リョーマと佐伯の出会い―――否『再会』は、天然ボケな互いのおかげでかなり地味に行われた。





××th コンタクト






Take1.都大会準々決勝にて。
     
 「練習試合で千葉代表の佐伯を圧倒したそうだ・・・」
 乾の言葉に、裕太と向き合っていたリョーマはぴくりと眉を跳ね上げた。
 サーブを打とうとしていた裕太に手を上げる。
 「ねえ、ちょっと訊くけど」
 「・・・・・・何だよ?」
 いきなりの試合中断。嫌そうな顔をしながらも、裕太は律儀に反応してくれた。
 「その『千葉代表の佐伯』って・・・・・・やっぱ左利き?」
 「当たり前だろ? 左利き用に練習してきたんだから」
 「で、その・・・『佐伯』って人・・・・・・、
  ―――どんな人?」
 眉を寄せ尋ねるリョーマに、
 「そりゃサエ兄ってったら優しくって頼りになって俺の事絶対馬鹿にしないで―――」
 いろいろと言いかけた裕太は、途中ではたと我に返って咳払いした。ちょっぴり顔が赤い。
 赤さを誤魔化すように、ぶっきらぼうに問い返す。
 「それがどーした?」
 「・・・・・・いや別に」
 (まさか、ね・・・・・・)


―――おまけ編








Take2.関東大会緒戦にて。
     
 「おい見ろよ奴ら・・・・・・・・・」
 「第3シード、千葉代表六角中ーっ!!」
 驚く周り。しかしながら、肝心の2名は手塚と跡部に注目していたため全く互いの存在に気付かなかった。



 さらに試合を終え。
 「昨年準優勝校の氷帝学園が消えたのはラッキーだった!
  そして青学・・・.手塚はもう駄目だ! さらに青学ダブルスの要、黄金ペアの大石が登録されていない」
 「おいおい、厄介な奴は天才と言われてる不二だけかよっ!?」
 「天根[ダビデ]、不二とやってよ」
 「駄目!」
 「なら、俺やろっかなぁ」
 「俺でもいいぜ!
  じゃあ、あのミラクル1年は?」
 「ボクがやりたい!」
 立候補する剣太郎に、
 (ミラクル1年、なあ・・・)
 佐伯は軽く首を傾げた。
 「何だ? サエ」
 「いや別に?」
 首藤に問われ首を振る。実際別に何か言いたかったのではなく、ましてやその『ミラクル1年』とやらと試合がしたいなどと思うのでもなかった。
 思い出す。氷帝の日吉と戦っていた彼の姿を。中学に入ってからは部活も忙しくアメリカへはぱったりと行かなくなったが・・・
 (まさか越前が・・・・・・
  ――――――なワケないか)
 小さな頃の記憶―――アメリカにてリョーガと共にからかっていた彼の弟を思い出す。サーブすらロクに取れず、いっつも自分とリョーガに笑われ続けていたあのチビ助。リョーマを見た時似ているとも感じたが・・・
 ―――まさか本人なワケもないだろう。あの弱々チビ助がまさかかのテニスの名門青学で異例の1年レギュラーなど。第一リョーガは今もアメリカにいる。
 (なら親戚か)
 リョーガにその辺りの話は聞いた事がないが、それなら納得だ。越前家の親戚となれば強いのがいても不思議ではない。まあチビ助みたいなスカもいるが、きっとあれは母親の血をよく受け継いだのだろう。
 (今度リョーガにでも訊いてみるか)


―――おまけ編








Take3.慰安旅行中。
     
 氷帝・城西湘南と下し、全国への切符を手にした青学。お疲れ様おめでとうという事で、今日は房総へと海水浴に来た。来て、
 結局旅券を失くすというアクシデントにより日帰りで帰るハメになった。
 その帰り、よろよろとした老人に、さらに元気いっぱいの中学生に遭遇しそして―――
 「不二」
 「佐伯」
 互いは、ついに真正面から遭遇した。



 不二と話しながら、後ろ目にリョーマを見て思う。つくづくあのチビ助に似ていると。
 (これで実は本人だったりしたら大爆笑だよな)
 心の中で思い、目に続いて耳も後ろに傾ける。
 リョーマは同年代だろう相手らに囲まれていた。囲まれ・・・・・・全て無視して無言・無表情でついて行っていた。愛想の欠片もない。
 (チビ助ならもうちょっと可愛げあるか)
 リョーガと自分にからかい倒されていたあの頃のチビ助。1テンポずれていたようにも見えたが、泣いたり叫んだり怒鳴ったり怒ったりと感情変化は実に激しかった。
 (アレからコレになってたら・・・・・・けっこー寂しいよな)



 ぼんやりついていきながら、前を歩く佐伯の背中を見て思う。
 (あの人が『佐伯』さん、ねえ)
 かつての裕太の言葉、「佐伯は左利き」のワンフレーズが蘇る。1つ1つの動作を見ていてもなるほど左利きだ。
 さらに思う。かつて兄と共に自分をからかい倒したあの人に似てるなあ、と。
 (えっと、リョーガと同じ年なんだから今中3か。
  ・・・年齢も一緒だし)
 やはりそうなのだろうか。それにしては
自分の知るものと態度が全く違う。二重人格かさもなければ他人の空似か。
 (まあ、テニスやってんの見ればわかるか)


―――おまけ編








Take4.関東大会準決勝にて。
     
 D2が終わった。青学ドリームペアが勝った。
 (やっぱ他人だったみたい)
 攻め方の陰険さが微妙に過去の思い出と被るが、アレが本当に自分の知る男ならば英二の動きを先読みした上で逆とそのまま両方打ち分けるだろう。反復横跳びの応用で逆に行くとはいえ、予め逆に動く事を考えていなければあそこまで早くは戻れない。そして英二がそう予測出来たのは、佐伯が全ての球を逆に打ってくれたからだ。どちらに打つかわからなければ、見極めるための致命的な一瞬を作り出せたというのに。なおかつ・・・・・・
 ・・・・・・あの男ならばその程度の嫌がらせは朝飯前とやってのけるというのに。
 試合開始前に、勝った不二にこそこそと近付く。
 「不二先輩、おめでとうございます」
 「ああ、ありがとう越前」
 「ところでいきなり質問っスけど、佐伯さんって幼馴染のアンタから見てどういう人っスか?」
 「え? 本当にいきなりだなあ。
  優しくていいお兄ちゃんだけど?」
 「で、佐伯さんって以前アメリカいた事あります?」
 「サエはずっと日本育ちだよ? 代わりに双子のきょうだいがアメリカとかドイツとかに行ってるけど」
 「そうっスか。どーも」
 「? ・・・まあ、頑張ってね」
 「・・・っス」
 (なるほどね)
 つまりは佐伯の双子の兄だか弟だかが、自分の知るあの男らしい。それなら今ここにいる佐伯とアイツがとことんかけ離れて見えるのも頷ける。それに双子なら同じ年齢かつ見た目はよく似ているのも。
 ・・・などと思うリョーマ。もちろん彼は知らない。『きょうだい』という一言で兄弟のみならず姉妹もまとめて表すという、男女平等をモットーとしたこの言い方も。さらに自身に姉と弟がいる不二は、他者もいつもまとめてこう呼んでいるという事も。
 佐伯の双子のきょうだいは『姉』であるという肝心の事実が伝えられないまま、この問題は片付けられてしまった。



 S3が終わった。期待のルーキー対決は、青学の方に軍配が上がった。
 「お疲れさん、剣太郎」
 ぽんと肩を叩きながら、
 (剣太郎に勝った、か・・・)
 ますますあのチビ助だとは思いにくい。
 試合終了の挨拶をし、別れ際佐伯は念のため不二に尋ねた。
 「ねえ周ちゃん」
 「何? サエ」
 「ちょっと訊くけど越前さ、
  ―――兄弟とかいたりする?」
 「う〜ん。僕の知る限り、越前は一人っ子だなあ」
 「そ、っか」
 「どうして?」
 「いや? 知り合いに似てたから。
  サンキュ、周ちゃん」
 (やっぱ他人か)



 2人に離れられ、不二が首を傾げた。
 「何か今日はよくもの訊かれるなあ」
 「どったの? 不二」
 「いや別に?」








Take5.Jr.選抜合宿にて。
     
 「大変だ! アメリカの選手がいきなり変更になった!!」
 そんなニュースと共に食堂に駆け込んできたのは月間プロテニスの井上記者。アメリカチームといえば事前からあれだけ宣伝していたというのに、ここにきて選手変更というのは・・・・・・
 立ち上がる一同に、井上は持っていた写真をばっと広げて見せた。中心の方―――金髪の少年を後ろから笑って小突く、少し上の少年を指差す。
 「彼だ! まだ極秘だから名前含め詳細は不明だが・・・」
 「じゃあソイツがどんなヤツかってのも一切―――」
 「すまないね。わからないんだ。明日正式発表されるようだから、その時にはわかるだろうけど・・・」
 落ち込む井上に、一同のテンションも下がった。
 一方全て無視して食べていたリョーマ。丁度食べ終わったので視線を上げ―――
 「なんだリョーガじゃん」
 「え・・・?」
 「知ってるのか越前!?」
 「俺の兄貴っス」
 『えええ!!!???』
 「だが越前! お前は一人っ子ではないのか!?」
 「違うっスよ? リョーガずっとアメリカいるから言ってなかっただけで」
 「ちなみに、その彼の強さは・・・」
 「今なら俺が勝つっスよ!!」
 「・・・・・・つまり今までずっと負けてる、と?」
 「ぐ・・・」



 いろいろ話している一同からこっそり抜け出し、佐伯は(もちろん全て食べた後)部屋へと向った。
 「リョーガが今更、なあ・・・・・・」
 携帯で登録していた番号を押す。ワン切り以下。繋がった瞬間には切った。即座に切らないと相手に出られる。そうなったらこっちの電話代がかさむではないか!!
 切って正解だったらしい。数秒後にはかかってきた。
 液晶画面を見る。≪へたれ男≫。番号を見ても間違いはない。コレクトコールなどには絶対にしていないだろうから安心して取った。冗談でもそんな事をやれば、着信拒否にしこちらは2度と出ない。さすがに向こうもそれ位はわかっているだろう。
 通話ボタンを押し、耳に当てる。
 「もしもし」
 《あ、佐伯か! どーしたんだよお前がわざわざ俺に電話なんて。そろそろ俺が恋しくなったかvv》
 「間違い電話だったみたいだな。切るか」
 《っあああああ!!! 冗談だ悪かった!!》
 「まあそれはともかくとして、お前こそどうしたんだよ?」
 《何がだ?》
 あくまでとぼけるらしい。佐伯はため息をついた。
 「関東対アメリカ西海岸、
Jr.選抜大会のことだ。いきなり選手になったんだって?」
 《随分情報早ええじゃねえか。正式発表は明日だぜ?》
 「耳聡い人がいてな。教えてくれたんだ。今こっちじゃ大騒ぎだぜ? 越前兄弟対決だって。
  ―――ああそういや、こっちいる越前って、お前の弟なのか? 実の?」
 《ああ》
 「・・・・・・なんだ。チビ助の方が親戚だったのか(ぼそり)。
  で?」
 《ん?》
 「何狙ってんだよ? いきなり出るなんて。やっぱ兄弟対決?」
 《アイツなんてどーでもいいに決まってんだろ? ンな事より―――
  ――――――お前今選抜候補選ばれてんだって?》
 向こうでにやにや笑っているのだろう。電話越しにも伝わるソレに、一気にリョーガの狙いが判明した。
 なので、即座に言い切る。
 「俺は出ないからな」
 《は? 何でだよ? お前が出るって言うから俺だって出たんだぜ?》
 「言ってないだろ出るなんて。それに第一このメンバーで俺なんかが選ばれるワケないだろ?」
 《お前が選ばれねえメンバー!? どこにあんだよンなモン。まさか集まってんのが世界ランクトップ
10なんつー事はねえんだろ?》
 「俺はあくまで『そこらへんにいる平凡なプレイヤー』だ。そういう桧舞台にはもっと合うヤツがいくらでもいる」
 《何だよ!! んじゃ俺がわざわざ監督に金払って代わらせた意味ねえのかよ!?》
 「金払って、って・・・。お前もつくづく無駄な事やってんなー・・・」
 《お前のためなら金なんて惜しくはないぜ!!》
 「俺はむしろお前のためならビタ一文払いたくないけどな」
 《・・・・・・・・・・・・まあ、物事の価値観っつーのは人それぞれ、って事で》
 「あ、ちょっと落ち込んだ?」
 《ぐっ・・・。うぐっ。ぐすっ・・・。わかってんなら・・・わざわざ訊くなよ・・・な》
 「あ、泣いた泣いた。や〜いや〜い♪」
 《ちっとは慰めろ!! これならビタ一文かかんねーだろーが!!》
 「そんな事ないだろ? そうやって慰めさせて、それ録音してどっかに売りつける気だろお前」
 《やんねーよ・・・。つーか誰だよそれ買うの》
 「俺はやったぞ? お前のファンっていう子に1本2ドルで」
 《安ッ!》
 「所詮お前じゃな。その程度が限界だった。跡部だったら
100ドルは固いってのに」
 《跡部!? それってお前が言ってたあの幼馴染か!?》
 「ああ。ついでにまあ実力的キャラ的立場的に
1010間違いなくメンバーに選ばれるから頑張れよ」
 《よし!! じゃあそいつ倒してお前にアピール―――
  ―――ってちょっと待て!! 俺はお前と対戦したいって言ってんだろ!?》
 「だから無理だって」
 《だったら意地でもぜってーお前に代表入りさせてやるからな!! 待ってろよ佐伯!!》
 ぷつっ。つー。つー。
 「待ってろよ、って・・・・・・。お前何も出来ないだろリョーガ・・・・・・」


―――おまけ編








Take6.続Jr.選抜合宿。
     
 次の日、アメリカチームの記者会見が行われた。
 丁度昼食時間だったため、一同はテレビを囲んで昼飯を食べた。
 「お、始まった」
 「さて、どんな事になるのやら・・・」
 興味津々に身を乗り出す。まあいろいろとやり取りがあり、リョーガの事もしっかり紹介され、
 ―――ラストに『日本チームに向け一言』という事になった。
 まずアメリカチームのリーダーらしい金髪の少年がマイクを手に取った。
 カメラを指差し、
 《越前リョーマ。お前と対戦できるこの日を楽しみにしていた。絶対来いよ。ぶっ潰してやる》
 「・・・・・・おチビ、知り合い?」
 「一応幼馴染みたいなモンっス。俺にいつもつっかかっては負けてた負け負ケビンです」
 「『まけまけびん』って・・・」
 「何か・・・・・・いきなり不幸なヤツが登場したな」
 「それはともかく」
 「うわ・・・。挙句7文字で存在そのものから無視されたし」
 言う間にも、マイクは肝心のリョーガの元へと回った。
 マイクを手に、リョーガが人を馬鹿にした笑みを浮かべる。
 《よおチビ助・・・・・・つってもいいが、2人して同じヤツ指名したら他のヤツに悪りいしな。んじゃチビ助はケビンに譲って俺は変えるか。
  ―――よお佐伯



 ぶふっ!!!



 テレビの向こうからの呼びかけに、丁度お茶を飲もうとしていた佐伯はそのまま噴出した。
 げほがは咳き込む佐伯に全員の視線が集まる。なぜリョーマの兄という彼が佐伯を知り、わざわざテレビで呼び出しなどするのか。
 (あ・の・ヤ・ロ〜〜〜〜〜〜!! これが昨日言ってた『意地』かよ・・・!!)
 ・・・訊こうとしたのだが、普段穏やか爽やかな佐伯が怒り剥き出しでテレビを睨みつけている様など見てしまうと、とても怖くて尋ねられる雰囲気ではなかった。
 疑問は全く解けぬまま、リョーガの声だけが響く。
 《メンバー候補に選ばれてんだろ? 『前座』で待ってるぜ。ちゃんと来いよ。来なけりゃ負け犬扱いして笑い飛ばしてやるよ。は〜っはははは!!》


 ばきぃっ・・・!!!



 異音を立て、佐伯の手に普通に握られていたはずの箸が折れた。近頃食事による教育、通称『食育』が話題だからか、この場で出されている箸もそっけない割り箸ではなくしっかりしたものだった。それを片手―――というか指3本で折ってしまった。
 周りから引いていく一同。座ったままの佐伯は、腰以上に目を据わらせくくくくく・・・と笑い声を上げた。
 「言ってくれんじゃんリョーガ・・・。俺にケンカ売った事、地獄の底で後悔させてやるよ・・・・・・」
 「あの・・・、サエ。
  ―――彼と知り合い?」
 隣に座っていた不二が勇気を持って尋ねてみる。尋ねられ佐伯は、
 
にいぃ〜っこりと、常にはない・・・・・・壊れたとしか言いようのない笑みを浮かべてきた。
 「い〜や全然全く。知らない他人だなあ」
 「そ、そう・・・なんだ」
 「うんそう。1%も疑いようのないそんな感じ。無関係だから訊かれても何一つ答えられないんだゾ☆」
 「うんわかった・・・。もう何も訊かないよ・・・・・・」
 親指を立て実に爽やかに微笑む佐伯。見て、
 不二はうりゅうりゅと涙目で助けを求めた。全力ダッシュで近付いた跡部が首根っこを掴み、再び全力ダッシュで退却する。隣に来られ、千石はある意味慣れた様子でぶんぶんと首と手を振った。
 と、
 「―――あ!」
 「ん?」
 「アンタやっぱアレか! 小さい頃アメリカ来てはリョーガと一緒に俺の事ずっとからかってた佐伯って!!」
 「あ・・・。なんだ越前お前やっぱチビ助だったのか」
 佐伯を指差し声を上げるリョーマに目を見開く佐伯。どうやらお互い、この時点でようやく相手の正体がわかったらしい。
 開いた目を懐かしげに細め、佐伯が続けた。
 「あの頃と比べて大幅に変わったからてっきり違うヤツかと思ってたよ。弱々チビ助っていったらリョーガと俺に日々散々からかわれてロクにテニスも出来ずに陰でこっそり泣いてたのになあ」
 「ホンット! 俺もそう思ったよ!! アンタっていったら人からかうのが3度の飯より大好きで人苛めんのに至上の喜び覚えて人で遊ぶのに生きがい感じる、人としてサイテーっぽい人みたいだったからね!!」
 「はあ・・・。にしてもあのチビ助が今じゃコレか。月日って無常だなあ。小さい頃はあんなに可愛かったのにこんなにクソ生意気無愛想かつ失礼なヤツになって。一体何が起こったってんだ!?」
 「アンタたちのせいだろーがきっぱりはっきり疑いようもなく!!」
 「お? そういえば話変わるけど月日っていったらお前も大きくなったなあチビ助(ぽんぽん)」
 「何の嫌味だああああああああ!!!!!!!!!????????
  あーもーいい!! 負け負ケビンなんてどーでもいいからリョーガとアンタずっとぶっ倒したかったんだよね!! 勝負しようよ!!」
 「は? チビ助が? 俺に? テニスで勝負? 挙句ぶっ倒す?
  まったそんな笑える冗談を」
 「うっさい!! ホラさっさとコート行くよ!!」
 「まあ・・・そうだな。リョーガにあれ以上笑われんのは俺のプライドが許さないし、選手に選ばれようと思ったらここら辺で一発アピールしとかないとな。選ばれないの前提で地味にやってたし。
  んじゃやろうか。昼休みもまだ
10分ある。それだけあれば1セット余裕で終わるだろ」



 というわけで試合をやった。結果は6−1で佐伯の圧勝だった。



 「くそっ・・・!!」
 「あ〜やっぱお前チビ助だな〜v この景気のいいボロ負けっぷりが懐かしいようんうん」
 「うあ・・・。佐伯強ええ・・・・・・」
 「今までこれだけの実力を隠してたというのか・・・!?」
 「隠してたなんてそんな大層な。ただ出してなかっただけだよ」
 「・・・・・・どこが違うんだ?」
 「心構えの問題?
  隠してたっていうと腹黒っぽいだろ? 俺っていったら洗いたてのシャツみたいな白さで勝負のヤツだからな」
 「今のてめぇのどこに『白さ』があったよ・・・?」
 「ホラ、こう若い芽を思う存分ぐりぐり踏み潰す事で新たに生えようっていうより大きな向上心を生み出すっていうか」
 「黒さど真ん中ストライクな台詞に聞こえるんだけど・・・」
 「一応相手選んでやってる点では一抹の白さはあんじゃん? サエくんがこんな態度に出るのなんて他に跡部くんと俺と立海おおむねみんなと千歳くんと被害軽微でその他諸々に話聞くとリョーガ君と・・・・・・って相手多すぎ? とりあえず幸村くんには下手に出てる分マシっぽい?」
 「ちなみに訊くけれど佐伯君、越前リョーガという選手、どの程度の実力なのかしら?」
 「大体俺と互角くらいですね」
 華村の質問にしれっと答える。答え―――



 ―――次の瞬間、レギュラー入りが決定付けられた。








Last.日米Jr.親善試合にて。
     
 試合が始まった。最初に言っておくと、日本チームのオーダーは、W2が佐伯と千石、W1が英二と不二、S3が跡部、S2がリョーマでS1が真田、補欠が切原となった。
 さてそのオーダーの元アメリカチームと顔を合わせ・・・



 「ちょっと待てよ佐伯!! なんでお前ンなヘンなトコ担当してんだよ!?」
 「は? ヘン? お前が『前座で待ってる』って言ったから、ああ最初の試合なんだなと思ってここにしたんだけど?」
 「違げえよ!! 俺がダブルスやんねーのはお前だってよく知ってんだろーが!! 最初の試合っつったらS3だろーが!!」
 「『なんだそーなのか紛らわしい言い方しやがって(棒読み)』。
  だからちゃんと跡部回しといたじゃん。ホラ、当たれてよかったな?」
 「確信犯かあああああ!!!!!!!!」
 「俺まで巻き込んでんじゃねえ!!!」



 「つーか何でお前がS2なんだよリョーマ!! お前ならS1だろ!?」
 「だって一応リーダーのケビンがS1でしょ? 俺アンタじゃなくってリョーガとやりたいって言ったら『リョーガなら実力は上だろうけど立場上下だから間取ってS2だ』って佐伯さんが。
  ・・・・・・って全然オーダー違うし」
 「まったアイツかああああ!!!!!!!!」





 やられて決して泣き寝入りはしない佐伯。彼の仕返しの被害者は増えるばかりである・・・・・・。


―――Fin

















 ―――なんなんだこの意味のない話は。つまりはただ2人の接触時の話が書きたかっただけですそしてリョーガが
Jr.アメリカチームに選ばれていたという話を。これでサエと対戦したりしたら〜・・・・・・ってしてないじゃん!
 では以上、『中身のない話』でした。ちゃんちゃん(と無理やり〆)。
 ・・・そうそうこの日本チームのオーダー。あくまで佐伯
&不二ではないのは、「リョーガといったら越前の兄貴らしく速攻型。だったらこっちもそれに対抗出来る攻撃型のヤツがいいぞ」というサエのアドバイスよりでした。もし仮に万が一リョーガがこちらの狙いを悟りD2になったとしても、不二はその攻撃にはさらさせず(ついでに千石ならいくらでも犠牲にしてOK)という、サエの心温まる愛情が成し遂げたオーダーですな。

2005.4.910


















 
おまけ編(佐伯はリョーマ=チビ助だと知っているという仮定でお読みください)


Take1.都大会準々決勝にて。
     
 「で、その・・・『佐伯』って人・・・・・・、
  ―――どんな人?」
 眉を寄せ尋ねるリョーマに、
 「―――こんな人」
 答えはフェンスの外側からかけられた。
 「――――――!!!???」
 振り向く。青学とルドルフの中間、どちらにも属さない辺りで気楽にぱたぱた手を振ってきたのは・・・
 「サエ兄!!」
 「やっぱアンタか!!」
 リョーマと裕太、2人の声が重なった。片や嬉しそうに近付いて、片や心底嫌そうに引いていって。
 「よっ、久しぶり2人とも。せっかく裕太君の晴れ舞台だっていうから見に来たけど、
  ―――まさかその相手がお前だとはね、越前」
 「ていうか俺も驚きだよ。アンタこの人の前でどれっだけ猫被ってるワケ? 何か来て喜ばれてるよ?」
 「オイ!!」
 「えっと・・・やっぱ『虎』くらい?」
 「で、先訊いとくけどさあ、
  ―――負けた? アンタが?」
 「裕太君強いぞ〜。越前ファイト!」
 「うわ嘘くさ・・・・・・」
 「まあそれはともかく、何か図らずも弟同士の戦いって感じだな。頑張れよ2人とも」
 「俺アンタに育てられた記憶ないし」
 「そんな。あれだけ遊んでやったっていうのに」
 「アンタたちが一方的にね。
  もーいい。さっさと試合やろっかこーいう人は見なかった事にして」
 「あ、ああ・・・・・・」







 
Take2.関東大会緒戦にて。
     
 「おい見ろよ奴ら・・・・・・・・・」
 「第3シード、千葉代表六角中ーっ!!」
 周りの声に、ジローと話していた不二の視線が上を向いた。合わせ、ベンチに座っていたリョーマの視線もまた。
 見上げ、
 「っああああああああああ!!!!!!!!!」
 リョーマはベンチから立ち上がり上を指差した。不二もジローも、どころかコートに入っていた手塚も跡部も、驚きリョーマの方を注目した。リョーマを、そして彼に指差される男を。
 注目され、かの男―――六角部員としてこの試合を見に来た佐伯は、
 「よっ、越前久しぶり」
 「アンタなんでこんなトコに!?」
 「見たまんまだろ? これでも一応六角レギュラーだから」
 「・・・その服どっかからパクってきたんじゃなくって?」
 「お前相変わらず失礼だなあ。
  だったらそこにいる不二にでも跡部にでも千石にでも訊いてみろよ。ちゃんと答えてくれるぞ? 私立行く金がなかったから六角入った、って」
 「証言するけど・・・・・・そういう事情だったんだ。てっきり近いから入ったのかと思ってたよ」
 「だよね。交通費浮くし」
 「まあそれは冗談としておいて」
 「つーか佐伯、むしろてめぇに訊くが、
  ―――越前と知り合いだったのか?」
 「いろんな感じでな。まあ分類すれば知り合いだ」
 「俺は認めたくないけどね」
 「けど・・・
  ―――『
補欠』ねえ・・・」
 「うっさい!!」
 「まあお前の実力考えればせいぜいその程度が関の山か。むしろよくレギュラーなんかになれたな。驚きだよ。裏からどんな手回したんだ?」
 「心底疑問に思うな!! 普通になったに決まってんだろ!?」
 「ははっ。そんなまさかv」
 「アンタ今すぐこの場で倒す!!」
 「落ち着けよ越前。そんな焦んなくても順調に行けば準決勝で当たるから。
  ―――その時はせいぜい昇進しとけよ。
ほ・け・つv
 「うがああああああああ!!!!!!!!!」
 頭を掻き毟るリョーマ。飄々とした感じで試合見物―――もとい偵察に入る佐伯。
 一応友人らしく、応援などしてみる。
 「頑張れ跡部。ちゃんと友情に則って万に一の確率でもお前が勝つ方に賭けといたからなv」
 「賭けんじゃねええええええ!!!!!!!!」
 全ての突っ込みをその一言に乗せ、跡部が吠える。が、もちろん佐伯がそれに堪えるワケもなく。
 会場には、リョーマと跡部の荒い息だけが残った。
 「なんか・・・、お前も随分大変なヤツに好かれたな、越前」
 「アンタもね・・・・・・」
 こうして、跡部とリョーマによる間違った方向への友情第一歩が築かれたのだった。







 
Take3.慰安旅行中。
     
 先に走って行ってしまった葵をのんびり追いかけた六角一同。前に見える集団に、佐伯が足を止めた。
 「どした? サエ」
 「いや・・・・・・」
 視力
2.0の佐伯(家にテレビゲームやパソコンなどの高級品はなく、また眼鏡やコンタクトを使えば金がかさむため)。遠くからでも彼らの姿はばっちり見えていた。
 (さてどうするか・・・)
 遠くに見える一同の内、オジイと葵を除いても少なくとも2人には心当たりがあった。というかはっきりきっぱり知り合いだった。
 (問題は・・・どっちに声をかけるか、か)
 両方いっぺんに声をかければややこしい事この上ない。3人で知り合いなら普通に盛り上がるだけだが、別口の知り合いとなれば互いに混乱するだけだ。
 (なら、一般的なお約束に則りここはより知り合いな方にかけるか)
 そういえば、仮にリョーマに声をかけたところで話が続かない。リョーガというワンクッションがなければ。
 それに引き換え不二なら普通に会話は進む。
 というワケで、



 「不二」
 「佐伯」



 ―――佐伯は、不二の方に声をかけた。







 
Take5.Jr.選抜合宿にて。
     
 井上に写真を見せられ、
 2人の呟きがハモった。
 『なんだリョーガじゃん』
 2人―――リョーマと、佐伯の。
 「は・・・?」
 「え・・・?」
 2人で顔を見合わせる。なぜこの相手まで彼の事を知っている?
 フリーズした頭で考え、
 結論を得たのも同時だった。
 「アンタやっぱ―――」
 「人違いだ俺は知らないぞそんなヤツ!! んじゃそういう事で!!」
 「えっとあの・・・」
 口を挟む暇もなく、佐伯はダッシュで食堂を出て行ってしまった。



 残された一同。出口に首を向けたまま、リョーマが呟いた。
 「不二先輩・・・。もう一回確認しますけど、あの人アメリカ行った事ないんスよね・・・?」
 「え・・・? 住んでた事はないけど、短期の旅行ならよく行ってたよ・・・?」
 「双子の姉貴がそっちいるからな。休みごとに行ってたぜ?」
 不二の説明に跡部が加えていく。よこされた補足に、リョーマが眉を顰めた。
 「『姉貴』・・・? 兄でも弟でもなくって?」
 「アイツは双子の姉弟の弟だ。他に兄弟はいねえよ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
  何か頭痛くなってきたんで部屋戻ります」
 「・・・・・・ああ」
 「お大事に・・・・・・」