「英二先輩!! エラ呼吸のやり方教えてください!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」
きらきら瞳で拳を握り迫ってくるのは、ご存知青学のアイドル越前リョーマ。可愛いもの大好きとして、英二も普段なら嬉しい事だが、
「・・・・・・エラ呼吸?」
「そうっス!!」
「にゃんで・・・エラ?」
てゆーか哺乳類にはエラねえだろ・・・・・・。
あえてそんな突っ込みをせず点目でほえ?と首を傾げる。これで相手がリョーマでなければ、即行爆笑と暴言が飛び出していただろう。
が、
その辺りを全く理解せず、リョーマはさっさと話題を進めてしまった。
「先輩エラってどこあるんスか!? やっぱそのバンソウコウの下っスか!? 剥がすと現れるんスか!? 地上じゃ空気洩れるから塞いでるとか!?」
「いやあの・・・・・・」
「どうやったら造れるんスか!? 切り裂いてっスか!? んじゃさっそく―――!!」
「にゃあああああああ!!!!!! おチビ待ったああああああああああ!!!!!!!!!」
どこからともなく取り出したナイフでほっぺたに穴を開けようとする無謀な後輩を、さすがに即座に止める。不満そうな顔をされたが、取り返しのつかない事態になるよりマシだろう。
「で、なんでおチビちゃんはエラ呼吸したいなんて思ったの?」
「そしたらカルピンの好きな魚いっぱい捕れるじゃないっスか」
実に微笑ましい理由だ。英二も頬を緩め・・・・・・
「で、にゃんで俺にやり方訊くワケ?」
「英二先輩出来るんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
質問ではなかった。きっぱりと言い切られてしまった。リョーマの中では既に確定らしい。
念のため確認しておくが、先ほどからクエスチョンマークの取れない英二。彼はもちろん、呼吸は肺と一部皮膚でしか出来ない。
「何で、俺が出来るって・・・・・・?」
「だって英二先輩言ってるじゃないっスか。≪知ってるよ! エラ呼吸は難しいんだ≫って。
知ってるんでしょ? 『難しい』って。難しいって事は出来るんでしょ? 出来ないなら『無理』って言うでしょ?」
力説しながら、リョーマが掲げるのは菊丸英二1stアルバム≪Hello!≫。確かにその中の一節で、そんな風にも歌った。鳥にも魚にもなれないけど溢れる感情は同じだといった流れで。
だが・・・
「ちなみに訊くけどおチビ、それ誰に入れ知恵された?」
テニス以外ほとんど何も興味のないリョーマ。先輩のだからといってわざわざ自分から歌を聴いたとも思えないし、しかもこんな屁理屈はリョーマに似つかわしくない。
問う英二に、
リョーマは言った。
「佐伯さんに」
「テメエか佐伯いいいいいいいいいい!!!!!!!!」
「やあ菊丸、久しぶり」
何の脈絡もなく現れた佐伯に、英二は思う存分突っ込んだ。脈絡は何もないが、それでも現れる理由はあるものだ。先ほどからなぜ気配を殺しリョーマの後ろに控えているのか謎でたまらなかったのだが(ちなみにいくら気配は殺していようが目の前に立たれれば英二は気付くものである)・・・・・・
・・・・・・つまりはこういう理由だったらしい。
指を指され、遅ればせながらようやくリョーマも気付いたようだ。
「そっスよね佐伯さん。英二先輩なら出来るんスよね?」
「そうそう。なにせ自分が猫だからな。きっとエサとして魚捕ってる内に編み出したんだよ」
「編み出せるか!! つーか猫もエラ呼吸は出来ねえよ!!」
まだまだ豊富な突っ込み個所。突っ込みまくってみれば、
―――なぜかリョーマの方が衝撃を受けていた。
「出来ないんスか・・・・・・!?」
「え・・・!? いやあのそんな・・・!! ンなしょんぼり見つめられても俺も一応哺乳類であってやっぱその枠は抜け出せないってゆーか・・・・・・」
「出来ないんスね・・・・・・」
「う・う・う〜・・・。そんにゃがっかりしにゃいでおチビ〜・・・・・・!!」
「あーあ可哀想に。子どもの純真な思いを踏みにじって」
「テメエがそーやって煽んのが悪りいんだろ!?」
「自分の非力を棚に上げて俺を責めるのか・・・。
は〜・・・。ますます信用失うだろうな」
「だったらテメエは出来んのかよエラ呼吸! 人馬鹿にする前にテメエがやってやれよ!!」
「俺?」
英二なりの精一杯の反論。これで佐伯も黙り込むだろう、と思ったのだが・・・・・・
佐伯はふっ・・・と、それこそ完全に馬鹿にする笑みを浮かべてきた。
「出来んのかお前まさか!?」
「何言ってんだ菊丸? 出来るワケないだろ? 俺は普通の人間なんだから」
「だったら何笑ってんだよ!?」
「俺は『出来る』と受け取れるフレーズは1つも使ってないからな。そんな俺がエラ呼吸出来ようが出来なかろうが今の議論に何の関係もない」
「ぐ・・・・・・!! またお前卑怯なイイワケを・・・!!」
「イイワケ? 『理論』だろ?
ハハッ。残念だったなあ菊丸。俺の理論を破れない以上、お前は期待を裏切った事を越前に泣いて詫びるか、さもなければ本当にエラ呼吸をするか、どっちかしか道はないぜ? どうする?」
『爽やか好青年』とは程遠い挑発をしてくる佐伯に、
「おーしだったらやってやろーじゃねえか!!」
英二は、あっさりと乗ってしまった。
v v v v v
こうして・・・
「・・・・・・・・・・・・〜〜〜〜〜〜〜!!!
ぐぶはっ!! げほっ!!」
「うああああああ!!! ごめんなさいすんませんでした英二先輩!! もー無理言いませんからお願いですから止めてください!!」
「そうだぞ菊丸。命に比べれば所詮プライドなんて安いものだからな。早めに諦めた方がいいんじゃないのか?」
「まだまだあ!! ここで止められっか〜〜〜〜!!!
ぶぐうっ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あああああああ!!! 英二先輩上がってこない〜〜〜!!!」
「ついに土左衛門か。
菊丸・・・。惜しい男を亡くしたな・・・・・・」
「菊丸せんぱ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!!!!」
―――英二いいいいいいい!!!!!!!????
v v v v v
ようやっと借りられました(あくまで借りたのか)≪Hello!≫。さすが奇想天外なアクロバティックプレイヤー英二。1曲目はともかくいきなり落ち着きペースが3曲続くとは思わなかった・・・!! しかもラスト2曲目で盛り上がるんだ・・・!! 全く次が予測出来ないこのアルバムは、ぜひとも一見(一聴?)の価値はありますよ!
さて≪愛がいっぱい≫。すっごい疑問なのですが。羽根がないのはわかるとして・・・・・・あくまで『難しい』のかエラ呼吸は・・・。やはりあのバンソウコウの下は・・・・・・!!
などなど、いろいろ考えられる一作でした。そして最初は不二を出させる予定でした。そしたら英二も死ぬ(誤)事はなかったのに・・・・・・。
2005.10.9