佐伯虎次郎
14歳。趣味:海遊び  と  菊丸苛め





趣味選択の自由









 

 練習の班分けでは愛しの不二と別れてしまった英二。しかしながらまだチャンスはある! というワケで・・・・・・



 「不二〜! ご飯―――!!」



 丁度練習の中休みらしく、食堂に入って来た不二へと英二は大きく手を振り―――



 「不二、一緒にメシ食べない?」



 ずごしゃっ!!



 不二と同じ榊班だったかの『幼馴染み』とやらに先取りされ、膝を立てていたイスから綺麗に転がり落ちた。















 「どうしたの英二?」



 何があったか地面でぴくぴくする英二を見下ろし、不二は小首を傾げた。
 その隣で―――



 「ああ、なんか菊丸ご飯がどうのって言ってたよね。もしかして不二と一緒に食べたかったんじゃないかな?」



 しれっと言い、佐伯がちょっぴり悲しそうな、でもそれを相手に気取らせちゃいけないな的笑みを浮かべ、



 「うん。不二、一緒に食べたら? せっかく誘われたんだし」
 「え? でも佐伯だって―――」
 「ああ、俺はいいよ。ダビデとか亮とかと食べるしさ」
 「でもその2人って・・・・・・」



 不二がそっと佐伯越しに後ろを指差す。亮はせっかくの機会だからだろう、双子の弟の淳と食べており、ダビデは忍足とボケツッコミトークに花を咲かせていた。様々な意味で彼らとは食事を共にしたくないと思う。



 それに佐伯は慌てて手を振り―――



 「あ、大丈夫だから。ね?」
 「でも―――」



 不二が困ったような顔をして俯く。



 そして・・・・・・



 「じゃあ、佐伯も一緒に3人で食べようよ!」















 ―――不二は知らない。笑顔で手を叩きそう提案した瞬間、



 立ち上がりかけた英二がさらに激しくコケた事も。
 佐伯が死角で小さく握り拳を作った事も。















 「(おにょれ佐伯・・・・・・!!!)」
 「(ははっ。悪いな。菊丸)」



 床にへたばり燃える眼差しで中指を立てる英二と、それを見下ろしにっこり笑う佐伯。



 「じゃあお言葉に甘えて」



 こうして、第1ラウンドは佐伯の圧勝に終わった。










×     ×     ×     ×     ×











 次は席決め。ポイントは隣を取るか真正面を取るか。



 「んじゃ俺不二の隣v」



 言い、英二が不二の右隣に座る。いつも学校で一緒に弁当を食べているが、それは真正面の状態だ。



 (隣になったら不二と大接近! 肘とかぶつかっちゃったりそれで見つめ合っちゃったり・・・・・・vvv)
 1人妄想の渦に浸る英二だったが・・・



 「じゃあ俺は不二の正面にしようかな」
 「はにゃ?」



 てっきり逆隣を来るかと思った佐伯の言動に首を傾げる。



 しかし、



 ――――――このささいな取り決めが佐伯の仕組んだ罠であった事に気付いたのは、それから間もなくの事だった。















 始まる食事。さっそく英二は話題を振ろうとして・・・



 「あはは。そんな事あったんだ」
 「そうなんだよね。それでバネさんが―――」



 (は、入れねえ・・・・・・!!)



 隣で繰り広げられる謎の会話。秘技:幼馴染みしか理解不能な会話攻撃を前に、いきなり出遅れる。
 しかも―――



 (不二がこっち向かない〜〜〜〜〜〜!!!)



 いつも真正面で食べていたからこそ失念していた事。会話中横を向くためには、視線なり「ね?」などという言葉なりでそちらに話を振らなければならない。が、
 ―――この話題では英二に振りようがない。
 不二もやはり懐かしいからだろう。佐伯の話に本当に嬉しそうに笑い、割と聞き役の彼(説明時除く)には珍しく自分からも話題を振り・・・・・・当然の如く英二の存在を忘れていた。



 それならばせめて至近距離で不二の顔を見ていたい・・・!! と箸もつけず不二の顔をじ〜〜〜っと見て・・・



 「―――英二? 何?」
 「え? にゃ、にゃにが・・・!?」
 「だってずっと僕の顔見てるじゃない。わざわざ横向いて」
 「・・・・・・・・・・・・」



 失敗その2。横にいる相手を見るには横を向かなければならない。しかし向きっ放しでは食事が出来ない。皿を持ち、箸を持ったまま横を向きつづければあからさまに変だ。



 「菊丸もずっと不二の事見てたいんじゃん? 不二綺麗だしさ」



 無言の英二に助け舟を出す―――ようで会話をそっちへ持っていかせないための佐伯の言葉。せっかくこちらを向いた不二の顔は、5秒程度であっさり正面へと戻った。



 「やだなあ佐伯。僕は美術品じゃないよ?
  それに『不二』なんて他人行儀な呼び方止めてよ。せっかく久しぶりに会えたんだからさ」
 「ははっ。悪い悪い。練習中のまんまのノリで。
  でも周ちゃんと同じ班になれるなんて思ってもみなかったよ」
 「うん。僕もだよ。サエ」



 (『周ちゃん』・・・? 『サエ』・・・・・・?)
 いや幼馴染みなんだしこの位親しくて当然だと思うけど!



 (にゃにこの恋人もどきの甘ったる〜〜〜い空気は!!??)



 しかもそれを助長しているのが2人の位置関係だった。真正面に座る2人は物を食べている間もすぐに視線が合う。ぱっと合っては佐伯が笑い、それに合わせて不二も微笑む。ビバ! バカップル!!



 ――――――としか見えない光景に、英二の目がどんよりと死にかけ・・・・・・



 「―――あ、周ちゃん。口端ソースついてるよ」
 「え? ウソ!?」
 「付いてるって。ここココ」



 笑いながら佐伯が身を乗り出した。長細い指先が不二の柔らかそうな唇に触れる。



 「ホラ」



 指先に僅かについた赤いソース。席に戻りつつ、佐伯が舌を出さずに指を舐めた。



 (か、間接キスぅぅぅ!!??)
 慄く英二(と周り)だったが、2人の間では普通らしい。さらっと流された。



 「周ちゃんもまだまだ子どもだなあ。口にソースつけるなんて」
 「うるさいなあ。スパゲティなんだからどうやったって付いちゃうだろ?」
 「そんな風に口開けずに食べようなんて頑張るからだよ。もっとがばって開けちゃえば?」
 「これでもちゃんと開けてるよー」



 からかう佐伯にむ〜っとむくれる不二。極めて稀有な表情に誰もが呆気に取られる中、



 (そうだ! これはチャ〜ンス!!)



 英二はぱちんと指を鳴らし―――損ねてすかっと音を立てた。尤も本当に音を鳴らしていたら即座に不二にバレていたが。
 2人の会話に出たとおり、今日の昼食はスパゲティミートソース。余程食べ方に気をつけないと即座に口の周りを汚す料理。さらにお絞りやナプキンなどという気の利いた物件がない以上、洗ってくるか自分のタオルやジャージを犠牲にするか、さもなければ舐め取るかしかない。実際不二も何度も小さく舌を出して唇を舐めていた。綺麗にマナー違反だが、それ以上の事をやっているものなどいくらでもいる。どころか不二以下の行為で済んでいるのはそれこそ最初から諦め大口を開けている佐伯か、もしくはマナーに関しては間違いなく煩いであろう氷帝の一部程度だ。
 今度は真正面では出来ない行為。



 (これで佐伯に勝てる!!)



 意気込む英二の念力に押されたか、食べようとしてまたもミートソースが口端についた。



 「あ、不二。ソースついたよ」



 さりげなく言い、機会を窺う。現在不二はスパゲティを食べ途中。間違いなく舌は出せない。
 口も開けず目線だけできょとんとする不二。



 「俺が取ってあげるv」
 にっこり笑い、顔を近付け―――



 「あ、右か」



 直接舌が触れる寸前で、フォークを持ったままの不二の手が動く。
 親指を目標地点に当てひと撫で。取れたソースを先ほどの佐伯同様舌を出さずに舐め取り。



 「・・・・・・・・・・・・」
 「ありがとう。英二」
 固まった英二に、教えてくれた礼を言う不二。



 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 灰となる。その向こうで、















 ――――――佐伯が必死に笑いを噛み殺していた。










×     ×     ×     ×     ×











 『ごちそうさまでした』
 「さて、また練習だね。今度なんだっけ?」
 「2人で組んで基礎練ひととおりだって。お手柔らかに頼むよ」
 「サエこそね」



 にこにこ和気あいあいと食堂を後にする2人。どうやらペアは何も言わない内から確定らしい。



 不二を先に促し、佐伯も出ようとして―――
 振り向く。
 完全に没した英二へと。





 「あ、菊丸。



  お前も頑張れよ」





 ばたん。















 ひたすら寒い食堂の中で。



 「お前が邪魔してんだろーがーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」



 そんな英二の魂の叫びが聞こえたとか聞こえなかったとか。



―――Fin
















×     ×     ×     ×     ×

 いかがでしょうか佐伯の菊丸苛め。私は青学vs六角戦W1はそうとしか見えません(断言)。さらにそれで負けたのでサエの苛めはますますエスカレートしているようです。では次は、元祖佐伯の被害者:跡部の話題・・・・・・になるのかな?

2004.6.1516