それは、跡部と真田の選手入りが決まった次の日の事。
 「本日は、この合宿には参加していないが各校のレギュラーらにも来てもらった。本日は彼らも含め、ダブルスの強化に務める。
  跡部、真田。まずはお前たちだ」
 「俺達、ですか・・・?」
 「また何故」
 「アメリカとの試合は普通の団体戦と同様ダブルス2試合シングルス3試合だ。可能性論としてお前たち2人が組む場合もありうる。本日はそのための予行練習だ。
  そして対戦相手は―――」
 「待って下さい監督。ならその対戦相手、俺達に選ばせてもらえませんか?」
 「む・・・?」
 跡部の制止に、榊の声が止まる。アメリカチームももちろん西海岸だけとはいえ最高の選手らを用意してくるだろう。ならばこちらもそれにふさわしく、対戦相手は全国でも知られている黄金ペアか地味's、新渡米・喜多ペア、丸井・ジャッカルペア、仁王・柳生ペアの辺りから選ぼうかと思っていたのだが・・・・・・。
 「―――よかろう。お前たちに任せる。指名された者は試合、他の者は観戦だ」
 「ありがとうございます」
 礼を言い、跡部はちらりと真田を見た。小さく頷く真田。どうやら考えは同じらしい。
 ぐるりと見回す。ターゲット補足。目線と同様回していた指を、2点で止めた。
 ――――――佐伯と、仁王のところで。
 返した指をくいと引き寄せ、
 「佐伯・仁王。てめぇらが相手だ。来な」







りべんじゃあず








 というわけでコートに入った4人。おおむねの者がこの組み合わせに首を傾げる中、『知っている』数人がさも可笑しそうに笑っていた。
 「うっわ〜。やっちゃうんだ」
 「懲りねえなあアイツら」
 「ある意味勇者だな・・・・・・」
 「またボロクソに負かされるんじゃないっスか? 見てて憐れっスよね〜」
 「丸井君、切原君。言い過ぎです」
 「でも特に間違ってないしー」
 「とりあえず一番の間違いはあの2人に選ばせたってトコ?」
 「しかし如何なる理由をつけようとこの4人が対戦していた可能性
100%」
 順に千石・丸井・ジャッカル・切原・柳生・新渡米・喜多・柳。彼らの共通点。それは―――去年の
Jr.選抜合宿にもまた出ていたというところである。
 去年の
Jr.選抜合宿に出て・・・
 ――――――『アレ』を見た仲間という事である。
 「どういう事っスか?」
 もちろんそれを知らないリョーマが首を傾げる。他に知らない者もまた然り。
 代表して千石が答え・・・・・・た?
 「う〜ん。実は去年の
Jr.選抜合宿でやっぱこの4人って対戦しててね・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあこの先は見てればわかるよ」
 「何スかその曖昧な言い方」
 「なんっていうか・・・どうともコメントのし様のない試合展開だったからね。一応結果だけ言うと負けたんだけどさ、跡部くん達。だから今回はそのリベンジじゃん?」
 「負けただと!? あの2人が!?」
 驚く周り。その中には今回コーチについた者らも含む。当然だ。あまりに忌まわしく、あまりに情けなさすぎる試合に、合宿にてそれを見てしまった一同は全員固く口を閉ざしていたのだから。あの跡部ですら、あまりの恥ずかしさに榊にそれだけは報告しなかったという徹底振りだ。
 門外不出だったはずの封じられた歴史。それが1年を経て今、
Jr.選抜合宿という同じ舞台にてついに開封された。
 準備が出来た4人。ネット越しにおざなりな握手を交わし(ちゃんと握手をすると互いの手を握り潰す可能性があるため)、それぞれポジションにつく―――
 ―――前に佐伯が手を挙げた。
 「審判、提案」
 「何?」
 ちなみにこの試合の審判は不二である。
 彼と、さらに対戦相手に視線を送り、
 「試合形式変えていい? 1セットもやんのめんどくさい」
 しれっとそう言う佐伯に、去年の選抜合宿否参加者で唯一かの大惨事を知っている(千石と佐伯がチクった)不二は、半端な笑みを浮べ肩を竦めた。
 「僕の裁量では決め兼ねるよ。先生方等にお伺い立ててよ」
 「なら構わんでっしゃろ。試合するのはコート内の人間。判定するのは審判。試合において絶対権力を持つのは審判じゃて。お前らは文句なかと? 不二・跡部・真田」
 仁王もまた乗ってくる。立海は特に『顧問』という存在がいない。もちろん形式上いはするが、実力・指導力双方の点においてレギュラークラスの方が優れているため口は出さない。実質立海で権力を持っているのは部長の幸村であり、彼が休部している現在では副部長の真田だが・・・・・・仁王が彼らの命に特に従わず自分の思う通り動くのは青学戦で立証された通り。
 3人で視線を交わし、
 「僕は別に構わないけど?」
 「ああメンドくせーのは俺も同じだからな・・・!!」
 「跡部、さりげなく青筋立ってる」
 「うっせえ・・・!!」
 「しかし『変える』と言ったところで具体的にどのように変えるのだ? どのように変えたところで大差はないであろう?」
 (跡部と不二のやり取りを無視した)真田の言葉に、
 全員の視線が提案者である佐伯へと集まった。
 注目の中心で、佐伯がぴっと指を立てる。たった1本の指を。
 にやりと笑い、
 「1球勝負」
 そう言い放った。
 「つまり・・・・・・」
 ミスったらその時点で終わり。極めてわかりやすい勝負だ。・・・・・・『練習』としては成り立っていないような気もするが。
 目線で「どう?」と問う佐伯に、
 「いいぜ」
 跡部もまた、にやりと笑った。
 「ふむ。1球勝負か。それもまた適度なプレッシャーを得られるか」
 こちらも同意する真田。彼らのように、自分に自信を持つ者ならばこの勝負はぜひ受けたいものだろう。
 「なら決定だな」
 そう。
 ・・・・・・たとえそのように頷く佐伯が微妙に噴出したいのを堪えているように見えたとしても。







・     ・     ・     ・     ・








 一応最初に行うトス。
 「どっち[フィッチ]?」
 「裏[ラフ]」
 という跡部の予想は・・・
 「俺のサーブからじゃな」
 「跡部、お前以前中学に上がってからサーブの的中率が上がったとか自慢してなかったか?」
 「5%から7%になりゃ立派な上昇だろうが」
 「跡部、なぜそれでありながら貴様がトスを行う・・・!!」
 ・・・・・・もちろん外れ、かくて試合は仁王のサーブから始まった。





1ポイントマッチ 仁王サーブ
 それぞれのポジションについた4人。球を受け取った仁王が、
 ラケットの持ち手を変えた。
 「最近身に付けた新サーブ。受けてみんしゃい」
 「何・・・?」
 そんな挑発に眉を顰める真田。同じ部活で練習していながら新サーブの存在など欠片も知らなかった。1人隠れて練習していたか、さもなければ自分が合宿に来ている間に編み出したか。
 いずれにせよ・・・
 (要警戒、か・・・)
 詐欺師の異名は伊達ではない。仁王は常に誰も予期しない方法を取る。だからこそ彼が何かをしようとする時は最大限に注意を払うべきだ。
 ―――そう、真田は思っていたのだが。
 「プリッ」
 スッ―――
 『―――っ!?』
 前の文章、別の解釈の仕方をするとこうなるのだ。・・・・・・・・・『仁王が何かをしようとしたならば、どんなに注意を払ったところでムダ』と。
 放たれたサーブ。それは・・・
 「『忍び手』だと・・・!?」
 「馬鹿な!? これは柳の必殺技ではないか!!」
 「『オリジナルの』新サーブとは言っちょらん。俺は最近身に付けた」
 「どういう理屈だそりゃ!!」
 「自分のプライドは欠片もないか仁王!!」
 「なかと(即答)」
 『!!??』
 (様々な意味で)驚く跡部と真田を他所に、急激なカーブを描きそして―――
 ――――――コートについた後、そのまま滑り、横へと転がっていった。
 「ほい。終わりじゃけえ」
 「へえ、凄いなあ仁王。よくそんな技出来たな。しかも右で」
 「この間柳生のレーザービーム練習しておって気付いたんよ。他のヤツのも真似ると面白い、ちゅー事に」
 「レーザービームの練習・・・? 聞くだけで何やるつもりだったかよくわかるな・・・・・・」
 「柳生に猛反対されてあえなく断念じゃ。惜しいのう」
 「柳生に一票・・・・・・」
 「何言っちょるか。『プリッ』言うんじゃぞ? あの柳生が」
 「仁王に
10票」
 「佐伯君! 自分の意見はしっかり持ちなさい! それに
10票は不正です!」
 「いやだってお前の『プリッ』は聞いてみたいのが全国1億
2000万人の願いだろ」
 「関東大会の観客はそんなにいません!」
 「それに今の話聞いたらかなりの人数が賛同するだろ。少なくとも
10票は越えるって絶対」
 佐伯の言葉に、大体仁王が何をやるつもりだったのか悟ったらしい一同が頷く。確かに軽く
10票は越えていた(ちなみにこの中には跡部と真田の票も含まれる)。
 柳生の体がブルブルと震え出す。
 「君達は・・・・・・そんなに私を怒らせたいんですね?」
 「さって試合試合、っと」
 「審判。早くコールしてちょ」
 恐ろしい勢いでなされる話題転換。それでありながら怒鳴り散らして無理矢理話題を戻す事が出来ないのが紳士:柳生の弱点である。
 「えっと・・・
  ゲームセット! ウォンバイ佐伯・仁王ペア!」
 『ええっ!?』
 「待て審判! どういう事だ!!」
 「え・・・? どういうって・・・・・・
  ―――1球勝負[ワンポイントマッチ]でしょ? これ」
 「つまりサーブが決まればそれで試合終了とね」
 どうやら先程言った『終わり』というのは、試合そのものを指していたらしい。
 仁王の説明―――決して間違ってはいないそれに、
 もちろん突っかかっていった真田は納得しなかった。
 「ならばいきなり返せんサーブを打つな!」
 ちなみにこれは決して真田の実力の問題ではない。バウンド後コートを転がるこのサーブ。つばめ返しなどを思い出せばわかりやすいように、転がり出した瞬間には打った側のポイントとなる。ボレー禁止のサーブでそんな事をやられれば、返せなくてむしろ当り前なのだ。
 が・・・・・・
 「サーブ含む打球の制限はされとらんかったとね。なら何を打とうが俺の自由でっしゃろ?」
 「貴様・・・!!」
 しれっと言い切る仁王に、なおも突っかかろうとする。
 ―――が。
 「諦めなよ真田。ルールについてはお前も同意しただろ? 別に俺達は一切反則してない。なら今更お前がどんなに言葉を並べたところで何も変わらないよ。お前がみっともないだけで」
 「〜〜〜〜〜〜!!」
 返って来たのは佐伯からの痛烈な一言だった。しかもこれまた間違ってはいない一言。言い返したくとも言い返せない。
 ぎしり・・・と周りに響くほどの力を篭め歯を噛み締める真田。誰もが同情的な視線を向ける中で、
 「・・・あれ?」
 「どうしたんだ? 千石」
 「こういう時って・・・・・・むしろ先に跡部くんの方がつっかかっていかない?」
 「そういえば〜・・・・・・」
 去年の風景を思い出す。こんな感じの手法で負けまくった跡部・真田ペア。1球ごとに跡部がつっかかっていっては真田に止められ、そこを「きゃんきゃんうっさいぞ犬。去勢させられるぞ?」だの「もうちょっとちゃんとしつけてやりんしゃい飼い主」だのさんっざんに! 言われまくっていたのに誰にとは言わないが。
 視線が真田から跡部へと移される。注目の先で跡部は・・・
 ―――なぜか目を閉じふっと笑っていた。
 精神的疲労によりはあはあ荒く息をつく真田の肩を叩き、
 「まあ落ち着けよ真田」
 「・・・・・・。貴様にだけは言われたくない言葉だったな、跡部」
 呻く真田。どうやら意味(というか皮肉)は全く伝わらなかったらしい。
 余裕の表情のまま、一歩前に出て、
 「俺様を誰だと思ってやがる? 任せろ。こういう時のこういうヤツの対処法は完璧だ」
 「まあ今までこれだけ散々やられていながら今だに対処法が見つからないっていったら、お前相当
すかぷーだな〜とか指差して思いっきり笑ってやるけどな」
 次なる佐伯の爽やか毒舌は理解したらしい。びきっ・・・!! と空気を引きつらせつつ、それでも跡部はそれをもまた流した―――どうやらこうなると実は先程の真田の皮肉も伝わっていたようだが。
 笑みのまま、ゆっくりと指を上げていく。わざわざラケットを左手に持ち替え指差すその先にいたのは――――――もちろん佐伯。
 跡部が肺を固めた。圧縮された空気が声帯を震わせ一気に押し出される。跡部の訴えを乗せ。
 「このまま試合が終わるとてめぇの活躍が欠片もねえぞ佐伯!!」
 どごすっ・・・・・・。
 跡部のワケのわからない挑発なのか何なのかに、一同が盛大にずるコケた。なんとか身を起こし、
 ―――『だからどうしたよ?』
 と一斉に突っ込もうと顔を上げ・・・
 『ををををををを!!!???』
 一斉に上がったのは驚きの声だった。
 跡部の指差すその先で、
 ・・・・・・・・・・・・なぜか雷バックに驚愕の表情を浮かべる佐伯を見て。
 震える口から、言葉が洩れる。
 「そ、そうか・・・! しまった・・・・・・!!」
 どんがらがしゃーん!!
 『だからどうしたあ!!??』
 今度こそ激しくコケ一斉に突っ込んだ一同(矛先は違うが)。
 彼らの突っ込みは無視していながらなぜかそれを後ろ盾としたかのように、跡部が攻撃を重ねていく。
 「大体てめぇこの間の青学戦でもそうだったじゃねえか!! しっかり見てたぞ!! 不二のつばめ返し封じ全部樹に任せたクセして『俺
には通用しない』とかホザきやがって! 『達』っててめぇが何したよって何人の観客が突っ込んだと思ってんだ!! ああ!?」
 『うわあ・・・・・・』
 どうとでも解釈出来る声を上げる聞き手一同。ちなみに解釈は大体2つに分かれる。ひとつはその試合を見ていなかった者が初めて聞かされた事実というかそんな事をやった佐伯に対し。そしてもうひとつは―――
 ―――わざわざ見に行き挙句ンな細かいところを聞きしかも突っ込んだ上今だに覚えている根暗なヒマ人跡部に対し。
 摩訶不思議な方向に勝負が流れていく。
 畳み掛けられた佐伯はなぜかおろおろと左右に首を回し、
 「に、仁王・・・! ヤバい・・・!! どうしよう・・・!?」
 「・・・・・・・・・・・・。
  ――――――――――――どうにでもしんしゃい」
 最終的に顔と言葉を向けられた仁王は、肩を落とし深いため息をついた。
 「で、でもこのまんまだと俺は樺地に全部任せて実質何もしてないクセに態度だけ偉そうなダブルス時の跡部と同レベルになる・・・!!」
 「うっせえ!!」
 「同レベル・・・? その跡部に指摘された時点でむしろ格下扱い受けとるじゃろ」
 「『その』って何なんだよ『その』って!! てめぇもそいつと同じ見方してんのか仁王!!」
 「そんな・・・!! これでも俺は『絶対ダブルスを組みたくない相手
Best10』で3年連続余裕でトップをキープし続けたシングルスオンリーの跡部と違ってダブルスシングルス両方出来るのがウリなのに・・・!!」
 「ちょっと待てえええ!! ンなランキングがどこの世界で開かれてる!? つーか誰だ俺に投票したヤツ!! 今すぐ名乗りあげろオラァ!!」
 ぐるりと見回す跡部の周りで―――
 ―――真田含むほぼ全員がさりげなく視線を逸らした。『3年連続余裕でトップをキープ』の意味がよくわかる瞬間だった。ちなみに逸らさなかったのは実際組んでいる樺地にプラスして不二と千石。常々自分だけ優しくされているからであり、また跡部と組めるのならば何かをぶつけられ担架で運ばれ2・3日死線彷徨う位なんのそのという精神の持ち主であるからだが。
 なおも頭を抱えて蹲る佐伯を半分どころか3/4閉じられた瞳で見下ろし、
 (まあ・・・、無理もなかとかね・・・・・・)
 確かに『ダブルスプレイヤー』における『恥』のボーダーラインはリョーマと桃というより跡部だろう。端からダブルスする気0。それなら後ろで大人しく引っ込んでいればいいだろうにわざわざ前に出てきて座り込み命令のみ。
 ―――アレだけにはなりたくない。佐伯がそう思うのは自然な成り行きか。
 さらに深いため息をつき、今度は仁王が指を立てて提案した。
 「今んはなかった事にして、1ゲームマッチで行くというのはどうじゃろう? サーブは公平に1球交代っちゅー事で」
 「よし、それだ!」
 「うむ。それならば問題ない」
 「確かに。それなら俺も活躍出来かつ丁度観客も飽きた辺りで終わるしな」
 『・・・・・・・・・・・・』
 なぜか顔を引きつらせる跡部と真田はいいとして。
 そしていきなり立ち直り爽やかに親指を立てる、光り輝く佐伯もいいとして。






 こうして、仁王の深い深いふか〜〜〜〜〜〜いため息とともに再戦・・・ではなく新たな勝負が始まった。1球ずつ人を変える変則サービス。まずは公平を期して跡部からの(というか無難な側からの)サーブが放たれ、





 そして数分後・・・・・・







・     ・     ・     ・     ・








 「ポイント
30−0。跡部・真田ペアリード」
 「まあ、普通はこうなるよにゃあ・・・・・・」
 「これで練習になってんスか?」
 審判不二のコールに、見物者が首を傾げる。跡部と真田といえば、中学テニス界で5指に入る実力の持ち主ら。たとえダブルスに不慣れであろうとそんじょそこらの相手では歯が立つワケがない(先程のような手段でなければ)。のだが・・・・・・
 「その割には2人とも警戒しとるなあ」
 忍足がそう呟くように、ポイントを重ねれば重ねるほど2人の警戒心はますます強まっていった。各々不備があるわけではない。必殺技もしっかり決まり、端からみれば好調も好調。校長先生(
By天根。本日特別参加の相方に即刻突っ込まれたのは言うまでもない)の様子。このまま快勝間違いなしだろうに。
 そんな彼らを横目に、
 「さってそろそろかな〜」
 千石は目を細め、薄く笑っていた。
 それを合図としたかのように、
 試合状況が一変した。





ポイント30−0 真田サーブ
 サーブを打とうと構える真田。無視するように、佐伯と仁王が世間話を始めた。
 「そういえばアメリカチームようメディアに出とるのう」
 「あ、俺も見た見た。凄いよなあテレビにもばんばん出てて。アメリカチームっていうかあの監督?」
 「監督っていったら面白い事言っとるでっしゃろ? 確か『試合はエンターテイメントだ』とか」
 「そうそう。『ショーを楽しみましょう』とか何とか。俺も賛成だな。確かに試合は『見せ物[ショー]』かもな」
 「何をごちゃごちゃ言っとる! 行くぞ!」
 真田の怒声と共に放たれた高速サーブを、
 「よしオッケー。割と見慣れたな」
 「こっちも準備万端じゃ」
 「なら、
  ―――そろそろ行こうか」
 「行かんと負けるしのう」
 「それは言わない約束だって」
 そんな気の抜けるやり取りと共に、まずは佐伯が楽に拾った。
 拾い―――そのままネットダッシュ。前衛にいる跡部にしっかり張り付く。
 「ほお。この俺様とタイマン勝負ってか?」
 「だといいんだけどなあ。残念。俺がマークしてるのはお前じゃないんだよ」
 佐伯の言葉―――自分がないがしろにされた事に、跡部の眉がぴくりと跳ね上がった。
 一方佐伯は自分の言葉通り、跡部を無視しマークしていた真田の球をパッシングする。逆にフリーになった跡部。だが―――
 「俺を舐めんじゃねえ!」
 吠え、さらに強制的に佐伯の球を奪いに走る跡部。佐伯の顔に驚きが浮かんだ―――が。
 「遅せえ!」
 ラケットを振ってしまった佐伯が体勢を立て直せない間に、跡部は球を打ち放った。一瞬の攻防。見送るしかない敗者の佐伯に、跡部が口端を吊り上げる。
 「俺様をないがしろにした事、後悔するんだな」
 それを聞き―――
 佐伯もまた、にやりと笑った。
 「ないがしろに? してないさ」
 「―――お前をマークしておったのは俺じゃ」
 「何・・・!?」
 佐伯をすり抜け、オープンスペースへと放たれた筈の球。なぜかその先には今までいなかった筈の仁王が体勢を整え待ち構えていた。
 いくつもの『筈』―――予定を覆し起こる現実。その理由は、
 「ブラインドか・・・!!」
 「ご名答。お前のマークはしなかったけどお前に何もしてないとは言ってない」
 「ちっ・・・!」
 舌打ちし、跡部が右に傾いていた体を止めた。がら空きとなった左側に向かおうとして、
 「跡部、右に動く」
 仁王の言葉に、体を止めた。本当にマークを―――というか先読みをされたらしい。
 逆側に打たれる危険性からその場を動けない跡部・・・・・・
 ・・・・・・の代わりに。
 「―――お前達にしてはお粗末な策だな。俺の存在を忘れたわけではあるまい?」
 穴をカバーするため、後衛の真田が左へと動いた。ナイスフォロー、と誰もが思っただろう。
 が、
 「もちろん忘れてはおらんよ」
 動揺することもなく、仁王は予定通り球を打った。跡部の頭上を越すムーンボレーを
 『なっ・・・!?』
 2人の―――いや一同の声がハモる。この2人は一体どこまで計算して試合をしているのだ?
 「だから前フリしたじゃん。お前は俺がマークしてるって」
 慄く真田に佐伯が呟く。ラストにしていた姿勢そのままで。
 打ち放ち、崩れた姿勢の佐伯。なぜかラケットを持たない右手だけ奇妙な形をしていた。
 肩まで上げられた握り拳。立っていた親指の向いていた方向は―――真田が動いたのと同じ、彼らから見て右方向だった。
 「サインプレー・・・だと?」
 「作戦そのものは伝えられなくとも相手の動く方向だけだったら指一本で充分じゃ」
 「ところで跡部、真田。お前ら『束縛[マーク]』の解釈間違ってるよ。
  ―――本当の束縛は動きだけじゃなく全てでする。言葉ひとつ、雰囲気ひとつ取っても例外じゃない」
 冷たく言い放つ佐伯。つまり―――最初からのやり取りで挑発、わざとポイントを取らせ警戒心を煽り、何か仕掛けた際の過剰反応を促した。さらに佐伯は目で真田を、言葉で跡部を束縛し、真にフリーとなった仁王もまた、言葉で跡部の動きを制限すると同時に真田を誘導したという事か。恐るべし頭脳プレー。2人は完全に捕らえられていた。
 「ところでのう・・・」
 仁王がのんびりと呟く。何となく上など見上げ、指を立て、
 「『見せ物』の見所って、お前ら知っちょるか? その1―――逆転劇で盛り上がる」
 視線が下りてくる。気だるげな視線が―――
 ―――より細く引き絞られた。
 「どうせ『予行練習』じゃ。そういう戦い方しちゃるよ」






ポイント1530 仁王サーブ
 続けられる打ち合い。次に牙を剥き―――そして標的としてロックされたのは跡部だった。眼力で2人の穴をつく。
 かろうじて返した佐伯。返された球はへろへろのロブ。絶好のスマッシュチャンスとなった。
 「来る!」
 「破滅への輪舞曲だ!!」
 周りの期待に応えるように、跡部が球へ向かって飛び上がる。体勢を崩した佐伯の手からラケットを弾くのは容易だ―――と誰にも思わせる中、
 跡部が狙ったのは仁王だった。
 狙いに気付いたのだろう。仁王がラケットを握る手に力を篭めるのが、それこそ佐伯の『読み』の如く筋肉の動きで伝わった。
 球を打ちつけようとする跡部の耳に、
 「逃げるのかよ? 俺から」
 そんな、囁きが聞こえてきた。
 発信源を睨みつける。崩れた体勢のまま、佐伯が笑みを浮べていた。向けられた相手を逆上させるタイプの笑みを。
 「てめぇから沈めてやるぜ佐伯!!」
 あっさり挑発に乗る跡部。それでも顔面を狙わないのは彼のプライドの高さによりだろう。正々堂々、真正面から完全に潰すのが彼の美学だ。
 (ま、どっちにしろ構わないけどね、俺は)
 クッと笑い、
 佐伯は、放たれたスマッシュ(1球目)をフレームに当てて返した。
 「普段散々砂の上で遊んでるからね。ちょっと位体勢崩れたところで別に問題はないよ」
 呟く本音はもちろん別のところにある。
 「でもって、せっかくの2段攻撃だしね。ちゃんとやらせてあげないと」
 ただの負け惜しみか、それともフレームに当てた事がわざとなのか。彼を知らない者にとってはどちらとも取りようはないだろう。
 再びロブで返って来た球に飛びつく跡部。それこそプライドの問題だろう。なおも佐伯に向けスマッシュを放ち―――
 「何・・・っ!?」
 「体勢崩れて打てないのはむしろお前の方みたいだな、跡部」
 自分の下をすり抜け返ってきた球を、何もすることが出来ずに見送った。
 「
3030!」
 「お前のスマッシュの決定的弱点。ジャンプして打つから下ががら空きになる」
 「うわ〜。痛いなあサエくん」
 お前『ら』こと、跡部と同じくジャンプしてのスマッシュ―――ダンクスマッシュを得意とする千石が苦笑いした。
 「でもってお前自身の弱点。素直に攻めすぎる。いくらラケットを狙うなんていう意表ついたスマッシュだろうが、来る事があらかじめわかってればいくらでも対処は出来る。特にお前の
華麗な美技の数々は有名になり過ぎだからな。フェイントの1つや2つ入れないとすぐに相手に気付かれるぞ」
 「くっ・・・!!」
 「ついでに真田、お前もじゃ。跡部のサポートに回らんかい。跡部のスマッシュは今までにも充分見たじゃろ? 他にもいろいろな。
  弱点探しは跡部だけに任せんでお前もやりんしゃい。その穴を互いに埋めるのがダブルスパートナーじゃろうて」
 「む・・・・・・」
 またしても反論不可能な理論に2人が黙り込む。
 黙りこんだ2人へと―――
 今度は佐伯が指を立てた。2本。
 「『見せ物』の見所その2―――必殺技封じは見る者に強い衝撃[インパクト]を与える」






ポイント3030 跡部サーブ
 続いてのサーブは、一周ぐるりと回って跡部の番となった。
 守るレシーバーは佐伯。どちらにせよ構わず全力で討つもとい打つ!! 佐伯もしっかり返してきた。
 打つと同時、前に詰める真田と仁王。真田がパッシングした球を仁王もしっかり返し、
 今回の勝負はどうやらこの2人の間でつけられるようだった。
 ネット越しの超至近距離で行われるラリーの応酬。見る者は目で追っていく事がやっと。動体視力を始めとした身体能力に優れる2人ならではだ。
 続くラリーの中で・・・
 仁王の目が一瞬動いた。後ろにいた跡部の方に。
 (逃げるつもりか、それともフェイントか)
 目の動きによるフェイント。テニスに慣れた者なら比較的よく用いる手だ。『詐欺師』となれば尚更。
 だからこそ、フェイント前提で真田は動いた。もしフェイントでなかったとしても跡部が受ければいい。そう思って。
 来た球は―――
 ―――フェイントではなかった。
 だからこそ、予定通り真田は呼びかけた。
 「行ったぞ跡部!!」
 呼びかけ―――
 「あん?」
 どごっ!!
 「ぐおっ・・・!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 ・・・・・・顔面にボールをぶつけた跡部に、大口を開けて絶句した。
 『・・・・・・・・・・・・』
 時の止まる一同。その中で、
 「
4030! 佐伯・仁王ペアリード!」
 なぜか1人冷静な審判が淡々とコールを行った。
 同時に時が動き出す。
 「いってーな!! 何しやがるどっちか知んねーが!!」
 「見てなかったのか・・・?」
 「仕方ねーだろ俺に回ってこなくてヒマなんだからよ!!」
 「・・・確かに納得だな。お前が言うと」
 「それでも見んしゃい試合中なんじゃから」
 「大体今のは防ぎきれなかった真田の責任じゃねえか!! 自分の番ならしっかり防げよ! シングルスじゃ自分が抜かれたらアウトなんだぜ!?」
 「今はダブルスだろうが!! お前が守っていると思ったから抜かせ逆を守ったのだろう!?」
 「何イイワケこいてやがる!!」
 「ダブルスの常識だ!!」
 「ンなモン知んねーよ俺はシングルスプレイヤーなんだから!!」
 「どこの幼稚園児だ貴様は!! 開き直るな!!」
 「だったらてめぇも知んねーんじゃねえか1人で全部取りやがってちったあ俺にも回せ!!」
 「回した結果がそれなのだろうが!! 回す度に相手に点を与えるではないか!!」
 「俺が飽きる前に渡しゃいいじゃねえか!!」
 「どういう理屈だ!! 貴様にはもう回さん!!」
 「だったら俺だっててめぇにゃ2度と回さねえからな!!」
 なおも幼稚園児的ケンカを続ける2人を見て、
 「『見せ物』の見所その3―――相手の長所潰しは見るモンの不安感と快感両方を引き出す・・・・・・とよかったのう」
 「ある意味両方引き出したよな。あの2人の様は見てて面白いし、けどあんな2人が全国区でなおかつ今回いきなり選手に選ばれちゃった事に誰でも不安を覚えるだろうし」
 「真田に身体能力の高さは時に仇になる、言いたかったんじゃけどな」
 「どちらかというと『理想』の高さが仇になってると思うよ。跡部と組まされた時点でまず大抵の事は諦めないとな」
 「そうじゃのう」






ポイント4030 佐伯サーブ
 2人のケンカは、名目上手塚の名誉ある犠牲によりなんとか収まった。―――実際は全員の無言の圧力に負けた手塚が止めに入り、しかしながら彼の絶対権力もこの2人相手には通用せず、なぜか逆に非難され、むっと来て言い返したところで今回指導だけ担当の幸村の一言「3人とも子どもみたいにじゃれあって微笑ましいなあ」に揃って没したのだが。
 そんなインターミッションはどうでもいいとして試合再開。再会して―――
 「
4040!」
 あっさり終わった。
30秒くらいか。とりあえず『インターミッション』よりは確実に短い。
 首を傾げる全員に、
 今回明らかに手加減した佐伯が解説を入れた。
 「『見せ物』の見所その4―――接近戦になるほど注目度が高まる」
 「・・・・・・『接近』のさせ方を大幅に間違えていないか?」
 「問題なかとよ。今から見たヤツには接近戦に見えるじゃろ」
 「誰だよンな半端なトコから見出すヤツ・・・・・・」






ポイント4040 真田サーブ
 先ほどと逆の展開が起こる。打つ真田と返す仁王。前に詰めた佐伯と跡部の一騎打ち。
 ―――かと思いきや。
 前に出た跡部。パッシングでいきなり出してきたのは、
 「ドライブボレーだ!!」
 同じく前に出た佐伯。強力な打球を打ち返すボレーは、
 「ジャックナイフう!?」
 初めて見せられた佐伯の技。かなり難易度の高いそれに、周りの驚きの声は跡部の比ではない。
 が、
 真の驚きはこれからだった。
 「ちっ・・・!」
 打球を放つため跳び上がっていた跡部。目の前で返され―――
 ―――先ほどの宣言を守るつもりか、不安定な姿勢で無理矢理返した。真田には意地でも回さないらしい。
 ロブとなった球に向け、
 佐伯が飛び上がった。跡部が跡部なら佐伯も佐伯。仁王には回さず一人で蹴りをつけるつもりだろうか。
 助走0のクセして驚異のジャンプを見せる佐伯。なんと追いつき、
 「破滅への輪舞曲!! 踊ってもらうよ!!」
 『なっ・・・!!??』
 がしゃん!!
 驚き、動きを止める跡部。スマッシュ1打目で本当に彼のラケットを弾き、さらに2打目のスマッシュ。
 完璧だった。跡部の見せるそれと、寸分の違いもなかった。あるとすれば打つ手が逆かつ言う台詞回しが微妙に違うという事だけで。
 「アドバンテージレシーバー!」
 激しい連続ジャンプとは逆にゆっくり落ちてくる佐伯。膝で充分に勢いを殺す彼に代わり、仁王が説明した。
 「『見せ物』の見所その5―――必殺技返しは見るモンようけ惹きつける」
 「そのため・・・だけに覚えた、ってのか・・・・・・」
 「いや、さすがにそれだと虚しいから」
 呆然と呟く跡部に、佐伯はぱたぱた手を振った。
 ぱたぱた振った手を、跡部に向ける。
 向け、言った。
 「ホラ、覚えるとこういう風にからかう材料になるだろ?」
 「同レベルだどっちも!!」








・     ・     ・     ・     ・








 そして・・・・・・





 「ゲームセット! ウォンバイ佐伯・仁王ペア!」
 審判不二のコールに、佐伯が最後の解説を加える。
 「『見せ物』の見所その6―――一方的に下すと負けた側に同情が集まる
 そう〆た彼に、
 誰もが首を傾げた。ようやく。
 「つまり・・・」
 代表して、こちらもようやく悟ったらしい真田が呟いた。
 しれっと答える。
 「今までんは全く意味ない事だった言うこっちゃな」
 「試合に勝って勝負に負けるってトコか? これだけやりゃ普通誰でも跡部・真田ペア応援するだろな。当り前の話」
 「んじゃあ、俺らはただからかわれてただけ、と・・・・・・」
 「そんな事ないでっしゃろ? 俺らはアメリカチームの考えそうな策で行っただけとね」
 「『策士策に溺れる』の典型例な。絶対考えすぎて外すぜあの監督。
  ま、何にせよ―――」
 佐伯が明るい笑顔で親指を立てた。立てて、言う。
 「お前ら大丈夫だ! 俺が保障するよ! 『勝負』には勝てる!!」
 「『試合』で負けたら意味ねえだろーが!!」
 「見栄えはばっちりじゃったのう。リアクションの仕方がお約束通りで受け入れられやすか」
 「つまり我々が単細胞だという事か!?」
 「お疲れさん」
 「反省しろよ!!」





 こうして、『試合』『勝負』ともにこれ以上ない程明確な形で佐伯・仁王ペアの勝利となった。







・     ・     ・     ・     ・








 大会当日。なぜかD2で選ばれたのはかの2人だった。
 選ばれ、目を交わし合い。
 「対策は完璧だな。ポイントは馬鹿の相手を真面目にしない事だ」
 「うむ。それさえ押さえれば問題はない」
  ((いや・・・。問題たっぷり過ぎだからそれは・・・・・・))





 そんなやりとりをする2人を心の中で突っ込む他メンバー。彼らの杞憂は、





 ―――もちろん現実のものとなった。







・     ・     ・     ・     ・








 「4−4!! ゲームアメリカチーム!!」
 「くっそアイツら好き勝手やりやがって!!」
 「我々を甘く見るな・・・!!」





  ((ポイント出来てないじゃん!! 学べよちょっとは・・・!!))
 あの血よりも涙の滲む練習を見事なまでに無駄にした2人。目を点にして見、
 「2人があのペアに負け
理由がよくわかるね」
 「もーこの勝負諦めましょうよさっさと」
 同じ光景を見るのが3度目のような気がする千石と切原は、爽やかな笑顔で早くも負けを確信していた・・・・・・。



―――Fin













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 タイトル考えるの面倒になったのか、という突っ込みはないとありがたく思います。某小説短編のタイトルほぼまんまパクってます。ひらがなな辺りが特に。何からかというと、
Novelその他に挙げられた話からある程度は範囲が絞れるかもしれません。なおそのシリーズはまだ書いてませんけどね。
 さて問題の跡部・真田
vs佐伯・仁王戦。1ゲームマッチが特殊ルール(サーブ交代)のため・・・ではなくただの私のミスにより途中で仁王と佐伯の前衛後衛がコロコロ変わってます。なお補足としてこの1ゲームマッチの詳細ルールというか両チームの作戦(もちろんこの話限定)を加えておくと、ポジション(右左どっちを守るか)は固定。レシーバーが後衛、相方が前衛という割振りになってました。跡部・真田はどっちもシングルスオンリーに近いですし、サエ・仁王は2人とも前衛多し。特に前2人チームはこの位単純なマニュアル制にしないとやっていけなかったのでしょう誰のせいでとは言いませんが。
 ところでこの対戦、2度目である程度免疫ついているのにコレです。さぞかし1回目となった去年の
Jr.選抜合宿では盛大に負けたのでしょうなあ。
 そして余談。以前も後書きで書きましたが、ヒマでよそ見してボールぶつけられた跡部は『
.H!』ネタです。本気でぶつかりました跡部様。「この人馬っ鹿だなあ」と心底感心しましたよ見てて私は。

2004.10.112005.1.24