パフォーマー
ようやっと全容を露にしたアメリカチーム。4−0とリードしていたゲームはとりあえず4−1までは挽回された。
絶望的なまでに不利な状況からの逆転劇。興奮は正常な判断を奪い、現実を実際以上のもの、即ち妄想として認識させる。展開としてはありきたりだがなかなかの演出だ。考えたヤツにとりあえず賞賛程度は送るべきか。
真正面にて得意満面なビリーとマイケル・・・・・・だっただろうか?・・・・・・を見据え、
「パフォーマンス、ねえ」
「だからどうした。テニスの試合は見せ物ではない。勝ち負けが全てだ」
こめかみに指を当て薄く笑う跡部を、いつも通りの表情の真田が一言で切って捨てた。
「そりゃ俺に対する嫌味か?
何にしろ―――人が見るモンは全部『見せ物[パフォーマンス]』だ。そうじゃなけりゃまず見ねえし、見ねえモンは『見せ物』じゃねえ」
「あくまでそれは理屈であろう? 結局求められるのは―――」
「勝つことだ。当り前だな」
しれっと言ってきた跡部に、真田がきょとんとした顔を向けた。もちろん実際は眉を僅かに撥ね上げた程度だが。
だがお得意の眼力にて彼の驚きを正確に見抜いた跡部は、特に怒るでもなくむしろくつくつと笑ってみせた。それこそ『パフォーマンス』か。
「おかしいか? 俺がこういう台詞を言うのは」
「いや・・・。ただお前ならばむしろ見せ物たることを重要視するかと思っていたものでな」
「バーカ。真の主役[パフォーマー]ってのは自分が見せ物であろうと努力する必要はねえんだよ。どう動こうが何をしようが注目を集める。それが本当の意味での『見せ物』だ。
ああいう小細工をやるヤツってのは所詮二流なんだよ」
「・・・・・・オープニングでお前も何かをやっていたような気がするのだが」
「余興だ余興。サービス精神ってヤツだな」
「・・・・・・・・・・・・お前の必殺技はことごとく周りを意識した派手なものが多いように感じるのだが」
「それで踊らされる馬鹿が多いからな。馬鹿のふるい落としだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なぜだかお前に賛成しがたくなってきたのだが」
「この間手塚とも似た話になったが、そん時も同じ返事が返ってきたぜ。なんでだ?」
(何故も何も・・・・・・)
本当に不思議そうに見てくる跡部に、真田が覚えたのは一種の感心だった・・・と思う。頭痛を伴う類の。
結論として、確かに跡部は真のパフォーマーだった。ただし『主役』ではなく―――『名人』という意味で。
恐らく跡部本人ですら、自分の何がどれだけ人(対戦相手含む『観客』全員)を魅了しているのか完璧には理解していないだろう。当り前だ。跡部は『観客』ではないのだから。
彼と比べると、相手の頭を多分に捻ったであろう始まり前からの演出ですら惨めな小手先芸としか見えない。アメリカチームの演出家は気付いていないのだろうか。試合開始から僅か20分、跡部登場から1時間も経っていないであろうに、それなのに観客の目線は事前から散々騒いで存在をアピールしたアメリカチームではなく、特に何もしていない自分ら―――跡部のみにしか集まっていない事に。
天然の演出家にして天然の役者。無意識下の己の指示に従い、存在だけで周り全ての意識を奪う最強の名人、究極の主役。例えるならば赤ん坊か動物か。
華村があえてシングルス専門の彼をダブルスに―――1試合目に持って来た理由がわかった。そしてペアを自分にした理由も。
勝敗そのものよりも、試合の流れをこちらへと持って来るには跡部はこの上なく打って付けの存在だ。同時に、跡部に魅了されない存在として自分もまた。
華村は、この試合を捨て試合にしたとしても流れが欲しかったのだろう。だが―――
―――『バーカ。真の主役ってのは自分が見せ物であろうと努力する必要はねえんだよ』
自分が本当に『真の主役』である事を理解していない跡部。彼は確実に華村の期待を裏切り、そしてこれ以上ない形で応える。
彼は―――この試合を捨て試合とする気は、ない。
華村の意図は間違いなく察していないだろう。野生で生きる動物に「もっと見栄えよく動け」といったところで通じないのと同じように。
それでありながら大地を駆け巡り大空を飛翔するそれらに誰しもが目を奪われるのと同じ理論だ。跡部は勝つ事を選び勝つための手段しか取っていない。それはこの試合でも同じだろう。華村の、暗に隠された命令には従わず。
それでも結局目を奪われるのだ。真の主役が見せ物たる事を努力する必要がないのならば、真の主役に主役たる事を課す必要もない。
アメリカチームと跡部との違い。端的に言えば集中力の差。『見せる』事にも気を配るアメリカチームとは逆に、跡部は『勝つ』事にしか気を配っていない。
だからこそ―――勝つために見栄えを捨てる事に抵抗を持たない。
答えがもらえない質問に早くも興味を無くしたか、跡部は先ほどと同じ面白そうな笑みを浮かべ違う話題を持ち出してきた。
「俺はダブルスは専門外だからよく知らねえけどよ、ダブルスってのはコンビネーションが大事なんだよな」
「そのようだな」
「例えるんなら1と1足して3にも4にもなるってヤツか? 俺とてめぇじゃ無理な話だな。1と1足してあからさまに2以下だ」
「そうだな」
ガタガタのコンビネーション。互いが互いを邪魔しあっている。
予想はしていたが跡部はそれ以上にアクが強い。即興ダブルスなどどだい無理な話。『微調整』などというレベルではない。
「ところで真田。
――――――お前1人で何人までいけると思う?」
「何人でも構わん。が、実質3人だ。それこそ先ほどのお前の詭弁と同じだな。1と1はどう足そうが2にしかならん」
「奇遇だな。俺もだ」
にやりと笑う跡部。考える事は同じなようだ。
「よろしくな、真田」
「うむ」
こつりと合わさるグリップと拳。作戦前の合図ではない。対戦前の挨拶だ。
背中を向け、去りつつ跡部が言葉を投げかけてくる。
「去年のJr.が懐かしいよな。あん時ぁ確か1対4だったっけか」
1対4。あのスマッシュ練習の事を言っているのだろう。
「お前は2球で終わらせていただろう」
「てめぇは1球でな。それに比べりゃ楽勝か」
「ほう。つまり楽に俺を勝たせてくれる、という事か?」
「ざけてろ」
珍しく面白そうな真田を4文字で切り捨てる。だがそんな跡部の表情は言葉ほど尖ったものではない。彼は彼で楽しみなのだろう。自分と同じく、途中で切られた勝負の決着を付けられる事を。
(まあ、勝敗がスコアという具体的な形で現れにくいのが欠点だが)
跡部が最初に言った通り、ダブルスとしての華は2人のコンビネーションだ。まるで本当に心が通い合っているかのように、1人[シングルス]では決して出来ない事を成し遂げていく。
さてここに、とことんダブルスに向かない2人がいる。心以前に言葉からして微妙に通じていないこんな2人は一体どうするべきか。取れる手段は2つ。あくまで『ダブルス』でいくか。それとも『シングルス』に切り替えるか。
跡部が見せ物に拘るならば前者を選ぶだろう。後者は『ダブルスプレイヤー』にとって最大の恥だ。例え実際がどうであろうが、今試合を見ている観客にとってこの2人は紛れもなくダブルスプレイヤーなのだ。それがまともに出来ないとなれば失笑されるのは必至。
が、
跡部が拘るのは『勝ち』だ。1対3。役立たずな味方と組んだ2対2より、『1』を丸ごと発揮出来る分こちらの方が有効だろう。『シングルスプレイヤー』である2人には。
そして実際に勝ちに拘り―――
「ゲームセット! ウォンバイ日本! 6−2!」
わああああっ!!
審判のコールと共に上がる歓声。特にブーイングの類でもないが、それは会場中から沸き起こっていた。
それらを当然のように一身に受け、
「フン。俺様が勝つ。当然だろ? なあ」
試合にも、そして主役争い[パフォーマンス]の点でも圧倒的な差でもって勝利した。誰に向かってか自慢げに同意を求める跡部を見て、思い出す。試合前のパフォーマンス。
―――『勝つのは俺だ!』
俺『達』と付かなかった理由がよくわかった。ついでに思う。つくづく付けないでくれてよかった。
魅了されないというよりついて行けない真田は、歓声の中1人静かにため息をついた。
―――組んだのが手塚だったならば意外とノりそうだ。
えっと、8/18のアニプリ第147話《最強! 跡部&真田》の中で、『パフォーマンス』の1センテンスに踊らされて書きました(笑)。これ以外で跡部がわざわざD2に行った理由がよくわかりません。しかしパフォーマンスというとむしろ跡部と千石さんか・・・。ゲーム全体を見せ物化している事に関してはやはり『食わせ者』千石。パートナーは不二先輩という手もあるけどインパクト勝負ならやはり勝者は跡部・・・。
―――実は架空話でこの2人のダブルスで書こうと思ってました。話が浮かばない自分が哀しひ・・・・・・。
そしてこの話、何気に意味不明(爆)です。実はも何も内容ありません。書きたかったのが1対3を選ぶまでのくだりだったりする時点で相当にダメっぽいです。そこに行くまで何行かけたんだよ・・・。そして見様によっては微妙に真跡(無理)・・・!!
2004.8.18〜19