「破滅への輪舞曲を破られてしまっては、もう跡部に勝ち目はない」
それは、誰よりも彼本人の脳を揺さぶる言葉だった。
真のライバル |
「ちょっと待て!! 今のは聞き捨てなんねーぞ!?」
「・・・・・・試合に集中しろよ、跡部」
真田vs跡部の試合中。試合そっちのけでそんな事をぶっこいたヤツにラケットを向ける跡部に、返って来たのは極めて冷たい返事だった。
初っ端っから不吉台詞のオンパレードの彼―――佐伯は、コケさせた首を戻し、改めてため息をついた。
「どこがどう聞き捨てならないんだよ。明らかにどころかあからさまに負けてんじゃん。今の見た限りじゃ弱点探し[インサイト]も通用しなかったんじゃないのか?」
「ぐ・・・! じゃ、弱点なんかねえ万全の状態だろーが攻略すんのが俺様の美学だ!!」
「なるほどねえ。まあ確かに弱点がないヤツに片っ端っから負けるようじゃ、次の対手塚戦はさぞかし景気よくボロクソに負けるだろうなあ。
で? 具体的には?」
「・・・何?」
「だから。弱点のない相手に対し、具体的にどう攻めて勝つんだ?」
「そ・・・それは現在模索中―――」
「苦しいイイワケをありがとう。お前の底の浅さが一発で判明する台詞だったな。
弱点は見つからない。必殺技は通用しない。模索しようにもゲームはあと3つで終わる。さてお前に勝機はあるのかな?」
「3ゲームとは限んねえだろーが!! 俺が取りゃその分伸びんだよ!!」
「『取れれば』、ねえ。取れる保障は?」
「くっ・・・!!」
「取れないから現在悩んでんじゃないのか?」
「とりあえず真田が攻めだしてからも1ゲームは取っただろーが!!」
「真田が3ゲーム取る間にかろうじてな。そのまま換算すると6−4でお前の負け決定だな」
「てめぇ・・・!!
大体最初の台詞に戻るけどなあ!! 何で破滅への輪舞曲が決まらねえだけで俺の負けが決定すんだよ!!」
「違うのか?」
「違げえよ心底不思議そうに首傾げんじゃねえ!!」
「だって輪舞曲っていったらお前の必殺技だろ?」
「必殺技『その1』だ!! しかも人を必殺技バカみてえに指差すんじゃねえ!! ンなモン1つや2つくれえくれてやる!! ンな程度で俺様の勝ちは揺るがねえんだよ!!」
「なんだ。お前は絶対必殺技に縋って一発形勢逆転とか狙う安直ヒーロータイプだって信じてたのに・・・・・・」
「だから心底悔しそうに舌打ちとかしてんじゃねえ!! そこまでパーじゃねえよ!!」
「はいはいわかったからさっさとやれよ。お前が言葉重ねれば重ねるほど負けた時余計恥ずかしいってわかってんのか? とりあえず遠吠えなら負けてからしろよ?」
「うっせえ!!」
「お前がな」
「〜〜〜〜〜〜!!!!!!
くそっ・・・!!」
どれだけ言い返しても結局ドツボにハマるだけだとようやく理解したか、返しようのないそれこそ捨て台詞を吐き捨て跡部が試合に戻る。それを聞き、さりげなく佐伯が「ハッ!」と鼻で嘲っていたりするのだがそれに関しては特に何も言わないよう決めたらしい。言い返したところで結局冒頭に戻るに過ぎない。
今までかろうじて内面のみで抑えていた苛立ちを、モロに表面に出してボールをつく跡部。周りはそんな跡部と、そしていつもの彼の代理とばかりに腕を組んで薄笑いを浮かべる佐伯を心配げに見やるしかなく・・・・・・。
不穏な空気の流れる中、
「俺様を誰だと思ってるんだ、ああ?」
跡部の顔つきが、変わる。
苛立ちと悔しさの合わさった絶望的な顔ではなく。
そこにあるのは、威風堂々としたまさしく帝王の笑み。
放たれ―――そして終わるサーブ。誰も見た事の無いそれは、誰にも邪魔される事なく真田のコートを転がっていった。
誰もが驚きを露にする・・・・・・前に。
「どーだ佐伯!! てめぇこれでまだ俺に勝ち目がないとかタワゴトほざく気か!? ああ!?」
再びラケットを佐伯へと突きつける跡部。それこそまさしくガキ大将が『どーだ!!』と言う感じで仰け反っている。実に微笑ましい光景だ。
突きつけられたラケットの先で、
佐伯は顔を手で覆いブルブル震えていた。
「・・・・・・何だよ?」
「跡部、ちょっとお前こっち来い」
「?」
手招きする佐伯に、意外と素直に従う。ラケットを持ったままとことこと佐伯に近付き・・・
「可愛い! 跡部お前可愛すぎるぞ!!」
「何の話だ!!」
フェンスの隙間から差し入れられた手に頭を撫でられ、思い切り振り払った。
それでも全くめげないらしい。佐伯は懐に手を伸ばし、
「うん。そんな可愛いボクにはお兄さんがアメをあげようv」
「だから何の話だ!!」
取り出された棒つきキャンディー(推測としてチュッ●チャップス)もまたはたき落とされる。
『何の話』と問いつつさすがにそろそろ本人も自分の言動を振り返ったか、疲労と興奮で元々赤くなりかけていた頬をさらに紅潮させる跡部に、
佐伯は最初と同じようにため息をついてみせた。
「お前本気で真田とは違う意味で中学生離れしてるよな。いい加減その幼稚園から小学校低学年クラスの言動から卒業して中学生ちっくになったらどうだ? そういう事ばっかやってるからオツムの中身が足りないって日々みんなに言われるんだよ」
「うっせえ!! 余計なお世話だ!!」
がしゃん!!
跡部がフェンス越しに蹴りをかます。靴に隠れた顔に、僅かに泣きが入っていたのに気付いた存在はいなかった―――予め予想していた挑発者ら除いて。
「口じゃ勝てないから暴力に出た。これで決定だな」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!
佐伯のバカヤローーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
吠えて―――ついでにラケットを投げつけ―――コートから出て行く跡部。
静かになったコートの周りで、
「さって見せ物も終わりか。練習練習っと」
のんびりと呟き、佐伯もまたコートを離れていった。
* * * * *
当事者が抜け、完全に静かになったコートにて。
場違いな口笛を吹き、千石が実に面白そうに笑った。
「サエくんやる〜♪」
「うん。今のはいい牽制だったね。真田も手塚も随分驚いてる」
いつの間に隣に来たか、不二もまたくすくすと密やかに笑っている。
笑い合う2人が見る先では―――表情には出さないまま呆然とする手塚と真田の姿があった。
「跡部のイメージ総崩れだろうね」
「初めて見る人にはインパクトさぞかし強いだろーねえ」
そんな2人の言葉通り、
ざわめく周りに隠されつつも、2人もまたしっかりと「あれが・・・跡部か・・・?」「随分と・・・・・・また、なんというか・・・・・・」などと意味のない言葉を呟いている。
「でもサエも上手いね。これで跡部も2人に手は出しにくくなった、か」
「しかも泣かせた挙句に慰める特権つき。利用された2人も可哀想に」
「まあ・・・同情したら次に『使われる』のは僕たちだしね」
「真田くんも手塚くんもふぁ〜いとっ!」
無情にも切り捨てられた挙句無責任に応援されている事にはもちろん気付かず、
(しかし・・・・・・あれが跡部の姿か・・・・・・)
(随分と・・・・・・・・・・・・可愛いものであったな・・・・・・・・・・・・)
ちょっぴり胸をきゅんとさせた2人は、
――――――この後も事ある毎に跡部に接近しては佐伯の策略にハメられるハメとなった。
* * * * *
「悪かったって景吾、からかいすぎてさ。な? 機嫌直せよ」
「る、っせー・・・・・・。てめぇ・・・・・・あれこれ言いやがって・・・! 俺が・・・、勝ち目ねえなんて・・・・・・ンなワケねえだろーが馬鹿が・・・・・・!」
「うんうん。そうだなあ」
「全然・・・・・・、わかってねーだろてめぇ・・・・・・。
てめぇなんか・・・大っ嫌いだ・・・!!」
「そうか? 俺は大好きだけどな」
「・・・・・・っ//!!
そういうのが・・・・・・嫌いだっつってんだよ・・・!!」
「ごめんな、景吾。大好きだよ」
「ぐっ・・・・・・」
佐伯の膝の上に座り、ぽんぽんと背中を撫でられている跡部は、
「バーカ・・・。ンなの、とっくにわかってんだよ・・・・・・」
「そっか」
とても嬉しそうに笑っていたという。
* * * * *
結局跡部vs真田の勝負は、
「あの跡部を口で負かした!!」
「恐るべし佐伯・・・!!」
―――わけのわからない展開の末、なぜか途中乱入の佐伯1人勝ちというのが周りの見解だった。
―――(当事者のみ)Happy End
今更ながらに跡部vs真田の回です。《新生・千石清純》と共にうっかり2度目を観、何度観てもサエの対跡部発言が気になってたまらなかったので話にしました。くっはー! サエってば言っちゃいけない台詞を平然と!! てゆーか跡部絡みでしか台詞言わないし!!
というわけで虎跡最高! サエがアニプリにて最も毒舌全開となったのは対菊丸ではなくこの回ですか!? 焦ってむくれる跡部が可愛くてしかたなかったです。しかし跡部・・・。輪舞曲返されてあそこまで動揺するなよ・・・。手塚にも、さらに手加減した上とはいえアニプリではリョーマにも返されてたじゃんよ・・・・・・。つくづくアニメって過去を振り返らないなあとか思ってみたり。梶本の%力制限どうしたよ・・・?
さて話は戻して虎跡。本当は佐伯虎次郎14歳シリーズとして真田・手塚→跡部+佐伯で『特技選択の自由その2』にしようかと思いましたが、泣いた跡部の慰め役には是非サエを!! という事で虎跡←真田・手塚にしました。つーかこういう跡部を望む自分もどうかと思います。あ〜泣いてる跡部。さぞかし可愛いだろうなあ・・・。どっちかというとガキ大将ちっくな跡部の方か・・・・・・。
あ、ちなみに2人が付き合ってるのは不二兄と千石さんしか知りません。
2004.8.19