それは、千石が新たに生まれ変わった日の出来事。
「凄かったな、千石」
「でしょでしょ? 俺サエくんのために頑張っちゃったよvv」
「ははっ。バカな事言ってんなよ」
「ほんとだってば〜」
「ホントか・・・・・・//?」
「え・・・。いやあのその・・・・・・//」
「(ちっ)何だウソか」
「うわ結論早ッ! いやそんな事ないって。ってゆーか今の『ちっ』って・・・・・・」
「舌打ちなんてしてないぞ? 幻聴じゃないのか(にっこり)?」
「・・・・・・もういいです」
「ところで千石。
―――お前テニス変えて『虎砲』使わなくなったって本当か?」
「ゔ・・・・・・」
疑惑直撃!
話は少し前に遡る。
新生振りを見せ付け桃を6−3で下した千石の元へ、ぱちぱちと微妙に馬鹿にされた感じの拍手が送り届けられた。
「試合見たよ。凄いね千石君」
「やあ不二くん。ありがとねv」
のんびりと近付いて来た不二へと、いろいろと気になる点は無視して笑いかける。
「これでやっと今までの借りは返したって感じ?」
「あはは。じゃあ次は神尾君?」
「う〜ん。どうだろうね? とりあえずその前に―――
―――君でもいっとく? 不二くん」
「僕? 千石君に何か貸してたっけ?」
「貸し借りっていうか、仕返しってトコ?」
「ふふ。物騒だなあ。仕返しならむしろ僕がしたいよ。君にはサエを取られた借りがあるからね」
「ははは。俺もそれだったんだけどね。ずっとサエくん独り占めしててさあ」
広がる笑いとともにどこどこ下がっていく気温。見守るつもりはなかったのに間違って見守るハメになってしまった竜崎班の面々が、このクソ暑い筈の真夏に肩をすぼめジャージの袖を擦っている。
(もちろん笑顔のまま)仕返しは不二の方が早かった。
「ところで千石君。
―――君テニス変えて『虎砲』使わなくなったの?」
「へ・・・?
ああ、まあ一回全部変えるって事で」
もしかしたらまた使うかもしれないけど今回はとりあえず、と続ける千石に、
「ふ〜ん」
不二は、謎の頷きをしてみせた。
「?」
当り前の話で千石が首を傾げる。
その様を思う存分堪能し―――
「てっきりサエに別れ告げたのかと思ったよ」
「・・・・・・は?」
そんな事―――そんなバカな事というかそんなありえるわけない事を言い出す不二に、さすがに千石の笑みも止まった。
呆ける千石を見、むしろその千石の呆けに不二がきょとんとする。
「何?」
「いや・・・、それはむしろ俺のほうが訊きたいな〜なんて思うんだけど・・・・・・。
なんで俺が虎砲使わないとサエくんに別れ告げる事になるの?」
「え・・・? だってあの技って―――
―――千石がサエのために編み出した技じゃないの?」
「は・・・・・・・・・・・・?」
時間が、凍りつく・・・・・・・・・・・・。
「えっと・・・・・・、あれは普通にちっちゃい俺でも充分サーブの威力稼ぐための必殺技で〜・・・・・・」
本格的にワケがわからないままとりあえず解説をする千石。
結論として―――
「なんでそれがサエくんのため?」
やはりわからないので問うのだが、
―――答えは更なる問だった。
「もしかして―――知らないの?」
「何を?」
「だから・・・・・・」
数秒ためらい、
不二が困ったような笑みを浮かべた。
「サエの名前・・・・・・、『虎次郎』って言うんだけど・・・・・・・・・・・・」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
またしても、時が凍りつく・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・本気で知らなかったみたいだね」
他にコメントのし様もない千石の固まりっぷりに、不二が苦笑の延長で呟いた。
「だって・・・・・・、不二くんだって跡部くんだってみんなサエくんの事名字で呼んでたじゃん」
言い訳がましく(実際言い訳だが)千石がまくし立てる。
ちょっぴり泣きが入った千石に、
どすどすととどめが刺されていった。
「確かに知り合いは大抵名字で呼んでたけど、家族はさすがに名前で呼んでたでしょ? それに千石君だってサエの事『コジコジ』って呼んで怒られたじゃない」
「ぐ・・・。
ち、ちなみに『こじろう』って・・・・・・」
「『虎』って書いての『虎次郎』だよ・・・? 『小さい』の『小次郎』じゃないよ・・・・・・?」
「う・う・う・う・う・・・・・・・・・・・・」
泣き崩れる千石へと、
「・・・・・・本気で知らなかったみたいだね」
極めて冷たい同情の言葉がかけられた・・・・・・・・・・・・。
ι ι ι ι ι
「あ、あのそれはその、ね? 別に深い意味があったりとかするワケじゃないんだよ? ただ『1から変える』って事で1回全部捨てただけで―――」
「そうか。『捨てる』か」
「違うから! 別にサエくん捨てるとかいうんじゃないから!!」
「誰も『俺を捨てる』とは言ってなかったんだけどな。けどすぐそう考えたって事は元々そうしようと思ってた―――」
「だから違うよ!? そんなワケあるわけないっしょ!!」
「すぐムキになって否定する辺りが怪しいよな。やっぱり後ろめたいから―――」
「サ〜エく〜ん!!! 話聞いて〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「んじゃ聞くよ。
で? なんで俺を捨てる事にしたんだ?」
「してないから!! てゆーか全然聞いてないじゃん!!」
「気のせいだ(きっぱり)」
「気のせい? ホントに俺の気のせい!?」
「ああ(さらにどきっぱり)。じゃあ話を少し巻き戻すとして―――
―――誰に入れ知恵されたんだ?」
「うーわ話早くて助かる〜。
入れ知恵、っていうか・・・・・・不二くんに?」
「そうか周ちゃんか。
・・・・・・やっぱお前実は俺より周ちゃんの方がよかったんじゃないのか?」
「はあ!?」
「だってそうだろ? 生まれ変わったお前だって最初に見たのは周ちゃんだし、俺は周ちゃんから話聞いただけなんだぜ? 同じ班なのに」
「そういや不二くんって練習どうしたんだろ・・・・・・?」
「ほらやっぱ周ちゃん狙いで・・・・・・」
「・・・・・・。けっこー今無理矢理繋げなかった? 俺の話無視して」
「俺の事なんかどうでもいいんだよな・・・・・・」
「もしも〜し・・・・・・」
「お前がずっと好きだ好きだってクドくてウザい感じで言ってきたから根負けしてやったってのに・・・・・・」
「ううう・・・。俺の人生賭けた告白劇ってサエくん視点から見たらそんな感じ?」
「なのに実は周ちゃんに近付くのに邪魔なヤツ排除しただけなんだな・・・。すっかり騙されてたよ・・・・・・」
「いやサエくん騙せる人って誰? てゆーかなんで口調がさりげに伊武くん入ってんの?」
「俺は本気で好きだったのに・・・・・・!!」
ごきごきごきっ・・・!!
「〜〜〜〜〜〜っ!!!」
無声でねじ伏せられ極められた千石の体から異音が流れる。
「あのサエくん・・・。いくら鍛えたっていってもさすがに骨の強度はそこまで上げられないと思うんだ。あまつさえ関節逆向きに曲げるってのは無理だと思うんだけど」
「俺の本気はどうしてくれるんだ・・・・・・!!!」
ごきゅっ!!
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!???』
佐伯の苦悶の声―――と共に鳴り響く、まるで整体をやっている時並の音とそれこそありえない感じで海老反りになってロープを求める千石に、全員が息を呑んで10mほど後退していく。
千石が解放される。果たしてそれは佐伯の気が収まったからか、それとももう拘束する意味を失くしたからか。
解放された地面にてビクビクのた打ち回った後―――
がばりと身を起こす。
「でもサエくん!!」
『うわっ!?』
一言で曰く―――ゾンビの復活(矛盾してるが)。周りがさらに引いたところで無理もないだろう。
当事者らは特に気にせず話を進めていく。
「今の台詞ってモロに愛の言葉!? うっわー! 俺サエくんの口から初めて聞いちゃったよ!!」
「〜〜〜〜〜〜////!!??」
指摘され、ようやく自分でも何を口走っていたか理解したのか佐伯の顔が赤く染まった。
口を押さえ顔を背ける佐伯。それこそ初めて見る彼の可愛らしい仕草に、
千石の理性は一瞬でぶっ飛んだ。
「サエく〜〜〜んvvvvvv!!!!!!」
ハートマークを飛ばし佐伯に飛び掛る千石。飛び掛られ、佐伯は―――
どごっ!!
カウンター方式で顔面を思い切り蹴りつけた。
ずりずり崩れ落ちる千石を、甘さの欠片もない瞳で見下ろし、
「ははっ。残念だったな千石。お前が言ったんだろ? 『俺が騙されるのは誰?』って。
俺は誰でも騙すんだよ。
なあ、千石。本気で俺がそんな事思ってるとでも願ってたのか?」
軽く手を振り立ち去る。
消えた佐伯と崩折れた千石を一同は交互に見やり、
一斉に黙祷を捧げたのだった。
ι ι ι ι ι
「あーあ。遊ばれてんなあ、千石」
「まあいいんじゃない? それはそれで幸せなんだよきっと」
「何他人事みてえに言ってやがる。てめぇだって充分当事者だろーが」
にっこり微笑む不二の頭を、軽い一撃が襲う。
ごつんと拳で殴りつけ、
跡部は深い深いため息をついた。
「まさか俺が千石に共感覚える日が来るとはなあ・・・・・・」
―――Fin
ι ι ι ι ι
またしても《新生〜》ネタでした。あ〜なんで千石さん虎砲使わなくなったんだろう・・・。『1からやり直した』のはわかるけど、いい点まで消す必要性はあまりないような・・・・・・。
という感じでキヨサエです。最近実は多いです。好きなのかと問われるととっても複雑。とりあえずせんべと違って徹頭徹尾遊ばれそうです千石さん。直接この2人のCPというのは考えにくいのに話は(というかやり取りは)もの凄くスラスラ出てくるのは間違いなく別ジャンルの某兄弟と同じノリだからでしょう。となるとやはり極論として私がテニプリで好きなのはキヨサエとなるのか・・・!?
・・・・・・眠いです。非常に眠いです。Topにありますとおり現在校外実習の真っ最中。だらだら怠惰の日々を送っていた大学生にはツラいです週5日朝8時〜夕方5時までみっちりという、社会人としてはありがちな生活も。しかしそれで更新が止まるのも悲しいので久々に1話。あ〜こういう会話ばっかって楽でいいなあ。
ちなみにこの話、キヨサエ+跡不二ですが実はサエ総受けというか全員サエ狙いで敗者同士がくっついていた・・・りしたら大爆笑だ。
2004.9.1