誰が不二と一緒にお風呂に入るか。それが本日一番の難題だった。







スポーツマンシップ 〜清く正しく美しく〜






 「俺が入りますよ。おんなじ学校だし、この間の合宿でも一緒に入りましたし」
 まず名乗りをあげたのは青学期待のルーキーにして期待されていない事ほど頑張る越前リョーマ。
 「え〜? じゃあ今回別にいいじゃん。おんなじ学校なら尚更? だったら今回は学校も違うし入ることもそんなにない俺に譲るべきだって思わない?」
 へらへら笑いで牽制しつつ相手の神経を逆撫でするのはご存知『食わせ者』千石清純。
 「変態は黙ってろ。てめぇと一緒に入れとくと何するかわかんねえ。ここは俺様が一緒になるのが当然だろ?」
 3人目の立候補者は跡部景吾。一見不二を心配しているようで結局自己推薦に終わらせる辺りさすが俺様万歳
No.1。
 「変態勝負じゃお前も負けてないだろ? どう? 周ちゃん。俺が優しく洗ってあげるよ?」
 それこそ変態ど真ん中ストライク的発言をする佐伯虎次郎。不毛な争いを避け直接本人にアピールする様は、実は4人中最も賢いやり方だ。
 「別にみんな一緒でいいんじゃないの?」
 『却下』
 「?」
 首を傾げる不二の前で、4人は尚も醜い自己主張を続けた・・・・・・。



 
10分ほど後、
 「だったらじゃんけんとかで決めたら?」
 首を傾げたままの不二の発言により、難題解決はそういう方向へと持っていかれた。






1.じゃんけん(提案者:不二)



 「じゃあ勝った人が―――」
 「ああ、ちょっと待って」
 「一緒に入るんだったら不二くんだって気の合う人がいいっしょ?」
 「まあそうだねえ。でも別に―――」
 「なら同じモン出したヤツにすりゃいいんじゃねえの?」
 「いいっスね、それ」
 「まあ別に僕もいいけど?」



 というわけで、じゃんけんが行われた。






 「・・・・・・なかなか決まらないね」
 「何でだろ?」
 「偶然だろ?」
 「きっとみんな周ちゃんと気が合うんだよ」
 「そういうものなの?」
 「そういうものっスよ」



 動体視力の優れた4人。もちろん不二が出す手を見て変えていたのだが、自身がそういう事を出来ない不二はそういう事を考えもしないらしい。
 
35回『偶然』が続いた時点で誰もがこの勝負の意味のなさを悟った。





 「決着付かないね。どうしよう?」
 「他のにしようか」





2.くじ引き(提案者:佐伯)



 「じゃあ周ちゃんはこっち持ってね」
 「うん」
 「で、誰がどれ引くか選んでな。3本はハズレでただのひも。1本は周ちゃんの持ってるのと繋がってるから」
 「ど〜れにしよっかな〜♪」
 「なら俺コレ」
 「俺はコレだな」
 「2人とも早ッ! まあ、残り物には福があるって言うし」
 「なら福があんのは俺か」
 「ゔっゔっゔっゔっゔっ・・・・・・」



 「せーので行くぞ。全員思い切り引っ張れよ」
 『せーのっ!!』



 「うわっ・・・!!」
 引っ張られ、思い切り不二が前に転倒した。全員に引っ張られ
 「大丈夫か周!?」
 「あ、大丈夫。絨毯がクッションになったし・・・」
 ついた埃を払いつつ起き上がる不二。起き上がり、逆に尋ねた。
 「で、なんでみんなも転んでるの?」
 「え? いやあまあこれはいろいろあってねv」
 いろいろあった。転びかけた不二を助けようと駆け寄りつつ他者を妨害しそれに歯向かい。もそもそ起き上がる4人の顔体には、不二には全くつかなかった怪我の数々が見られる。
 あっさり彼らには興味を無くし―――いやどちらかというとこっちの方が興味があるからか―――不二が持っていたひもを掲げた。ひもの中央部にある、でっかい結び目を。
 「なんで・・・・・・全部繋がってるんだろう?」
 「なんでだろうな?」
 「不思議だな」
 「怪奇現象だ!」
 「アンタいくつっスか・・・?」
 「まあとりあえず、ほどいたらどれが当たりかわかるよね」





 が、どうやらこれは本気で怪奇現象だったらしい。全員の怨念の篭った結び目は、天才の力を持ってしても解く事はできなかった。





 「仕方ないね。他の勝負にしよっか」
 「んじゃ次は俺が決めるっスよ」





3.あみだくじ(提案者:リョーマ)



 紙に書かれた4本の線。下にはそれぞれ『跡部』・『越前』・『佐伯』・『千石』(あいうえお順)。
 「じゃあ先輩、上に自分の名前書いて下さい」
 「え? でも横線引かれてないよ?」
 「先輩が選んだ後に引くんスよ。公平でしょ?」
 「ああなるほどね」
 ちなみに作った者と選んだ者が別ならば、普通に作って下は見せず選ばせるのが一番公平なのだが・・・・・・。



 「じゃあ僕はここで」
 「んじゃ線加えるっスね」
 リョーマが線を加えた。2本。もちろん2列隣にいた自分の元へ。
 後ろで跡部がムっとした。



 「もっと加えねえとアミダっぽくねえだろ」
 跡部がさらに2本加えた。これで『不二』が自分の元へと戻ってきた。



 「だったらもっと加えなきゃ」
 跡部の手からシャーペンを抜き取り、千石が5本加えた。逆走して『不二』が自分のところへ来る事を確認する。



 「その理屈だったらこの辺空いてないか?」
 自分でシャーペンを持ち出し、佐伯が8本加えた。曲線など入れ複雑に絡めさせあい、『不二』を自分の元へと導く。



 「いや―――」
 
10本。
 「いやいや―――」
 
13本。
 「いやいやいや―――」
 
15本。
 「いやいやいやいや――――――」
 
20本。





 「あのコレ・・・・・・線どこ?」
 『さあ?』
 真っ黒になった紙を見下ろし、
 全員で首を傾げた。
 「次行こうか・・・・・・」
 「あ、んじゃ俺にいい考えあるよv」





4.くじ引き2(提案者:千石)



 缶の中に割り箸が4本刺さっている。
 「それぞれの先端に色が塗ってあるからね。まず不二くんが引いて色を指定する。それと同じ色を引いた人が当たり、と」
 「ちなみに何色入れたんだ?」
 「不正防止
エメラルドグリーンラベンダーアクアブルーオリーブ色
 「それでなんで不正防止なんスか?」
 「つまりは半端な色にする事で同じ色を作り辛くした、ってワケだ」
 「千石君頭いいね〜」
 「いやあ。そんな事ないさ」
 不二に誉められあははと笑う千石にその他3人の殺気が突き刺さる。
 これまた特に気にされず、不二がまず1本引いた。



 「あ、
ローズ
 「はい?」



 不二の手に握られた割り箸。ピンクより赤みがかった先端に、千石が思い切り声を上げた。
 「なんで、ローズ・・・?」
 呆然とする千石に、クッという小さな笑いが届けられた。
 「馬鹿かてめぇは。先に色言ったら変えるに決まってんだろ? いくら半端な色だろーが作ったてめぇなら複製し放題だからな」
 「ま、まさかじゃあ跡部くんが・・・!?」
 「バーカ。俺がやったんなら言うワケねえだろ?」
 「だ〜れがやったのかなあ?」
 「不思議っスね〜」
 「・・・・・・犯人確定じゃん」
 誰がやったかはともかく、3人の内誰かがやったという事はもう絶対間違いなく!!
 「どうしようか。続ける?」
 『へ・・・・・・?』
 「別に色違っても問題ないでしょ? じゃあこれはそのまま戻して―――」
 『どおおうわああああ!!!』
 目の前で堂々行われた明らかな不正しかも自白付きを全く気にせず続けようとする、ある意味天晴れな精神の持ち主不二を全員が全力で止める。仕掛けに関与していない者は同じ色の割り箸を持っていないから。そして仕掛けた当人は、不正を誤魔化しなおかつ勝負をうやむやにするため全部違う色を入れてしまったため。
 ―――つまるところこのまま勝負を続行したならば、それは限りなく公平なものとなるのだが・・・・・・
 「ほ、ほ〜ら不二くん。一回なんかあった以上またなんかあるかもしれないし、ね?」
 「そうそう。このまんま続けるのは危ないっスよ」
 「ならこの勝負は止めるべきだな」
 「次は何あるかわかんないし」
 「そうなの?」
 『そう!!』
 「・・・じゃあ、次」
 「ならここは俺の出番だな」





5.ポーカー(提案:跡部)



 「1回引いての一発勝負。ディーラーは公平になるように周。でどうだ?」
 「なるほどなあ。それなら
イカサマのし様はないしな」
 「じゃあ配るよ」



 そして配った。配られたのを見た。
 『ゔっ・・・・・・』



 「せーので開くよ。行くよ。せ〜のっ!」
 ぱら・・・
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全員ブタ?」
 「勝負運ないね、アンタたち」
 「てめぇもだろーが」
 「どっかの誰か、日々周りに『ラッキー』なんて言われてなかったっけ?」
 「おっかしーなあ。俺ポーカーでブタだった事ないのに」
 「まあ、次はワンペア位出るよね?」



 再び配られた。再び配られたのを見た。
 『ぐっ・・・・・・・・・・・・!!』





 「―――そ、そんな全員落ち込まないでよ。うん。仕方ないよ。こんな事もあるって」
 「いくらあるにしても・・・」
 「
40回連続全員ブタって・・・・・・」
 「見ようによっちゃロイヤルストレートフラッシュなんぞより遥かに珍しいな・・・・・・・・・・・・」
 「という事はやっぱラッキー!?」










 かくて、不正にはとことん強いが正当勝負にはとことん弱いらしい4人は、
 「仕方ないね。全員で入ろうか」
 「ええ!? 嫌っスよそんなの!!」
 「ざけんな! なんで俺がてめぇらと入んなきゃなんねーんだよ!!」
 「サエくんってば冗談キツすぎ!!」
 「まあ全員聞けよ。
  ―――このままだと周ちゃんが痺れ切らして先1人で入っちまうぞ」
 小声で佐伯が耳打ちする通り、勝負に熱くなる一同と対照的に何もする事がない不二はソファに座ってこっくりこっくり舟を漕いでいた。現在午前1時
32分。仮に痺れを切らさなかったとしても、合宿初日で疲れている上明日からも練習がある以上このままならば不二は本気で寝入ってしまう。
 「・・・・・・仕方ないっスね」
 「じゃあ今日はとりあえず休戦って事で」
 「決着は明日だな」













































 風呂の準備をし終えた不二。風呂場入り口で待つ。が・・・・・・
 「遅いなあ4人とも。どうしたんだろう・・・?」
 彼ら4人の支度が特別遅いワケではないだろう。いつも自分が遅くて待たせてしまうのだから。ならば・・・
 「とりあえず、電話でもして・・・・・・」
 持っていた携帯でかける。かける。かける。かける。
 「・・・・・・・・・・・・おかしいなあ」
 誰一人として出ない。別に充電が切れている事もないだろう。
 面倒くさがりなリョーマも今日来る前に家族に充電されたと言っていた。携帯使用の多い千石と跡部が充電切れまで放っておくとは思えない。佐伯は電気代タダ(少なくとも自分が直接払いはしない)合宿中ならむしろ進んで充電に取り組むだろうし。
 「仕方ない、か・・・」
 先に風呂に入っている旨を伝えるメールを打ち、不二は1人で風呂へと入っていった。















































 明かりの灯っていない部屋にてメール着信音が響く。
 点滅する携帯のライトが、










 ――――――絨毯に横たわりピクリとも動かない4人を映し出した。



―――Fin













 ちょっとそれこそ怪奇現象ちっくに落としてみました。さて問題。風呂の準備のため部屋に戻ったはずの4人。全員部屋が違うであろう彼らがなぜ全員部屋で倒れられたのか。もう少し言えばラスト1人はどうやって自分の部屋まで戻ったのか。答えは『自室』とは書いていないから・・・・・・ではあるのですが、出来ればそこはスルーして怪奇現象として捉えて下さるとありがたいです。これらの説明ごと入れると何だかクドいもので。
 さてアンケートにて絶大な? 人気を誇る『ひたすら暴れる幼馴染』。今回リクエストも多かった+1で不二総受にてお送りしました。ん? 『+1』? 何かまたしても多いぞ? だって不二絡みというとどうしてもリョーマを出したくなるんだよ〜〜〜〜〜〜!!!!!! 哀しき不二リョ不二好きの性・・・。最早本能どころか脊椎反射で出てしまう私をお許し下さい(無理)。
 というわけで、アンケートのコメントにて幼馴染かつ不二総受けをリクエストされる方々、かなりの確率でリョーマも乱入してきそうですがよろしいでしょうか・・・・・・?(ドキドキ)

2004.12.26