佐伯虎次郎
14歳。得意技:マーク・動体視力。 特技:跡部のからかい





特技選択の自由









 

 計画は万全だった。榊の買収も済ませ、他の監督たちの弱みも握っている。唯一握れなかった竜崎コーチが入院となり、代わりに来たのが手塚となれば正に好都合。アイツなどいくらでもどうにでも出来る。
 機は熟した。さっそく作戦を開始する。まずは同じ部屋へと移り―――



 と、意気揚々で部屋に戻ってきた跡部は・・・



 「よっ。景吾」



 どがしゃん!!!



 ――――――部屋の中心に陣取り、軽く手を挙げてきた佐伯に思い切り突っ伏したのだった・・・・・・。










×     ×     ×     ×     ×











 「どうしたの? 景」
 「さあ? 入り口バリアフリーだし、別につまづくものなんてないしなあ・・・」



 コケた跡部に首を傾げる2人。不二と―――あと佐伯。



 むくりと起き上がる跡部。引きつった顔で問う。



 「ここは・・・・・・俺と不二の部屋の筈だよなあ・・・? てめぇが何でいるんだ? 佐伯よお・・・・・・」



 びしびしと、辺りの空間を断絶しつつ呟く跡部に、



 佐伯はそれはそれは朗らかに答えてみせた。



 「だって周ちゃんに招かれたから」
 「うん。僕が招いたから」
 「・・・・・・・・・・・・」



 確かに部屋に誰も招いてはいけないなどという規則はない。せっかくの実質他校合同合宿。楽しまなければそれこそ勿体無い。



 が! しかし!!



 佐伯の襟首を掴み、部屋の隅―――不二からは死角となるところへと連れ込み、
 もう一度問う。



 「なんでてめぇがいやがるんだ佐伯?」
 「そりゃ面白そうだから」















 ごすっ! がすっ!!















 「さって久しぶりに3人で集まったわけだけど・・・」



 このように3人で集まった時なぜかいつも仕切り役(というか進行役)となる佐伯が、今回もまた最初に切り出した。
 さりげなく頭をさすりつつ、



 「何しよっか?」
 「決めてねえのかよ・・・?」
 「だって決めたってお前が変えるだろ? じゃあ決めないまま進めたって同じじゃん」
 「そりゃそうだけどな」
 「そこはちょっとはためらえよ」
 「何でだ?」
 「・・・・・・・・・・・・別にいいけどさ」



 そんな、いつものやり取り。にこにこ笑って2人を見守る不二が、
 「じゃあコレにしようよ」










×     ×     ×     ×     ×











 というわけで『コレ』―――トランプに決まった。
 (隠し)持ってきていたお菓子をぱりぽり食べつつ、適当に片っ端っからゲームを進めていく。















第一ラウンド 七並べ



 「ぐっ・・・! 佐伯てめぇきたねえぞ。そこで止めんじゃねえ・・・!!」
 「え? 何の事かな? 俺はとりあえず目に付いたカードから出してるだけだけど?」
 「おい周。ぜってーお前切り方悪りいだろ」
 「え〜? そんな事ないよ。僕が切った後サエだって切ったんだよ?」
 「そこでダメじゃねえか・・・・・・」















第2ラウンド 神経衰弱



 「景吾・・・。お前本気で運ないな」
 「なんで適当に引いてここまで外すんだろうね?」
 「うっせー!! おらさっさとやれ!!」
 「んじゃお言葉に甘えて。
  ―――あ、取れた」
 「わ〜サエまたまた凄〜いvv」
 「今日は良く取れるな。これも景吾の開拓の成果か・・・」
 「本気でうっせー!!」















第3ラウンド ババ抜き



 「ほ〜ら景吾こっち引け〜♪」
 「だああっ! 怪しく指蠢かせてんじゃねえ! 何の催眠術だ!?」
 「そこは付き合いで引っかかるのが真の友情―――」
 「『友人』術にかけんじゃねえ! さっさと引かせろ!」
 「あ゙あ゙っ!!」
 しゅびっ!
 「・・・・・・・・・・・・」
 「ババ、だね」
 「・・・・・・ババ、だな」
 『・・・・・・・・・・・・』
 ぎぎぎぎぎぃ・・・・・・
 「だから言ったじゃん。『こっち引け』って」
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』



 「ほらほらけ〜いv こっちこっちvv」
 「2度も同じ手で引っかかるか」
 すっ―――
 「・・・・・・・・・・・・」
 「ババ、だな」
 「・・・・・・ああ。ババだな」
 『・・・・・・・・・・・・』
 ぎぎぎぎぎぃ・・・・・・
 「景ってば酷い〜〜〜!! だから『こっちはババだから駄目だよ』って言ったのに疑われた〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 「周ちゃん泣かすなよ・・・・・・」
 「俺のせいか・・・? 俺のせいなのか・・・・・・?」















第4ラウンド ブタのしっぽ(一休さんバージョン)



 「いっきゅーさんっ♪」
 出た数字は・・・9
 「もらっ―――!!」
 ドゴドゴ!!!
 「・・・・・・・・・・・・。待て」
 「なんで景ってば手ぇ出してくれないのさ!!」
 「そうだぞ景吾!! 何で今お前声出して手まで出しかけたのに引っ込めるんだよ!!」
 「引っ込めるに決まってんだろーが!! てめぇら何で叩いてやがる!!」
 「何って・・・」
 「普通のプライズハンマーだけど」
 「ンなモンためらいなく全力で振り下ろしてんじゃねえ!! 床めり込んでんだろーが!!」
 「ホラやっぱお前が手引っ込めるから」
 「俺の右手は床以下か!?」
 「大丈夫だよ! 景ならきっと複雑骨折―――っていうか骨粉砕しても3日で治るよ!」
 「その根拠のねえ自信はどっから来た!!」
 「だから根拠がないから『きっと』って・・・」
 「威張って言う台詞じゃねえ! しかも『粉砕』とか縁起悪りい事言いやがって!!」
 「むう・・・・・・」
 「お前本気で凄いな景吾。周ちゃんに『理論』で勝ってるよ」
 「つーか成り立ってねえだろ今のは理論として」















第5ラウンド スピード(覚せい剤にあらず)



 「おらおらおら!! てめぇら俺様の美技に酔いな!!」
 「くっ・・・!! さすがにこういうゲームじゃ景吾有利か・・・・・・!!」
 「は〜っはっは!! 今まで好き勝手やってきた分地獄の底で反省しな!!」
 「く、そーーー!!」















 「・・・・・・」



 盛り上がる2人をじーっと見つめ、















 「景のバカ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」



 叫び、不二がトランプの乗った布(床はフローリングのためそのままカードをばらまくと剥がす度に爪に食い込んで痛いので)を引っぺがすのには1分要さなかった。



 「な・・・・・・?」
 吹っ飛んだトランプを頭から被り、呆然とする跡部の前に仁王立ちし、さらに怒鳴りつける。



 「せっかく一緒の部屋になったのに!! ずっとそうならないかなって願ってたのに!!
  なんでサエとばっかり盛り上がってんだよ!!!!!!」
 「ちょっと待て周。そりゃごか―――」
 「ウルサイ!!」



 どばきっ!!



 跡部直伝、詰め寄った相手に対するカウンターパンチをお見舞いし、



 「もう知らない! 僕この部屋出てく!! 出てって千石くんの部屋行く!!
  景はずっとサエと一緒にいれば!!??」
 「待―――!!」
 「景なんか大っ嫌いだあああああああ!!!!!!!!!!」
 ばん!










×     ×     ×     ×     ×











 閉まったドアを眺め・・・



 「まあ、そう気を落とすなよ景吾」
 「てめぇのせいだろーがああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」















 ぽん、と肩に手を置きそんな事をホザいてくる男に、



 跡部は魂からの咆哮[さけび]を上げるしかなかった。



―――Fin
















×     ×     ×     ×     ×

 はい。ついに来ました誤ったサエ観その2。しかし今回イマイチそれが明らかにならなかったような・・・。というかどちらかというと『××ペア』がそもそも跡部からかい話だったのですが。
 さて、
Jr.選抜合宿もいよいよ終盤だそうで。早くネタがちろっとはある話は挙げねばと焦った結果だと見え見えのこの話。まあそんな事はどうでもいいとして、この『誤ったサエ観』シリーズ(いつからそんなシリーズに・・・?)は今のところ全3部作のようです。趣味:菊丸苛め、特技:跡部のからかい。次は一体何が来るのやら。
 では、せっかく一緒の部屋でのんべんだらりとやっているという事で跡部の呼称を変えてみたり。同じ合宿話でけっこー呼び方バラバラなのは気分とノリ次第です。しかしサエが本気で跡部の事を『景吾』とか呼んだら鼻血が出そうです・・・・・・。

2004.7.8