○月☆日 晴れ

 合宿も今日で折り返し。本日まで主に選手候補の者らを取り上げてきたが、残りはそれ以外の者―――それ以外で特に青学部員に影響を及ぼす事の多い者に焦点を当ててみようと思う。
 1回目。手塚のライバルとなるであろう真田と跡部のデータ収集は既に終わっている。越前に対してもほぼ同じメンツのため省略する。
 次はかの天才に関わる人物と行こうか。







  ざ☆犯罪2 〜対佐伯〜








1―――

 ターゲットの部屋へと侵入成功。佐伯は同室の伊武と共にのんびりと眠っていた。最初にこの部屋割りの解説を入れておくと、これらは全てくじ引きによるものである。このためこの部屋のように他校混合となる事もある。逆に越前と桃城のように同じ学校同士となる場合もあるわけだが。
 現在午前4時
20分。なぜここまで早く侵入しているかというと、事前に得ていたデータによると佐伯の起床時間が4時半であるらしいからだった。伊武の6時は朝練がある者として割と平均的であるのに対し、なぜ佐伯はこうも早いのか。どうも六角全体がこの風潮であるらしい。つまり―――全員で朝飯を食べてから練習するらしい。しかも自分たちで採って獲って作って。このため朝練は7時からだが集合は5時半となる・・・・・・これでも早い。食事を抜けば準備など30分もあれば余裕で終わるだろうに。佐伯の髪型を見れば時間をかけてセットしているようにはとても思えない。現に佐伯はワックスなどの類を一切使っていない。睡眠時間よりも優先させるものとは果たして・・・・・・。
 その謎が―――今日解ける。
 (そろそろ時間か・・・・・・)
 クローゼットに身を潜め、隙間からカメラを覗かせ待つこと少し。
 4時半まで後5秒・・・・・・。4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・
 「はあ。よく寝た〜」
 (〜〜〜〜〜〜!!!???)
 ジャスト0。毎日明石からの電波を感知し正確な時刻を刻む時計が4時半になった途端、佐伯は布団から身を起こした。
 (佐伯の体内には時計が仕込まれているのか・・・!?)
 思わずそんな事を本気で考えてしまうほどの起きっぷり。寝起きの様と血圧は関係ないと言うが(実際あったとしたら中年男性の寝覚めはさぞかしいいものだろう)、それでも今の佐伯の様を見たら「コイツは高血圧だ」と誰もが思うだろう。
 ベッドから起きる佐伯。布団をたたむ姿からも眠そうな感じは全く見られない。これが菊丸辺りなら「後5分〜」に始まり「うひゃ〜」とロレツの回らないネコ声でゾンビの如く起き、だらだら支度をしている間に遅刻寸前となりようやく目を覚ますのだが(そして越前ならば全ての過程を飛ばし遅刻寸前までまず起きないのだが)。
 それに反し朝から爽やかな佐伯は、暗闇の中でいきなりストレッチを始めた。伸び・・・ではない。それにしては本格的過ぎる。さぞかし隣で寝ている伊武は迷惑な事だろう。
 (―――というわけでもない、か)
 佐伯は一時期剣道をしていたという。見れば確かに納得だ。これだけ動き回っていながら、佐伯は決して空気を揺らしてはいない。剣道はありとあらゆるものを手がかりに、相手の先を読むスポーツだ。わざわざ空気を掻き乱し相手に気取らせる真似はしないという事だろう。
 静かなまま、佐伯の運動がますますエスカレートしていく。パジャマなど持ってきていないためかいつもそうなのか、動きやすい部屋着の伸縮性を存分に生かしストレッチから筋トレに。
 そして・・・
 「よっ、と」
 (何・・・!?)
 あろう事か、佐伯は窓から下へと飛び降りてしまった。ここは2階(ただし地面は5mほど下だが)。それも入り口割とそばにて真下はコンクリートの道路。わざわざ階段を下りて回るよりは直接降り、改めて入り口で靴に履き替えた方が便利というワケだ。ただし・・・・・・それが出来るなら。
 当然普通は出来ない。5mの高さから固い地面に向け何の準備もなく飛び降りるなど。
 棚から出、俺は窓の下を見下ろした。予想通り佐伯は入り口に向かっていた。
 「ふふふ・・・。やるな佐伯・・・。
  だが―――!!
  この程度で欺けるほど俺は甘くはないぞ!!」
 取り出すはこんな事もあろうかと持っていたカギ縄。あらかじめデータを仕入れておけば、確率は低かろうと佐伯がこのような手に出る事は可能性として考えられていた。そして・・・・・・
 「可能性が1%でもあるのならば俺は絶対見落とさない・・・!! お前の言動は完全に捉えたぞ! 佐伯!!」
 俺は部屋にて堂々宣言をし、カギ部分を窓枠に引っ掛けた・・・。







秘     秘     秘     秘     秘








 「―――というワケで落ちたみたいなんだけど、どうしよっか?」
 《別にそのままでいいんじゃないかな? 落ちた乾のせいなんだし》
 「ああ、それでいい?」
 《いいよ。練習前には気付くでしょ?》
 「ま、何だったら戻る時起こせばいっか。
  ありがと周ちゃん。そんじゃ」
 《またね、サエ》
 携帯を切り(出る前に念のためと持って行っていてよかった)、
 佐伯は改めて足元を見下ろした。足元―――自分が先ほど飛び降りた地点にて地面に頭をめりこませ気絶する乾を。
 見下ろし、呟く。
 「言っちゃなんだけど・・・・・・。
  俺のデータ取る前に・・・・・・自分のデータ取った方がいいんじゃないか・・・・・・?」













 ―――これでいいのか乾像。そんなハズじゃなかったのにカギ縄持たせた途端落としたくてたまらなくなりました。

2004.12.312005.1.1






2―――

 さていろいろあったが今度こそ気を取り直して佐伯の追跡を始める。まず向かったのは食堂。腹ごなしを・・・出来るわけはないだろう。職員達もようやく準備を始めた頃なのだから。
 「あら、佐伯くん」
 「いつも早いなあ」
 「おはようございます。今日も頑張って下さいね。美味しいの、期待してますよ」
 「あらあら、佐伯くんにそう言われたら頑張らなきゃv」
 「ははっ。君こそ頑張れよ」
 挨拶を終え、佐伯は出て行った。外にて、再び軽くストレッチ―――というかウォーミングアップか―――をし、走り出す。つまりはランニング。
 (なるほどな。これが
30分早く起きる理由か・・・)
 普段行う朝連のさらに前にトレーニングをする。さして珍しいものでもない。逆に青学レギュラーで行っていないのは朝から店の手伝いに忙しい河村、学校に来て鍵を開け準備をしている大石、遅刻魔の菊丸・桃城・越前、練習全体をあまり行わない不二・・・・・・この話題はなかった事にしよう。
 走る佐伯。もちろん後ろから追っていく。追って・・・・・・
 「む・・・・・・?」
 (速いな・・・・・・)
 走りながら、カメラの液晶部でタイムを計る。1キロ3分台。さてこのペースでどこまでもつか。
 と―――
 「止まった・・・・・・?」
 佐伯がぴたりと止まる。こちらも気付かれないよう物影に隠れた。
 一方向―――正面ではない―――を向き、佐伯は考え込むよう軽く俯いた。
 そちらにあるのは、海だった。
 (まさか・・・・・・)
 思う間にも、佐伯はそちらへ走っていった。ジャージの裾をまくり、靴を脱ぎ捨て、海へと駆け寄っていく――――――
 ――――――かと思いきや、いきなりその場でしゃがみこんだ。
 「お、アサリ見っけ」
 だがしゃん!!
 (・・・・・・・・・・・・)
 砂浜にめり込んだカメラを掘り起こし、壊れていないか確認。データマンとしてあるまじき失態だが、今の佐伯の行為にコケずにいられた者は恐らく
10%に満たないだろう。
 尚も暫く撮る。が、あまりに変わらない姿に、俺は一抹の不安を覚えた。
 (これはもしや・・・・・・戻って伊武のデータを収集していた方が有意義なのではないか・・・・・・?)







秘     秘     秘     秘     秘








 乾の消えた砂浜にて。
 「あ、真珠発見。大体2千円ってトコか。ま、1個あったんなら上手くいったら他にもあるかな?」
 アサリの中に入っていたそれ―――白っぽい塊に口笛を吹く。アサリの真珠は、宝石としての価値はスカだが希少性に関しては本家本元のミルク貝産物を遥かに凌ぐため(当たり前。真珠を獲るために育てられたりしていないのだから)、一部のマニアには割と高額で売れる。
 失くさないよう小さながま口財布に入れ、佐伯はパンパンと膝をはたいた。
 「さって、そろそろ朝メシの時間かな? 学校と違ってみんな来ないからわかりにくいな・・・」
 佐伯が早起きな理由。ここまで来れば簡単だろう。みんなが来る前に辺りのアサリから真珠を探していたからだと。
 「あ、そういやアサリどうしよう。持って帰ってみそ汁でも作ってもらおうかな・・・。
  ―――あ〜樹っちゃんのみそ汁飲みたいな〜・・・・・・」













 ―――念のためなのか当たり前なのか、この話は佐伯×樹ではありません。ただ味噌汁というと樹っちゃんだなあ・・・と思い出しただけで。ちなみにアサリの真珠は某無駄知識番組より。ホントにこんな感じだそうです。ただしこんなものを買い取る人がいるかは不明ですが。

2005.1.1






3―――

 練習が始まる。同じ班にかこつけ堂々観察。別に大した事は行っていなかった。
 午後になる。やはり練習の続き。こちらもさしたる事は起こらず。
 練習が終わった。
 (おかしい。他の者ならば練習中であろうと観察のし応えがあったというのに・・・!!)
 ミーティング中にあくびを噛み殺す跡部。筋トレで重さレベルを上げすぎて持ち上げられずひっそり下げていた真田。練習試合の最中通りかかった女の子達に見惚れてボールが顔面を直撃した千石。赤目モードは卒業したものの今度は越前にいびられ半泣きが入っていた切原。逆にその切原に愛猫カルピンを奪われ(懐かれられ)えぐえぐ泣いた越前おっとこれは練習中ではないが。そして弟の裕太にちょっかいをかけられてはあらゆる方法で復讐を果たす不二。
 (ああ、なるほどな・・・)
 どうりで佐伯に『見せ場』がない筈だ。全てこの中に含まれる―――不二の復讐に付き合うからだ。
 つまり、
 (不二を見ていれば佐伯の行動は大体わかる、か・・・・・・)
 ―――そう結論付けた乾はもちろん・・・







秘     秘     秘     秘     秘








 「跡部、随分眠そうだな」
 「てめぇが昨日一晩中居座りやがったおかげで眠みいんだよ!!」



 「真田、お前位のプレイヤーだったらやっぱ力ってあるんだよなあ?」
 「うむ。当然だ。筋力も大事な要素だからな」
 「ああやっぱり? 俺もつけよっかな・・・」
 「確かにお前はフットワークがいい一方筋力がないのが弱点だ。それだけ体が育つならば筋肉がつかないわけではないのだろう? 今からでも遅くない。筋力をつけ、プレイの幅を広げてみるのもいいだろう」
 「じゃあぜひ参考までに見てみたいな〜」
 「任せておけ」



 「あ、千石。あそこにいる女の子達ちょっと可愛い―――」
 「え!? どこどこ!?」
 ごがっ!!
 「・・・・・・とは言いがたい容姿だな」
 「サエくんの馬鹿あああああああああああああ!!!!!!!!!!」



 「越前! 切原の赤目モード治ったってホントか!?」
 「は? 何アンタそんな嬉しそうに言ってんの?」
 「嬉しいに決まってんじゃん。これで周ちゃんの仇討ちが出来る!」
 「周―――不二先輩の?」
 「そりゃもちろん。あれだけ試合中やられたんだぜ? おかげで病院送り寸前までになって。可哀想だったよなあ、あの時の周ちゃんは」
 「そりゃもう見ててたまんなかったっスよ」
 「ホラ。じゃあ今こそ雪辱のチャンスってワケだ。だろ?」
 「確かに・・・・・・」
 「じゃあまず同じ班として頑張れ、越前」
 「ういっス!」



 「切原、災難だったないろいろ」
 「知ってるっスよアンタが促したんでしょ全部!!」
 「あれ? 意外とお前頭のキレいいな」
 「当然っスよ!! ウチには詐欺師がいるんスから!!」
 「そういやそっか。けど実際やったのは越前だよな?」
 「そりゃもう越前の野郎俺が何もしねーと思って好き放題やりやがって・・・・・・!!」
 「けど赤目モードにはならないからやられっ放し?」
 「ンなワケないっしょ!?」
 「そっかそっか。じゃあ頑張れよ」
 「ってアンタそれだけっスか!? 普通こういう場合励ますとか応援するとか弱点教えるとか特にラストの辺りやるモンなんじゃないっスか!?」
 「ケンカ両成敗。俺は他人の揉め事に首突っ込む趣味はないんだよ」
 「うわ全っ然説得力ないっス・・・・・・」
 「それに頭のキレは自慢する位あんだろ? だったら自分で考えろよ」
 「だったら考えるっスよアンタが唸る位の方法をね!!」



 「裕太君。毎回毎回大変だね」
 「佐伯さん・・・。お願いですから兄貴と観月さん説得してください」
 「俺が? 何で?」
 「佐伯さんしかいないですよ。あの2人に口で勝てる人」
 「俺はそんな、口が達者だなんてとてもそんな事ないし・・・・・・」
 「必要のないトコだけ謙遜するの止めてください・・・・・・・・・・・・(泣)」
 「いやだって実際俺が言っても聞かないだろ2人とも。それで大人しく従うならそもそも動いてないだろうし」
 「佐伯さんなら従うと思います俺が保障します」
 「よし。じゃあその信念で頑張れ裕太君v」
 「だから俺じゃなくって兄貴達説得してください!!!!!!」
 「んふ。どうしたんですか裕太君大声を出して―――」
 どかん!!
 「裕太! どうしたの!?」
 「何をするんですか貴方は!?」
 「ああ観月。いたのか。何? 何か用?」
 「貴方に用はありません! 僕は裕太君に用があるんで―――!!」
 「裕太、大声出してどうしたの?」
 「あ、あの・・・、その・・・・・・」
 「ホラ、当事者が来たぞ。頑張れ裕太君」
 「佐伯さ〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!!!!」





 ・・・・・・このように、全ての原因を佐伯が練習合間に作り出していた事を知らない。













 ―――そろそろ気付こうよ乾・・・。サエの素顔に・・・・・・。

2005.1.1






4―――

 その後も佐伯の行動に特に目立ったものは見られなかった。
 食事は割と早食いだった。とはいっても桃城や越前のように、出した瞬間になくなっているという程ではなく、平均よりは早いといったところだ。むしろ特徴としては、それだけのペースで食べていながら全くそれを悟らせない―――早い話が食べ方が綺麗だというところだ。一見粗雑そうに見せ決して食い散らかす事はなく、それでありながら気付かない間に食べ終わる。つまりは自分の家に招き食事を共にするには丁度いい存在。佐伯を真似て食べ、同じペースで食べ終われる者は少ないだろう。この理由は恐らく躾の厳しい家で姉と物を取り合っているからか。
 次いで風呂。偶然を装いこれまた観察。もちろん合宿初日から仕込んでいた隠しカメラもまた佐伯の姿を逐一観察している。
 申し訳程度にシャンプー・リンス。乾かす時もがしがし拭くだけで後は自然乾燥。やはり髪に気を使ってはいないようだ。顔体もまた然り。代わりに風呂に入っている時間はやたらと長かった。一体誰に合わせたのか湯の温度は
43℃。半数は入れず、入れた者も半数は1分と持たなかった。今のところ長時間入っていられたのは風呂好きの越前、兄避けだろう頑張った裕太と全くもってそれを無意味にした不二、対抗心むき出しで倒れるまで粘った観月、元々家の湯も熱い蓮二に、副部長としてそれ以上でなければとやせ我慢した真田。そして平然と浸かる佐伯といった程度。跡部も普段割と長風呂なのか、予想より長時間は入っていた。が、出る時頭が揺れていたところからするとどうやらアイツもまた対抗心を燃やしていたらしい。誰に対してかは不明だが、残っているのが俺と佐伯のみで、暫く前からその状態であった以上結局負けた事になるが。
 (そして・・・・・・)
 非常に残念な事なのだが、自分もそろそろ限界だった。佐伯がいつ出るかわからなかったためゆっくり体を洗い時間稼ぎをする事も出来ず、温泉ではないのだから何度も湯冷まししては入るのも不自然だ。
 (まあ、俺がいなくともカメラが全てを見ていてくれる)
 「じゃあ佐伯、俺はそろそろ上がるよ。あまり居すぎてのぼせるなよ」
 「ははっ。肝に銘じておくよ。どっかの誰からみたいなみっともない姿はさらしたくないからな」







秘     秘     秘     秘     秘








 「さて・・・・・・」
 着替え場からも完全に気配が消えたところで、佐伯はざばりと起き上がった。
 涼しい顔で呟く。
 「あ〜熱かった〜」
 ・・・・・・さすがに
43℃の湯に47分浸かり続けるのは熱かったらしい。
 冷水で手を洗い、冷たくなったところで火照った頬に当てる。これだけでかなり涼しくなる。もちろんいきなり冷まして心臓麻痺で死ぬ程の冷たさではないが。
 「えっと・・・・・・」
 出る前の乾の行動を思い出す。いつもはメガネに隠れて見えない目の動き。本人もだからこそ油断したのだろう。自分に話しかける前に、小さくあちこちを彷徨った。
 その内の1つに近寄りつつ、
 「さすがに裸姿はシャレになんないからな。それにそんなの撮らせてたらアイツが怒るし













 ―――さって話も次でクライマックス。そろそろ引っ張ってくる伏線もロコツなものとなってきました。

2005.1.1






5―――

 「さって、寝るか」
 欠伸をしつつ佐伯が部屋へ戻ったのが
11時。やはりあれだけ早起きする身には夜は辛いか。
 部屋に戻ったのを確認し、ドアに指向性マイクを取り付ける。扉越しだが、この高性能マイクならば何かあれば十分音は拾える。さらに入り口で待機。データ収集のためなら一晩徹夜など造作もない事だ。
 テープの残り時間を確認し、カメラ片手に扉の前で陣取る。長い一夜となるかそれとも・・・・・・







秘     秘     秘     秘     秘








 部屋に戻った佐伯。同室者の伊武はとっくに戻って寝ている。当然だ。だからこそ彼を相部屋の相手と決めたのだから。
 くじ引きでのイカサマなどという誰でもやる事は次の瞬間にはあっさり忘れ、佐伯は音を立てず開けた窓から身を乗り出した。普通なら星空見上げる情緒溢れる場面。ただし佐伯が身を乗り出し、窓枠に背を預け見ていたのは夜空ではなく自分もいる宿舎だった。
 暫し待つ。さすが高地。日本の夏にあるまじき涼しい風が心地よい。
 待つ・・・・・・と。
 上の窓ががらりと開いた。そこから伸びてくる1本の手。
 手のひらを見せ付けるように伸ばし待機命令を出す。布団を人形に膨らませ、こちらもご苦労な事に部屋中に仕込まれていたカメラを確認。しっかりテープは抜き取られている。素早いものだが・・・・・・
 (空き巣はダメだろ空き巣は)
 苦笑し、佐伯は改めてその手を取った。
 音を立てずそっと窓を閉め、引っ張り上げられるまま体を引き上げる。隣で寝る伊武にすら一連の動作は気付かれていない。いくら神経を集中していようと扉越しとなれば乾も気付くわけはない
 全く苦労せず上の階へと上がる。上にいた―――手を伸ばしてきたのは跡部だった。同室者の不二及びこちらは上から降りてきた千石は無視し、取った手を引き寄せまずはキス。跡部ももちろん嫌ではなかったようだ。頭を引き寄せ、さらに深いものにしていく。
 「あ〜相っ変わらずあっついね〜」
 「僕たちの前で見せ付けないでくれないかなあ」
 「いいじゃん別に」
 「つーかてめぇらの方がさっきっから散々見せ付けてたんじゃねえか」
 「あ、それで感じちゃった?」
 「おめでとう跡部v お相手来てくれたよ」
 「ざけてろ」
 一通り挨拶を済ませ、
 「それでテープは?」
 「回収したぜ」
 「にしても乾くん、どれだけ撮ってんだろーね・・・・・・?」
 「う〜ん。今回合宿だからっていつも以上に熱上げてるしね」
 「はた迷惑極まりねえな」
 スーパーの袋いっぱいに入ったテープを掲げ、跡部がため息をつく。乾が分析に使うだけなら構わないが、こういうものはどこからどう洩れるかわからない。現に今自分自らこうして部屋へと忍び込み盗み出してきたばかりだ。ある程度警戒していたとはいえ何が撮られているかわからない以上渡して面白いものでもない。
 「ま、何にしてもお前が乾引き付けておいてくれたおかげで助かったぜ。ありがとよ」
 「いやそんな。
  ―――というわけでバイト費用は1日1万円でいいぞ」
 「取んのかよ・・・」
 「でもって空き巣は犯罪だからな。氷帝部長が犯罪者ってのはマズいだろ? 示談金としてこっちも1万円でいいぞ」
 「だったらまず盗撮やった乾訴えろよ」
 「それもそうだな。
  い〜ぬい〜! 俺は今部屋抜け出してここにぐむっ!!」
 「わーった!! 払う!! 払うから騒ぐんじゃねえ!!」
 「わ〜いわ〜いv」
 にこにこ笑う佐伯の手の上に乗せられる1万円札2枚。目の前で繰り広げられる半ば以上脅迫を、傍観者2名はこちらもにこにこ笑って見ていた。この程度は日常茶飯事だ。
 「けどサエは? どうする? 今日1日分」
 「俺? 別に構わないさ。誰に見られても恥ずかしくない品行方正な生活してるから」
 「うわ説得力ないな〜・・・」
 「てめぇが『品行方正』なら世の中の人間の9割9分は『非の打ち所のない人間』だろうな」
 「ところでさっき風呂場でも撮られてたんだけど」
 2人の抗議を無視し話題転換。あっさり跡部は食いついてきた。
 「そーだ! てめぇそのテープどうした!?」
 せっかく回収しようと粘り倒し、なのにその粘り勝負で乾に負け途中退場するハメとなったのだ。ならば問題のテープは今・・・・・・!!
 「ちゃんと回収したよ?」
 「そっか・・・。ならいい・・・・・・」
 「だからいくらでみんな買ってくれるかな〜っと」
 「おい!!」
 「1本
15000円」
 「ぐ・・・・・・!!
  ―――わーったよ!! 払やいいんだろ払や!!」
 先ほど万札を出した財布からさらに数枚を出す跡部。本日佐伯の稼いだ金は
10万円を超えそうだ。というかそれだけの額をあえてカードではなく現金で持っている跡部のほうが驚きかもしれないが。知らない者にとっては。
 なお知っている者にとっては・・・・・・佐伯が絡んだ時点で跡部がたかられるのは必至であるため普段にない程多く持っているのはむしろ普通だ。
 残り半分ほどになった財布を閉じる。隣でそんな様子をじっと見ていた千石が首を傾げた。
 「・・・で、これのどこが『品行方正』なんだろうね」
 「あ、ちなみにそのテープ、結構進んでたからもしかしたら俺の前に入った千石も映ってるかもね」
 「1本
1500円にしてよサエvv 僕と君との仲じゃないvv」
 「買ってもらえるのは嬉しいけど・・・・・・
/10にいきなり下げる不二くんの愛情って・・・・・・?」
 「はははv 周ちゃんならもちろんタダだよ。全部跡部に買い取らせるからそこからもらえば大丈夫vv」
 「ああ? 不二に売りつける時はそりゃ同額で―――」
 「俺が、タダだって言ってんだけどなあ、景吾
 「何だよこの差別・・・・・・!!」
 「仕方ないよ・・・。サエくんの不二くん可愛がりぶりは筋金入りだから・・・・・・」
 「くっそ・・・! あんな寛容な態度俺にゃ見せねえぞ・・・!!」
 「俺だって不二くんにおねだりされた事なんてないよ・・・・・・」
 怒る跡部泣く千石。とりあえず笑っている2人にとってのみ問題が解決したところで、
 「で、テープは?」
 「部屋」
 「・・・・・・あん?」
 「だってテープなんてがさがさ音鳴りそうなモン持って移動したらバレんだろ?」
 「まさかたあ思うが・・・・・・わざと置いてきたんじゃねえだろーなあ。ああ?」
 「何でだよ?」
 「そんで実際テープ渡す時さらに額引き上げるんじゃあねえだろうなあ・・・・・・?」
 うんざり呻く跡部に対し、佐伯はぽんと手を叩いた。
 「そんな手もあったな」
 「嘘つけ。てめぇ何とぼけてやがる。ぜってー確信犯だろ」
 「そんな・・・・・・せいぜい上げるとしたら1本
5000円くらいにしとくからさ。な?」
 「それが確信犯だっつってんだろ!!」
 どばし!! と枕でベッドを叩きつける。さすがに机を叩いたりすると音がうるさすぎるし振動で気付かれるかもしれない。
 「サエくんってとことん商売上手だよね・・・」
 「商売なの、これって・・・? 詐欺と脅迫寸前みたいに見えるけど・・・・・・」
 「そんな事ないさ。気のせいだってv」
 「どこがだ!! 明らかに詐欺と脅迫だろーが!!」
 小声で怒鳴るため微妙に迫力がない―――どころか間抜けに見える跡部に笑みを向け、
 「ま、風呂場の分は明日渡すよ。しっかり観てから」
 「ダビングとかしやがったら金払わねえからな」
 「ぐっ・・・!!」
 「やっぱやるつもりだったか・・・・・・」
 「・・・こうなったら跡部からは取れずとも損しないくらいいっぱいやれば・・・・・・!!」
 「つーかダビング機器ねえだろ・・・」
 「そこは部屋にある隠しカメラテレビに繋いでデッキに落として―――」
 「つまり倍速録画不可能。今夜一晩でさて何本出来るか」
 「・・・・・・人の揚げ足ばっか取りやがって」
 「取ってんのはてめぇだ!!!」
 何を言おうが反省の兆しを見せない佐伯からは早めに切り上げる。これ以上話し合っても額がつり上がるだけだろう。
 傍観していた千石と不二も会話の終わりを察し、ベッドから腰を上げた。
 「んじゃ俺ら風呂借りるね〜」
 「あれ? ここでいいんじゃないのか?」
 「馬鹿かてめぇは」
 「まあさすがに・・・・・・隣同士で見ながら聞きながらっていうのもね」
 呆れ返る跡部と微妙な笑みを見せる不二。そして・・・
 「だからサエくん、そういう様子ビデオに撮って買い戻させるのは止めようねv」
 「なんだ気付いてたのか」
 「あっはっはv 何年付き合ってると思ってんのさvv」
 笑顔で杭を打つ千石。本気で驚いているらしい佐伯の手から8ミリビデオが放り出された。
 「どっから取ってきたのさそれ・・・」
 「風呂場から」
 「パクってきてんじゃねえよ!!」
 「まあまあ気にすんなってvv」
 「・・・ったくコイツは・・・」
 ため息が止まない跡部に、2人はゴシュウショウサマと言いたげな笑みを送った。送り―――風呂場(下の浴場の他に各部屋にもついていたりする。ただし今回水の無駄になるため全員浴場行きとなったが)へと向かう。
 今回の部屋割もまた、見る者にとっては充分なチェック項目だ。イカサマし放題という事は、同室に誰を持ってくるかで交友関係がバレる。だからこそ千石と不二、跡部と佐伯とは置かずワンクッション挟んだのだ。切原と千石・・・まあ去年の
Jr.で会った程度の知り合い。不二と跡部・・・幼馴染で気心の知れた相手。佐伯と伊武・・・ただの他人、と。
 監視の目を欺き完全にフリーとなった部屋にて、2組の恋人は思う存分秘密の逢引を楽しんだ。







秘     秘     秘     秘     秘








 「んで明日・・・・・・5時前だっけか?」
 「そうそう。外いるから取りに来いよ」
 「ああ・・・。
  にしても何でてめぇンな早く起きてんだよ?」
 乾と同じところを疑問がる跡部に、
 佐伯は綺麗に微笑んで見せた。
 「何をするにも朝は便利だからな。言うだろ? 『早起きは3万の得』ってな」
 「・・・・・・つまりさらに3万持って来い、と?」
 「そんなわかりきった事今更確認すんなよv
  んじゃ明日な」







 こうして、今日もまた平穏無事な合宿が始まる・・・・・・。



―――Fin
















秘     秘     秘     秘     秘

 この話、裏ネタとして乾Fanの友人に渡したものを、さらにオールキャラというかサエと跡部のやりとりだけだったのを(その友人やおいが苦手なもので、その際はごく普通に跡部がサエを雇っていた(普通か・・・?)という内容でした)私的好みと部屋割の問題で千不二も入れてみたりしたところ・・・おかげで2人がいる意味が微妙にわからない事になりました(爆)。なおその際は『早起きは三文の得』で終わってました。さらにダジャレで続けたらなんっかヘンな終わり方になってしまった・・・・・・。
 さてそんなこんなで
Jr.選抜話記念すべき50本目!! やりすぎだぞ自分!! なんでここだけでテニプリNovel総数の半分占めてるんだ(まとめて1本扱いなのでなかなか増えないんですが)!? わ〜いvv 全く懲りずにまだまだ続けるぞ〜☆

2005.1.120