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特別企画

誰がためにケーキはある?




 それは全国大会を終え行われたJr.選抜合宿での事。2週間という長きに渡って行われる合宿は、中間に1日だけ休養日を儲けてある。曰く、『普段なかなか親しく出来ない他校生達との交流の機会』だそうだ。この日は誰とどこに出かけようとコーチたちは笑顔で見送る。
 その中休みの日、あえて出かけず合宿所に残った3人がいた。家訓が《自己責任万歳。最低限の世話しかやらん》の佐伯。遊んで使い果たしたり犯罪に巻き込まれたりしないようにと余分な金は持たされなかった金太郎。そして十分遊べる金は持っていたが、佐伯に『オジイの見舞金』と帰りの交通費除いてまたもほぼ全額没収された甲斐。・・・・・・つまるところ外へ出かける金すらない3人が。
 合宿所でのんびり過ごす。それ自体は嬉しい事だ。いつもヘトヘトに疲れ果てて必要最低限にしか動けないというのに。
 ―――が!
 きゅうううううう〜・・・・・・×3
 「腹減ったわ〜」
 「なんで職員までいねえんだよ・・・!!」
 「まあ、まさか合宿所に残るヤツがいるなんて思わなかったからだろ」
 「なあ。もう貯蔵庫忍び込んであるモン食おーぜ〜?」
 「無駄だぜ。しっかりカギかかってる」
 「カギなんて壊したらええやん」
 「だよな。別に壊さなくったって
30秒あれば余裕ぶっこいて無傷で開けられるし」
 「開けられるん!?」
 「当たり前だろ? 諸事情で家に入れず野宿させられそうな時は跡部の家忍び込んで寝込んでたからな」
 「なあ、跡部ん家って噂の大豪邸だよなあ・・・? 防犯設備、どうしたんだよお前・・・・・・」
 「やだなあ。赤外線に防犯カメラ、ピアノ線にまきびし・落とし穴なんて俺の敵じゃないよ」
 「・・・・・・なんでだんだん原始的になってくんだよ」
 「すげー佐伯!!」
 「ははっ。まあこの程度はおばあちゃんの知恵袋って感じで」
 「・・・・・・・・・・・・ヤなばあちゃんだなあそれ」
 「実際ばあちゃんに手ほどき受けたから」
 「オイ!!」
 「せやったらやっぱお前が貯蔵庫開けて―――!!」
 「だよな! 普通に開けて食って締めりゃ証拠隠滅だ!」
 「ただし問題はだ。カギかけてまで厳重に閉まってる以上、どれがどの程度あるかしっかり管理されてる」
 「だから?」
 「だから、
  明日確認してものが無くなってたとする。当然疑われるのは俺たちだな」
 「えーんやないか実際やったんやし?」
 「それは駄目だ!! せっかく俺は『爽やか好青年』で通してんのにそんな事やったなんてバレたら一発アウトだろーが!!」
 「どーでもいいだろーがお前の事情なんぞ!!」
 「まあそれは1%くらいは冗談として」
 「
99%本気だったんだな・・・?」
 「実際問題として、いくら金がなかろうが合宿中そんな問題を起こせば途中で強制退場させられるかもしれない」
 「俺らがビンボーやっちゅうのはみんな知っとるさかい、別に問題ないやろ盗んだって」
 「一応職員と8割方の参加者は知らない以上あんま『知ってる』とは言い切れないだろ。それに何にしろ『集団行動を乱した』『スポーツマンとしての根本的常識がなってない』とかいろいろ言われるだろ特に真田と手塚に」
 『ぐっ・・・・・・』
 「―――と、いうワケで。
  『誰もいなくなったこの機に忍び込んだヤツが食い散らかした』という設定で行こうと思う。じゃあ準備にかかろうか」
 「やるんだな? あくまでやるんだな・・・?」
 「しかも・・・・・・バレたら余計問題アリやん・・・・・・」
 「じゃあお前らはやらない、と」
 『やりますもちろんvv』
 そんなこんなで3人の心は1つにまとまった。己の生存を賭け、テニス以上に本気になった3人に敵はない。真剣に相談し・・・・・・





 ぴんぽ〜ん・・・・・・





 「・・・ンだよ誰だよ?」
 「マズいな。今俺たちが出て行ったら『誰もいなくなった』っていう前提が崩れる」
 「俺らが残っとる事はみんな知っとるやろ?」
 「甘いぜ金太郎」
 「『昼が食いたいから野山に山菜取りに行った』なり『川に魚釣りに行った』なり『そこらの街角で誘われんの待ってた』なりいろいろイイワケ出来るだろ?」
 「・・・・・・ラストはマジいだろ」
 「山菜取り!? 魚釣り!? 出来ん!?」
 「そりゃこれだけ山中にあって広い合宿所ならそこそこにあんだろ。夏真っ盛りだし」
 「俺はヤだぞ!! せっかく合宿来てんだからこーいう時位はふつーに店とかにも並んでるモン食いてえ!!」
 「山菜も魚も並んどるやん普通に店に」
 「そうだな。『地域特産物コーナー』とか『名物:郷土料理』とかに」
 「そーいうんじゃなくってそこらのファミレスとかに並んでるヤツ!!」
 「となるとやっぱ貯蔵庫か・・・」
 などと話が居留守の方向に向ったところで、
 外からこんな声が届いた。





 『あれ〜いないや』
 『残念。せっかく差し入れ持ってきたのに』
 『ホント。頑張って作ったのにね
ケーキ





 ―――その瞬間。3人の心は今までにないほどシンクロした。







Δ     Δ     Δ     Δ     Δ









 「というワケで、ケーキをもらった」
 「けどええんか? めっちゃしっかり《さま
Fight!》書いてあるで?」
 「手紙付きだしなあ。『間違って食べた』なんて言っても通じねえだろ」
 「問題ないさ。だって宛だし」
 「・・・・・・つまり?」
 「なら『その手紙差し入れにもらった』って言い張れば納得してもらえる」
 「『言い張る』・・・?」
 「最終的に想いを伝えるのは言葉だ。たとえその途中に襟首掴んで膝蹴り叩き込んで関節取ってたりしたとしても」
 「別にいいけどな。お前が全部やってくれんなら」
 「せやけど手紙にしっかり『ケーキ』書いてあるで? 読んだらバレるやろ」
 「その辺りは『真夏にケーキは傷みやすいし冷蔵庫使えないから食べておいた』って事で。親切だな俺たち」
 「1%の疑念もなくそう言い切れるお前ってすげえな」
 「サンキュー」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・頼む。早く帰ってきてくれ常識人」







Δ     Δ     Δ     Δ     Δ









 そんなこんなでケーキ。説明すると、それは2段重ねのホールケーキだった。下段は生クリームがどべ〜っとかけられていて、上段は棒状クッキーで周りを囲まれて。に贈るにしてはいささかファンシー過ぎるような感じで華やかに飾り付けられていた。
 それはいいのだ。《華やかな飾り=その分量が増える》だから。
 問題は・・・・・・
 「どうやって切り分けるか、だよな」
 佐伯が持ってきていた
My包丁を手に悩み込む。どちらかというとその他2人は佐伯がなぜどういう理由でそんなものを持ち込んでいたかについて悩みたかったが、やはり差し当たっての問題はそっちだろう。というか、





 ―――どうやって自分の分を多く取るか。







Thinking time








案その1.佐伯

 「ここはやっぱ1人
120度だろ」
 最も常識的な意見。それこそ常識的に考えれば。
 「そりゃいいけどな」
 「どないして測るん?」
 「そこは、こういう文明の利器で」
 首を傾げる2人に、佐伯はこれまた何で持っているのか分度器なぞを取り出した。
 「佐伯なしてそないなモン持っとるん・・・?」
 余計に首を傾げる金太郎。一方―――
 そんな金太郎よりはちょっとは奸計に長ける甲斐がはっとした!!
 「お前それまさか―――!!
  ―――実は微妙に角度配分ずれてて自分だけ多くなるとかいう魔のアイテムじゃねえのか!?」
 「何言ってんだよ甲斐v そんな事俺がやると思うか?」
 「思う。心底。はっきりと」
 がすっ!!
 「あ、ひしゃげた。じゃあこの案はボツ、と」
 「めっちゃ証拠隠滅やん・・・・・・」










案その2.甲斐

 「生きるのはサバイバルだ。食うか食われるか。弱肉強食。というワケで―――
  ―――やっぱここは決闘して勝ったヤツの独り占め、と・・・」
 言いかけた甲斐の言葉が、
 ぱったりと止まった。
 ちなみに甲斐、別にこの提案は勝算なしに出したのではない。ケンカにはそこそこの自信がある。沖縄武術もやってるし。
 とりあえず、こんなお子様だのなよなよ好青年だのに負けない程度には。
 が、
 「よっしゃやるでー!!」
 ノリノリの金太郎。そこらにあった机など振り回している。
 「サバイバルだな? 食うか食われるかだな? 弱肉強食だな?」
 ひとつひとつ強調する佐伯。にっこり笑いながら、包丁の握り具合を確認している。
 「待てお前ら・・・。まさか――――――武器使用可?」
 「当たり前やん」
 「自然界にルールなんて求めちゃダメだぞ? 生きるためには
全力を尽くすものだからなv そして人間は2足歩行となり脳を発達する事ですばらしい技能を手に入れた。そう、道具の使用というそんな技能を。となれば使うのが当然だ。生まれつき身に付いた能力[タレント]は生かさないとな」
 笑顔ではっきり言い切る2名。このままでは本気で生き残り合戦[サバイバル]となりそうなノリに・・・
 「・・・・・・思ったが、やっぱここはもうちっと穏便にいかねえか?」
 「なして?」
 「俺らは全然オッケーだぞ?」
 「だってなあ・・・・・・。
  ―――ホラ、ヘタに暴れると余計エネルギー消費するじゃねえか」
 『ああなるほど』
 「(セーフ・・・・・・)」










案その3.金太郎

 「そーいえばこないだな、テレビでおもろい事やっとったんよ。何と、どっからも文句の出んケーキの分け方や!」
 「ほお・・・」
 「またどんな?」
 「まず『親』決めるんよ。コレが切り役な。
  んで、ケーキをこーぐるぐる〜と回していくんや。ゆっくりゆっくり。
  他のヤツは好きな時ストップかけるん。そこでケーキ切って、それまでがソイツの分や。余りが親の分な。どのタイミングでストップかけるんかが勝負の分かれ目やな」
 「なるほどな。自分の分を多くしようと思ったらなるべく遅めがいい。ところが遅すぎると他のヤツにストップかけられる、っていう事か」
 「面白そうじゃねえか。んじゃ、包丁持ってるしお前が親な、佐伯」
 「ああわかった。ついでにより公平になるよう新ルールな。最初は親が切る。2人目分以降はケーキをもらったヤツが親交代。そういう事で」
 「くそ・・・。やっぱ一筋縄じゃ引っかからねえか」
 「はっはっはv 甘いぞ甲斐v」
 金太郎の案―――というかそのテレビの遊びには致命的な欠陥がある。ラスト1人になった場合だ。ギリギリまでストップをかけなければ、その残りとなる親の分は0に等しくなる。甲斐はそれを逆手に取り、あえてラストとなるつもりだったのだろう。適当なところ(1/3位?)で「ストップと言う」というフェイントをかけてやれば、焦って金太郎はさっさとストップをかけてしまうだろう。この計算だと金太郎1/3、甲斐2/3、そして自分0となる。
 が、もし親を交代したならば・・・・・・
 最初にストップを出した(と仮定)金太郎が次の親。自分と甲斐の一騎打ちとなれば、他にもいろいろやりようはある。例えば途中で甲斐を気絶させラスト寸前で言うとか、しゃべる口や喉の動きを見て先に言ってやるとか。金太郎は何にせよ損はしないので、どのような手を取ろうと一切口を出してはこないだろう。
 一見平和解決した議論。
 「じゃあまずは最初の切れ込み入れるな」
 包丁を手に、佐伯が適当なところに半径分切れ込みを入れた。これからサバイバルスタート。
 『ぐ〜るぐ〜る♪』
 何となく全員でハモってみて、そろそろ1/3到達・・・というところで。
 部屋の明かりが消えた。










 『な、なんや? どないした?』
 『停電か・・・節電か』
 『・・・お前他に思いつく事はねえのか?』
 『さって回すぞ〜。好きなところでストップかけろよ〜』
 『それ卑怯やん!! どん位回っとるんか見えんわ!!』
 『くっそ佐伯! お前このチャンスに高速回転とか逆回転とか超スローとかやってんじゃねえだろーなあ!?』
 『お? そんな案もアリだなあ』
 『白々しく棒読みしやがって!! こーなったら先食う!!』
 『あ〜!! ズルいわ甲斐!! 俺かて欲しいわ!!』
 『お前らルール守れよな!!』
 『説得力ねえよ!!』





 そんなことをやっている間に明かりが―――
 ―――点きはしなかったが、代わりに入り口の扉が開かれた。










 「お前ら・・・・・・、何やっちょるんこないなトコで?」
 入り口脇にある掃除用具置き場。帰ってくるなりごとがた音が鳴っていたので開けてみた千歳が見たものは・・・





 『っああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!??????????????』





 空のテーブルを囲み、大絶叫を上げる3人の姿だった。
 「ケーキがない!?」
 「誰や食いおったヤツ!!」
 「お前じゃねえのか!? 口端クリームついてんじゃねえか!!」
 「ちゃうわ!! 俺かてちょびっとは食ったけどホンマちょびっとや!! そない全部食っとらん!!
  そーゆうお前やあらへんのか!?」
 「俺だって1口2口だ!! ンな短時間で全部食えるかよ!?」
 「お前らルール無視して食ったのかよ!? 俺1口も食わなかったんだぞ!?」
 などなどぎゃーぎゃーやる3人。
 「何が・・・あったんでしょうね?」
 「つまり整理すると、たまたま3人でいる時ケーキをもらったからこっそり食べようとして、なのに何でかほとんど食べないうちに消えちゃった、と・・・・・・」
 「箱の形と大きさからするとホールだものね。確かに1口2口でなくなるものじゃないよね?」
 「不思議だな」
 同じく3人が気になって早めに帰ってきた木手・千石・不二・幸村。犯人当てをしようとする3人、疑問符を浮かべる5人の後ろで・・・。
 ため息をつき、やはり帰ってきていた跡部が中に入ってきた。
 「あ、跡部・・・・・・」
 「な、何や・・・!?」
 微妙な罪悪感に苛まれたじろぐ甲斐と金太郎。一方・・・、
 「聞いてくれよ景吾! 宛に
Fanの子から来てたケーキ、この2人が食っちまったんだ!!」
 「お前だ主犯はああああ!!!」
 「俺ら売るなああああ!!!!!」
 なぜかためらい0で跡部に縋り付く佐伯に同時に突っ込む。跡部はそんな3人を静かに見て、
 「最初に1つ言っていいか?」
 そう、前置きをした。
 前置きをして―――
 ―――佐伯の頭に全力で振り上げた拳を落とした。
 「うあっ!?」
 頭を押さえ蹲る佐伯に指を突きつけ、
 「どさくさ紛れて食うんならともかくタッパーに詰めてんじゃねえ!! てめぇはしっかりモンの主婦か!?」
 「ああっ!! 俺のケーキがあああ!!!」
 『あ・・・・・・』
 跡部の指摘―――そしてその手に持たれたタッパーにやっと気付く。少ししか食べていない内になくなったケーキ。そして『一切食っていない』と言い張った佐伯の謎。
 ・・・どうやら佐伯はあの暗闇の間、1人必死に包丁で切り分けタッパーに詰めていたらしい。跡部が奪い取ったタッパーには、やったら綺麗に詰められていた。
 「にしても・・・
  ・・・・・・本気で売ったんだな、仲間」
 「勝手に食べる案出して、自分だけ多く取って挙句2人犯人扱いして」
 「もしかして、電気切ったのもサエさんなんじゃ・・・・・・」
 こちらも戻ってきていた六角一同が、どんよりとした雰囲気でため息をついた。手に持っていた箱を見下ろし、
 「なんか・・・
  あげる気とことんなくなったな。この大福・・・・・・」
 「残念なのね。せっかくサエの好きそうなの選んできたのに」



―――Fin









 ―――なお優しい六角一同。ちゃんと3人分買ってきましたよ。何を買っていったら喜ぶか考え、とりあえず唯一好みのわかっているサエのもの(安くて食い応えがあって腹に貯まる物)に合わせて。そして買ってきたのが『とらや』の和菓子だったら大爆笑だ。アレって全国に店ありますっけ? 選抜合宿を千葉でやったという流れでも全然
OKですが私は。参加者は交通の便の悪さに反対するでしょうなあ・・・。
 さてそんなこんなで
45000Hit! 皆様ありがとうございます! なので衣替えしてWeb拍手御礼SSで出そうとした話をここで出すのもどうかと思いますが、嬉しい気持ちはいっぱいですよ〜〜〜!! なんか微妙なメンツが微妙な祝い方してますけど! ・・・そういえば丁度1ヶ月前に、コミックスでは甲斐初登場でしたね。
 なお余談、ホントはこのケーキ、跡部宛に着ていた設定でした。なのでサエが襟首掴んで膝蹴りお見舞いしようとしてます。おかげで不二を入れると恐ろしくおかしい展開になるなあ・・・・・・。




心理テスト? 的クイズ!

 ≪ホールケーキを、ナイフを3回使って8人に等分になるよう切り分ける方法は?≫

  *選択肢の行を反転させてみよう! あなたは誰のタイプかな?
 

1.3回叩きつけてケーキを粉砕。秤に載せ同じ重量に。         →佐伯タイプ。もちろん秤は細工済み♪
2.2・3人を縦に並べて串刺し。7人殺して自分で丸ごと1個食べる。  →
甲斐タイプ。逆に殺されないよう頑張ってねvv
3.十字に切って4等分。さらに横半分に削ぎ切り(?)。        →
金太郎タイプ。みんなで仲良く食べましょうv




 ・・・正解はもちろん3です。1と2は実際私が言った答えです。2を即答した私に、出した友人はあきれ返ってました。「とりあえずナイフ=殺しの発想は止めろ」、と。なおなぜ2が佐伯ではなくあえて甲斐なのか。佐伯ならメリットに対するデメリットの少ないものを選ぶからです。なにせコレ、『7人』が誰だか指定されてませんので。

2005.4.719