佐伯に預けておくと危険なので、『跡部様クローン幼少のみぎり
ver』をぶん取ってきた。





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                     〜
10月誕生祭その2:跡部〜








 「で、引き取ったはいいが・・・・・・」
 見下ろす。手を引かれ、ちょこちょこついてくるちっちゃい自分―――チビ景吾を。
 「これからどうすっかなあ・・・・・・」
 家に連れて帰るか。いやいやそれだと両親のおもちゃになる。それに、
 (家で育てると俺みてぇなヤツになっちまうんだよなあ・・・)
 こんな事を思う跡部。自分の性格に多大な問題がある事は、さすがに自覚していたらしい。
 暫し悩み―――
 「よし」
 跡部は1つ頷いた。
 「問題ねえ他のヤツん家に預けりゃいいのか」







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in鳳家

 「つー事で鳳。悪りいが暫くコイツ預かってくれねーか?」
 まず最初に思い立ったのは後輩の家。鳳ならそれこそ『良家のお坊ちゃん』のイメージそのものだし、実際何度か家に上がらせてもらったところ両親の対応もとても良かった。
 「へえ〜。跡部さんのクローンですか。
  構いませんけど、面倒見ならむしろ樺地の方が得意じゃ―――すみませんでした」
 失言を洩らしかけた鳳。本物跡部に睨まれさっさと意見を取り下げた。
 しゃがみ込みチビ景吾に視線を合わせ、
 「そっかあ。じゃあこれからよろしくね」
 「ん」
 あえて頭を撫でずに手を差し出したのは、小さいとはいえ相手を一人前に扱っているからか・・・・・・それともそばで見下ろす跡部が怖かったからか。
 チビ景吾もまだちっちゃな手を伸ばし握手する。跡部が満足げに頷いた。
 (よしよし。これなら問題ねえか)
 考えている間に、居間にはさらに人が入ってきた。鳳の両親が。
 「あら、景吾君いらっしゃい。
  ―――まあ、随分可愛いお客様を連れてきてるのね」
 「お久しぶりです。おば様、おじ様」
 「久しぶりだね」
 「ああ父さん、母さん。跡部さんがこの子を暫く預かって欲しいっていうんだけど、いいかなあ?」
 「申し訳ありませんが、お願い出来ないでしょうか?」
 「何遠慮してるの。もちろんいいわよ」
 「こんな可愛い子預からせてもらえるなんて、嬉しい限りだよ」
 「そう仰っていただけて幸いです。では―――」
 お願いします。
 ―――言おうとして、ふと跡部は止まった。
 (預ける? この家に?)
 普段遊びに来るのとはまた違う。預け、その家の色に染め上げるのが目的だ。
 改めて見る。和気藹々とした鳳家。正に理想の家族といった感じで、あははうふふという笑い声と共に幻想で花まで飛んでくるほどだ。
 (落ち着け俺。よく考えろ。
  預けられんのはクローンとはいえ
  ―――染まれんのかこの家に?)
 染まる事は可能だろう。とことん我を貫くよう周りには思われがちだが、必要とあらば周りに溶け込む事くらい何て事はない。
 が―――
 (穏やかな雰囲気でにこにこ笑って花まで飛ばす俺・・・・・・?)
 ・・・非常に不気味なものが出来上がるような気がするのはなぜだろう。
 チビ景吾を見下ろす。同じ結論に達したらしい。ぎぎぎぎぎ・・・と上げられた顔は、恐怖に染まっていた。ぎゅっと袖をきつく握る、震えた手が痛々しい。
 「―――すみません。いろいろ事情が変わり、預かって頂かなくても良くなりました。
  ではこれで失礼します。
  オラ行くぞ」
 「ん」
 反論の隙も与えず、跡部はチビ景吾を引きずり鳳家を後にした。










in不二家

 「違いすぎる環境に置こうとするからマジいんだ。違和感なく溶け込める家に預けりゃいいんじゃねえか」
 それで思い当たったのが幼馴染の家である。生まれて以来の付き合い。この家で跡部自身も育ったと言っても過言ではないほどだ。
 「―――つー事で預かってくんねーか周?」
 玄関先で、出迎えてくれた不二に一連の流れを説明しそう結論付ける。
 一通り聞き終えた不二は、特に驚くでもなくチビ景吾を見下ろし、
 「ああ、この子が噂のチビ景吾君か」
 「『チビ』じゃねえ!!」
 がん!
 「周に向かって暴言吐くんじゃねえ」
 「いやごめん・・・。今のは僕が悪かったと思う・・・・・・」
 不二がチビ景吾を知っているのは、佐伯に聞いたからだ。知能はともかく記憶は0のため幼馴染である自分たちとも初対面扱いとなる筈だ。これで跡部の怒りを理解しろという方に無理があると思う・・・・・・。
 無害な子どもを兄馬鹿跡部の犠牲にするのも心苦しい。早々切り上げ、不二はチビ景吾を跡部と離す事にした。
 「じゃあ景吾君、家入ろっか」
 「うん!」
 差し出された手を、チビ景吾は嬉しそうに取った。鳳に同じ事をされた際と態度が違う。兄馬鹿はもう遺伝子にまで刻み込まれてしまったのか、それとも1度殴られ学んだからか。
 もちろん前半だと受け取り、踵を返した跡部もまた嬉しそうに頷いた。
 「よしよし。これでアイツも順調に育――――――」
 頷きが、
 止まる。
 (順調に、育つ・・・・・・。
  育った結果が、



  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アレ)



 「ちょっと待て周やっぱいい―――!!」
 『うぎゃああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』
 跡部の叫びは、
 それ以上の叫びにより掻き消された。
 どばんと激しい勢いで扉が開く。中から、ばたばた涙を流しチビ景吾が飛び出してきた。
 跡部の胸に蹲り、ぶんぶん激しく首を振る。
 「嫌だ〜!! 嫌だ〜!! この家絶対ヤだ〜〜〜〜〜!!!!!!」
 「手遅れだった・・・・・・」
 ああ・・・・・・とため息をついていると、
 奥から不二が出てきた。なぜか不満げにむくれている。
 「せっかく来てくれたお祝いにケーキあげたのに」
 「ちなみに訊くが、何ケーキだ?」
 「いわしケーキ」
 「嫌がるに決まってんだろ!?」
 「そんな!! だって景は全部食べてくれたじゃないか!!」
 「そーしねえとてめぇが泣くからだろ!?」
 「だから景吾君も好きなのかと思って出したのに!!」
 「全人類の9割以上は嫌いに決まってんだろーがンなモン!! 俺だけ例外扱いしてんじゃねえ!!
  もーいい!! てめぇン家にはぜってー預けねえ!! 行くぞ!!」
 「あ〜!! 酷〜い!!」










inルドルフ学院

 「兄貴がダメでも弟は正常だからな。最初っからこっちにすりゃ良かったぜ」
 ちょこちょこ歩くチビ景吾の手を引き、部外者立ち入り禁止の宿舎内をのんびり歩く。こんなものはちょっとした話術と堂々とした態度ですぐ突破できる。
 1つのドアの前で立ち止まり、
 「ここが裕太の部屋、か」
 こんこん
 「はい―――
  ――――――跡部さん!!」
 「よお裕太。元気にしてるか?」
 「はい!
  ・・・え? でも何で跡部さんが?」
 首を傾げる裕太によく見えるよう、チビ景吾を前に出す。
 「暫くコイツ預ってくれ」
 「えっと・・・、あからさまに跡部さんに良く似たこの子は・・・・・・」
 「俺のクローンだ」
 「・・・・・・・・・・・・そうですか」
 (兄貴もサエ兄もいろいろおかしいと思ってたけど、ついに跡部さんもおかしくなったのか・・・・・・)
 ―――もちろん裕太はそんな事は口に出さない。たとえどんなに思っていたとしても。
 「じゃあ、えっと名前は〜・・・・・・」
 「俺と同じなんだから景吾でいいだろ」
 「んじゃ景吾〜・・・・・・何か照れますね。
  部屋入るか?」
 「うん。裕太兄ちゃん」
 いろいろと、された内容はともかく愛情だけはたっぷり与えられ育てられた裕太。一番下だからこそ弟が欲しかったりしたのもあって、呼びかけた声も向けた笑顔も本当に優しそうで。
 チビ景吾も敏感に察したようだ。反論せず部屋に入り・・・・・・
 「んふっ。裕太君、お客ですか―――
  ――――――ああ跡部君お久しぶりです」
 「てめぇ観月か。なんでてめぇがンなトコいやがる?」
 「表の札を見ませんでしたか? 僕と裕太君は同室ですよ」
 「ああ? てめぇが裕太とだと?」
 「ああ跡部さんお願いです兄貴とサエ兄には言わないで下さいいつ乗り込んでくるか!!」
 「あん? 裕太。俺はお前が大変な目に遭っても助けにすら行かねえ薄情モンだってか?」
 「いえ。一番の常識人だと思います」
 「・・・・・・。
  世渡り上手くなったじゃねえの」
 「散々鍛えられましたからね」
 は〜〜〜・・・とため息を付き合う2人。どうやらここもダメらしい。
 「次行くぞ」
 手を引こうとし、
 「・・・・・・・・・・・・あん?」
 チビ景吾がついて来ない。
 何をやっているのかと振り向けば―――
 ―――チビは観月と対峙していた。
 「おや? 初めて見る顔ですね。
  どこの子だい? 僕」
 「てめぇに言う名前なんぞねえよ」
 「・・・・・・・・・・・・。
  ん・・・ふふふふふふ・・・・・・。では勝手に推測させてもらいましょうか。
  跡部君によく似ていますが、調査によると彼は一人っ子。さしずめ君は親戚の子といったところですか」
 「わかってんならいちいち訊くんじゃねーよバ〜〜〜カ」
 「・・・・・・・・・・・・っ!!
  ―――ふっ。さすが跡部君の身内だけありますね。随分口は悪いようで・・・!!」
 「性格は悪かねーからなてめぇほどにゃあ」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
 「ああ? 何か言いてえってか? ならちゃんと言えよ。口はきけんだろ?」
 ビシバシバシバシパシィッ―――!!
 「ああ・・・。なんかもー素で問題起こってるんですけど・・・」
 「別に俺は何もけしかけてねえぞ?」
 「ええわかってます・・・。もともと相性最悪だったんでしょうね・・・・・・」
 2人でさらには〜〜〜〜〜〜〜っとため息をつき、
 「やっぱ無理そうだな」
 「すみません」
 「いや・・・まあ・・・
  ・・・・・・お前は悪かねえよ。周りが悪りいだけだ。俺含めてな」










in千石家

 様々な意味合いを込め抜きん出た幼馴染。その中でもまだ一番平凡と言えなくもない千石の家に預けてみようと思い立った。
 「―――つー事だ。ちゃんと面倒見ろよ千石」
 「うわ〜。うわ〜。跡部くんのクローン? しかも育成前!?
  おっけーおっけー!! 俺が預かっちゃうよ〜!! 責任持って可愛く育てるから安心して!
  さ〜景吾君vv さっそくお兄ちゃんと遊ぼうね〜vv まず何しよっか? お医者さんごっこ? メイドさんむしろ君だと主と執事ごっこ?」
 「やっぱいい」
 ごん!!
 思い立つだけ思い立って、結局その案は却下した。










in越前家

 「なんでウチ・・・?」
 「てめぇなら俺に対してぜってーヘンな事ぁ思わねえだろ」
 「何アンタそのナルシー台詞。世の中の人間全部がアンタの事なんて思うワケないじゃん」
 「だろ? よしよし」
 「・・・・・・いいんだ」
 とても迷惑そうに出てきたリョーマに、跡部は今度こそ満足そうに頷いた。他のメンバーもいろいろ考えてみたのだが、どうも千石の二の舞になりそうだ。そんなワケで、絶対ならなさそうな相手を選んだのだが・・・・・・。
 「で、コレがチビね」
 「てめぇにゃ言われたかねえけどな」
 「さっすが跡部さんのクローン。口の悪さじゃピカ一だね」
 「ハッ。わかったんならてめぇも慎めよな」
 「けど―――
  ―――いつまで威張ってられんだろーねえ」
 「上等じゃねえか」
 どす黒い笑みでばちばち火花を飛ばす2人。やはりこの家を選んだのは間違いではないようだ。
 「・・・・・・なんでそういう結論になるワケ?」
 「逞しく育つじゃねえか」
 眉を顰めるリョーマに、跡部は鷹揚に頷いた。さすがにリョーマも2・3歩引く。
 と―――
 「お〜跡部クン久しぶり〜。何だよ、俺に会いに来たってか? か〜わい〜ねえ」
 「うげ・・・。リョーガてめぇなんでいやがる」
 「いーや別に? たまにゃ家帰ろうかって思っただけだけどよ。
  ―――おお!? 何だよその子? 跡部クンの親戚? めちゃくちゃ可愛いじゃねえか!」
 「やっぱいい・・・・・・」
 現れた千石2号に、今度は跡部が身を引いた。が、
 「おー青少年。玄関先でな〜に騒いでんだ〜?」
 「よお親父。見てみろよ。チビ助の知り合いがオプション付で遊びに来たぜ?」
 「こりゃまたえっらいべっぴんさんじゃねえの!! さっすがリョーマ。俺に似て面食いに育ったじゃねーの」
 「似てない!! てゆーか何度も言ってるけど俺はそういうの興味ない!!」
 ・・・3号乱入で一気に騒がしくなった。
 「なあ、越前・・・。
  まさか、この人がお前の親父さん・・・・・・か?」
 「まあね・・・」
 「てめぇみてえな息子がいる時点でてっきりストイックな人だと思ってたってのに・・・!!」
 「誉めてんのそれ・・・? てゆーかリョーガ見た時点で大体予想つかなかった?」
 「他人じゃねえのかアイツ・・・?」
 「一応他人だけどね・・・。なんでか俺の方が親子に見えないってよく言われるんだけど・・・・・・」
 一通り情報を手に入れ。
 「じゃ、お邪魔しました」
 「え〜!! 帰っちまうの〜!?」
 「もっと遊ぼうぜ〜!!」
 「嫌に決まってんだろーが!!」










in真田家

 「・・・さすがにてめぇン家なら親もまともだろ」
 「会うなり随分失礼な事を言うな跡部」
 立海に押しかけると危なさそうなので、直接家に向かい真田に渡す。手塚同様、彼の人柄を表す荘厳な日本家屋。その門前に真田が佇むと、威厳が普段の3割増に見える。
 が、
 「つー事だ。預れ」
 「それが人にものを頼む態度か? けしからん」
 「いいじゃねえか」
 「何っ!? こんな子どもにまで!!」
 ・・・そういったものに全く物怖じしないのが跡部である。それはチビであっても同じ事。
 真田の眉間の皺が増えていく。礼節を重んじない者はたとえ子どもであっても許せないらしい。
 「よかろう。ではその子ども、俺が性根を叩き直してやろう!」
 これまた普通の者なら怯む声で怒鳴る。
 しかしながら―――
 「お? そーか。んじゃ頼んだぜ、真田」
 「よろしくな」
 「・・・・・・お前ら怖いとかそういう感情はないのか?」



 真田家に入った真田とチビ景吾。跡部は帰ろうとし―――
 ―――気が変わったので表で待ってみた。



 どすっ! がすっ! ごすっ!!



 
10分後―――
 「よお帰ってきたか」
 「駄目だった」
 「んじゃ別の家行くか」
 「だな」










in南家

 「よくよく考えてみりゃ自身がまともなヤツ選んだ方が早ええんだよな。つー事でよろしくな、南」
 「一応それ褒め言葉なのか・・・? まあそう受け取っとくけど・・・
  ―――何が『よろしく』なんだ?」
 自分の中で結論付けた跡部。結論付けただけなので、南には全く説明していなかった。
 「ああそうか。
  コイツ暫く預ってくれ」
 「え? わざわざ俺に?」
 「ああ。俺が知る中でてめぇが一番普通だからな」
 「だからさあ・・・・・・」
 ため息をつき、もう説得は不可能と諦め、
 南は『コイツ』を見た。自分より身長は低い。しかしながらなぜだろう。むしろそっちに見下ろされているような錯覚を覚えるのは。
 「・・・・・・で、このお前に良く似た子は一体・・・・・・」
 「俺のクローンだ」
 「いや絶対ムリ」










in白石&千歳家(もちろん家は別)

 ついに関東圏で頼れる相手がいなくなった。なので関西に進出してみた。
 「よお跡部。お前がこっち来るなんて珍しいやん」
 「悪りいがコイツ預ってくんねーか?」
 「どうしたとね?」
 近寄ってくる千歳も交え、白石に事情説明をする。
 「・・・・・・つー事だ」
 「ほお〜。へえ〜。
  ハハハハハハハ! 確かにクローンやな。見た目そっくりやん。中身は?」
 ぐりぐりぐり
 「いってー!!
  ―――ンだよ!! 何しやがるてめぇ!」
 「お? めっちゃそっくりやなあ!
  オッケーオッケー預るわ! オモロそーや!!」
 「・・・・・・白石却下。
  千歳、てめぇ頼まれてくんねーか?」
 「よかよ?」
 「ホントか?」
 「まかしとくとね。俺は子育ては慣れとる。
  な〜金ちゃん?」
 「せやせやvv」
 「・・・・・・。千歳却下」
 ・・・大阪まで足を伸ばした意味はなかったらしい。










in木手家・・・?

 さらに南西、沖縄まで足を伸ばし・・・・・・
 「よお甲斐。久しぶりだなあ」
 「うげ佐伯!! 来んじゃねえって散々言ってんだろーが!!」
 「帰るぞ!!」
 「うん!!」
 ・・・・・・タラップから降りる事もなく、2人の跡部は帰路についた。










in幸村家

 「・・・・・・・・・・・・最終案だな」
 呟く。チビ景吾も、握っている手に心なしか力を込めたようだ。
 安心させるようぽんぽんと頭を撫で、
 チャイムを押す。
 「やあ跡部」
 「よお幸村」
 「お前がわざわざここに来るなんて珍しいな。どうしたんだ?」
 「ああそれがよお、コイツを〜―――・・・・・・」
 視線を下ろし、気付く。



 ・・・・・・いない。



 「コイツ?」
 「ああイヤ悪りい。ちっと知り合いの子預って欲しいと思ったんだが、どうも目ぇ離すとすぐ逃げちまってよ」
 「それは大変だな」
 「んじゃま、いねえんなら仕方ねえな。悪かったな幸村。またな」
 「ああ」





 幸村が中へと入る。物陰から、ひょいとチビ景吾が姿を現した。
 蒼い顔で、きょろきょろと辺りを警戒している。まるで人間世界に慣れていない野生動物のようだ。
 「・・・・・・」
 「あ〜・・・まあ、もーアイツはいねえから」
 「・・・・・・・・・・・・」
 それでもなお警戒を怠らないチビ景吾。いっそ微笑ましく見守り、
 「さすが小さくとも俺。眼力はばっちりだな・・・・・・」
 本能でヤバそうな相手は判別出来るらしい。なんでそんなものを身に付けるハメになったのか自分でも謎だが(しかも誘拐犯とかわかりやすい『ヤバさ』には全く反応しないから余計に謎だが)、まあ今回に関してはそれが働いたらしい。
 「―――つまりお前視点で俺はヤバい相手だと、そう言いたいのか?」
 『うおわっ!?』
 脇から突如湧き出た声。飛びのき振り向く先では、門から半分顔を出した幸村が「フフ」と笑っている。
 じ〜〜〜〜・・・・・・っと、見つめ合い・・・・・・
 「さあ〜て帰るかあ!」
 「そおだねえおにーちゃん! 俺も素直になるよ!!」







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in・・・・・・

 「結局、俺の面倒見んのは俺ン家以外ねーんだよな」
 無駄な苦労を終え、跡部はチビ景吾と共にてくてく家に帰ってきた。玄関に、やけにいっぱいある靴の間をすり抜け時に踏み越え(さすがに革靴は踏まなかった)中に入り、
 「あら景吾、お帰り」
 「やあ景吾君。君が帰ってくるのを今か今かと待ってたよ」
 「・・・・・・待ってたのはわかるが、何も廊下に陣取る必要はねえんじゃねえのか?」
 玄関前の廊下に椅子を置き、片や膝に乗せた書類を整理し片や自前のライフルの整備にいそしむ両親に半眼で突っ込む。これから保険金目当てに自分を殺すつもりだと言われても納得出来るシチュエーションだ。
 「まあとにかく入って」
 「さあさ2人ともどうぞ」
 「ああ・・・・・・」
 導かれ、背中を押されるまま大広間へ。
 両開きの扉を開ける。と―――





HAPPY BIRTHDAY ! !






 「お前ら・・・・・・」
 学校だの部活だのの友人から、家に住む一同まで。一斉に鳴らしたクラッカーと拍手で迎え入れられる。
 肩を叩かれ声をかけられもみくちゃにされながら、
 裾をくいくいと引っ張られた。
 「どうした?」
 見下ろす。引っ張ってきたのはやはりチビ景吾で。
 「今日、誕生日なのか?」
 「ああ。
  ・・・・・・そういやコレはさすがにお前とずれたか。お前はいつなんだ?」
 「俺?
  ・・・・・・・・・・・・。
  さあ」
 息を吐いて呟かれたその2文字。
 俯くチビ景吾をじっと見下ろし、
 「うわっ!」
 「んじゃ俺と同じでいいな。どうせ他も同じなんだ。誕生日だけ違ってても仕方ねえだろ」
 「え・・・? じゃあ・・・・・・」
 担ぎ上げられ戸惑うチビ景吾に、跡部はにやりと笑い、
 「お前ら! 今日はコイツも誕生日だ! 祝え!」
 『もちろん!!』
 「うわあああああああ!!!!!!!!」
 今度はチビがもみくちゃにされる番だった。ちっちゃいからこそより絡まれ遊ばれ、戻って来た時にはずたぼろでぜーはー言っていた。
 「誕生日って・・・・・・何する日?」
 「いつも以上に奉仕する日だろーよ」
 額の汗を拭うチビ景吾に言ってやる。うげぇ・・・と呻くチビをくつくつ笑い、
 「だが―――





  ――――――いいモンだろ?」





 「まあ、ね。
  ああそうだ。ちょっとしゃがんで」
 「あん?」
 言われたとおり、しゃがんでみた。ところ・・・・・・
 ちゅv
 「〜〜〜〜〜〜!!??」
 「
Happy Birthday
 ほっぺたに不意打ちキス。驚いて見てみれば、チビ景吾は薄く笑ってそんな事を言う。
 「お前・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・誰にンな事教わった?」
 「佐伯に」
 「2度と他のヤツにンな事すんじゃねえぞ!!」
 「何だよ俺だって祝おうと思ってやってんだろ!?」
 「アイツに言われた事真に受けてんじゃねえよ!! 普通はンな祝い方しねえ!!」
 「けど佐伯はちゃんと喜んだぞ!! てめぇだって今嬉しいとか思ったんだろ!?」
 「思ってねえよ!! 何が悲しくて自分にキスされて喜ばなけりゃなんねーんだよ!!」
 「他に相手いねーからじゃねーのか!? ああ!?」
 「いるに決まってんだろーが!!」
 「ハッ! どー見たっているようには見えねーぞ!!」
 「てめぇにゃ言われたかねーよ!!」
 以下延々と非常に低次元で見苦しい争いをするダブル跡部を、
 祝いに来た一同は微笑ましく見守ったのだった。



―――とりあえずチビちゃんも祝ってみたり。










 続いて跡誕。タイトルは1+0+4の合『計5』です。非常に苦しい事になってます。内容はそれ以上ですが。
 母!?を尋ねて三千里。初出演の白石はなんだかサエと良く似た部類の人になってます。物事を全て楽しみ、幸村と唯一気の合う人である事希望。幸村と白石、仁王と千歳。・・・立海と四天宝寺が『強い』理由がとてもよくわかるような・・・。
 そして前回跡部×チビ景吾だったのが、今回はチビ景吾×跡部に!? 両方受け受けっぽいし、いっそどっちでも可!?
 まあそれはともかく、もちろん〆はサエと同様、


跡部様、お誕生日おめでとうございますvv

2005.10.4