Jr.選抜者らの泊まる合宿所にて、1本のタバコの吸殻が発見された。
秘密の課外授業
「こ、これは・・・!!」
知らされた事実に驚く竜崎。確認したところ彼ら指導者及びスタッフ一同、誰もタバコを吸いはしない。
「まさか・・・私の可愛い子達が・・・!?」
華村も両手を頬に当て首を左右に振る。可能性としては確かにそういう事になる。
「しかし・・・、生徒を疑うのはよくないが他には・・・・・・」
榊もまた沈痛な面持ちで呻く。残念ながら中学生かつスポーツマンであろうがタバコを吸うのは亜久津で証明済みだ。
「ならばここは―――」
「講師の方を呼んで特別授業―――」
「しかありませんな・・・・・・」
こうして、Jr.選抜合宿にはなぜか全く関係ない事が企画された。
・ ・ ・ ・ ・
講師に来て『下さった』方の話を聞き、実験やクイズに適当に相槌を打ちながらも、一同の考える事は1つだった。
((テニスやりたい・・・・・・))
なぜこんな事をやっているのか、心底わからなかった。というかこの手の授業は誰しも小中学校で1度は受けているし、周りの大人たちだっていろいろ言うのだから、タバコを始めとした各種薬物が危険な事くらい今更言われずともわかっている。それをなぜこんな強化合宿中にやる?
ただでさえない時間をさらに無駄にする行為。全員のイライラがピークに達したところで、
『では最後にロールプレイングを行ないます』
「ロープレ?」
『皆さんには様々な場面を想定して、そこで様々なものを勧められてもらいます。そこでどのように動くかは皆さんの自由です。今までの内容を思い出し、頑張ってください』
「へ〜。なんかやっと面白くなってきたっぽいじゃん」
そんなわけで・・・・・・
シ−ン1:街角で見知らぬ売人に薬物を勧められる
その1
「面白れー! 俺やる俺やる!! ね? やろ? 不二・おチビ」
「へえ。面白そうだね」
「まあ・・・・・・、いいっスよ」
「んふっ。では僕は売人の役をやりましょう」
ケース1 中学生=英二・不二・リョーマ 売人=観月
「でさ〜・・・」
ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ
ご丁寧に用意された『ざわめき』をBGMに、3人が『街角』と表示された体育館の舞台前を歩いていく。
そこへ現れた観月。3人へと近寄り・・・
「んふっ。そこの―――」
「―――なんだよね」
「へー。そうなんスか」
すたすたすた
「・・・・・・ってちょっと待ちなさい」
「あ、ねえねえ。何か呼ばれてるよ?」
「え? そうだった? 何も聞こえなかったけど」
「英二先輩の気のせいじゃないっスか?」
「もしかして幻聴? やだなあ英二。やるまえから症状現れてどうするのさ」
「英二先輩。そういうのはちゃんと隠してくださいよ」
「ちっが〜〜〜〜〜う!!! 俺は薬物やってない!!!」
「わ〜い英二が怒った〜♪」
「ってちょっと不二先輩! 俺囮にして逃げないで下さい!!」
「てめえら待ちやがれーーーーーー!!!!!」
ばたたたたたたたた・・・・・・・・・・・・!!!!!
「・・・・・・。僕の立場は一体・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・ま、まあ・・・・・・、このように売人に話し掛けられても無視して逃げるというのが最上の対策です・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
――――――んふふふふふふ。不二周助、それに菊丸君に越前君。憶えておきなさい。この仕打ちは必ずしますよ」
『で、ではありがとうございました・・・・・・』
その2
「よ〜っし! んじゃあ次は俺が行っちゃうよ。誘うの得意だしね」
「なら俺達が中学生を担当しよう」
「うむ。中学生の模範を見せてやろう」
((いや絶対そうは見えないから・・・・・・))
ケース2 中学生=真田・柳 売人=千石
件の街角にて。
「―――などというのはどうだろう」
「ほう。なかなかにいいではないか」
などと話す・・・・・・(ためらい25秒)・・・・・・中学生。
角に差し掛かり、
「あ、ねえねえそこの2人」
千石が無難な呼び掛けにて角から飛び出してきた。
2人の横手に立ち、
「今ちょ〜っと時間ある? 面白い話が―――」
「悪いが先を急ぐので」
先ほどのスタッフの教えを忠実に守り、切り抜けようとする真田。しかしながらここで引くほど千石はこの手の事に素人ではなかった。
「む・・・」
話しながらもさりげない動きで相手の進行方向を塞いだ千石が、軽く呟く真田の怒りを流すようにへらへら笑って手を振った。
「まあまあそう言わずにさ。ね? ちょっと話聞いてくれるだけでいいんだよ」
「だから―――」
「このままかわせる確率23%。争うか、全力で逃げるか。さもなければ話を聞くかだな」
「蓮ニ・・・。お前はどちらの味方だ?」
「俺は客観的に判断しているだけだ。気にしないで話を進めてくれ」
「そうか・・・・・・」
微妙に疲れた感じで真田がため息をつき、
「では、話を聞こう」
頷く真田の後ろで、
「真田が断れる確率、35%」
などと言われていたりする事は―――幸い本人には聞こえなかったらしい。
「君たち、今興味あることってあるかな?」
「興味だと? もちろん全国大会を優勝し、王者立海大の名をさらに不動のものへとすることだけだ」
「う〜わ既に優勝決定か・・・」
「何だと?」
「いやいや別にこっちの話。
うんうんいいねえ目標が大きくて。そんな大きな目標を叶えるアイテムを本日はご紹介!
なんっとコレを飲むだけで体力や反射神経、動体視力などなどテニスに必要な運動能力全般アップ! これで鬼に金棒、優勝間違いなしだね♪」
「そのような物に頼らずとも我々の優勝は揺らがない」
「断れる確率、40%に上昇」
愛用のノートに訂正を書き込んでいく柳。それを聞いた上で、
千石の顔つきが変わった。
獲物を前に舌なめずりするようににやりと笑い、
「ふ〜ん。そんな物に頼らずとも、ねえ・・・・・・。
でもさあ、『そのような物に頼らずとも』―――どれだけ練習してるの? 君たちって」
「・・・・・・何が言いたい?」
「35%に逆戻り」
「い〜や別に。ただ、練習大変そうだな〜って思って」
「全国大会優勝のためだ。その程度当然であろう」
「う〜ん。確かに『当然』かもねえ。でも・・・
―――頭で納得するのと実際やるのって、けっこー違ったりしない?」
「む?」
「28%」
「いくらテニスが好きで、でもって目標に向かって着実に進んでようが―――毎日毎日そんなにやるのって辛く感じない?」
「そのような軟弱な考えは持っていない」
「確かに君はそうだろうねえ」
「俺は、だと?」
「20%」
「単刀直入に訊くけど、他の人は? 他の―――特に一番辛そうなレギュラーとかはどう思ってんのかなあ?
まあ、これは俺個人の考えだけど、それこそいくら好きだろうが目標に向かってようが、やっぱひたすらそればっかりっていうのはちょ〜っと辛いな」
「だが実際お前はやっているのだろう? だからこその山吹エースではないのか?」
「はは。正解でもって外れ。俺けっこー部活とかサボって気晴らししてるよ。でもって南にバレて1人遅くまでとかやらされてるけどね」
「意味がないではないかそれでは」
「別にないって程ないワケじゃないよ。練習時間は変わらないけど、『サボる』ってそれだけでいい気晴らしになるし」
「しかしテニスは好きだからやっているのだろう? なぜ気晴らしの必要がある?」
「う〜ん。そこは難しいトコだなあ。ああ、アレだ。ホラ、甘い物好きって言ってもずっと食べてたら気持ち悪くなんじゃん。途中でちょっとしょっぱい物とか食べたくなるっしょ? 別に他のでもいいけど。
それと同じじゃないかな。やっぱ好きだけどずっとやってるとたまに辛くなる、っていうか、その上目標まできっちりあって、絶対負けないとか思ってると余計堅っ苦しくなるっていうか」
「ふむ・・・。まあ確かに・・・・・・」
「12%」
「で、時々気晴らし、っていうかストレス解消? そんなのがしたくなるってワケ」
「なるほど・・・。関東大会で青学に負けて以来、丸井が練習中に食う菓子の量が増えたのはそのような理由によりか」
「いや多分それそろそろ止めさせた方が・・・。体重ヤバい事になってんじゃん?」
「それに切原の問題行動の多さもその辺りが原因か・・・」
「・・・・・・あれは日常茶飯事[ルーチンワーク]だと思う」
「そうか。そういう原因で幸村は・・・・・・」
「え? ちょっとタイム。幸村くん、普通に―――って言うのもなんだけど―――入院したっしょ? 別にストレスが原因じゃないんじゃあ・・・・・・」
「さらにそう考えると仁王の詐欺師としての性格も一種のウサ晴らしか・・・・・・」
「それに関しては身近で似たタイプの人いるからノーコメント」
「う〜む・・・」
「あの〜・・・・・・」
「6%」
「ま、まあでもってそんな時のストレス解消にぜひ! どう?」
「・・・・・・」
「0%」
柳の呟きと共に、
「よし、買おう」
「毎度あり〜♪」
あっさりと、自称『模範的中学生』は陥落していったのであった。
シーン2.コンビニ前の暗がりにて先輩にタバコを勧められる
その1
「先輩後輩、っていうならやれるヤツ限定だな」
「おしっ! 俺が行くぜ!!」
「ふしゅ〜〜〜〜〜〜」
「『脅し』言うたらお前しかおらへんやろ。
―――『行ってよし』。跡部!」
「ああ? 何で俺様が―――!!」
後輩=桃・海堂 先輩=跡部
ガ―――。
これまたカセットレコーダーから鳴る自動ドア開閉音。とりあえず合わせて『コンビニ』内へと2人が入っていく。
入っていって・・・
「―――あ、跡部さん」
「よお。桃城・海堂」
「ウス」
先に中にいた跡部に頭を下げる。跡部は跡部で軽く手を上げたりして。
「久しぶりだな。どうだ? 最近」
「え? ぼちぼちってトコですね」
「はあ? 何だよそりゃ。
まあいいか。ところでどうよ? お前らなんかいつもお気楽にやってるようだが、ストレスとか溜まんねえ?」
「ああ、溜まるっスねいろいろと」
―――「おい桃! どういう意味だ!?」などという外部の声が聞こえたようだが無視。
「ならこんなん―――やってみねえ?」
「た、タバコっスか!?」
「馬鹿! 声大きいんだよ」
「あっ! す、すんません」
「でもタバコはまずいっスよ。俺達中学生ですし、肺に悪影響及ぼしますから」
「なんだ海堂。お前意外と真面目なんだな」
「・・・・・・どういう意味っスか」
「まあンな固てえ事言うなって。ちょっとウサ晴らしに1・2本吸う程度なら問題ねえよ。
現に見ろ。俺は何も影響ねえぞ」
「うっ・・・。問答無用で説得力あるっスね」
「それでも良くないっスよ。大体バレたらどうするんスか? 謹慎じゃないっスか」
「ンな事ぁねえよ。現に亜久津の野郎思い出せよ。公衆の面前であれだけタバコ吸いまくってケンカも吹っ掛けたっつーのに、謹慎どころかレギュラーのまんま試合出てたじゃねえか」
―――外部より:「うわあ。跡部くん痛いね」
「で、でもやっぱ無理っスよ・・・!! バアさん―――じゃなくて竜崎先生厳しいし」
「ああ? てめぇら根性ねえなあ。バレねえように頭使えよ」
「こ、根性なし・・・!!??」
「ふしゅ〜〜〜〜〜〜!!!!」
「何怒ってんだよ? 事実じゃねえかへっぴり腰が」
どばん!!
「もう先輩だからって容赦しないっスよ!!」
「叩き潰す・・・!!」
「ハッ! 面白れえ! やれるもんならやってみろよオラア!!」
一触即発なそこに・・・
だん!!
「そこの中学生うるさい!! 騒ぐなら外でやりなさい!!」
「「「申し訳ありませんでした」」」
―――飛び入り参加の『店員』鳳の注意に、3人は屈辱まみれでしかしながら自分達に非がありすぎるため、頭を下げて外へと出て行った。
「ていうかなんでテメーが参加してんだ? 長太郎」
「すみません・・・。跡部さんの命令には逆らえません・・・・・・」
「・・・・・・? はあ?」
影でなされたそんな会話は放っておくとして。
「「「はあ・・・・・・」」」
コンビニ前の暗がりにてため息をつく3人。
「あ〜あ。何やってんだ? 俺ら」
「本気でそうっスね」
頷く桃の前で、咥えたタバコに火をつける跡部。ケースを2人に差出し、
「ほらよ」
「あ、ありがとうございます」
「どうも」
しゅぽっ。
ぷは〜・・・
うまそうに2人は長々と紫煙を吐き―――
「「・・・・・・ってこれは罠かあああ!!!」」
「かかったなてめぇら!! もう言い逃れは出来ねえぜ!!」
ようやっとこのロープレの主旨を思い出し戦慄く2人。こちらを指差し悪代官の如き笑みを浮かべる跡部につっかかっていく。
「ずるいっスよ跡部さん!!」
「ああ? どこがだよ」
「もうロープレは終わってるっしょ!?」
「ハッ。何言ってやがる。
設定でしっかり言ってたじゃねえか。『コンビニ前の暗がりで』ってな。つまり出たところからプレイスタートだ」
「だったらそれまでのやり取りは!?」
「てめぇらが段取り間違ったんだろーが。何音したからって入って来てやがる」
「だ、だって跡部さん中にいたじゃないっスか!!」
「ああ? 馬鹿かてめぇら。いきなりコンビニ前の暗がりなんぞにいるヤツいると思うか? だったらなんで『コンビニ前』限定なんだよ」
「そりゃ―――」
「1回コンビニ入るからだろーが。入りもせずンなトコいたら誰も近寄って来ねえよ」
「ぐっ・・・・・・」
「つーワケで、俺様の勝ちだな」
「「・・・・・・」」
反論のなくなった2人を勝者の眼差しでたっぷり見下ろし、
「ハーッハッハッハ!! てめぇら如きが俺様に勝とうなんざ百万年は早ええよ!!」
高笑いを上げる彼を見やり、
「跡部・・・。お前も成長したな・・・・・・」
「いや・・・こういう方面では成長しなくていいような・・・・・・」
「あああああ・・・。純白光り輝いてた跡部くんが〜・・・・・・」
しみじみとそんな事を言う者もいたりした。
『ええ〜っと・・・・・・。そんなワケで、最後まで油断せずに断固として拒否してください。理由をつけて逃げるのもまたいいでしょう・・・・・・。
では、気を取り直して次にいきましょう!』
その2
「赤也。お前が行って来い。そして立海の力を見せてやれ」
「ういっス! 今度こそ、ちゃんと見せるっスよ。真田副部長」
「ぐ・・・・・・!」
「頼んだぞ赤也」
「ではルドルフからはぜひ裕太君が―――」
「すいません。心の底から全・力・で!! 遠慮させてください」
「? またなぜ―――?」
「んじゃあ代わりに俺たち不動峰の力を見せてやるぜ」
「頑張ってねアキラ。1人で」
「ってオイ深司!!」
後輩=切原・神尾
そして・・・・・・
「じゃあ先輩役は俺がやろうかな」
「ああなるほど。うん。確かにぴったりだね」
((やらなくてよかった・・・・・・))
額の汗を拭う『後輩候補』裕太と天根を他所に、
先輩は佐伯に決定された。
ケース2 後輩=切原・神尾 先輩=佐伯
ガ―――。
「ていうかなんで俺がお前と一緒にやんなきゃなんねーんだよ」
「そりゃ俺の台詞だ」
台本どおり適当(否『about』)な会話をしながらコンビニに入って来た2人。前回の反省―――というか跡部の理屈より、確かに最初からコンビニ前の暗がりにいるのはおかしいという事で中に入る事にしたのだ。中にいればいたで「止めろよ店員・・・」とツッコミを入れたいところではあるのだが、それは無視する。個々人の会話まで聞き取るほどコンビニの夜は暇ではない(という設定で)。
「よっ。切原、神尾」
「あ、佐伯さん」
「お久しぶりっス」
「ホンット久しぶりだな。今どうしてるんだ?」
「今っスか? え〜っと―――」
と、ごく普通に盛り上がる会話。さすが知らない者には『親しみやすい先輩』として有名なだけある。今回の合宿までロクに接したこともないのに、早くも2人の心を掌握したようだ。真田のように厳しくもなく、跡部のように性格に問題もなく(暴言)、英二や千石のようにハイテンション過ぎもせず、また不二や観月のように怪しくもなく、しかし大石のように逆にこちらが心配する必要もないという、総じて可も不可もない『普通の』先輩となれば当然かもしれない。実は今回参加している中学特にこのメンバー。一番足りないのは『普通の人』である。
ただし―――くどいようだが知らない者にとっては。
一通り話にケリをつけ―――
「あ、そうだ」
ふいに思いついたように佐伯が視線を上にやった。
「何スか?」
尋ねる2人へと、笑みを向ける。今までの好青年たる笑みではなく、ちょっと悪戯を思いついたと言わんばかりに口端を小さく上げて。
顔を寄せ、声を潜める。
「そういえば俺こんなん持ってんだけどさ」
と見せるのは―――
「「タバ―――!!」」
「って声出すなって!!」
慌てた様子で2人の口を塞ぐ。
目線で「すんません・・・」と謝る2人にため息をつき、今度は自分の口に人差し指を当て合図を送る。
無言で頷く2人。佐伯もまた小さく頷き―――再び先ほどの笑みになる。
「(ちょっと興味ない?)」
「(で、でもタバコは良くないっスよ)」
「(けど大人だって良くないとか言いながらみんな吸ってんじゃん。平気だって。1本や2本)」
「(アンタ意外とワルっスね)」
「(ぐ・・・。ま、まあそれはそれとして)」
「(顔引きつってるっスよ)」
「(はっはっは。何のことかな?)」
「(しかも笑い方苦しいし)」
「(・・・・・・)」
2人の痛い指摘を、視線を逸らして無理矢理流す。ちなみに余談だが、佐伯が後輩に慕われやすいのはこの辺りも要因だ。彼は良い意味で周りの理想をぶち壊す。しかしそれでありながら彼を慕う者が多いのは、一重に彼そのものに魅力があるからだ。優しさだの頼りがいがあるだのの良い面のみではなく、このように情けなかったりする面も平然とさらす。それにより『佐伯虎次郎』という存在に、より人間味を帯びさせるのだ。決して自分達の届かない存在ではなく、より身近に、自分達と同じだと感じさせるように。
が、だからといってそれが彼の言う事に従う事に直結するわけではない。いやむしろこのような人であるがために、先輩後輩関係なく自分の意見を通しやすい相手として認識される。
実際―――
「(何にしたってダメっスよ。ウチめちゃくちゃ厳しいし。特に副部長)」
「(さっき何かさりげに副部長自ら悪に染まっていってたような気もするけどな・・・・・・)」
「(それは可哀想過ぎるんで言わないであげて下さい)」
「(それだったらウチだって厳しい・・・ってかやんないっスよタバコなんて誰も。スポーツマンとして)」
「(固いな〜。そんな大した事でもないんだけどな・・・)」
「「とにかくダメっス」」
油断せずに断固として拒否する2人。元々我を通すタイプが2人集まると余計に頑として聞かなくなる。
「う〜ん・・・。仕方ないなあ・・・・・・」
ぽりぽりと佐伯が頬を掻く。スタッフ陣は誰もが思っただろう。今回は普通に終わる、と。
頬を掻いていた手を、
2人の肩に乗せる。
勝った!と思う2人が見たものは・・・・・・
―――満面の笑みだった。
ぐわしっ!
「うぐっ・・・!!」
「がっ・・・!!」
2人の襟首を片手で限界まで捻り上げ、自分の方へ引き寄せ佐伯が口を開いた。
薄く口角を上げ、耳元へと囁く。
「俺がこれだけ勧めてんだからごちゃごちゃ言ってないで従えよお前ら」
トーンの下がった声。何とか目線を動かして見やれば、口はかろうじて笑みのままだが目は全く笑っていなくて。
((こ・・・殺される・・・・・・!!!))
「は、はい!!」
「やります! やらせていただきます!!」
カクカクカクカク首を振る。迫り来る死への恐怖に比べたら、部活の規律もスポーツマンとしてのモラルも些細なことに過ぎなかった。
言葉を聞き、ぱっと2人を離す佐伯。げほげほ咳き込む2人を見下ろす彼の顔には、やはり笑みが浮かんでいた。
「うんうん。俺も説得が上手くなってきたな」
((『説得』じゃねえ・・・・・・・・・・・・))
嬉しそうに頷く佐伯に、誰もが影で突っ込みを入れたという。
結局コンビニ前の暗がりにてすぱすぱタバコを吸う3人を前に、リョーマが不二に尋ねた。
「ねえ・・・、あの人どういう人?」
「サエ? う〜ん。まあ・・・・・・見たまんま、かな?」
「見たまんま・・・・・・って、
――――――何か今すごい光景が見えたんスけど・・・・・・」
「まあそんな感じで。
でも今回かなり穏便な方だよ? いつだったかな? 前なんて『な?』の一言で跡部の意見捻じ曲げた事だってあるし。ちなみにその時は眼球3ミリ前に箸付き立ててたっけ」
「ああ、でも去年のJr.の時は何も手出ししないで手塚くんに謝らせてたよ?」
「あれ? サエは千葉代表とはいえ手塚行ってないでしょ?」
「ううん。様子見に来たんだよね1回。それで、何で不二くんじゃなくって俺代理にさせたのか、って詰め寄ってたよ。せっかく不二くんが来ると思ってたから千葉代表代わってもらったのに、って」
「・・・・・・ちなみに元は誰だったの?」
「亮くん。つくづくいい判断したよね。ちなみに不二くんが来なかったからって、合宿中俺と跡部くん、ず〜〜〜っと八つ当たりされてたよ」
「あはは。お疲れ様。
―――というわけで、サエは表向き好青年、裏向き最凶キャラとして有名だよ」
「はあ・・・・・・」
そんなやり取りのさらに後ろの方で・・・・・・
「だから心の底から全力で遠慮したんです・・・」
呻く裕太と無言のまま頷く天根。
「な、なるほど・・・・・・」
ただ納得するしかない一同を他所に、全く以ってためにならなかったロールプレイングは時間切れにより終了となった。
・ ・ ・ ・ ・
そして、その日の夜。
げほっ。ごほっ。
「おチビヘッタだな〜」
「うるさいっスよ。えほ・・・」
「―――あれ? 英二、それに越前君。何してるの?」
「おー不二」
「見たまんまっスよ」
「お前も吸う? タバコ。おチビがヘタですっげー笑えるぜ」
「てゆーか、英二先輩・・・。コレ強すぎじゃないっスか?」
「あり? そう?」
「ライトなら俺だって吸えるっスよ」
「にゃはは。『ライトなら』だって。おチビってばお子様〜♪」
「ウルサイっスよ」
「英二、そんなに強いの吸うの?」
「う〜ん。けっこー強めかにゃ? 今もー普通に売られてんのじゃ弱すぎって感じだし」
「じゃあこんなんどう?」
と、不二から渡されたタバコに火を付け―――
げほげほっ! がはっ!!
「にゃ、にゃ、にゃにコレ!? めちゃめちゃキツ!!」
「あはは。フィルター抜いてるからね。濃度10倍くらいになってるよ」
「フィルター抜いた、って・・・。市販品じゃねーだろ?」
「だねえ。僕の手作りだから」
「うわ。わざわざ作ってんの? お前」
「てゆーかンなのの作り方誰から教わったんスか? 不二先輩」
「僕は千石君に。ちなみに千石君は亜久津君に教わったらしいよ」
「まあ・・・、大体その辺りは納得行くけどさ・・・」
「その割に先輩吸わないっスよね?」
「ああ。跡部とサエに止められてるからね。『絶対やるな』って」
「うわあ・・・。相変わらず親馬鹿全開?」
「でもまあ、僕も自分が吸うのはあんまり好きじゃないんだ」
「んじゃコレは?」
「巻き直すのは好きだからね。だからこうやっていろんな人にあげてるんだよ。僕が持っててもそれこそ宝の持ち腐れだし」
「へ〜。んじゃ今度作ったら俺に頂戴v」
「あ、ズルいっスよ英二先輩。なら俺も」
「にゃはは。おチビはその前に普通の吸えるようにならなきゃね♪」
「ぐ・・・!!」
「じゃあ越前君には吸えるようになったらご褒美に。で、英二には1本50円で」
「金取んのかよ!?」
「何言ってるのさ。当り前じゃないか」
「しかも高いじゃねーか!!」
「それこそ当り前でしょ? 人件費込みだもの」
「作り方教えろ〜〜〜〜〜〜!!!!」
「嫌だよ。それに覚えたところで不器用な英二じゃ無理だよ」
「不二先輩・・・。がめついっスね」
「あはは。ありがとう」
がちゃ。
「・・・・・・って何でココいやがんだよ、神尾!」
「仕方ねーだろ? 千石さんがせっかく問題解決したんだから仲良くしろって無理矢理こっちに部屋変えたんだから」
「んじゃあ・・・梶本さんは?」
「千石さんの部屋行った。梶本さんも賛成だったみたいで」
「恐るべし千石さん・・・。さすが真田副部長1分で負かしただけある・・・・・・」
いきなりの展開にため息をつく2人。ため息をついて―――
「―――ああ、そういや佐伯さんに返すの忘れてたぜ」
「ああ?」
取り出したのは先ほど講習中に使った小道具ことタバコ。ご丁寧にライターまでセットになっていて。
「・・・・・・・・・・・・」
「まあ・・・・・・1本くらい吸っても平気そうだよな」
「ストレス解消くらいにはなる、っていうし・・・・・・」
「つーか既に1本吸ってるし」
「ああ。さっきの佐伯さん、本気で怖かったよな・・・」
などなど言いながら互いに火を付けあって友情を確認して(誤)。
「そういやふと思ったんだけどよ―――
―――観月さんはともかく、後の3人って・・・・・・スタッフからタバコ受け取ってたっけか?」
「さあ・・・・・・?」
フ〜〜〜〜〜〜。
「う〜ん。今日のはまた面白い企画だったねえ」
「だな。お前の理屈じゃないけど、ちょっとした気分転換にはぴったりだったかもな」
「しかし、結局あのタバコポイ捨て犯は誰だったんでしょうね?」
「やった奴ぁ相当の馬鹿だな。おかげで俺らにまで被害食らわせやがって・・・」
こちらは追い出した側。千石に今日から相部屋となった梶本、さらに訪問してきた佐伯と跡部が加わり―――
―――酒宴ならぬタバコ宴が開かれていた。
4人中3人が持っていたもの―――特に跡部の持っていた外国製のものをすぱすぱやりながら、
「でも梶本くんが持ってないっていうのもちょっと意外」
「ピアスとかやってるし、絶対やってると思ってたけどな」
「ピアスは別にやっててテニスに支障ないでしょう? 華村先生、他はともかく、テニスに関しては厳しいですから」
「ああ、そりゃ言えるな」
「でも、だったら誘ったの悪かった? 部屋出てった方がいい?」
「別に。乗ったのは俺ですし、それに―――」
梶本が、らしからぬ皮肉げな笑みを浮かべる。
跡部の方を向き、
「『ちょっとウサ晴らしに1・2本吸う程度なら問題なし』だろ? 俺も半信半疑だったけど、亜久津にお前まで吸ってそれだけのポテンシャルが維持できるんなら問題ないだろ」
「え〜。何〜? んじゃあ俺とサエくんダメっぽい?」
「あ、いや。そういう意味じゃ―――」
「ダメっぽいだろ。だから2年相手に負けるんだよ」
「あっはっは。サエくんいた〜い」
「つーかてめぇも負けたんじゃねえか。青学相手に」
「俺負けたの天才相手にだから」
「ウソつけ。菊丸にモロに負けたんじゃねーか」
「げっ。そういやお前見に来てたんだっけ」
「跡部くんもマメだね〜」
「天才・・・って、不二とですか?」
「ああ。まあ、どっちかっていうと不二の相手したのは俺のパートナーの樹っちゃんの方だけど」
「不二はどんな選手で? 俺も対戦があったんだが、その前に試合が終わったからやってないもので」
「ゔ・・・。その質問は止めた方が―――」
千石の言葉を遮り、跡部と佐伯、2人の目がキュピーンと輝いた。
「そりゃもちろん―――」
「だよなあ―――」
―――以下、一晩中2人による不二自慢が続くため割愛。なおこの一晩にて4人が吸ったタバコの本数は50本を越えるという。
・ ・ ・ ・ ・
なお、すっかり忘れ去られたタバコポイ捨て事件だが、
「犯人が捕まりました!」
「30歳程度の男で、合宿が開かれると知って中学生たちをノゾキに来たそうです!」
「そうですか。ありがとうございました」
後日、警察の報告からするとそのノゾキの常習犯がタバコを捨てていったらしい。タバコを発見した合宿所職員らが、合宿生らを問い詰める証拠のため持っていたのが本当の証拠となり、あえなく常習犯は逮捕へと至ったそうだ。
「お前たちにも迷惑をかけたね。これからは普通に練習してくれ」
『はい!』
元気よく頷く一同。こうして、真実は闇へと葬られたのであった。合宿中、1度足りともタバコを吸わなかった生徒は5%にも満たないという事実は・・・。
―――Fin
・ ・ ・ ・ ・
丁度更新の止まっていた辺りで、校外実習なるものをしていました。そしてこんな教室に参加しました。とはいっても私も見ているだけでしたが、面白かったです。本当にやったんですよロープレ。ついていった人もいたり、ちゃんと断った人もいたり。ただし実際にやらせたりはしませんでしたけどね。本末転倒だし。
さておかげで今だ見られていないアニプリ千石さんの活躍。ど〜なってるのかにゃ〜。そして来週は真田vs跡部ですと!? 原作じゃ跡部負けてんじゃん。希望とすればアニメでも負けて欲しい・・・(最悪)!! ヤダよ中学テニス界最強の男がリョーマに続いて跡部にも負けるってのも。そんなワケで原作で跡部が負けたというのに、ほっとした私はこれでも跡部もFan・・・。
―――しかし、切原と梶本の口調がおかしい・・・・・・。
2004.6.24