「やっとわかった。なぜ俺があれ程不二との対戦を切望していたのか。
お前と戦う事で、自分を高めることが出来る」


それを聞き、彼は・・・・・・








唯一無二










Side跡部―――


 いよいよ本格復帰を果たした手塚に会いに来た跡部。彼は、これ以上試合を見る意味をなくしコートを離れていた。
 適当な校舎裏の壁に拳を付き、頭を乗せる。なぜだか、とても疲れていた。
 「自分を高めるために、求めるのは不二・・・・・・
  ・・・・・・か」
 小さく笑う。決して泣きはしない。
 高いプライド。自分自身を含め、人前では絶対に弱みは見せなかった。
 だから―――
 ―――泣き方など忘れてしまった。自分の本当の気持ちの伝え方もまた。







 「『なぜ俺があれ程お前との対戦を切望していたのか。
  お前と戦う事で、自分を高めることが出来る』



  ・・・・・・俺が言われたかったぜ、手塚・・・・・・」







 俯き呟く跡部。その目からは、綺麗な涙が零れ落ちていた・・・・・・。

























―――Side不二


 手塚にそう告げられ彼は、目線を落とし小さく笑みを浮かべた。
 ぼそりと呟く。
 「奇遇だね」
 「む・・・?」
 問い掛けてくる手塚に、不二が伏せていた顔を上げた。まるで跡部の代理であるかのように、泣きそうな笑みを浮かべ。
 「この間、同じ台詞を聞いたよ。同じ台詞で―――僕は振られた。
  不思議だよ。その台詞で出てきたのは君だったのに。なのにその君に今僕が言われてる」
 「不二・・・・・・?」



 「僕はずっと跡部と本気で戦いたかった。でも跡部は僕の事を格下にしか扱ってくれなかった。跡部は僕の事を見てはくれなかった。
  ―――跡部がずっと見ていたのは君だった。


  ねえ手塚、もし僕が君を倒す事が出来たなら、跡部は僕の事見てくれるかなあ? もしもそうなら―――






  ――――――――――――本気でいくよ」


























Side手塚―――


 (跡部・・・?)
 不二の口から出た彼の名に、手塚は目線だけでそちらを見た。今日、他校生に混じって来ていた跡部。そこにはもう、誰もいなかった。





 ―――『ねえ手塚、もし僕が君を倒す事が出来たなら、跡部は僕の事見てくれるかなあ? もしもそうなら―――
     ――――――――――――本気でいくよ』





 (あくまで、俺相手では来ないという事か・・・・・・)
 あくまで不二が本気を出すのは跡部のため。覚えるのは猛烈な嫉妬。覚え、
 心の中で苦笑する。
 (なるほどな。お前もこういう気持ちだったのか、跡部・・・・・・)
 関東大会緒戦S1。青学対氷帝の部長対決。勝てば2回戦進出だった青学、負ければそこで終わりだった氷帝。
 自分は勝って青学のみんなを次へ導く事を考えていた。そのためならば他の全てを捨てても惜しくはなかった。
 では跡部は? 彼は一体何を考えていたのだろう?
 やはり氷帝の事だろうか。それとも・・・・・・
 結論は出ていた。試合後、高く掲げた手が何よりも如実に示していた。
 氷帝の誰でもなく自分を見ていた跡部。勝った事、まだ終わっていない事を喜ぶよりも先に自分を称えた跡部。
 きっと彼は、負けても同じ事をしていただろう。「いい試合だった」と、晴れ晴れした笑顔でそう言っていただろう。
 選抜合宿でもまた、跡部は真田を相手にしながらその向こうに自分を見ていた。
 彼は常に彼だった。だからこそ自分が戦いたい相手に向かい、真っ直ぐに立っていられる。
 それは酷く傲慢な事だ。巻き込まれ見捨てられる周りは迷惑極まりないだろう。だが―――
 思う。他人のために戦うこと、それもまた傲慢ではないのか? 例えば自分。青学のため、全国へ導くため最後まで戦い抜いた。そして肩を壊してドイツへ療養に向かった。
 残された青学のメンバーは、何としても自分と全国へ行こうと頑張った。そして自分たちは今、全国への切符を手にしている。自分もまた復帰した。
 しかし・・・
 ・・・・・・もしもあそこで自分が棄権していたらどうなっていたのだろう。
 たとえそうでも2敗同士。補欠にはリョーマがいた。
 さらに先。城西湘南、六角、そして立海。自分がいない中で、大石を始めみんなにどれだけ苦労をかけたのだろう。任せても大丈夫だと思ったから任せたのだが、それでも問題は山積みだった。
 本当に『青学のため』を願うのならば、自分は棄権すべきだったのかもしれない。独りよがりだったかもしれない自分の言動は、他の何よりその『青学』に迷惑をかけた。
 自分のために戦う事。
 誰かのために戦う事。
 どちらがいい事でもなく、またどちらが悪い事でもなく。
 あえて2つ言うとしたら・・・・・・
 ―――自分が『青学部長』としてではなく『手塚国光』として戦うのは、随分久しぶりだという事でありそして、
 ―――跡部が決して不二と戦おうとしないのは『不二周助』としてではなく『跡部のために』戦う不二が嫌だったからという事。
 跡部は知っていたのだろう。誰かのために戦うというのは、戦う本人だけではなくその『誰か』にもまた負担を押し付けるという事を。だからこそ跡部は『氷帝のため』ではなく『自分のため』に戦う。全ての責任を自分が負う代わりに、持てる全ての力を自分にのみ捧げる。
 考える。自分に出来る事を。
 結局のところ他に何もないだろう。







 「ならば来い。俺に見せてみろ。お前の本気を」







 ――――――たとえ誰かのためとはいえ、本気の不二と戦いたいと思ってしまうのならば。

























―――Sideリョーマ


 《そんで越前!! 凄かったんだぜ昨日の手塚部長と不二先輩の試合!!》
 《本気出した手塚と不二なんて俺初めて見たにゃ〜!!》
 「そ、・・・っスか」
 あくる日、自分の全米予選通過祝いを名目とした先輩たちからの電話。その中で告げられた事実に頷き返し、
 リョーマはベッドに座ったまま、陰鬱に呟いた。






 「結局、俺相手じゃ本気出してくんなかったんだ・・・・・・。不二先輩・・・・・・・・・・・・」
















―――
Fin―――


















 暗い話は暗いまま終わらせましょう! そんなコンセプトで始まり、手塚のところで塚跡か跡不二(注:あくまで塚不二にはしない)で明るくまとめようと思いやっぱり止めた結果暗くなりました。互いが最高!! みたいなノリの2人を観ていると、どうもおかげでないがしろにされたような他の人が気になってたまりません。とりあえず私的にはリョーマが結果報告をされた際、手塚より不二中心で考えていた―――『手塚が勝った』ではなく『不二が負けた』と捉えたところが萌えポイントでした。まあだからこそその手塚と戦いたいと繋げるための前振りで、不二は噛ませ犬というか実験台というかそういう扱いだったとわかってはいますけど!
 では以上、凄まじくわかりにくい話にして結局のところ全員傲慢で自分勝手な4人の話でした。

2005.4.1