いんけんちゃんぴよん♪






 「随分弱い『一番』だね」
 青学コートにて、突如現れ荒井を完膚なきまでに叩きのめしたその外国人の少年は鼻で笑ってそう言った。
 腹を抱え蹲る荒井を見下ろし、
 「越前リョーマに伝えといてよ。『ケビンが待ってる』って」
 「―――へ〜。なるほどね。越前狙いか」
 「何・・・!?」
 言った言葉に、答えたのは青学生ではなかった。







×     ○     ×     ○     ×








 「さ、佐伯・・・さん・・・・・・!?」
 「な、なんでここに・・・・・・!?」
 フェンスの外からそれこそ突如現れ、まるでそこにいるのが当り前と言わんばかりの堂々さで腕を組み頷く佐伯。当り前だが彼は今その問題のリョーマと共に
Jr.選抜合宿中。
  ((てゆーかそれ以前に他校生じゃん・・・!!))
 思っても誰も突っ込めない。そしてそれらを全てわかっているのだろうに答える気0の佐伯に代わり、かの少年―――ケビンは見下した目のまま佐伯を見た。
 「何アンタ。ここの人?」
 「さすが越前の知り合い。口の悪さじゃ天下一品?」
 「質問答えなよ」
 「そりゃ失礼」
 軽いはぐらかしにも全く動じないケビンに軽く肩を竦め、
 「とりあえずここの―――青学生じゃあないな。たまたま立ち寄っただけで」
 「たまたま・・・・・・?」
 言った佐伯に反応したのはケビン以外だった。いろんな意味で彼が現在ここにいるのは不思議でたまらないのだ。クドいがまだ合宿中だ。その証拠と言わんばかりに彼の着るジャージは六角のものではなくわざわざそのために作られた
Jr.選抜メンバー用。
 「ああ」
 頷き・・・・・・佐伯はとんでもない事を言い出した。
 「今日あたり学校で育ててるスイカが出来る頃かな、って思って一回帰って来たんだよな。ほら、俺どうせ日本代表なんて選ばれないだろ? ンなのに付き合ってやってせっかくの取り入れ時期逃したら勿体無いじゃん。しかもちゃんとキープしとかないと絶対食われるし」
 「そ、それで帰って来たんスか・・・・・・」
 最早言葉もなく大口を開ける一同。この人逆の意味で
Jr.選抜舐めきってんじゃ・・・・・・。
 「ち・・・、ちなみに今ここにいるのは・・・・・・?」
 「ああ、周―――って言うよりここなら『不二』か。アイツが部室に忘れ物したからついでに取って来てくれって言ってたんだよ。んで取りに来たら帰りに面白そうな見せ物[パフォーマンス]やってるから見物」
 「見せ物、だと・・・・・・!?」
 ケビンの機嫌が見た目にも悪くなる。
 笑ってそれをいなし、佐伯はこんな提案をした。
 「なあケビン・・・って言ったっけ? 越前に会わせてやろうか?」
 「・・・・・・」
 怒っていた様子が一瞬で霧散する。片眉を上げるケビンに、
 「今の台詞からすると青学には越前に会うために来たんだろ? けど肝心の越前がいない。では越前はどこにいるか?
  ―――俺なら案内してやれるよ
 当り前だ。同じ合宿に出ているのだから。というか案内だけなら場所を知っているここにいる者全員が出来る。
 しかしながらもちろんそれを知らないケビンは面白いように食いついてきた。
 「へえ・・・・・・」
 口の端を吊り上げるケビンに、佐伯も薄く微笑む。
 「ただし・・・
  越前は今合宿中だ。いきなり外部の者が行って試合しようって言ったってムリな話」
 「そんなの無理矢理―――」
 「まあ話は最後まで聞けよ。
  お前が無理矢理接触するのは自由だけど、それで越前がお前との勝負に乗ってくれる保障はどこにもない。なにせ今越前のコーチについてるのは正真正銘の堅物だ。そいつに逆らってまでお前と試合するメリットがなければ越前は乗らないだろうな。
  けど・・・・・・」
 佐伯の視線が一瞬だけケビンから逸れた。
 再び戻る時、その目には好青年たる優しさはどこにもなく。
 獲物を前に焦点を絞る獣の眼で笑みを浮かべる。小さく開いた唇の奥に、尖った犬歯が顔を覗かせる。
 「俺の知り合いに、『越前が絶対逆らえないヤツ』ってのがいる。そいつが一言言えば越前も必然的にお前との試合を受けざるを得なくなる。
  さてここからが本題だ。
  ―――俺と試合しないか? 俺に勝ったら案内して、でもってそいつにお前の事紹介しといてやるよ。そいつ面白好きだからな。絶対越前舞台に引きずり出すよ。それに関しては保障する」
 「ふーん・・・・・・」
 ケビンが口を尖らせ返事した。今の試合は全く面白くなかった。完全未消化状態だ。
 コイツの実力がどの程度かはわからない。しかし今の試合を見た上でなおかつ試合を持ちかけてくるのならそれ相応に自信はあるのだろう。
 受けて自分のデメリットは何もない。尚且つ勝てば―――どこまで本当かは知らないが少なくとも越前リョーマのいる場所はわかる。各校荒らしもあまり意味はないのならば・・・・・・。
 「
All right。いいぜ。受けてたってやるよ」
 「そりゃありがたいな」
 先ほどの笑みを消し、佐伯はにっこりと笑ってみせた。
 げに恐ろしき誘導尋問(ではないが)。試合の行方はともかく、話術に関してはケビンをあっさり抜き去った佐伯を青学一同は・・・・・・
 ・・・・・・妙にうさんくさげな目で見ていたりした。







×     ○     ×     ○     ×








 互いにコートに入る。ちなみに―――前述のとおりの事情のため、ジャージはそのままだがラケットを持っていなかった佐伯は荒井にラケットを借りるというひっじょ〜〜〜に情けないやり取りがその間にあったりしたが、それは見なかった事にして。
 「アンタ左利き?」
 「まあ、お前と―――ついでに越前と同じな」
 佐伯の返しに微妙に動揺するケビン。その事実にというより―――考えを読まれた事に対し。
 (まだまだ子どもだな・・・)
 内心微笑ましくそんな事を佐伯が思っていたのは・・・・・・・・・・・・やはりこちらも言わぬが花だろう。





 1球目。数度のラリーの後―――
 カシャ―――ン・・・・・・
 「フィ・・・
15−0」
 「さ、佐伯さ〜ん・・・・・・」
 ドライブAであっさりラケットを弾き飛ばされた佐伯に、立場上彼の応援へと回った青学一同が情けない声を上げる。
 「大口叩いた割に大した事ないね」
 鼻で嘲うケビンになぜか佐伯は苦笑して。
 「まあ・・・・・・、
  最初位は相手にも花持たせてやらないとな。俺って付き合いいいよな」
 「い・・・、いいんスか付き合い・・・・・・?」
 「いい方だぞ? そういう意味では六角でも有名だからな。なにせあのダビデのクソ寒いギャグも突っ込みすら入れず先に言ってやるくらい親切だからな俺は」
 「それ人付き合いとして最悪・・・・・・」
 「ん? 何か言ったか?」
 「いえ、何でもありません」
 打たれたおなかが痛いからだろう、顔を青褪めさせ手と共にぶんぶん振る荒井を気の毒そうに見る。余計痙攣が酷くなったようだが。
 ラケットを拾い、視線をケビンへと戻した。
 「さすが。随分『パワー』あるな」
 「どーも」
 からかうような佐伯の物言いに、ケビンもまた皮肉げに鼻を鳴らした。
 いまいちよく事情が飲み込めないらしい青学一同に解説する心持ちで呟く。
 「確かに球に威力はある。けど単純に『筋力』があるワケじゃない。当り前だけどな、この体考えれば。
  越前と原理は同じだな。威力を増強するだけのスピン性がある。だから地面、あるいは相手の体などに当たった球はさらに抉れるように回転を続ける」
 「あ・・・・・・」
 言われ、納得する一同。よくよく考えずとも、桃や河村のようなヘビー級ならともかくこの体格の少年が―――いやそれ以前にリョーマが、一般に『パワープレイ』などと言われるプレイを出来るわけがない。
 1球で見破られ、しかしながらケビンの余裕の顔は崩れなかった。
 「わかったから? だからどうする気だ? わかったところで対抗する手がなけりゃ無意味だろ?」
 確かに・・・と、一度は浮かんだ気分がまた下降する。
 が―――
 「生憎と、手がないんならこんなタラタラ解説はしないさ。普通に『パワーで負けた』って言った方が格好つくからな」
 「へえ・・・。なら―――
  ―――せいぜいあがいてもらおうか!!」
 2球目が放たれる。1球目よりさらに『パワー』を上げている。それを受けて佐伯に対抗する手は―――
 「な・・・!?」
 あっさりひょいひょい返される球。決して佐伯は力を篭めているように見えない。なのになぜか返され、しかも―――
 「重い・・・!?」
 今度は受けるケビンのラケットが弾かれた。
 「くっ・・・!」
 弾かれた左手首を押さえるケビンに佐伯は軽く微笑み、
 「だから言っただろ? 手がなくはない、って。
  俺の知り合いの某俺様帝王も同じ手使ってくるからな。そのたんびにやられてたらアイツに笑われ続ける」
 「さ、佐伯さん・・・!! 何やったんスか・・・!?」
 『某俺様帝王』についてはあえて問わない。それが誰を指すのかなど、彼本人を知る者には一目瞭然である。ついでにそういえば彼もそうそう筋肉があるようにも見えないのに『パワープレイ』をやっていたか。
 「別にタネ明かすのも虚しいくらいの普通のことだよ。直接力比べするのも馬鹿馬鹿しいから回転にちょっと干渉して向き変えてるだけ。まあそれだけじゃ芸がないからさらに回転上げてるけどさ。
  な? つまんないだろ?」
 「いやあのそれは・・・・・・」
 青学内では特に有名な、かの『カウンター』というものではないだろうか・・・・・・?
 (あれって・・・・・・そんな簡単に使えるものだったのか・・・・・・?)
 (いや、使えないから『天才』なんだろ・・・・・・?)
 怒涛の汗を流す一同を他所に、ケビンがクソッ!と舌打ちしたりした。
 「なら、これならどうだ!!」
 吠えると今度は一転、スピード勝負を仕掛けてくる。
 それをのんびりと見やって、
 「おー速い速い。ならこんな感じで」
 ドスッ―――!!
 「何っ・・・!?」
 佐伯お得意の『先読み』発動。ケビンが動いた瞬間、その逆側をついて放たれた球は見事コートを抉りフェンスへとぶち当たった。
 「ついでにこれまた俺の知り合いの某ラッキー男がフットワークよくってさ。一応俺もフットワークの良さウリにしてるけど、お互い対策考えてたら結局こんな感じになったんだよな。意外と地味で悪いな。盛り上がりに欠けて。俺あんまギャラリーきゃ〜きゃ〜言わせるの趣味じゃないし」
 「ぐっ・・・! ならこれでどうだ!!」
 「ってまだ手あるのかよ・・・」
 呆れ返る佐伯にさらに頬を引きつらせつつも、(めげずに)前に出てくるケビン。(健気に)ドロップショットで佐伯を前に誘う。
 無理矢理ドロップショットを返し体勢の崩れた佐伯に向け、ラケットを振り上げ―――
 「あっさり引っかかるアンタの馬鹿さ加減には笑っちまうよ!」
 『ああっ!!』
 浮いた球。スマッシュで打つには絶好のチャンス。そして―――佐伯の顔にぶち当てるには。
 驚く周りに・・・
 佐伯は薄く微笑んだまま唇を小さく動かした。
 <バレバレ>
 むっとしたケビンが実際にスマッシュを放つ。手加減なしの一発。たとえラケットで受けられたとしても、この崩れた体勢では押されてラケットごと顔にぶつけるというお笑い確実の情けない姿を披露して終わりだ。
 ―――という彼の予想を裏切り、
 佐伯は前に差し出した左足を軸に右足を蹴りだした。スライディングの勢いと共に体が振られ、反時計回りをする彼。もちろん回りは事情を飲み込めない。
 確かにこれでボールから顔は守れた。しかし、
 「馬鹿かアンタ! わざわざ点落とすってのかよ!」
 「まさか」
 笑いながら、回りながら、佐伯がラケットを真横に突き出した。腕力にプラスされ遠心力の加わったラケットがスマッシュをしっかり受け止め―――
 「ってそれは羆落とし!?」
 「いや違う! あれは―――!!」
 「バネさん直伝というかパクったローリングボレー・・・。喰らってもらうよ!」
 答えの出てこなかった青学一同に代わり自ら技名紹介。とりあえずパクった黒羽に対してはスイカでも持って行って詫びておこうと心の中で思いつつ、さらに力を加え威力を殺していく。
 「くっ・・・!!」
 ケビンが予測返球地点へとラケットを伸ばす。
 飛び込む彼の前で、充分勢いを相殺された球が佐伯の手元から離れて―――
 ―――いかなかった。
 「・・・・・・と見せかけてただのドロップボレー」
 『はい・・・・・・?』
 佐伯が面を上にして振り切ったラケット。勢い0となった球はその上をころころ転がり、
 ネットぎりぎりを落ちていった。
 虚しい風が吹き抜ける中・・・・・・
 「さらに言うとその某ラッキー男とあとこっちも知り合いの某『天災』が、人をからかう事に全力注ぐタイプだからな。それに巻き込まれまくってると自然と俺も対処法とか考えちゃうんだよなあ」
 しれっと言ってのける佐伯。さすがにもう手はないのか、ブルブル肩を震わせつつも唇を噛むしかないケビンへと、
 ようやっと先ほど見せた獣の笑みを見せる。
 「で、そんな俺のプレイは『マーク』。相手の手の内全部暴露させた上で長所は潰し短所を引き出す。
  さあ、そろそろ本気で行こうか」
 「・・・・・・・・・・・・」
 静かに宣言する佐伯に、
 ケビンはただただ青褪めて目を見開くしかなかった・・・・・・。







×     ○     ×     ○     ×








 「ゲームセット! ウォンバイ佐伯! 6−0!!」
 「クッソーーー!!!」
 地面を叩き慟哭を上げるケビン。見下ろし、
 「まあ、そう落ち込むなよ。たまたまだって。仕方ないよ。
たとえその1回でせっかくのチャンス破談にしようと
 元の好青年の笑みでさらりとそんな事を言ってのける佐伯。
 「うわキッツ・・・」
 「ん? 何か―――」
 「言ってません!」
 これまた本日失言オンパレードの荒井から目を背け、
 ケビンの肩をぽんと叩く。
 救いを求めるように見上げるケビンに向かって、慈悲たっぷりの微笑みで、





 「じゃあ約束は無かった事にしような。
  ああ、ついでにさっき言った、『越前が逆らえない』知り合い、
  ―――俺にあっさり勝ってなおかつそいつは越前を自分のライバルとして認めてるみたいだけど?」
 ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・





 この上なく寒い空気が流れる。石化するケビン。冷や汗を流す一同。その中で―――
 「誰がいつこの人のライバルになったんスか?」
 「あ、酷いなあリョーマ君。君と僕といえば唯一無二のライバルにして切っても切れないこいび―――」
 「アンタは黙ってろ」
 がごん!!
 やはりフェンスの外から聞こえてくる、こちらもまた今ここにいるのは不思議な2名の声。
 「え、越前・・・?」
 「それに、不二先輩も・・・!?」
 「何で・・・・・・!?」
 先ほどと同じプロセス。
 問いかけに、2人もまたあっさり答えてくれた。
 「ああ。家にあるサボテンが気になって。一応母さんと姉さんに世話頼んでるけど、やっぱ長期間放っておくのは可哀想でしょ?」
 「俺はカルピンが気になったんで。毎日夢にも出てくるし」
 「・・・・・・・・・・・・
Jr.選抜合宿は?」
 「別にいいじゃないっスかそんなの。カルの方がよっぽど大事っスよ」
 「そうそう。あんなの跡部とか真田とかそこらへんに任せておけばいいんだし。ねえ?」
  ((いや・・・。『ねえ?』ってアンタら・・・・・・))
 心の中だけで突っ込み、ふと気付く。そもそもの渦中の人物たるリョーマが今ここにいるという事は・・・
 「もしかしてコイツって・・・・・・すっげー意味ない試合してた・・・・・・?」
 話題を振られ、ケビンがはっ!と気付き石化から戻ってきた。
 リョーマをびしりと指差し、
 「越前リョーマ! お前をずっと待っていた!!」
 「誰? アンタ」





 ・・・・・・・・・・・・
 ひゅるるるるるるるる〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・・





 先ほどにも数倍した寒さが全員を襲う。
 「何リョーマ君。彼とどういう知り合い?」
 「さあ?」
 どす黒い笑みで微笑む不二に、リョーマが心底不思議そうに首を傾げた。
 「こ、この俺を忘れたのか!?」
 「忘れた以前に知らないし」
 「・・・・・・!!
  余裕じゃないか!! ああ!?」
 「・・・。そりゃどーも」
 「断じて誉めてない!!
  俺だ! 
Jr.大会でお前と対戦したケビンだ!!」
 「え〜っと〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 リョーマの息が切れるまで
32秒。
 「〜〜〜〜〜〜。ああ、思い出した」
 ポンと手を叩き、
 「俺に毎回向かって来たはボロクソに負けてた弱い人」
 「なるほど。弱い人か」
 なぜか不二まで安心したようにうんうん頷く。
 「そういう言い方するな!!
  俺は! その悔しさをバネにお前に勝てる事それだけを願い毎日特訓してきたんだ!!」
 「ヒマなんだね」
 「しかもあくまで『願う』だけらしいよ」
 「根性ないな。神頼みにしないでもうちょっと努力しろよ」
 リョーマに不二、さらには佐伯まで加わっての三重侮辱に、ケビンがばんばん地面を踏み鳴らした。
 「今の話のどこをどう聞いたらそういう結論が生まれる!?
  ところが!! それだけの実力を身に付けたってのにお前は日本に行っちまって!!
  だから今度こそ対決するために俺はアメリカ
Jr.選抜のリーダーとなったんだ!!」
 「まさか!! それで
僕のリョーマ君を追って日本まできた挙句に告白!? そんな事はこの僕が許さな―――!!」
 「だからアンタは黙ってろ」
 どごん!!
 「う〜ん。周ちゃんの教育手馴れて来たなあ、越前」
 「全然嬉しくないけどね」
 激しい勢いで横道に逸れていった話を中心部に戻す。
 戻して―――











 「俺日本代表なんないけど」










 「は・・・・・・?」
 「だってそれで大会とかやったらさらにカルと別れんじゃん。だったらさっさとメンバーから落っこちた方がいいでしょ。それに大会後部長が試合してくれるって言ったし、俺としてはそんな日米の試合なんかよりそっちやりたい」
 「あれ? 『大会後』って事は・・・」
 「『俺が出てその後』とは言われてないから」
 「手塚も馬鹿だなあ。そういう約束はちゃんと条件細かくつけとかないと。
  まあ、なんにしても―――」
 ケビンを見下ろし、言う。にっこり笑い、
 「『コレ』がリーダーな時点で日本の勝ちは安泰だな」
 「うん。後は跡部なり真田なりその他なりがどうにでもしてくれそうだね」
 復活した不二もまた大きく頷く。
 そして―――
 「くっ・・・! な、なら越前リョーマ!! 俺と個人的に勝負―――!!」
 「やだ」
 「は・・・・・・?」
 「アンタ弱いじゃん。佐伯さんにあっさり負けてる時点で問題外」
 「おいおいその言い方ないだろ? 基準にされる俺まで弱っちいじゃん。せめて
  『オリジナリティのなさが問題外』とか
  『まんまパクってどーするよ?』とか
  『全体的にカワイイお子様思考が相手する気も失せる』とか
  『口と態度に見合う実力がないとヤダ』とかそんな感じで言えよ」
 「アンタの言い方の方がよっぽど問題ありじゃないの?」
 「俺は大丈夫だって。口ケンカで負けたことないから」
 「それで何がどう『大丈夫』・・・・・・?」
 どうやら佐伯の話は本当らしい。確かに負けを認めてリョーマもおとなしくなった。・・・・・・いやリョーマを負かしてどーするよ? といった感でもあったが。
 今度こそ、完全に再起不能な灰と化したケビンを見ることもなく、
 「さって、そろそろ合宿の方戻るか」
 「そっスね。そろそろ夕飯だし」
 「何出るんだろうね? 楽しみだね。
  あ、そうそう。出掛けに姉さんに差し入れもらっちゃった。みんなで食べようね」
 「へえ。差し入れ? 何貰ったんだ?」
 「姉さんお得意のラズベリーパイ。裕太も好きだしね」
 「(むか・・・)ああよかったっスね不二先輩。弟に喜んでもらえて」
 「リョーマ君ってばヤキモチ妬いてくれるのvvvvvv」
 ごがきんっ!!
 最早無言で振り下ろされたテニスバッグ(リョーマは持ち出していた。おおよそその中にカルピンを詰めて持って行くつもりだろう)にやられ沈黙する不二。
 こうして彼らは騒動を持ってくるだけ持ってきて全く後始末しないまま何処かへと消え去った(合宿所へと帰っていった)のだった・・・・・・。



―――Fin







×     ○     ×     ○     ×








おまけ

 「ここ最近外国人の少年が学校に乱入してきて、突然試合を申し込んでは相手を完膚なきまでに叩きのめしているそうです。
  で、ソイツが妙な事言うんスよ。
  ―――『ケビンが待っている、と越前リョーマに伝えてくれ』って・・・・・・」
 夕食時のこと、神尾の説明に全員の視線がリョーマへと集まった。自分達の仲間がその道場破りならぬ学校破りに襲われているのだ。リョーマを見つめる目が、自然と厳しくなる。
 が、当のリョーマはようやっと片目を開け、めんどくさそうに呟いた。
 ぱたぱたと手を振り、
 「ああ、それ? それならさっき佐伯さんに『突然試合申し込まれて完膚なきまでに叩きのめされた』」
 『はあ?』
 言われ、全員の目が今度は佐伯に映った。そんな彼らの目に置かれているのは食後のデザート兼差し入れとして持ってこられたラズベリーパイとスイカ。リョーマと佐伯、そして不二の3人が今日、
Jr.選抜落選を条件に外出したのは知っているし、それが本当なのはこれらの物件がよく物語っている。
 「ああ、それか?」
 向いた先で、佐伯もまたリョーマ同様気のない感じの反応を見せる。
 苦笑し、
 「越前探してるっぽかったから
冗談で試合申し込んだら本気で乗ってきてさ。あと1分待てば本人登場だったのに勿体無いな」
 「で、でも今まで何人も倒してきたってソイツ・・・!!」
 橘からの情報がウソなわけはない!! と食って掛かる神尾に、
 「はあ? アレに? こう言っちゃなんだけど、とりあえず負けたヤツ徹底的に鍛え直した方がいいぜ? 特に全国大会行くんだったらあの程度に負けてちゃ話にならないって」
 「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 怒り
MAX。殴りかかろうとした神尾を隣にいた千石が後ろから羽交い絞めにする。
 「ま、まあまあ神尾くんも落ち着いて。ね?」
 「でもだからってその言い方ないじゃないっスか!!」
 「そーだよ!! お前が勝てたのだってただの偶然じゃないのか!?」
 神尾の言葉に、さらに英二も乗る。こちらも怒って当然だろう。レギュラー以外とはいえ青学だってやられたのだ。
 そんな彼らだが・・・
 なぜか同じく被害にあった筈の氷帝一同+千石は至って冷静なものだった。どころか互いに顔を見合わせ、
 「お前ら知らねえのか?」
 代表して、きょとんと跡部が尋ねる。
 「そいつ、千石と同じ代理とはいえ立派に去年の
Jr.選抜者だぜ? 千葉唯一の代表だ」
 『はい!?』
 「マジ・・・?」
 「まあ一応」
 
Jr.選抜―――今年のような馴れ合いなあなあ主義ではなく、歴代のそれといえば問答無用で中学テニス最高峰の実力を誇る者たちが集まるところだ。テニス部員らの一番の憧れはもちろん全国制覇だが、これのメンバーになるのも同等の価値を持つ。千石が『Jr.選抜』として周りに有名なのはこのためだ。1つの都道府県で出てせいぜい数名。もちろんダブルスを得意とする者とシングルスを得意とする者、両方いるため全て含めるとそれ相応の人数となるのだが、例として男子シングルスのみで挙げると―――
 東京代表はもちろん跡部と、手塚の代わりに千石。
 神奈川代表は王者立海大より真田・柳・切原(1〜3年全て含むため、去年1年だった切原もまたメンバーに含まれる)。
 そして・・・それらと同等のレベルで千葉代表として佐伯が挙げられるらしい。その実力は推して知るべし。
 
47都道府県の代表者全てを覚えるのもムリなので東京程度しか知らなかったが(そして神奈川はというか立海はレギュラー全員が問答無用で選ばれるという噂を聞いた程度だが)、まさかさらにこんな身近に選抜者がいたとは・・・!!
 ざわめく周りの中で、
 跡部が一人静かにため息をついた。
 「佐伯が『代理』だってのは、もちろん本当は選ばれてた選手がいたからなんだけどよ、手塚が怪我で代表降りたって話聞いた時点で代理が不二だと思ったらしくどうやってかそいつ蹴落として這い上がってきたらしいぜ。それで来たのが不二じゃなくって千石だ。何が起こったかは予想通りだな。
  今年の
Jr.選抜、わざわざ時期早めて挙句『関東大会優勝校は全員参加』なんてあからさまにおかしい条件が付いてる本当の理由はコレだ。不二を強制的に参加させるため。
  ・・・去年の選抜は慣れてる俺と千石、でもってそいつ除いて全員胃壊して予定の半分の期間で続行不可能になったからな」
 説明に・・・・・・同じく参加していた立海の3人が頷く。
 「しかしなるほど。そういう事情だったのか・・・・・・」
 「ワケわからず佐伯さんにいびり倒され続けてましたしね」
 「全く手塚め・・・。なぜ不二を呼んで来なかった・・・! たるんどる・・・!!」
 「む・・・。俺にそのように言われても・・・」
 ぼそぼそとした声を除き、場が一気に静まった。
 静かな空間。ラストもまた代表として跡部が呟く。
 「まあ、こんなヤツに遭遇しちまったのがそのケビンって奴の不幸なんだろうな・・・・・・」
 『確かに・・・・・・』



―――こんどこそFin










 今までのペースから比べるとずいぶん久しぶりに
Jr.選抜合宿ネタです。ぶっちゃけ跡部らが代表に選ばれてから観る気無くしてました(爆)。だってもう絶対その他みんな活躍の場なんてないだろうし、なんかヘンな外人出てくるし、これからは絶対リョーマ中心になるんだろうなあ・・・と後ろ向きに遠くを見やっていたら―――
 ―――面白いですねあの外国人。技パクり過ぎ。ツイスト〜はともかくドライブBはリョーマオリジナルじゃあ・・・(いっそやるんだったらラジオでエセリョーマの使っていた『ドライブP』が見たかった・・・)。しかも恨む方向間違ってるし。直接南次郎に晴らそうよ・・・。逆説的に南次郎には勝てないって認めてるようなもんじゃんスミス親子・・・。
 ちなみにこの話で半端にわかりますかもしれない通り、書いた日付とは裏腹に7/7の放送見て即座に出来た話です。なのでケビンの設定違ってます。あえてずらしたままやったのはリョーマの大ボケトークがやりたかったからに他なりませんが!! しっかし親の仇か〜・・・。リョーマってばというかアニメってばそれ関連の因縁多いような・・・・・・。
 そしていよいよ決まってきました選抜メンバー。はっきりきっぱり英二が決まった弾みに忍足が決まった理由がさっぱりわかりません。いくら個々人の実力がアップしようが即席ダブルスに試合させるって(しかもそれに見合うだけの理由がないって)、それアメリカへのかなりの侮辱じゃあ・・・・・・。素直に大石選ぼうよ・・・・・・。
 さらに千石・切原と決まり残り1枠。この時点でラストはリョーマで決定。サエの出番がなくなるのでもうすぐこの企画も打ち切りになるでしょう(ヤケクソ)!! どーせそんな事になるってもちろんわかってたけど!! でもせめてもーちょっと納得いく『日本代表』というかそもそも『選抜合宿メンバー』にして欲しかった・・・・・・・・・・・・。

2004.7.18