某月某日(もう日にちを書くのにも嫌気がさした)。不二が佐伯の野郎とダブルスペアを組んだ・・・・・・らしい。





× × ペ ア







 「ほ、ほお・・・。そうか・・・・・・」
 「そうなんだよ。周ちゃんともなかなか息合ったし、結構いいペアだって榊監督にも誉められたよ」
 「へ、へえ・・・・・・。
  そりゃ・・・、よかったじゃねーか・・・・・・」
 にこにこ笑う佐伯に引きつり顔で応じながら、跡部は胸の奥心の底といわず体全体から対抗心を燃やしまくっていた。
 思う事はもちろん1つ。



 (ぜってえ不二とペア組む!!!)





1.服装

 次の日の練習中、ミーティングも他所にぼ〜っと窓の外を見やる跡部。
 「―――どうかしたかしら? 跡部君」
 華村の声も右から左に抜け―――どころか右にも入らず、コートで練習する不二を見下ろしながら思案に暮れる。
 憂い溢れる表情で考えるは・・・・・・
 (くっそ〜。班が分かれたおかげで普通にゃ組めねえし・・・・・・。それに関しちゃ佐伯が有利か。さてどうするか・・・・・・)
 ―――ある意味表情とマッチしているようで、実にくだらない考えだった。
 苛立たしげに頭を掻き―――
 ばん!!
 跡部は周り完全無視で机を叩いた。
 「ど、どうした跡部・・・!?」
 周りの誰かの呼びかけも聞かず、窓の下をびしぃっ!と指差し、
 「そうか! 『
ペアルック』だ!! 勝ったぜ佐伯!!」
 『・・・・・・は?』
 わけがわからず首を傾げる一同。その中で、かろうじて事情を理解したらしい忍足がため息をついた。
 勝利に歓喜する跡部の肩をぽんぽんと叩き、
 「あんなあ跡部、どーせ『不二と今着てる服が同じ』なんて思とるんやろうけどな、
  ・・・・・・俺らお前ら今着とるん
Jr.選抜用ジャージやで。みんなおそろいや」
 「そういう虚しいツッコミすんじゃねえ関西人!!」
 どごっ!!



 跡部の『不二とペア計画その1』は、勇気ある馬鹿の発言によってあっさり潰え去ったのだった。





2.テニス

 (つったってよう・・・。班が違ったって接触0ってワケじゃねーんだ。持っていき方によってはそれ相応に接触できるってワケだ)
 というわけで、コーチ華村をねじ伏せ本日のメニューを筋トレからコートでの練習にした。
 隣ではやはりコートで班のみんなと練習している不二。どうやらスマッシュの特訓のようだ。
 スマッシュを何度も受ける中で―――
 「羆落とし!」
 ―――不二自身がそう叫んだのではないが、誰かの声と共にロブで上がったボールは相手を超えラインギリギリへと落ちていった。
 「相変わらずやりおるなあ、不二」
 「ったりめーだろ?」
 感心する忍足に、娘の事を誉められた父親の如く(爆)自慢げに頷く跡部。
 頷いて―――
 (羆落とし、か・・・。
  ――――――ん?)
 ヒグマ → クマ → ベア → → → ペア
 この瞬間、跡部の頭の中では『テディベア』は『テディ
ペア』と変換された。
 想像するは不二ヒグマ。楽しそうな笑顔で「がお♪」とか言っちゃってる可愛らしいそれ。『ペア』になっているといえばその相方は・・・・・・
 「またてめぇか忍足ぃぃぃ!!!」
 「何のこっちゃあ!!??」
 いきなり襟首を掴んでぶんぶん振り回す跡部に、今度は忍足もさすがに意味のわからず、ただ不条理な事態そのものにツッコミを入れるしかなかった。



 なお、『テディ』があくまで狩猟好きの元アメリカ大統領の愛称であり、そもそもクマを表す『ベア』を『ペア』に変換した時点でクマとは全く関係がなくなっていたのだが、英語が嫌いではあっても苦手ではないはずの跡部がそれに気付いたのは練習終了後だった。





3.部屋にて

 部屋に帰り、電気をつけた―――途端に消えた。
 「・・・・・・あん?」
 真っ暗な部屋で、眉を顰める。廊下を見れば、その辺りも全て消えていた。
 「停電か・・・?」
 定番の地震などは起こっていないが、それでもどこかの電線が切れたのかもしれない。
 「・・・・・・ってワケじゃあねえみてえだな」
 窓の外からは街並みが見下ろせる。それらに明かりはついていた。
 他には・・・
 「電源がショートしたか・・・」
 これまた否定する。廊下のさらに先、階段の方は明かりがついていた。予備の明かりの明るさではない。
 この辺りだけが暗い。
 「つー事はブレーカーでも落ちたか・・・?」
 結論としてはこれが正解だろう。タイミングからしても丁度いい。
 結論が出た上で、
 「マジかよ・・・」
 呻く。
 「ここはどれだけ節電に協力してんだ・・・?」
 他の部屋で何をしているかは知らないが、練習後だというのも踏まえてせいぜい電気を使う機会は携帯の充電かウォークマンの持込み程度だろう。女じゃないんだからドライヤーだの使っているなんていう事もないだろうし。
 「せめてもうちょいアンペア上げろよ・・・」
 呟いて―――
 ―――朝に続いてはっ!とした。
 「アンペア・・・・・・・・・・・・『アン
ペア』か・・・!!」
 はっ!として・・・・・・
 「・・・・・・・・・・・・だからどうしたよ」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰も突っ込む存在のいない中、跡部は1人落ち込むしかなかった。





4.自由時間

 寝る前のほんのひととき、跡部(+樺地)の部屋ではいろいろと持ち込み千石・佐伯、そして不二が遊びに来ていた。
 4人が揃いやる事といえば――――――もちろん賭けポーカー。麻雀やスロット、ビリヤードやダーツの類にならないのは、ただ一番道具が少なくて済むからだけなのだが。
 不二がカードを引き・・・
 「―――あ、
ワンペアだ」
 「何・・・!?」
 (ワンペア・・・・・・。不二とペア・・・・・・)
 毎度恒例の妄想タイムに突入する跡部。そこはかとなく嬉しさの滲み出る様を綺麗に無視して、次の千石がカードをめくった。
 「あ、ラッキー♪ 
スリーカードだ」
 ―――どこがラッキーだ?と問いたいカードだが、彼はこの回で全てのカードを交換した。いきなり引いて3枚が同じ数字だったらそれはもの凄い『ラッキー』だろう。
 が、そんな事は跡部のめくるめく妄想の中ではさして重要ではなかった。
 (スリーカード・・・? 3枚一緒・・・? つー事は、俺と不二と・・・あと、佐伯か・・・・・・?)
 嬉しそうだった顔が徐々に落ち込んでいく。
 ズーン・・・と沈んでいく跡部をこれまた無視して佐伯がカードを引く。
 「お。
ツーペアだ」
 (コイツも『ペア』だと・・・!? 待て・・・。2ペア・・・? 佐伯と不二が組みゃ、俺は誰と組みゃいいんだ・・・・・・!!)
 間髪入れずにますます沈む跡部。
 (いや、それ以前に・・・・・・)
 自分のカードを見下ろす。
ペアなど1つもない。自分では絶対に組めないという暗示のようだ。
 ため息をつき跡部の出したカードは、



 ――――――スペードのロイヤルストレートフラッシュだった。





5.食事中

 朝食時、さすがにここはどの班も似た時間となるためがやがやと賑やかになされた。
 他校混合合宿の利点というか、せっかくの機会にと各校結構バラバラに組んでいたりするのだがその中で。
 (『ペア』か・・・・・・)
 樺地に食事を持って来させつつ、今日もまたこの議題で悩み続ける跡部。悩み続けるあまり、余計なところまで思考を発展させるのは腐女子においては最早常識である。
 (ペア・・・・・・
洋梨[ペア]か・・・・・・)
 もちろん
pairpearとスペルが違うし、それ以前に全く関係がないのだが、妄想暴走中の跡部にはそれこそ関係がなかった。
 (デザートに洋梨とか出てきて、でもって1個足んなくて2人で分け合えたりとか出来たら最高だよな・・・・・・)
 帝王様、意外と夢は庶民的です。
 跡部の頭の中で、シミュレーションが組みあがっていく。



      「え・・・? そうですか・・・・・・」
      「どうしたの? 不二」
      「デザート、1個足りないんだって」
      「あれ? 不二コレ好きなの?」
      「りんごほどじゃないけど好きなんだよね。
       あーあ・・・。残念」
      「なら俺のあげようか?」
      「え? いいの?」
      「いいっていいって」
      「ありがと〜v あ、でもだったら半分ね。全部取っちゃ悪いよ」
      「ええ? 別にいいってのに」
      「駄目。もうそう決めたんだからね」
      「はいはい」



 (そうそう。こんな感じで―――)
 「・・・・・・ってちょっと待て」
 半眼で跡部が制止をかけた。目の前の席に座る不二と佐伯、2人に向かって。
 「何やってんだ? てめぇら」
 「え? 何って―――」
 「デザートの洋梨が1個足りなくて、それでサエがくれるって事になっただけだけど」
 口々に言う2人の間には、話の主題たる洋梨の載った皿が置かれていた。シーズンが妙にずれているようにも感じるが、最近は様々な栽培法に品種改良がなされ、大抵のものは1年中出回るようになった―――という事で片付けておこう。
 それはともかく、
 「てめぇはなんで俺の計画を片っ端っからぶち壊しにしやがる!?」
 昨日以上のノリでどばん!!と机を叩き立ち上がる跡部。
 「どうりでやったらリアルなシミュレーションだなとか思ったらてめぇのせいか!! てめぇはそんなに俺を弄んで楽しいか!? ああ!!??」
 佐伯に指を突きつけ怒鳴り散らす。それでもまだまだ足りないか、地団駄を踏みテーブルを引っ繰り返しさらに暴れて・・・・・・








 跡部のおかげで地獄と化した食堂。元凶でありながらちゃっかりお盆を持って避難していた佐伯と不二は、
 「なんていうか―――可愛いよな、こういう跡部って・・・・・・」
 「ホント。すっごく微笑ましいよね・・・・・・」
 洋梨を分け合いながら、それこそ幼い娘のやんちゃさに頬を緩める親馬鹿の如く(再爆)ほのぼのと中心で暴れる彼を見ていた。



―――何も解決しないまま終了!



















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 こ、これはもしや気分的に跡不二+サエ、実質佐伯&不二×跡部!? というか、こういう跡部を望む自分が一番どうかと思います。話は随分前の6/2放送より。あのサエと不二のダブルス話ですね。ちなみに初っ端に日にちが抜けてるのは、私が放送日を忘れたからではなく単に跡部視点だからなだけです(と協調)。しかしそうするとこの話の前振り、跡部様毎日日記つけてるんですか・・・・・・?
 ・・・・・・そんな考えると寒い問は捨て、ではこの辺でv

2004.6.20