合宿といえば厳しい練習。疲れてヘロヘロやる事だけやって早く寝る――――――などという事は絶対ない。
 「あ、ねえねえ卓球台あるよ!」
 「へ〜。気ぃ利いてんじゃん」
 「ここはひなびた温泉か・・・・・・?」
 「んじゃ〜さっそくやろーやろー♪」







深夜のお遊び









1.カラーコーン練習



 「青学ではよくやる練習なんだけど、動体視力と反射神経を鍛えるんだ」
 そう言い、不二が取り出したのは見慣れたコーンのミニチュア手の平サイズ(お前はわざわざ用意していたのか? とその場にいた全員に突っ込ませた)とさらに色つきピンポン球・・・・・・
 「・・・・・・なあ」
 練習相手(予定)の跡部が半眼で呟いた。動体視力は少なくとも自分の弱点だと思わない程度にはある。それに関しては問題ない。
 が・・・・・・
 跡部のボヤきを無視し、
 不二が説明を続ける。
 「で、やることは簡単、この青・紺・群青色の球をランダムに打つからそれと同じ色のコーンに―――」
 「見分けなんぞつかねえよ!!」




2.スマッシュ練習



 「つまりは去年の
Jr.でやったヤツだね」
 「去年の・・・って―――僕参加してないんだけど」
 次いで千石の提案。首を傾げた不二が実験台―――もとい練習相手となった。
 「んじゃ俺がスマッシュで打つから、不二くんは俺に球上げてね。それを何回も繰り返すんだ。本当は1対4でやるんだけど、卓球台小さいから1人でいいっしょ?」
 「うんわかった」
 「じゃあさっそくやってみよう」



 ―――という事でやってみた。



 千石のスマッシュを、
 「羆落とし!」
 事ほど左様にあっさり返す不二。返して・・・
 「周ちゃん失格」
 「え・・・?」
 「卓球はテニスと違ってボレー厳禁だ。サーブ除き必ず1回は相手コートにつかないといけねえ」
 「ちなみにサーブの場合は自分のコートと相手のコートに1回ずつ、計2回ね」
 「じゃあ・・・・・・」
 呟く不二に、
 3人揃って重々しく頷いた。
 声までハモる。
 『不二、反則負け』
 「・・・・・・・・・・・・」




3.実践練習



 「もうちょっとまともに行こう。実践なんてどうかな?」
 「そうだね」
 「それもそうだな」
 「じゃあそれで決定、と」
 佐伯の提案に、特に―――というか最早反対する理由もなく、かくて実践練習が行なわれる事になった。ちなみに『実践』な時点で『練習』ではないのではないかと質問が来そうだが、あくまでこれは『練習』である。誰が何と言おうとも。
 ・・・などと念を押すのにはもちろんそれなりのワケがあるからだが。
 「佐伯と千石か・・・・・・」
 「先読み対決とか見られそうだね」
 「いや、そりゃ無理だろ・・・・・・」
 「?」
 今回見物人となった跡部と不二の会話。ラッキーはないが悪い事にはよく働く彼の勘が、
 ―――まさか的中するとは、彼自身思ってもみなかった。



 始まった試合・・・もとい練習。不二の期待通り先読み対決となり・・・
 すこけーん!!
 「うごわっ!?」
 先に『倒された』のは千石だった。佐伯はどれだけの馬鹿力で打ったのか、後ろによろめき文字通り倒れ・・・・・・そして動かなくなる。
 「あれ・・・?」
 首を傾げる佐伯と不二に、
 跡部は腹筋胸筋全てを駆使してため息をついた。
 「卓球の球がどれだけのペースで互いの間行き交いすると思ってんだ? 『先読み』なんぞ悠長な事やってりゃ対応出来ねえに決まってんだろーが」
 「おお! そういえば!」
 「気付けてめぇもさっさと・・・・・・」
 こうして、勝負はこの上なく明確な形で佐伯の勝利となった。




4.ゾーン練習



 「再び青学の練習に戻って、今度はゾーン練習ね」
 「ああ、打てる範囲限定してやるあれ?」
 「そうそう」
 「つってもそもそも卓球台自体小せえんだから制限してあんま意味なくねえか?」
 そんな何気ない跡部の疑問は―――
 ―――見事墓穴として返って来た。
 「だから、範囲を狭めるんだよ」
 と言い、小道具3号として今度は小さなループを取り出す不二。直径
15cm程度の白い輪っか。まるで○×ゲームでもやるかのように(ただしこれだと○の圧勝だが)、9箇所に配置していく。
 「なるほどね。この9箇所限定、と?」
 「片方はね」
 「・・・もう片方は何なんだよ?」
 「9箇所厳禁。輪っかの外に打つ。どう?」
 「ふーん。ま、いいよ」
 「いいんじゃねえの?」
 というわけで、練習は同意した佐伯と跡部により行われる事になった。
 気絶したままの千石を放って、事態が進んでいく・・・・・・。



 「じゃあサエが9箇所、景がそれ以外ね」
 「よしよし。わかりやすくていいな」
 「クソッ・・・。なんでこの俺様がンな隙間縫うような真似を・・・!!」
 「頑張ってねv 景vv」
 「ま、まあいいけどよお・・・・・・」
 「遊ばれてんな〜お前・・・」
 「うっせー!!」



 佐伯がサーブを打つ。9箇所限定の佐伯は己のコートでもちゃんとそれを守った。
 自分の陣で、跡部の陣で。2つのループをバウンドさせる佐伯に対し、跡部はループを外したところに狙いをつける。今度は佐伯も先読みはしなかったらしく、ちゃんと対応してきた。
 ピコンパコンと激しく鳴り響く打ち合い音。不二も1歩下がって全体を見ればいいのだろうに、テニス以上のせわしなさで首を左右に振る。恐らくあと5分ラリーが続いたら今度は不二が倒れるだろう。
 それを気遣ったわけでもないのだが、
 跡部の打った球が、バウンド後かなりの勢いで跳ね上がった。
 かろうじて追いつく佐伯。返しはしたが、体勢を立て直すため2・3歩後ろに下がった。今跡部がネットぎりぎりに落とせば拾えはしないだろう。
 が、
 「オラァ!」
 跡部はさらに力を篭めて打った。またしても勢いよく跳ね上がる球。
 「・・・っと」
 佐伯もジャンプして何とか拾いはしたが、着地点はさらに後ろへと下がった。今度こそネット際に落とせば跡部の勝ちだろう。
 再び『が、』
 「ハッ!」
 「うわっ!?」
 三度『が、』
 「オラどうした!」
 「いやあのちょ・・・!!」
 四度『が、』
 「返してみろよ!」
 「だから待てけい・・・!!」
 1球打たれるごとに後ろに下がっていく佐伯。それでも返す(もちろんちゃんと輪っか内に)根性と球のコントロールは目を見張るものがあるが、
 ―――それ以上にいろいろ思うのは跡部に対してだろう。
 不二の首振りテンポが遅くなった。代わりに角度が大きくなった分、次は筋を痛めそうだ。
 そして・・・・・・



 ピコ・・・ピコ・・・ピコ・・・・・・
 「くっ・・・! この俺様が失敗しただと・・・!?」
 「いやだからさあ景吾・・・。
  ――――――お前手前に落とそうとかそういう事考えないのか?」
 「・・・あん?」
 「あのね景・・・、
  僕は『9箇所以外に打て』ってルールを作りはしたけど、あくまでそれ以外は指定してないんだからわざわざサエがいるところに打たなくてもよかったんだよ?」
 「それじゃ練習になんねーだろ?」
 「卓球においては台から
15mも離れて打ち合う練習の方が必要ないんじゃないかな・・・・・・?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 佐伯が現在いる位置を確認する。小体育館といえるほどに広めの空間だったのだが・・・・・・随分と端っこに行ってしまっていた。
 のんびりと戻って来る佐伯。のんびりと戻って来て、
 跡部をぎゅっと抱き締めた。
 言う。
 「そういうお前が大好きだよ」
 「うっせえ!!!」










 こうして、限りなく無駄だった1日が終わっていく・・・・・・。



―――Fin












 ―――まったくっだらない話書いてみたりしてます。そういえばJr.選抜の更新は久しぶりだなあ・・・。では各話の解説? を。
 1:不二のボケと跡部のツッコミがやりたい一心でこの話全体が出来たりしました。こんな練習を本気でやったら一番困るのはゲーム(プレステなど)をやるプレイヤーだろうなあ・・・。
 2・3:ここらは普通なので? 普通な感じで。アニプリでリョーマが卓球やる話あったんですけど、いくら『テーブルテニス』とはいえまずバウンド回数が違うんだから普通にテニスの技は使えないだろ・・・と思うんですけどねえ。ちなみに先読み対決。やろうと思ったら出来るんでしょうね・・・。
 4:これは言わせて下さい。元ネタというか実際卓球の試合でありました。それも公式の試合で。本当に軽く
10m以上下がった相手に必死で打つんです。ちなみにそれやった人が負けました。見てた誰もが突っ込みました。「手前に打てよ・・・」と。ああなるともう意地なんでしょうかねえ?
 ではv

2004.10.1311.29