テニプリパロディ略してパロプリ劇場
―――スリップスリップ千石次第!―――
最終回―――4
驚く跡部の見やる先、道に平行に置かれたラーメン屋台の奥から手を振ってきたのは、紛れもなく越前リョーガその人だった。今さっき佐伯に連れていかれたヤツではない。先程戦国時代で別れた、25世紀のリョーガだ(と説明するとワケがわからないが)。
首を傾げながら近付く。
「お前何やってんだ? ンな似合わねえバンダナまでして」
Tシャツ腰エプロンハーパンサンダルそれにバンダナとくれば確かにラーメン店の店員らしい恰好だが、リョーガには哀しいほどよく似合わなかった。
「ああ、コレか?」
笑って、外す。
つるりと。
「お前・・・・・・その頭・・・・・・」
指差し、跡部が震えた。
リョーガの頭には、あの特徴的な濃緑色の髪がなかった。
苦笑し、リョーガがまっさらな頭を撫でる。
「一応、元に戻したとはいえ歴史狂わせようとしたってのはホントだしな。お詫びの印ってヤツ?
頭剃って土下座すんのが日本流の詫び方だろ? 俺も学んだぜ」
「・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・確かに日本流の詫び方ではあったな」
返答に困って呻く。25世紀でコレが通じたのだろうか・・・・・・? 通じなかったからクビになって転職したのだろうか・・・・・・・・・・・・?
(だが相手は真田だからなあ・・・。意外と通じたのか?)
タイムスリップ管理局局員がまず時代錯誤[タイムスリップ]してどうするのだろう・・・・・・?
悩み込む跡部に、
さらに追い打ちがかけられた。
「あ、でも俺だけじゃねえぜ? コイツもだ。
―――な〜佐伯vv」
「佐伯がか!?」
どうしよう。つるっぱげの佐伯。見たいような見たくないような・・・・・・。
苦悩しながら、リョーガと同じ方に顔を向ける。
そこにいたのは・・・・・・・・・・・・
「―――なんだいつも通りの佐伯じゃねえか」
「何期待してたんだよ・・・?」
「もちろんつるっぱげのてめぇに決まってんだろーが」
見たい見たくないは半々だったが、見れないとわかるとむしろ見たくなるのが人情というものである。
即答する跡部にため息をつき、
「俺がそんな事するワケないだろ?」
「んじゃ何したってんだよ?」
ふい、と佐伯が顔を背けた。
「ああ? てめぇ何シカトこいてんだよ」
「こいてない」
「『貴方はなぜ私[わたくし]の質問に答えてくださらないのでしょうか?』」
「・・・・・・お前実はいい性格って言われるだろ?」
「任せろ。身の周りにゃてめぇみてえな問題児ばっかなもんでな」
ため息をつき、佐伯はようやっと無駄な足掻きをやめてくれた。
わずらわしげに右手を振る。振られた右手薬指に指輪がはめられていた。
「ああ? 珍しいじゃねえかてめぇが装飾品つけてるなんて。
つーか芸のねえ指輪だなあ。シンプルイズベストなんつったってそれじゃただのリングじゃねえか。ンなのつけて許されんのは結婚指輪くらい――――――」
言いかけて、
跡部の言葉がふと止まった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
引き攣った笑みを浮かべ、佐伯を見る。佐伯は不自然なほどに顔をそっぽへ向けた。あと5分同じ体勢を取らせたら、間違いなく首の筋を痛めるだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言のままリョーガを見る。その手元を。
(良かった何もしてね―――)
見ているリョーガの手が上がった。にこにこ笑う顔の横へ動かし、耳たぶを軽く弾く。
片耳だけつけられていたピアスが揺れた。そこからぶら下がる、佐伯の指輪と同じただのリングごと。
「一応食べ物屋経営だからな。手に装飾品はマジいだろ」
「ついでに俺も左利きって事で左は勘弁してもらった」
「つまり・・・・・・」
引き攣った笑みのまま、今まで先送りしてきた結論を呟く。
「お前ら結婚したのか!!??」
パンパーン!!
「大正解跡部ク〜〜〜ンvvv」
「な・・・え? ま・・・」
混乱の極みに達し言葉すら紡げない跡部。
憮然とした表情で頬杖を付き、佐伯が説明を入れた。
「『俺を殺そうとした事に対して詫びの気持ちがあるんだったら結婚しろ』だってさ」
「そんでした、ってワケか・・・」
「いいじゃね〜かv 夫婦―――じゃねえけど―――間の殺し合いはさすがにペケだろ? もう2度と殺そうとしねえっつー一番簡単な証明の仕方だ。
それに、これでお前も俺がまた馬鹿な事しないか堂々見張れるだろ? 鎖の代わり、って事でvv」
「ついに身も心も奴隷に成り下がったかリョーガ・・・」
「それならいっそ本当に鎖が欲しいよ・・・」
「何だよ佐伯? そんなに繋がり合ってたいって?
言ってくれりゃ〜ちゃーんと用意したってのに特注でvv
んじゃ今から用意すっからよ。お前どんなのがいい?」
「じゃあぐるぐる巻きに出来てほどけにくいのにしてくれ」
「それで昼も夜もくっついてたいってかvv か〜可愛い事言ってくれんじゃねえの佐伯ぃvv」
「ああ。それで縛ってお前海に捨てるからよろしく」
「オッケーオッケー!!」
「ちょっと待て!! お前らまともな会話しろ!!
大体リョーガ!! てめぇ何でンなトコでラーメン店員してんだよ!? 仕事はどーした!?」
浮かれきって頭に花の咲き乱れるリョーガ。当てられ脳みそが崩れ、決して照れではない理由でそんな話をし出す据わった目の佐伯。
このままだと本格的にリョーガが自分で自分を殺す準備をし兼ねないので、跡部は慌てて話をずらす事にした。
2人が何とか素に戻る。
「ああそれか?
実はよお、何とかクビは免れたんだが、停職処分喰らっちまってよお。おかげで今ヒマなんだよな」
「んで? ヒマだと何でラーメン屋になんだ? 遊びゃいいじゃねえか。夫婦揃って―――」
ビィィィィィ・・・ン・・・・・・
「―――つーのは冗談として」
飛んできたものを首を振ってかわす。まだ手裏剣でも持っているのかと思えば、投げられたのはラーメン屋の必須アイテム・割り箸だった。
飛ばしてきたもちろん佐伯が笑顔を見せ、
「ヒマが出来た代わりに給料がなくなってな。だからバイトしてんだよコイツ」
「一応ここに来たのは実地勉強兼君への報告、ってな」
「ああなるほどな。そりゃそっか。
そういや・・・」
跡部がふと首を傾げた。
「このラーメン屋って、そういやタイムスリップする前も見なかったか? つーかここでお前食ってなかったか?」
「ああ・・・・・・」
佐伯も首を傾け―――リョーガを見た。
リョーガがさらに視線を逸らす。そちらを見ると・・・
「次セクハラ台詞ほざいたらその座席から落とすからな」
「ぐ・・・。
じゃあ、行くぞ!!」
そんな掛け声と共に、跡部と佐伯が過去へと旅立っていった。
「・・・・・・・・・・・・」
「オイ」
「いっや〜ふっしぎだな〜。
店開いたらいきなり佐伯が来てよお。慌ててこっちの佐伯隠して普通にラーメン出してたら、今度は君まで来んじゃねーの跡部クン」
「つまり・・・・・・」
呻く。ああ頭が痛い。
手を額に当てる跡部に代わり、佐伯が結論付けてくれた。
「こいつは本当に馬鹿でな。タイムスリップする日時をまともにセットする前に移動し出すんだ。おかげでこん位のミスはいつもの事だ」
「努力に成果が比例しねえ以前に努力してねーじゃねえか・・・・・・」
「だよなあ? こいつをクビ候補にした執行部の判断は正しいと思うんだけどな」
「いーじゃねえかちっと位!! だって正確にセットすんの面倒なんだぜ!?」
「はーそーかよ。
それにしても佐伯、よくラーメン食って一切コイツに気付かなかったな」
恐ろしく間抜けな話だ。もしその時点で気付いて話を聞いていたとしたら、自分たちも過去で随分楽が出来ただろうに。
佐伯も神妙な顔でうんうん頷き、
「だってこいつが頭丸めてるなんて知らなかったからなあ」
「ああなるほどな」
バンダナを巻いているが、隙間からも一切髪は零れていない。最初は随分衛生面に気をつかったんだな〜と考えていたが・・・・・・
「ってちょっと待てよ佐伯!! お代払っただけの跡部クンならまだしも、お前しっかり話までしときながら髪がねえっつー理由だけで俺だってわかんなかったのか!?」
「ああ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「頑張れよリョーガ。ハゲ対策は早めにしとけよ・・・・・・」
完全に朽ち果てたリョーガに、跡部は励ましになっているのかよくわからない言葉をかけておいた。
泣きながらも、意外と早くリョーガ復活。カウンター下からどんぶりを取り出し、
「うっうっうっ・・・。慰めてくれてありがとな跡部クン。
んじゃこれはお礼って事で。君も食べてくれよ俺のラーメン」
「ああ。んじゃ貰うが―――
―――っておい!! マジでこれ出してんのかよ!?」
出されたそれを前に、
イスを蹴倒し跡部が立ち上がった。
驚愕の表情でそれを見下ろす。それ―――名称のみ『ラーメン』を。
「出してるぜ?」
「意外と美味いぞ?」
「何が起こった400年の間に・・・・・・?」
もう一度見下ろす。目の前にあるのは夢でも何でもなかった。さらに隣で佐伯がすすっているのも。
青い麺に紫色のスープ。緑色の卵はまだ納得出来るが、隣に並んでいるチャーシューはなぜ末期色・・・じゃなかった真黄色なのだろう。しかもメンマが血の色だ。このメンバーで並べられると黒いノリまで異常に見える。
「んじゃ跡部クンも遠慮なくv」
遠慮したい。全力で遠慮したい。ちゃぶ台ならぬ屋台を引っくり返し「こんなモン食えるか〜!!」と暴れたい。
にっこにっこにっこにっこにっこにっこにっこにっこvv
(ぐ・・・・・・・・・・・・)
隣から、無言の圧力がかかる。ぜひとも食えと。
(実はコイツ、マジい事わかってんじゃねえのか・・・・・・?)
自分を陥れるためなら如何なる代償も払うと豪語する佐伯。それならクソまずいものを笑顔で美味いと言い切る事くらい朝飯前だろう。
(つーか基本に立ち返って、だ)
脂汗を流したまま、そっとリョーガを見る。21世紀ではリョーマの兄のリョーガ。
・・・・・・料理の腕は欠片もアテにならない、どころか嫌な意味でグレードアップしたのかもしれない。まだリョーマなら、それこそ成果が伴わないだけで感性はおかしくない筈だった。
ぽん、と手を叩き。
「そういや店よお、ンなに客いなくてどーすんだよ。
ほら佐伯もちゃんと売り込み手伝えよ。儲け出なけりゃ駄目なんだろーが」
「あちょっと待て跡部ク―――」
止めようとするリョーガの手をかわし、跡部は佐伯を連れてのれんの外へと出た。
「ほらよ笛。ちゃんと吹いて客呼び込めよ?」
「・・・なんか随分手馴れてないか?」
「そりゃてめぇに今までどれだけやらされたと思ってんだ・・・?」
そっと呟く。もちろん理解してはもらえなかった。
「んじゃやるぞ〜」
気合の入らない声。そして気合なく笛を吹き、
♪ぷいい〜ぷい。ぷいぷいぷい〜
「はいはいそこの道行く皆々様。特に寒いと評されるこの冬、一杯のラーメンはいかがでしょうか?
震える指先をどんぶりで、痺れた鼻を溢れる湯気で、凍えた体をおつゆと麺で。温めれば冷たい風も何のその!
価格も税込み1コイン。体は温めますが懐は決して寒がらせませんよ〜?
どうです皆様? お帰り前にぜひ一杯!」
「へ〜・・・。ラーメン屋かあ」
「うん。寒いもんね」
「あ、みてあの宣伝してる人! すっごいカッコい〜!!」
「入ってみよ!!」
ぞろぞろ。
「・・・・・・やっぱ、てめぇの方がやけに手馴れてねえか?」
サクラ以外いなかったような店が、あっという間に立ち食い所となった。
首を傾げる跡部に、佐伯も首を傾げて。
「だから以前言っただろ? 俺は『元』殺し屋だって」
「んじゃ今は・・・」
「リョーガとおんなじだな。バイトで食い繋いでる。
特に販売は大得意だ。食い物なら尚更」
傾げた首を頷かせ、
佐伯は忙しそうなリョーガへと向き直った。
「という事でリョーガ、お前の店への呼び込みを手伝ってやったぞ? 良かったなあ。おかげでお客様が随分増えた。
―――もちろんこれにより発生した利益は俺のものだよな当然?」
「だから手伝わせたくなかったのに〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
「・・・・・・悪かったリョーガ」
つまりそういう事情で、珍しく佐伯が何もせず食っていただけだったらしい。
どうせあれも奢りだろう。「せっかくついてきてくれてる礼だ。これでも食ってのんびりしててくれよ」といった建前で、『だから一切何もするな』と言い含めておいたのだろう。
「にしても、お前ら結婚したんだろ? 夫婦? 共同財産じゃねえのか?」
「25世紀ではな、今と違って夫婦別姓も普通だし夫婦だからって共同財産にする必要もない。子どもも1人で作れるしな」
「それって・・・・・・
・・・・・・・・・・・・『結婚』する意味なくないか?」
「ないぞ? だから『結婚』っていう制度自体がなくなった」
「は?」
「だからリョーガが言ったじゃないか。剃髪と土下座の風習を学んだ、って。その他赤提灯の飲み屋に行ったりこんなレトロな屋台築いてみたり」
「つまり・・・
・・・昔の慣習真似ただけか?」
どうりで指輪のつけ方もめちゃくちゃだと思ったら。
呆れ返る跡部の横で、佐伯が彼にだけ聞こえる声で囁いた。
「だから、紙で縛られるより強固だろ?」
「―――っ」
佐伯を見る。目を細め笑う佐伯を。
確かに、お役所に認めてもらって以降規則を守り続けるよりは、自分たちの気持ちで共に在ろうと決めた方が繋がりも想いもずっと強いだろう。
苦笑いしため息をつく。どうやらすっかり仲直りしたらしい。まさか佐伯からそんなのろけを聞かされるとは。
さらに笑って、佐伯が続けた。
「だから、アイツの稼いだ分は俺の財産として扱われる」
「ああ? 共同財産はねえんじゃねえのか?」
「だから。
俺のものは俺のもの。アイツのものも俺のもの。当然じゃないか」
「いっそ作れよ共同財産!!」
騒いでいると、
「―――あれ? 跡部さんこんなトコいたんだ」
「あん?
越前、どうしたよ?」
「アンタが喚いてる声が聞こえたから覗いてみたんスよ」
唐突にのれんを掻き分け現れたかの少年は、佐伯とリョーガ(バンダナ装着済み)を交互に見て首を傾げた。
「アンタ達2人も、またこんな商売始めたの? 佐伯さん、リョーガ」
「今回意外とまっとうな商売だろ?」
「おうチビ助。よく来たな〜」
「・・・つーか越前、この状況で何か疑問に思う事ぁねえのか?」
一応訊いておく。ここにいるのはリョーマの知っているかの2人ではない。のだが・・・
「何を?」
「いや、もういい・・・・・・」
・・・・・・当然のようにリョーマは気付かなかった。
説明は諦める。どうせしたところで理解してはくれないだろう。どころか自分が頭おかしい人として馬鹿にされかねない。
「んで? どうしたんだよ越前?」
何の違和感もなく佐伯が問う。彼はここに来るにあたり、何をどこまで学んできたのだろう・・・・・・?
「ああ。
跡部さんも今日部活休みだっていうから、一緒にペット用品売り場行くって話だったんだけど・・・・・・」
「ゔ・・・・・・」
そういえばで思い出す。昨日電話でそんな話になったのだった。今日一度家に帰ったのも着替えてくるためだったというのに・・・・・・
・・・・・・その後いろいろありすぎてすっかり忘れていた。
「・・・・・・忘れてたワケ?」
リョーマのテンションが完全に下がった。ここで頷けば約束は即行破棄。以降やり取り一切不能になるだろう。
硬直する跡部。ただでさえ三白眼を完全に半眼にして見上げるリョーマ。そして・・・
「まあまあ跡部クンもチビ助も。こんなトコで立ち話も何だしよ。
どうだ? 一杯食ってかねえか?」
「リョーガの奢り?」
「・・・・・・。
ああ! もーこーなったらどんと来いだぜ!!」
「んじゃ―――」
固まったままの跡部を無視しリョーマがカウンターへ向かう。さすが色気より食い気のお年頃。約束すっぽかしよりはこちらの方が重要らしい。
心なしか嬉しそうにラーメンを受け取り・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何? コレ」
「ラーメン」
「いらないよこんな不二先輩の監修受けたっぽいの」
「ハハッ。上手いなあ越前」
「どっちかっつーと乾の、じゃねえ?」
「・・・何にしろ、やっぱ越前の感性はまともだったのか」
「当たり前でしょ」
ムッとした表情でリョーマが振り返った。
その頭をぽんぽんと撫で、
「んじゃ行こうぜ越前。このまんまここいると次何食わされるかわかったモンじゃねえ」
「だね」
見事なまでの論点すり替え。おかげで跡部は何のイイワケもせずに済んだ。
出ようとして―――
「あ、景吾お代」
「―――ああ。食っちゃいねえがまあ一応出されたもんな。
いくらだ? 1コインっつったら・・・」
「500ドル」
「高けえよ!! つーかンなコインねーよ!!」
「あくまでそこなのか跡部クン突っ込むところ・・・」
「ぼったくりじゃんそれ」
「そんな事ないぞ? ドルの崩落で1ドル1円に」
「どんな経済破綻だよ・・・。
だったら500円でいいんだよな? んじゃコレ、500円な」
「ああっ! 完璧なる俺の高利益計画が!!」
「穴しかねえ!!」
・ ・ ・ ・ ・
佐伯を殴り倒し強行突破で店を出る。慰謝料を請求されたらもう一発殴っておこう。
「ほら早く早く跡部さん」
「待てよ越前。ンな焦んなくったって店は逃げねえだろ?」
「・・・アンタが忘れたおかげで大分時間ないんだけど」
「・・・・・・悪かった」
改めて。
腕を引き先に行こうとするリョーマを、跡部はのんびり歩きながら眺めてみた。
いつもの生意気強気な様子とはまた違った、年相応らしい可愛い姿。心は早くも愛猫カルピンの元へ行っているのか――――――それともデートだから浮かれているのか。
(そういや、いつからこうなったんだったか・・・・・・)
出会いは最悪だった自分とリョーマ。『サル山の大将』呼ばわりでいきなり挑発されたか。
そんな関係をその後も持続し、接触してきたのもリョーマからだった。己が目指す手塚が倒され、こちらに興味を持ったようだ。全く喜ばしい事に。
勝負を挑まれたのでボロクソに負かしてやったら、「テニスじゃまだでも絶対アンタから主導権奪ってやるからな!」などと指を突きつけてきたため、面白そうだったのでそのまま好きにやらせてみた。そして現在に至る。
結局主導権はどちらが握っているのかはよくわからない。リョーマに問えばもちろん自分だと言い出すだろう。他の人に言わせれば、自分は子どもをあやすお父さんに見えるらしい。
(なら俺は・・・・・・)
他の誰にも主導権を奪わせる気はなかった。自分を支配するのは自分だけでいいと思っていた。
なのになぜだろう? 彼には好きにやらせてしまう。やらせても構わないかと思ってしまう。
今まではなぜだか不思議だったが・・・
(もしかしたら―――)
―――『来世ではよろしくな。約束はそん時果たしてもらうぜ?』
頭の中に、信長の言葉が蘇ってくる。一緒に逃げる代わりに、逃げたら自分を抱かせると。
もう一度リョーマを見る。
「・・・・・・何?」
「いや? 別に?」
「・・・・・・。
―――ヘンなの」
口を尖らせ、リョーマが前へと戻った。
信長の見た目から、彼は越前南次郎の前世だろうかと思っていたが、
(よくよく考えてみりゃ、生まれてきた時からあれなワケでもねえし、年齢は自由に変えられるんだよな)
例えば、12歳の頃とかに。
クッと笑い、頭の中で年齢を戻してみる。当然のように、それはリョーマとそっくりになった。
(意外と、信長の生まれ変わりはコイツなのかもな)
だとしたら、約束はちゃんと果たした事になる。自分とリョーマは恋人同士なのだから。
「おい越前」
「だから何?」
振り返るリョーマの腰を抱き、
一瞬だけキスを送る。かつて信長にされたように。
「・・・・・・」
驚き目を開くリョーマに薄く笑い、
跡部は囁いた。
「愛してるぜ」
リョーマの目が、元に戻る。
いつもの生意気な目。
信長と同じ、深く、澄んだ、熱い眼差しで。
にやりと笑い、
言った。
「当然」
―――最終回 終
―――さーついに終わりました【すりすり】。なおラジオでは薔薇之介も頭丸めてました。さすがにサエにやらせるのは・・・・・・。
という事で結婚になりました。そう! 8で話題にもなったサエの「お義父さん」発言! 実はここに繋がるためだったのです多分!! 殺されかけても褒美は結婚。結果リョーガとしてはプラスだったんじゃないかなあ・・・と。
そして最後の最後で出てきたリョ跡。このサイトではほぼ初の試みですな。逆はちょこちょこあったりもしましたが、一応ベースが信長というか南次郎か?×跡部ですからね。
そうそう、あとラジオを聴いていない方へ補足。実は1で出てくるラーメン屋、こんな伏線が張られてたんですね。読みきれず思いっきりサエが立ち寄った挙句食ってます。ラジオでは確かに、ラーメン屋を見かけたところで薔薇之介が現れてましたね。なので今回思いっきり気付かなかった路線にしています。おかげでリョーガが哀れな事に・・・。
では以上、リアルタイムでは到底間に合わず、長々とお届けしましたこの話。皆様最後までお付き合い下さりありがとうございましたvv この話のおかげで光秀を調べるのは楽しかったですvv ちなみに天海は普通にすごいお坊さんで、別に食い逃げとかはしていませんよもちろん。
しっかし家康・・・。サエだったらそれはそれで面白そうだった・・・・・・。
2006.1.29〜31