しかった・・・・・・。

2004.6.14