「ほらよ、手塚」
「む・・・?」
跡部から差し出されたのは、


・・・・・・『跡部様クローン幼少のみぎり
ver』だった。





107―――Honey
                     〜
10月誕生祭その3:手塚〜








 「・・・・・・・・・・・・つまり?」
 首を傾げる手塚に、跡部がしち面倒臭そうな様子でぼりぼり頭を掻いた。
 「一応誕生日のヤツに回してくって感じのモンだしな。てめぇ今日誕生日だろ?」
 「確かにそうだが、それとこの幼児と―――」
 「『幼児』とか言うんじゃねえよジジイが!!」
 「この・・・・・・
  ・・・・・・恐ろしくお前の血縁だとよくわかる子どもを何故俺に?」
 一応自分も少しは欲しかった(そして佐伯が獲得した時点で諦めていた)『跡部様クローン幼少のみぎり
ver』。ここで跡部の機嫌を損ねて帰られても嫌なので、眉間に寄った皺はかろうじて抑え手塚は穏便に尋ねてみた。
 「血縁? そーいや流れてる血がぴったりおんなじ割にゃ一度も繋がった事もねえってのも不思議なモンだな」
 一卵性だって割れる前にゃひとつだった、ってのにな。
 ―――全く関係ない方面に話を咲かせる跡部に、手塚は寄った皺を指で無理やり戻した。
 その間にも、さらに続けられる。
 「俺だっててめぇの誕生日を祝いてえって気持ちはあんだがな? だが俺は祝うとかそういう柄じゃねえし、てめぇも祝われてるような実感わかねえだろ。それに、祝うっつったって具体的に何するか、俺にゃさっぱり思いつかなかったしな。
  だからコイツでも預けとこうかと思ってな。欲しがってただろ? ま、俺様からの特別プレゼントってヤツだ。ありがたく受け取れよ?」
 「跡部・・・・・・」
 まるで自分勝手な台詞だが、ちゃんと考えに考え抜いて、自分にとっての最善なものを選び出したようだ。
 酷く不器用な彼なりの祝い方。何故だろう、自信満々な俺様の笑みですら微笑ましく思えてしまう。
 そして、
 「お前はいいのか? 景吾」
 「うん! 俺がいっぱい祝ってやるからな手塚!!」
 「それはありがたい」
 力強く笑うチビ景吾に誘われるまま、手塚と跡部も小さく笑みを浮かべた。
 「んじゃ、後は頼んだぜ手塚」
 「ああ」
 「景吾、コイツは俺が知る中でも五指に入る『安全圏』だ。しっかり羽根伸ばせよ?」
 「うん。ありがとうお兄ちゃん」
 「・・・・・・何の話だ?」







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 手塚家にて。
 「ここが今日お前が暮らす家だ」
 「へ〜。ま、いい家じゃねえの」
 「国光お帰りなさい。
  ―――あら、可愛いお客様ね」
 「ただいま帰りました母さん。こちらは跡部の親戚の子で、今日預る事になりました」
 「初めまして小母さん。景吾って言います。今日はよろしくお願いします」
 「あらあら礼儀正しい子で」
 「・・・・・・・・・・・・」
 いきなりにっこり笑い、『子どもらしい』挨拶をするチビ景吾。大人顔負けの恐るべき外面に、手塚は無言で非難を飛ばした。
 母親がそれに気付く―――前に。
 「なあ国光、俺お前の部屋見てみたい〜」
 「国光、ちゃんと案内してあげなさいね。
  じゃあ景吾君、後でジュース持っていくからね」
 「わ〜いvv ありがとう小母さん」







 「景吾、誰からそんな処世術を学んだ・・・?」
 部屋へ向かう道すがら。どうしても気になったので尋ねてみる。と・・・
 「何言ってんだ? こんなの当たり前だろ?」
 実に不思議そうに返された。嫌味ではない。冗談でもない。言葉どおり、極めて当たり前の事らしい。景吾の―――跡部の中では。
 ふいに考える。世界に名高い跡部財閥の御曹司である彼。実際どんな生活を送っているのかあまり聞いた事はないし、どうやら自分のイメージしている大金持ちとかなり違っているのは確かなようだが、それでもそこに身を置く以上、小さな頃から社交性は身に付けさせられたワケか。
 氷帝部長として我が物顔で振舞う彼。それもまた、1つの『顔』だろう。明確な態度、絶対の自信は、他者を集めるためのいい指標となる。
200人もの部員を―――さらにはそれ以上の生徒達をまとめるとなれば、単純な仕事の能力だけでは話にならない。細やかな事にも気がつき、部員1人1人の親身になれる大石が、それでも部長になれない・・・いやならないのは、自分はその器、そのキャラクターではないと考えているからだろう。
 そしてつい先ほど、自分に誕生日プレゼントだと景吾を差し出した彼。差し出された彼。偉ぶりながらも照れ臭そうに目元を染め、素直に言えない現在の彼に変わり、過去の彼は胸を張り笑っていた。これもまた、1つの顔―――『地の顔』。
 このチビ景吾には、跡部景吾として培われた記憶は存在しないらしい。それでも同じになるのは『自分』ゆえか。
 新たに生まれ変わっても、それでも縛られてしまう。


 ―――『しっかり羽根伸ばせよ?』



 どんなつもりで跡部はそんな言葉を残したのか。今だにそれはわからないし、前後のやり取りを聞いているとあまり喜ばしい内容ではなかったような気もするが・・・・・・。
 (なら、俺は羽を伸ばさせるよう誠意努力でもするか)
 今日は自分の誕生日であり自分は祝われる役目でもあるのだが、そんな誕生日もまたいいのかもしれない。生まれた事を感謝する日なのだから。親に。友人に。今まで自分を助けてくれた、全ての人に。
 (そしてもちろん、お前にもな。跡部・・・・・・)
 「早く早く!」
 「そうせかすな。部屋は逃げん」
 ぐいぐい手を引っ張るチビ景吾に、手塚は再び笑みを浮かべた。







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 部屋ではチビ景吾は興味津々でいろいろな物を漁り、マッターホルンの写真を見て「スッゲェ〜・・・」と目を見開き、ルアーコレクションを指差し盛り上がった。自分もそうであったため今まで考えた事もないが、釣りに興味のある
10歳児というのもはたから見るとかなり妙なものだ。
 さらにテニス道具を見つけ、さっそくやってみる事にした。日本庭園にテニスコートは似合わなく見えるが、「やるのならしっかりやりなさい。我々は全力でお前の後押しをするだけだ」という祖父の一言により作られたものだ。
 やってみる。
 やってみて・・・
 「俺様の美技に酔いなぁ!!」
 「何!?」
 さすが数年後にあの跡部になるチビ景吾。その小ささと可愛さとは裏腹に、テニスは恐ろしく強かった。もちろん今の跡部に比べればまだまだ足りない部分も多い。だが、精密なボールコントロールに力不足を補うスピン力、挑発的だが決して自分は熱くはならないゲームメイクは大したものだ。きっとこの頃からもう帝王として持てはやされていたのだろう・・・・・・自分同様。
 「ハッ。やるじゃねえの。さすがだな」
 「そういうお前もな、景吾」
 賞賛無しに褒める・・・というと矛盾しているが。
 見え透いた世辞だのむやみな賛辞だのはもう飽き飽きだろう。欲しいのは、心からの言葉。真正面からの対峙。
 だからこそ、手塚は正直に答えた。自分にもまだ及ばないとは言え、充分に大したものだと。
 本心をそのまま口にするのは、手塚にとっては普通の事だ。それこそ跡部が人前で取り繕うのが当たり前だと考えるのと同じく。
 それが伝わったのだろう。チビ景吾は照れ臭そうに笑っていた。今見る跡部と何も変わらない様。この先、どんなに跡部が様々な顔を造り上げたとしても、きっとずっとこの笑みは変わらないだろう。
 そして・・・





 ・・・・・・・・・・・・それを見て、自分も嬉しくなるのもまた。







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 夜になった。一緒にベッドに入る。
 「・・・・・・む?」
 「どーしたんだよ?」
 「景吾、お前には客間に布団を敷いただろう?」
 「ああ? てめぇがベッドで俺様が布団だあ?」
 「・・・・・・。
  そうか、済まなかった。では俺が布団で寝よう」
 「ってオイ待てよ!!」
 「まだ何かあるのか?」
 裾を掴まれ振り向く。見下ろせば、チビ景吾は心底呆れた表情でむしろ見下ろしていた。
 「あのなあ。
  ンな冗談真に受けんじゃねえよ。それともてめぇは俺に嫌がらせしてえってか?」
 「それは心外だな。一晩とはいえお前は立派な家の客だ。丁重にもてなすのが筋というものだろう?」
 「『客』ねえ・・・」
 俯き呟かれる。失敗だったかもしれない。ごく普通に家の者としての意味で言ったのだが、特別扱いを嫌う(かもしれない)彼にはあまり好ましくない方向に受け取られたようだ。
 と―――
 チビ景吾が目線を戻してくる。なぜかその顔は、
 ―――酷く面白そうに笑っていた。
 「んじゃ『お客様』の命令だ。てめぇは今日俺様と一緒にここで寝ろ」
 見下ろされた感覚は、決して錯覚ではあるまい。
 どうやら拒否権はないようだ。
 ため息をつき、
 「ならもう少し向こうに寄れ。潰してしまうぞ」
 「そう来ねえとな」
 嬉しげに笑い、捲くった布団に招くチビ景吾。隣に寝転びぽんぽんと頭を撫でると擦り寄ってきたので腕を枕に貸す。
 「んじゃ、お休みな国光」
 「ぐっすり眠れよ景吾」
 「―――ああそうだ」
 お休みの挨拶をしたところで、ふとチビ景吾が身を起こした。
 「どうした?」
 トイレでも行きたいのか?
 尋ねようとする。と―――
 「そういや忘れてたぜ。





  
Happy Birthday 国光」





 祝いの言葉と共に、頬に口付けをされた。
 「これ・・・は・・・・・・」
 さすがに驚きが表に出る。
 ぱちくり瞬きをする手塚に、チビ景吾はしてやったりとにんまり笑っていた。
 「誕生日祝いな。佐伯から教わったんだ」
 「佐伯か・・・・・・」
 一体何を教えてるんだあの男は・・・・・・とも思うがそれ以上に、
 (さすがに跡部に仕込まれたのではないのか・・・・・・)
 妙な安堵と落胆を覚える。跡部がコレをレクチャーした様は想像を絶するが、誰にでもやるというのは・・・・・・
 「・・・・・・・・・・・・?
  よく跡部は止めなかったな」
 ホストだのタラシだの周りには散々に言われているが、跡部はあれで純情潔白だ。キスの話題だけで真っ赤になり、不二にまでからかわれる程なのだから。
 「止められたぜ?」
 チビ景吾は言った。あっさりと。ためらいなく。
 「・・・。それでやるのか?」
 「いいじゃねえかお前なんだからよ」
 続けて言われた。照れも含みもなく。
 「まあ、終わった事を今更蒸し返しても仕方がない。好意は素直に受け取っておこう。
  ありがとうな景吾」
 「当然だ」







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 1日経った。7日が終わった。
 「どうだったよ手塚。俺様からのプレゼントは」
 「うむ。良かったぞ」
 「そーかいそりゃ良かったな。んじゃ帰んぞ景吾」
 「うん」
 手を引かれ、去っていく2人の跡部。向けられかける背中へと、手塚は呼びかけた。
 「待て!」
 「あん?」
 2人揃ってくるりと振り向く。その片方―――チビ景吾の前でしゃがみ込み、持っていた包みを渡す。手塚が持つには似つかわしくない、可愛らしくラッピングされた箱を。
 「昨日はありがとうな。少し遅くなってしまったが、誕生日プレゼントだ」
 「俺、の・・・?」
 「もちろんだ」
 「てめぇ手塚汚ねえぞ!! なんでチビにはプレゼントまで寄越して俺様には言葉ひとつねえんだよ!!
  オラ寄越せ!! そりゃ俺のだ!!」
 「いーやーだ!! これは俺が貰ったんだ!!」
 止める間もなく、取っ組みあって奪い合いを始めてしまった。
 (全く、大人げがない・・・)
 いつものように、眉間に皺が寄る。それでも、嬉しい事に変わりはなかった。そんな風に楽しみにしていたというのは。
 手塚は曲げていた膝を伸ばし、今度は跡部に向き直った。
 「跡部」
 「・・・・・・ん? 改まって何だよ手塚」
 奪い合いながらも気付いたらしい。チビ景吾を解放し、跡部も手塚に体を向けた。
 まっすぐな瞳をまっすぐ受け止め、
 言う。
 「ありがとうな」
 「・・・・・・・・・・・・は?」
 きょとんとする跡部に、手塚は続けた。
 「今回の事だ。お前は俺の誕生日を覚えていたどころか、どうしたら俺が喜ぶか真剣に考えてくれた。景吾を預けてくれたのも嬉しいが、そんなお前の心遣いが何より嬉しいプレゼントだ」
 「そ、そーか・・・・・・」
 やはり跡部は照れ笑いを浮かべた。そんな彼を、もっと照れさせるかのように、
 手塚はもうひとつ持っていたものを前に出した。こちらは幾分シックに飾られた箱。
 「やはり遅れてしまったが、お前への誕生日プレゼントだ。何でも持っているお前の事、一体何を贈ればいいのかわからず今まで用意する事が出来なかったが、お前とそして景吾が教えてくれた。その気持ちこそが大事なのだと。
  中にはルアーが入っている。それぞれ違うものだが、どちらも使い心地は満点だ。
  フライフィッシングを得意とするお前達にはいささか不満かもしれないが、それで今度は釣りにでも行くか、3人で」
 跡部が、チビ景吾が。
 驚いて目を見開いた。
 固まる2人に駄目押しをする。
 「嫌か?」
 「ん、ンな事ねーよ!」
 「そーだぜ何言ってんだよ!! んじゃ今すぐ行くか!!」
 「待て!! いくら何でも何の準備もしていないだろう!?」
 早くも暴走しようとする2人の襟首を掴む。既に後ろは向かれてしまった。決めてからの行動が実に素早い。
 「それと、これは昨日景吾から教わったのだが―――」
 「ん?」
 振り向きかけた跡部を抱き寄せ、
 そっと口をつける。





 「誕生日おめでとう跡部。
  どうやらこのように祝うようだな」





 「てめぇチビまさか―――!!」
 全てを察したようだ。跡部が赤い顔でチビ景吾を睨みつける。チビ景吾もまた睨み付けていた―――手塚を。
 「てめぇ何でそいつにはやって俺にはやんねーんだよ!?」
 「む。それは済まなかった」
 チビ景吾を抱き寄せやはり口付け。しようとして―――
 「む・・・?」
 いきなりくるりと首を回され、しっかり口同士をつけたキスとなってしまった。
 『〜〜〜〜〜〜!!!???』
 手塚と跡部の、無音の絶叫が広がる。
 掠めるだけ掠め、離れ。
 「ハハン。先貰ったぜ」
 「て・め・ぇ・・・!! 俺だと思って甘く見てりゃつけ上がりやがって・・・!!」
 「俺なら俺の事はわかるだろーよ。甘めぇぜ」
 「この・・・!!
  ―――オイ手塚ぁ!!」
 跡部もぐるりと首を回す。恐ろしいオーラだ。
 しゃがんだまま、身動き出来ない手塚に迫り・・・
 「っあーーーーーー!!!!!!!」
 思いっきりキスをしてきた。それも舌を絡めるディープな類を。
 離れ、
 「ハッ! ガキにゃまだ早ええんだよこーいうのは」
 「このヤロ・・・・・・!!!」
 ばちばちばちばち火花が散る。やはり
No.1大好きの俺様が同じ空間に存在するからには、争わずにはいられないのか。
 火花が―――
 ―――こちらに飛んで来た。
 「ちょ、ちょっと待てお前ら。なぜ妙に据わった目で俺を見る・・・・・・?」
 今度固まったのは手塚だった。固まった隙に、2人に押し倒される。
 「なら俺は―――!!」
 「そうはさせるか!!」
 「うあああああああああああ!!!!!!!!!!!」







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10月7日、チビ景吾に尽くした手塚は、
 ―――翌8日。2人にさらに奉仕するハメとなった。



―――手塚の運命やいかに!?










 そして手塚誕。1+7は8なんだ!! だから
Honeyなんだたとえ誰が誰に対してそう思っていたとしても!! もー苦しすぎるぞイイワケが!! てか忍足誕には絶対ムリ!! いっそ柳生はいいのあるのになあ・・・。
 さって1日遅れの手塚誕。夜頑張ってあげようと思いましたが、眠気に負けました(爆)。はあ・・・。塚に対する愛情が足りないのか・・・。元々なかったという話もあるが、それでもさりげなく好きだ塚跡はvv
 ・・・うむ。眠くて何を書いているのかよくわからなくなってきました。話のワケはかろうじてわかっている内に寝るか・・・・・・。


 そして1日経ち―――


 わ〜い手塚オメデトー!! 祝いだ〜!! ・・・って私はジロちゃんか。
 1晩経ったおかげで話が妙な方向に進んでいますが、結局今回どっちなんでしょう? 両手に花? 2人のおもちゃ?
 それはともかくもちろん〆は、


手塚、誕生日おめでとうvv

2005.10.78