Thats not fair !!




 臨時コーチとして来た手塚の実力を試す竜崎班一同(−青学メンバー)。しかしながら彼らは1名除き、ことごとく手塚ゾーンの前に敗れ去っていくだけだった。
 その中にはこの人も。
 「―――っ!?」
 更なる回転をかけ、手塚ゾーンは破った千石。しかしながらそれを予想し、そちらへ移動していた手塚に返され、あっさり勝負がついた。
 驚く一同。去年同じ
Jr.選抜(こちらは本物の)に選ばれた同士とはいえ、本来選ばれていた選手と代理との差がここではっきりと現れた。
 最早、彼がコーチとなる事を反対する者はいなかった。そう。竜崎班には。



 「ほお。やるじゃねーの」
 「へえ。やるなあ」



 練習は一体どうしたのか、他の2班のメンバーがのんびりと後ろから現れた。
 その中で―――
 「なあ手塚、他の班だけどお前の実力を見てみたい、っての・・・ダメか?」
 佐伯が爽やかに笑ってそんな事を言い出す。
 何をお門違いな・・・と思う一同の中で、手塚が無言で頷き―――
 「じゃあ―――」
 「よろしく。手塚」
 『ヲイ』
 佐伯に勧められ、軽く手を振る不二に誰もが突っ込んだ。
 「お前じゃないのかよやるの!!」
 誰かがした、至極まっとうな指摘。だが、
 「何言ってるんだよ。『他の班だけど』としか言ってないだろ?」
 「ホラ、僕他の班v」
 『・・・・・・・・・・・・』
 最早何も言えない一同手塚含む。寒い空気の流れる中、他校合同合宿の意味を完全に無にする、青学
No.1の覇権争いが繰り広げられる事になったのだった。





・     ・     ・     ・     ・






 向かい合う2人。緊張渦巻く一瞬の中で。
 「おい手塚ぁ」
 「・・・・・・何だ? 跡部」
 横手からかけられた声に、手塚は緊張を解かないままも、律儀に反応してきた。声をかけてきたのが跡部だからか―――
 ―――それともこの、実のところそれはそれで誰しもが興味を持つはずの試合に対して、やったらめったら気の抜けたかつ疲れた声での呼び掛けだったからか。
 どちらにせよ・・・
 次いで聞こえてきたのは、これまた気の抜けたかつ疲れたため息だった。
 「一応忠告だけはしといてやる。



  ――――――そいつ相手にまともにやんな。真面目にやるだけ馬鹿見んぜ」



 「何・・・・・・?」
 わからず聞き返す。が、肩を竦めてきたのは佐伯だった。跡部は最早肩すら竦めず黙りこくっている。
 「・・・・・・。
  とりあえず、始めるか」
 「うん。よろしくね、手塚」





・     ・     ・     ・     ・






 そして始まった試合―――
 『―――っ!!??』
 驚きの比は先ほどの千石どころではなかった。手塚ゾーンは破られていない。だが、
 「な・・・!? まさか・・・!!!」
 「こ、これは・・・・・・!!」
 『「不二ゾーン」!?』
 おおむね全員の声がハモる。
 見せられたのは―――その名の通りのものだった。



 何度打っても手塚の元へと返るボール。しかし同時に―――
 ―――何度打っても不二の元へもまた、返っていっていた。
 その場から片足ずつしか動かさない2人。一見互いに気を使って打っているかのようだが、その実全く違う。どころか互いの狙いは逆だ。
 なのに全て戻る。まるで吸い寄せられているかのように
 「まあ・・・・・・
  ミリ単位で球のコントロールが出来る不二ならこの位やって当然だよな」
 『ミリ単位のコントロール』のおかげで関東大会では破れた佐伯がしれっと言ってのける。確かにそれはそれで一理あるだろう。よくよく考えずとも球の回転のコントロール、―――『天才・不二周助』の十八番ではないか。
 しかも―――
 「不二が押し始めた!?」
 「手塚が・・・動いてる!?」
 「だが、別に不二は越前みたいにがむしゃらに打ってるわけじゃあ・・・!!」
 「それに肩や腕に問題があるという事もなさそうだよな・・・!!」
 ある程度以上誰かが知る限り、ここにいる人間の中で手塚ゾーンを破ったのは3人。肩の痛みにより打った球がネットにかかった対跡部。右手で打ったのをハンデとするべきか意見の分かれる対リョーマ。そして今日、言い訳出来ない状況下で千石に完全に破られた。そこから考えれば不二が破ったところで不思議でもないのかもしれない。
 だがどうやって
 肝心なのはそこだ。千石のように極端なスピンはかけていない。いや、不二もまた同じ手を使っている以上、ヘタな仕掛けは自分への命取りとなる筈だ。
 が―――
 必死に理由を探す一同を尻目に、
 「わ〜お。さっすが不二くん。やる事が違うね〜」
 「ていうか、これは俺と樹っちゃんに対する嫌味か・・・?」
 千石が口笛を吹き、佐伯が苦笑する。
 「え? え? どーいう事?」
 問い掛ける英二に、さらに苦笑を深める佐伯。千石が2人を指差し―――
 「不二くんの手元―――じゃなくってネット見てみなよ」
 言われ、誰もが素直に見る。見て・・・
 「な〜るほど、ね」
 「お? 何かわかったのか、越前!!」
 「まあ・・・。でも・・・
  ―――不二先輩にしてはオリジナリティないっスね。俺の猿真似じゃん」
 「あはは。まあそこは指摘しないでくれると嬉しいな」
 「なんだ。そうなんだ。てっきり樹っちゃんに仕掛けたの、自分でもやってみようって思ったのかと思ってたよ」
 「実はコレ、越前の『羆落とし』対策なんだよね」
 そんな会話に、ようやく青学や六角のメンバー、そして他の者たちも揺れるネットを見てカラクリを悟った。
 「信じらんねえ・・・・・・」
 「全部、コードボールかよ・・・・・・」
 「なるほど・・・。そうしてネットに当てる事で打球の回転及び方向を僅かながらずらし、手塚君の『予定』した場所とは違うところに返しているというわけですか・・・・・・」
 「え・・・? でもそれって不二にとっても不利になんじゃ・・・・・・」
 「いや。それはない。不二はあらかじめネットに当てる事によって変わる回転を考慮した上で打っているのだろう」
 「そんな事―――!!」
 「元々当たるとわかってさえいれば不可能ではあるまい。少なくとも、『天才・不二周助』には」
 「ほへ〜・・・・・・」
 感心する一同、ではあったが。
 「だが・・・
  ―――甘いぞ、不二」
 「―――っ!」
 ばしゅっ―――!!
 再び手塚の元へと返っていった球。今度は不二の元へは帰らず、驚く彼の脇をすり抜けていった。
 「手塚もまた、ネットに当たった分まで考慮し回転を変えたというワケか・・・・・・」
 「うそぉ・・・・・・」
 理屈では成り立つだろうが、実際には目の当たりにしてすら信じられない現象。途中で変わる回転をもまた予測する。いや、これでは最早予知だ。
 それほどのレベルを見せ付けられ―――
 「やれやれ。やっぱ強いね、手塚」
 不二はくすりと笑い、降参するように手を上げた。
 「不二さんに・・・負けを認めさせた・・・・・・?」
 「さすが手塚。青学
No.1の実力は伊達ではないな」
 王者立海大の者にすらそんな事を言わせる程。が、
 「じゃあ手塚。次俺よろしく」
 それを見せ付けられてなお、コートに入ってくる者がいた。
 最初に持ちかけておきながらあっさり引いた件の人物―――佐伯が。
 「・・・・・・お前とか?」
 「何だよ? 俺じゃ不満か?」
 「いやそういうわけでは―――」
 「だろうけどな。でもいいじゃん。大丈夫だって。
30秒かかんないから。な?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「恐ろしいまでに後ろ向きっスね・・・・・・」
 「いやむしろ感動したくなるほどだろ・・・・・・」





・     ・     ・     ・     ・






 そんなこんなで始まった打ち合いは―――
 『――――――っ!!!???』
 ―――本当に
30秒持たずに終わった。それも、
 「お前セコッ!!」
 「それありかよ!!??」
 周りからのブーイングの嵐を巻き起こして。
 騒ぐギャラリー。その中で・・・
 「だから言ったじゃねえか手塚。そいつ相手にまともにやるだけ馬鹿見るって」
 「酷いなあ跡部。俺はちゃんとやったよ?」
 「どこがだ・・・・・・」
 心の底から疲れた跡部のため息。全ての理由は―――
 ――――――手塚側のコート、それもネットギリギリをゆっくりと転がる球にあった。




 試合開始早々、今まで同様さっそく手塚ゾーンを使い始めた手塚。構わず前へ出る佐伯。宍戸同様のスマッシュ狙い―――
 ―――かと思いきや、佐伯の打ったのは猫騙し的ドロップボレーだった。
 打球の回転を調節する事で全ての球を自分の元へと返らせる手塚ゾーン。しかしながら――――――そもそもそこまで届かない球に関しては全くの無意味だった。
 かくて、勝負は手塚ゾーンに拘りすぎた手塚の負けとなった。





 「てめぇももうちっと前に気付けよ。なんで千石も不二も、お前に返された途端打つの止めたって思ってんだ? 『手塚ゾーンは破れない』―――そう印象付けるためだろーが」
 「つまり―――」
 「そこ3人共謀・・・・・・?」
 「だけじゃねえよ。今手塚の相手したヤツの中で、サーブしか打たなかった鳳除いて全員がそいつらの策略の手伝いさせられたってワケだ」
 「マジかよ・・・・・・」
 呻く宍戸。にこにこ笑う首謀者3名。納得できない負けでありながら、結局は己の油断が招いたからと反論をしない手塚。
 そして―――
 「むしろそれで勝ったって認められるわけねーだろ!?」
 「別に俺が勝ちを認めさせる必要ないんだけどな。ただの実験だし」
 「納得できないっスよ!!」
 「う〜ん。そう言われてもなあ・・・。
  ―――じゃあどうすればいいんだ?」
 「決まってんだろ!?」
 『再戦だ!!』





・     ・     ・     ・     ・






 さて2戦目。
 「なら手塚、公平になるように次俺サーブ打っていいか?」
 「どちらでも構わんが」
 「サンキュー」
 ボールを受け取った佐伯。トスを上げ・・・・・・ず。
 「アンダーサーブ?」
 「つーか・・・」
 「何だ? あのヒョロ球」
 そんなキャラリーの言葉にすら反応して流されてしまいそうなほど頼りのない球。どころか一体いつになったら手塚の元へ着くんだと心配したいほどの球は・・・・・・
 暫し後、ようやくかろうじて手塚のコートへ着地し―――
 ―――そのまま止まった。
 「はい終わり」
 『は・・・・・・?』
 全く跳ねず、その場に留まるそれに誰もの目が点となる。



<テニスの超基本ルール:サーブはバウンドした後でなければ打ってはいけない。打った場合反則として相手の得点となる>



 即ち―――



 「ンなモン打てるわけねーだろ!?」
 「むしろアンタが反則だろーがそれは!!」
 先ほど以上に大きくなるブーイング。それに顔色ひとつ、笑顔ひとつ変える事無く彼の男はこう答えた。
 「そんな事ないって。第一これは立派に跡部のパクリ技だし」
 「『立派』・・・?」
 「てゆーか、アンタもンなモン打つんスか。跡部さん・・・・・・」
 「打たねえよ!!」
 限りなく屈辱的な濡れ衣を着せられ怒鳴り返す跡部。佐伯のほうをびしりと指差し、
 「俺様がいつンな技[モン]使った!? ええ!?」
 「使ってんじゃん。『絶望への前奏曲[プレリュード]』。今回はパクリって事で『絶望へのふれふれあたっく☆』って事で。とりあえず頑張ってラケットを振るともしかしたらちょっと浮いた球に当たったかもしれないって感じに。つまりそれこそ樹っちゃんだったら返せただろうな」
 「俺様の華麗な技名をイロものにすんじゃねえ!!」
 「やるね〜サエくん」
 「うん。『破滅への輪舞曲[ロンド]』のパクリ―――『破滅へのどんどこしょ』に続いてかなり高度なネーミングセンスだね」
 「どこがだ!!!」
 「・・・・・・すっげー気になるんスけど、『破滅へのどんどこしょ』って・・・・・・?」
 「最初の攻撃はそのままに、スマッシュで相手のラケットを弾いて再びジャンプ。怯える相手に再びスマッシュ―――するフリをして軽く当ててドロップ。如何に相手を怯えさせるかがポイントだね。サエなら普通にやるだけで充分だけど」
 「そんな感じでサエくんってすごいよね。技そのものは普通に誰だってやるモンなのに、なんであんなに卑怯ちっくに見えんだろ?」
 「ンなの簡単だろ? つまり―――」
 呟き、跡部が佐伯に向き直った。
 問う。







 「てめぇの頭にゃ『正々堂々』っつ―言葉はねーのか?」



 「ないな(きっぱり)。
  どうせアレだろ? 『テニスなんて相手より1球多く球を返せば良い』。俺はそれを実践しただけさ。方法なんて指示されてないしな」



 「・・・・・・・・・・・・ほらな」



 『なるほど・・・・・・』









―――・・・・・・(最早言葉もなし)







 ―――というわけで、6/
30放送の1時間スペシャルより、まずは1話目の《おかえり 手塚国光》よりでした。いや〜。こういう風に破っちゃダメですか? そして皆さん手塚ゾーンに拘りすぎです。千石さんの新生っぷりが1週でムダになったような気がしてたまらん・・・。まあなんかリョーマみたいに力押しじゃあなくって理知的に(?)破ったのはカッコよかったけど。
 そんな感じでやっちゃいました。というかやってもらっちゃいました。レツゴの烈兄貴と並んで、なぜか私の中では(そしてこのサイトでは)『卑怯』という言葉の最も似合う彼に。なおエセ美技の嵐もまたすみません謝るしかありません。

2004.7.12