橘は関東大会3位決定戦、S1にて六角中の佐伯と当たり、6−2で下した。
それ以来・・・
―――橘の胸の中で、妙なもやもやが渦巻いていた。
馬に蹴られた方がマシ?
Jr.選抜合同合宿初日の夜、この機会にとついに意を決し、橘は小さなラウンジへと佐伯を呼び出した。
「珍しいな、橘。どうしたんだ?」
確かに珍しい―――というかおかしいだろう。自分達が会うのはこれで2度目だ。それでありながらいきなり『2人きりで話したい事がある』などと呼び出せば。
きょとんとしつつもちゃんと来てくれた事に感謝する。
「ああ、わざわざ済まないな」
「いいって別に。どうせ夜はヒマだし。
で、どうしたんだ?」
5cmの身長差により成される上目遣い。自分が見惚れている事を自覚してしまえばもうこの気持ちに間違いはなくて。
「・・・橘?」
どのくらいそうしていたのだろう。さすがに痺れを切らしたらしく、佐伯が話を促してきた。
促されるまま、進める。もう後戻りは出来ない。
「あ、あの、な・・・。その・・・」
ドモる。詰まる。裏返る。
本気で常にはない様。佐伯も知り合って間もないとはいえそれを感じ取ったのだろう。ますます疑問げな顔を向けてくる。
「だから、その・・・・・・話があるんだ。聞いてほしい」
「それは既に聞いたけど・・・。でもって聞くからここにいるんだけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
どうしようもない沈黙が流れる。
「・・・・・・そ、そうだな」
とりあえず頷いて誤魔化し、
橘はきっ! と顔を上げた。
いきなりの事にだろう。反射的に身を引きかけた佐伯の腕を掴み、
―――そのまま、触れるだけのキスを送った。
「〜〜〜〜〜〜〜////!!??」
口に手を当て驚く佐伯。橘自身も自分が何をやったのかようやっと気付き、顔を赤くした。
「何・・・、だよ・・・。いきなり・・・・・・」
顔を半分以上隠したまま、しかし現れたままの残り半分―――大きな瞳と整った眉が、彼の気持ちを如実に表していた。
混乱。当り前だが。
落ち着くように息を吐き、橘は自分の気持ちを口に乗せた。
「いきなりの事で、その・・・驚かせたと思う。でもな・・・・・・、これが俺の気持ちなんだ」
「え・・・・・・?」
「佐伯・・・。対戦したあの時以来、お前の事が気になって仕方ないんだ・・・・・・」
「で、でもお前は俺に勝ったワケで・・・・・・」
「そういう意味じゃなくって・・・。だからな、その・・・・・・
―――好きになっちまったんだ。愛してるんだ、お前の事を」
「たちば、な・・・・・・?」
「だから―――
――――――俺と、付き合ってはくれないだろうか?」
「あ・・・・・・・・・・・・」
口に手を当てたまま、佐伯が一歩身を引いた。視線が彷徨う。困った眼差し。
「けど・・・、俺たちは・・・・・・」
男同士だから。
そう言おうとしているのだろう。もちろん自分だってそんな事は承知の上だ。だが―――
「ああ、わかってる・・・。けど、けどな・・・
だからってそんな理由じゃ止められねえんだ、この気持ちは」
佐伯の目を見つめ、訴える。それでも、佐伯の瞳に浮かぶものは変わらずに。
「でも、さ・・・橘。悪いんだけど、俺は・・・・・・お前の事そういう風には・・・・・・」
消え入りそうなほど小さな、それでありながらはっきりした声。決して自分の気持ちを受け入れる事はないという事か。
そう、示されてしまった。きっと今の自分はとてつもなく情けない顔をしているのだろう。
「確かに・・・・・・」
橘もまた、佐伯に合わせるように小さく呟く。反応し、佐伯が顔を上げてきた―――と思う。
「橘・・・!!」
驚く佐伯の小さな体―――本当に小さなわけではないが、それでも自分に比べれば背も低く筋肉の付きも少ない―――を、橘はただぎゅっと抱き締めた。
「な、何・・・」
「確かに、今すぐは無理かもしれない。だが、
―――少しずつでいいんだ。少しずつ、考えてくれりゃ・・・・・・。ずっと待つから・・・・・・」
「それはつまり―――
――――――清く正しく交換日記から始めて矢文へと繋げていこう、と?」
「・・・・・・。せめてメールのやりとりから始めねえか?」
「くくっ。冗談だって・・・・・・」
「そ、そうだったのか・・・・・・?」
なおも腕の中でくつくつと笑う佐伯。ひとつひとつの動作が酷く魅力的で。
「なら、この話は・・・・・・!!」
警戒を解いた様。会話の流れを聞けばその答えは・・・・・・。
期待に胸躍らせる橘へ、
返って来たのはあまりにも無情な『答え』だった。
「そのくらいなら・・・・・・。
けどやっぱ無理だよ・・・。お前の事をそういう風に思うのは・・・・・・。
たとえどんなに時間をかけたとしても・・・・・・無理だ。だから・・・・・・俺の事は―――
―――っ!」
そこで、佐伯の言葉が切れた。体を解放した橘に、今度は肩を掴まれ壁へと押し付けられて。
「橘!!」
痛みに顔を顰めつつも、佐伯の目に怒りが灯った。無理矢理こんな事をする自分に対する真っ当な怒り。頭の冷静な部分ではわかっていても。
―――激昂した部分には、むしろそんな佐伯の怒りこそが理不尽だった。
「俺は決してふざけとかで言ってるんじゃない!! 真剣なんだ!!」
「それはわかってるよ!! だから俺も真剣に受け止めて答えただろ!? 『お前の気持ちは受け取れない』って!!」
「何でだ!! メールのやり取りならいいって言ったじゃねえか!!」
「そのくらいだったら誰だってやるだろ!? 『友達』って意味で!!」
「ならそこから発展させればいいだけだろ!?」
「全然違うだろ!? お前の事は『友人』としては見れても『恋人』としては見れない!!」
「だから何でだ!! 男同士だからか!?」
「そうじゃない!! そうじゃなくって、だから俺には――――――止めろ!!」
こちらを離そうとした佐伯の手を逆に取り、壁を利用し完全拘束する。
守るもののなくなった顔へと再び顔を、今度はゆっくりと近づければ―――
「や・・・だ・・・・・・」
肩を窄め、逸らした顔の中心では瞳をきつく閉じ。
完全なる拒絶。もう駄目だ。終わってしまった。最悪の形で、この恋は。
わかり――――――だからこそ止まるわけにはいかなかった。もうチャンスはないから。だから、最初で最後の思い出が欲しかった。
詰め寄る橘。せめてもの情けで拘束した手を解放してやる。反抗の意志はとうに失くし、自分の体を掻き抱き必死で震えを止めようとする佐伯が見ていて痛ましい。
出来るだけ優しく顎を押さえこちらを向かせる。それでも開かれない瞳。無理矢理開かせた唇もまた、震えていて。
唇の距離が、限りなく0に近付いた――――――――――――瞬間。
サエにはぜひとも『姫』を演じてほしい!!
やっぱサエっていったら自力脱出でしょう!!
サエにはぜひとも『姫』を演じてほしい!! (虎跡)
「―――おいソコ!! 何やってやがる!!」
「跡部・・・」
突如乱入してきた存在―――跡部に、橘の動きが止まった。
そして―――
「景、吾・・・・・・・・・・・・」
閉じられていた佐伯の瞳が開かれる。涙の混じった綺麗な瞳。跡部の姿を見つけた途端、
―――そこから一切の怯えが消えた。
佐伯を代弁するかのように怒りの表情で近付いてくる跡部。見やる佐伯は嬉しそうに目を細め、己自身の拘束を解いた。
ばっ! と。
音が鳴りそうな程の勢いで、手の中から佐伯が奪われる。
片手で簡単に抱き締める。腕の中で、佐伯は一切暴れることもなく。どころか逆に自分も首に手を回し抱き返して。
今になって理解する。佐伯が自分の気持ちを受け取れないと言った理由。『俺には』の後に続いていた言葉。
男同士だからとか、知り合ったばかりだからとかいった理由ではなくて。
(跡部という恋人が、既にいるから・・・か)
橘の考えをトレースするように、あるいはその考えに決定打を打ち込むように、
跡部がきつい眼差しで見上げてきた。5cm弱の身長差は、今度は睨め上げるためにしか役には立たず。
自分が見下ろしているというのに、なぜか自分が見下ろされているような錯覚を覚える。あるいは2人の間にある優劣差がそれを生み出しているのか。
言う。これまたはっきりと。他にどうとも捉えようのないように。
「佐伯は俺のモンだ。勝手に手ぇ出してんじゃねえよ」
その口調に怒りはない。驕りもない。ただ決められた事を淡々と告げているだけ。
「行くぞ佐伯」
「あ、ああ・・・・・・」
一言それだけ言い残し、佐伯を引っ張り立ち去る跡部。一見佐伯が無理矢理従わされているようで―――その実佐伯もまたそれを受け入れている。望んでいる。だからこそ―――
―――引かれる手を逆に絡め、腕に寄り添っている。
幸せそうな後姿。完全に消えるまで見送り、
橘は先ほど佐伯がそうしたように、壁にもたれかかった。
手で、顔を覆う。
「ハハ。失恋しちまった、か・・・・・・」
暗いラウンジに、いつまでも橘の笑い声が響いていた・・・・・・。
v v v v v
「―――で!?」
「は? 何が?」
部屋―――誰が裏工作したか最早問う気もないが、とにかく2人用に割り振られた部屋にて、跡部はさっそく佐伯へと詰問した。その顔に浮かぶ怒りは先ほど現れた時の比ではない。
佐伯の襟首を捻り上げ、
「『何が?』じゃねえ!! てめぇ橘と何やってやがった!!」
「何・・・って、
―――普通に襲われてただけだけど?」
「それの何がどう『普通』だ!? しかも会話さりげに支離滅裂だったし!!」
「何だ。やっぱ最初っからいたのか。けどとりあえず会話に関してはまともに成り立ってなかったか?」
「成り立ってねえよ!! 交換日記から矢文じゃ立派に退化だろーが!!」
「ホラ、矢文で相手射抜いたら一気に事態発展だ」
「そういう方向に発展させんじゃねえ!! 殺してどうする!!
大体何抵抗もせずいやがるんだよ!?」
「つまり―――
――――――こうしろと?」
軽い呟きと共に、
「何っ・・・!?」
跡部の視界が反転した。
集中は上に向けたままの足払い攻撃。そこはしっかり読んでいた。払われる前に後ろに下がりやり過ごす―――つもりだった。
足を下げようと浮かせた瞬間、掴んでいた手を逆に掴まれ一気にバランスを崩された。2重のフェイント。さすがにそこまでは読んでいなかった。
隣にあったベッドへと倒れ込む跡部。あお向けとなった彼の上に、自分もそのまま倒れこんだらしい佐伯がのしかかっていた。
見下ろし、にこやかに笑う佐伯を半眼で見上げ、
「・・・・・・出来んじゃねーか」
「そりゃ、普段から鍛えられてますから」
しれっと言う佐伯に、跡部は大きくため息をついた。
「つーかそもそも何でお前橘に会いに行ったよ。夜ヒマだとかホザきやがって」
「だっていきなり橘に呼び出し食らうからさ、てっきりこの間の試合について何かイチャモン付けにきたのかと思って」
「イチャモン・・・・・・つけられるような事やったんだな。てめぇは」
「そういう断定形で訊くなよ。ただ俺は普通に負けただけだろ?」
「だからてめぇの『普通』の基準ってどこだよ・・・・・・?」
「ま、そんなトコは気にするなってv」
「んで? 何で負けやがったんだ?」
「ん? だってさ―――
―――氷帝負かした不動峰に勝っちゃったら悪いじゃん」
「勝て『普通』に!! どうせ負けたアイツらは準レギュだろーが!!」
「(さらりとスルー)というわけで再戦申し込みに来たのかなって思って。だったらぜひとも今度はボコボコにしばき倒そうかと準備万端で待ってた・・・
・・・・・・ってのにさあ」
1オクターブ下がる声。不機嫌絶好調のドスの入った声が攻撃する先は・・・・・・
「橘にはワケわかんない感じで言い寄られる・抱き締められる・挙句にキスまでされる。しかもそれ見てお前はギリギリまで出てこない。この俺の不満ってどこに向けて晴らせばいいと思う? なあ景吾」
「だったら最初っからさせんなよな!! 何好き勝手やらせてやがんだよ!! しかも白々し過ぎて寒みい芝居サービス付きで!!」
「お前がいつ止めてくれるかと期待してたんだよな。なのに全然来てくれなくて。俺は本当にお前に愛されてないんだなあって思って、危うく本気で橘と浮気に走るトコだった」
「俺はてめぇがいつ止めるか見てたんだよ!! フザケじゃ済まねえレベルまでやりやがって・・・!!」
跡部の声のトーンもまた変わった。今までの、それこそ『フザケ』のレベルではない。本当に橘を殺しそうなほどの迫力を醸し出す彼を見下ろし、
佐伯はふっ、と笑った。
とんとんと自分の唇を指し、
「なら―――
――――――消毒してくれるんだろ?」
「ったり前だ」
言葉の終わりには、跡部は佐伯の頭の後ろに手を回していた。そのまま自分の元まで下ろしていく。
橘がした、掠めるだけのものとは違う。唇を舐め、啄み、時間をかけて溶かしていく。
佐伯もまた唇を開いてきて、2人で舌を絡め合う。時に口の狭間で。時に互いの口内で。
「ふ・・・は・・・・・・」
「ん、あ・・・・・・」
2人の顔が離れる。惜しむようになおも大きく出した舌を触れさせ合い。
完全に下りてきた佐伯の体。逃がさないよう両腿で挟み込み、
「―――何? さっきの俺見て感じちゃった? ダメだよ。嫉妬で興奮なんて。クセになるから」
「ンなワケねーだろうが。てめぇは俺様の手の平で踊ってるからいいんだよ」
「いつ俺がお前の手の平で踊らされたっけ・・・・・・?」
「うっせー」
ボヤき、
跡部は再び佐伯を抱き寄せた。
v v v v v
何度も何度も抱き締め合い、疲れて眠る跡部の髪を、佐伯は撫で上げた。優しい笑みが浮かぶ。
「あれだけで嫉妬、ねえ。景吾も随分可愛いなあ。まあ、
―――喜んでいいのかどうなのか判定には苦しむけどな」
本当に橘に体を許すとでも―――本当に橘と『浮気』をするとでも思ったのだろうか?
「そんなワケないじゃん」
たとえ誰であろうと、何が起ころうと。
「俺が『浮気』なんてするワケないだろ?
俺が愛してるのは景吾・・・・・・お前だけなんだから」
耳元に囁き、閉じ込めるように口付ける。
『寝ている』筈の跡部の顔が僅かに綻んだような気がする。
確認し―――
―――佐伯もまた、綺麗な顔をより一層綺麗にほころばせた。
v v v v v
おまけ。
その後、本気で佐伯と橘はメル友としての関係を発展させ・・・・・・損ねた。
なお佐伯から送られた、最初にして最後のメールは、
<この間の借りを返すためにも、合宿中に、全力でぶっ潰してやるから首洗って覚悟しとけよv
ああ、切原ン時みたいに足痛めたとかそういうイイワケは使うなよ? 人としての質疑うからな?>
―――さあ! 最も上手だったのは誰だ!?
v v v v v
・・・というような(右上参照)オチを実は不二リョパラレルでもやったような。まあそれはいいとして橘→佐伯。本気でやってるし。しかも橘がなぜかJr.選抜合宿に参加しているとかいうありえない設定で。
ちなみにこれ、橘→佐伯はそのままですが、佐伯と跡部に関しては虎跡のつもりで書いていました。さて、読む側からするとどちらに見えたでしょう? 曖昧にするためにも? あえて実際やってる場面すっ飛ばしてみましたが。しっかしサエのドス黒さがイマイチ書ききれなかったような・・・・・・(これでか?)。
2004.10.2〜10.4
戻る
やっぱサエっていったら自力脱出でしょう!! (跡虎)
「――――――やめろっ!!」
ドン―――!!
「うおっ・・・・・・!?」
音は1つだった。そのひとつの音の間に、橘は頭突き拳エルボー膝蹴り踵落とし挙句に極め技関節外しと悪の限りを尽くされた。
地面をのたうち回る橘を見下ろし、
「お前がそんなヤツだったとは思わなかった!!」
台詞だけは可愛らしい感じで、さらに佐伯は橘を蹴り飛ばし踏みつけ走り去っていった。
尚も暫し悶絶し・・・
「・・・・・・むしろお前がそんなヤツだとは思わなかった・・・・・・」
橘は、小さく小さく呟いていた・・・・・・。
v v v v v
さてラウンジのすぐ外にて。
ドン―――!!
「ぐっ・・・・・・!!」
同じような音と同じような呻き声。違うとすれば今度こそ1つの音で1つの事しかなされなかった事か。・・・・・・いやそんなささいな事はどうでもいいとして。
「で、どういう事かなあ?」
「あ・・・? な、何がだよ・・・・・・」
壁に押し付けられ、吊るし上げられ。
苦しそうに問う跡部に、佐伯はそれはそれは綺麗に微笑んだ。
「俺今橘に襲われてたんだけど?」
「どっちかっつーと・・・・・・てめぇの方が橘襲ってたんじゃねーのか・・・?」
「口答え不可」
切捨て、
佐伯は今度こそ跡部へと襲い掛かっていった。
噛み付くように、キスをする。
「ん、うあ・・・」
「はっ・・・、んう・・・」
だらりと垂れ下がっていた跡部の手が、佐伯の腰と後ろ頭へと回される。佐伯もまた襟から離した手を跡部の首に絡め・・・
「あう・・・、ふ、ん・・・・・・」
「あ・・・、ふは・・・」
延々と、どれだけ続けていたのだろう。
離れてなお、佐伯が蠱惑的な目で跡部を捕らえ続けた。
絡めていた手を片方だけ外し、襟元から顎の下までつーっと撫で上げ、
「ダメだよ、俺から目離しちゃ。何するかわかんないぜ?」
にやりと笑い、今度は一転、触れるだけのキスを送る。
「自覚してんだったら自制しろよ・・・・・・」
「それを止めんのがお前の役割だろ?」
ん? と首を傾げる佐伯。ぬらりと光る唇に貪り付き、
「ああ全くだな」
頷き、跡部は佐伯を横向きに抱き上げた。
「とんでもねえじゃじゃ馬のお前は、俺様直々に躾施してやるよ。ありがたく思いな」
「んじゃ、ありがたく受けさせてもらおっかな」
v v v v v
自分の腕を枕に幸せそうに眠る佐伯。見やり、跡部はため息をついた。
「ったく・・・。本気でとんでもねえじゃじゃ馬だな」
『好みのタイプ=束縛する人』は伊達ではない。佐伯は一瞬でも目を離せばすぐあちこちフラフラする。しかもわざとそれをこちらに気付かせる―――こちらがわかっていると知った上でやるのだから尚更タチが悪い。浮気性・・・なのではない。そうやって、こちらが引き寄せるのを待っている。構って欲しくてワガママを言う子どもと同じだ。
だからこそ放っておいた。ちょっとしたお灸のつもりで。放っておかれた『子ども』がどうするか知りたくて。
結論から言えば本気で佐伯はガキだった。放っておかれれば寂しくて戻ってくる。ただし・・・
(しっかりしっぺ返しして、な・・・)
橘にキスまでさせた。思い出すだけではらわたが煮えくり返る。
煮えくり返ったまま、
「まあいい。これで他のヤツにゃいい牽制になんだろ」
躰中についた鬱血痕に、口端を吊り上げる跡部。腕は枕にしたまま顔を起こし、耳元に吐息を吹きかけた。
「なあ佐伯、てめぇは誰のモンだ? 俺様のモンだろ? ああ?」
ハスキーボイスで囁き、閉じ込めるように口付ける。
『寝ている』筈の佐伯がぶるりと躰を震わせる。
確認し―――
―――跡部もまた、綺麗な顔に妖艶な笑みを浮かべた。
v v v v v
おまけ。
橘は実は華村班である。跡部と同じ。
というわけで・・・
「破滅への輪舞曲を喰らいな!! オラあ!!」
どごっ!!
「う、が・・・・・・」
合宿期間中、跡部はめでたく煮え繰り返ったはらわたの報復をする事が出来たのだった。
なお佐伯の方は・・・
「ねえサエ・・・」
「ん?」
「ジャージしっかり着込もう、とか思わないの?」
「何で? 暑いじゃん」
「・・・・・・。別にいいけどね、僕は」
開けられた胸元に、捲くられた肩に、さらに舞い踊るポロシャツの下各所に。
隠すどころか堂々見せびらかされるキスマークに、
榊班は慣れた不二を除き全く練習にならなかったという。
―――さあ! 最も上手だったのは誰だ!? Mk.2
v v v v v
という事で、今度は跡虎編でした。すっ飛ばした以上どうでもいい事なのですが、裏的な事を考える上では虎跡よりなぜかこちらの方がやりやすかったりします。なんでだろ・・・? 不思議だな・・・・・・。
さてそんな感じであり得ない話に分岐点まで出来てます。果たして橘はどちらになった方が幸せだったのか!? そういえばコレというかこの話全体。ウチのサイトでは攻めより受けの方が強いというのを端的に現したという感じですね。普通逆に捉えるでしょうから分岐点でCP表示はしていなかったりします。
2004.12.23
戻る