「跡部様っv オイラお弁当作ってきたんだ!!」
「邪魔だメス猫!」



氷帝の跡部相手では撃沈された、北海道椿川学園の寿葉ちゃん。
しかしながら、彼女を待ちわびている人達もいる。





助けて★寿葉ちゃん!!







青学の場合―――

   


 「越前くんっ! オイラお弁当作ってきたんだ!!」
 「ありがとう!!」
 「? どうしただ?」
 なぜか進んで受け取られてしまった。しかも、普段クールなリョーマにあるまじき喜ばれ方で。
 受け取ったリョーマ。くるりと他の人に向き直る。
 顔中に勝者の笑みを湛え、
 「というワケで先輩がた! 俺この人の食うんで昼いらないっス!」
 「越前テメーずっけーぞ!!」
 「おチビ俺ら見捨てるってのか!?」
 「何の事っスかねえ!? 俺は人の好意無駄にしちゃいけないから受けるだけっスよ〜!?
  じゃ!!」



 リョーマが去った。その他が残された。不二と共に。
 綺麗な綺麗な、それはとても綺麗なお弁当を広げ、不二は言った。
 「じゃあみんな、今日は僕の作ってきたお弁当食べてねvv」
 『絶対嫌じゃああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!』

 










不動峰の場合―――

   


 「橘さんっ! オイラお弁当作ってきたんだ!!」
 「ほお、それはありがたい・・・が・・・・・・」
 「いやいやすっげーありがたいっス!!」
 「大歓迎っスよ!!」
 「んじゃみんなで食べましょう!!」
 「人の好意は無駄にしない方がいいですよ橘さん・・・・・・」
 「そ、そうか・・・?
  じゃあ、今日はそっちを食べるか」



  ((助かった・・・・・・))
 いそいそと寿葉の弁当を広げる不動峰一同。その脇では、
 ・・・・・・橘特製、何だかよくわからない怪物体が転がっていた。

 










山吹の場合―――

   


 「千石くんっ! オイラお弁当作ってきたんだ!!」
 「え〜!? 激うっれし〜vv 俺ってラッキ〜♪
  んじゃみんなも食べてよはいあ〜んvv」
 「え・・・、いいのか・・・?」
 「ありがとうな、寿葉ちゃん」
 「いえいえvv」



 「み〜んな〜!! どーしたの〜!?」
 毎度のラッキーにて、弁当に仕込まれていた睡眠薬を回避した千石。しかしながら他のメンバーが寝てしまったのでは試合など出来るはずもなく。
 こうして、山吹中は全国大会2回戦で敗退する事となった。
 「み〜んな〜!! 起きてよ〜〜〜!!!」

 










六角の場合―――

   


 「佐伯くんっ! オイラお弁当作ってきたんだ!!」
 今度狙うは六角エース(らしき)佐伯。見た目のみならず中身まで好青年なのか、ゴミを散らかさないようみんなのお弁当から卵の殻を丁寧に回収する佐伯に、寿葉は極上の笑みでそれを差し出した。
 それ―――下剤入り弁当を。
 「え? 俺に?
  サンキュー」
 「試合頑張るべさ!」
 「ああ!」



 「ああ〜美味いvv
  おおっ!? これも美味い!!
  俺ってば幸せだな〜vvv
  ―――んじゃ、ごちそーさんvv」
 「え・・・、いや・・・・・・」
 満面の笑みで、佐伯は弁当箱を返してきた。
 「あ、あの・・・・・・」
 「ん?」
 「具合・・・、悪くなってねえべさ?」
 「具合?
  君のおかげで絶好調だよ! ありがとな。君のためにも頑張るからね」
 「ああ・・・。頑張るだ・・・・・・」



 「そんな・・・!! オイラの特製下剤入り弁当が何で効かねえ!?」
 「そんな事、やってたんだ・・・・・・」
 「うあっ!?」
 振り向く。いたのは佐伯除く六角レギュラー一同。
 思わず身構える寿葉に、
 全員は揃ってため息をついた。
 「アイツに恵んでやってくれてありがとうな・・・って言おうと思ってたんだけどよ・・・、
  ・・・・・・相手が悪すぎたみてえだな。まあ、俺らにしてみりゃ良すぎたっつーんだけどよ・・・・・・・・・・・・」
 代表して、黒羽が呟く。
 亮も頷き、
 「アイツ、交通費で金使い果たしたとか言って、砕いた卵の殻水に溶いて飲んで飢え凌ごうとしてたヤツだから・・・、
  ――――――今更下剤程度、普通に消化吸収しちまったと思うぞ」
 「そ、そんな〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 










比嘉の場合―――

   


 「甲斐くんっ! オイラお弁当―――!!」
 「―――作って来たからもちろん食うよな?」
 ひょこっと現れた寿葉―――の後ろからひょこっと現れたのは
もちろん佐伯。
 「な!? なんでお前が!?
  あのじいさんの見舞い行ったんじゃねえのか!?」
 「ん。行ってきたぞ? そして帰ってきた」
 「帰ってくんな永遠に!!」
 「そんな冷たい事言うなよ。
  よくよく考えてみたらお前らも俺らを破り上へと進んだ。となればこれもちゃんと激励してやらないとな〜と前向きな姿勢で臨んで来たんだぞ? そういうのに対しては受ける側も前向きに捉えるべきだろう?」
 「ンな親切の押し売りいんねーよ!!」
 本気でそう思うのだが・・・・・・
 思われた佐伯は笑顔で流した。
 「ははっ。そんな遠慮すんなよ」
 「してねえ!!」
 「んじゃ俺か彼女の分か、好きな方を選べ」
 「だからいんねえよ!!」
 「何!? 今回なんと選択性という俺にしては珍しく妥協案を出してやったというのに受けられないのか!?」
 「『妥協案』とか出ちまう時点で超後ろ向きじゃねえか!!」
 「なるほどそれもそうか。じゃあここも前向きに。
  ―――選ぶ権利はお前にある。お前はどちらを選んでも構わない」
 「ならためらいなくそっちの女の分を―――」
 「選んでも構わないが、そうすると余った俺の分はお前以外のみんなに配る事になる。もちろん俺のをお前が選んだら彼女の分をだ。
  どうする甲斐? ここはお前の友情度と度胸が試されるところだ。
  英雄的自己犠牲精神に則るか、それとも仲間を見殺しにして自分だけ助かるか」
 「後ろ向きだああああああ!!!」



 もちろん甲斐は寿葉のものを選んだ。



 『ぐげっ・・・!!!』
 後ろで何かが聞こえる。いや、何も聞こえなくなる。今までは緒戦突破を喜び合っていたというのに。
 (悪りいみんな・・・。けど、
  ―――俺だってまだ死にたかねーんだよ・・・・・・)
 「んじゃ、食うべさ」
 「ああ」
 笑顔の寿葉に促され、甲斐も笑顔で弁当を開き・・・
 「〜〜〜〜〜〜!!!???」
 そこにあった、あまりのおぞましさに表記すらためらわれるものに、軽く1分ほど硬直した。
 「な、なあ・・・・・・」
 「ん?」
 「コレ、何だ・・・?」
 本当に何だかわからなかったので問う。
 答えは即座に返ってきた。
 「お弁当だvv」
 にこにこにこにこvv
 彼女を見る。名称『弁当』を見る。彼女を見る。
 にこにこにこにこvv
 「ちなみに訊くけどよ・・・」
 「ん?」
 「北と南じゃ何か料理に対する感性ってモンがまるで違うのか? それともこりゃわざとやったのか? 単純にお前は壊滅的に料理がヘタなのか?」
 「酷いだあああああ!!!!」
 「あちょっと待てよ!! 今のは言い過ぎた!!」
 言い過ぎどころか全く言い足りないのだが、目の前で女の子が泣いて走り去りそうになれば、たとえ真実を捻じ曲げたとしても止めるしかないのが哀しい男の性である。
 涙目でじっと見上げる寿葉に、こちらも涙目でじっと見下ろす甲斐。
 とそこへ、全員をノックアウトした―――じゃなかった、全員に弁当を配り終えた佐伯が戻ってきた。
 ぽんと甲斐の肩を叩き、
 「ホラ、究極の2択って感じだろ? 見た目は良いが中身は恐ろしくマズい料理と、見た目はマズいが中身は美味いかもしれない料理。どちらを選ぶか」
 「実は中身美味えのか!?」
 なるほど意外などんでん返し!! だとしたら喜んで食おう!
 決意を固くする甲斐ではあったが・・・。
 「は? 何言ってんだ?
  そんな小説みたいな展開あるワケないじゃないか」
 「こりゃ小説じゃねえのかあああああ!!!???」



 もちろん、あるワケはなかった。



 「まさに究極の2択だな。見た目は良いが中身はマズいか、見た目通り中身もマズいか。
  ま、何にせよ―――
  ―――良かったな、食べてもらえて。この調子で次も頑張れよ」
 「んだ!!」

 










四天宝寺の場合―――

   


 「金太郎くんっ! オイラお弁当作ってきたんだ!!」
 「え!? ホンマ!?
  食いてえ食いてえ!!」
 (ちょろい)
 ぴょんぴょん近寄ってくる金太郎に、寿葉も心の底から微笑んで弁当を差し出し・・・
 「―――金ちゃんストップ」
 「んあ? 何や千歳か」
 ぐい、と後ろ襟を掴まれ金太郎が空中で止まった。
 まるで猫の子を掴むように抱き上げた千歳は、人当たりの良い笑みを寿葉に向け、
 「済まんなあ。誘拐防止に餌付けは禁止させとうね。他ン当たってくれんかのう?」
 「はあ・・・・・・」
 「え〜!! 食いて〜!!」
 「駄目ばいよ金ちゃん」

 










立海大付属の場合(
28)―――

   


 「真田さんっ! オイラ弁当作ってきたんだ!!」
 「む・・・!? 俺に、だと・・・!?」
 「嫌・・・か?」
 「いや・・・。そんな事はない・・・・・・。
  ありがたく、頂戴しておこう・・・・・・」
 「そっか! よかっただ!!」
 「うむ・・・・・・//」



 笑顔で去っていく寿葉。無表情のまま『真田』はいつまでも手の中の物を見下ろし・・・
 「―――いかんのう。相手はちゃんと確認せんと」
 クッと笑顔で帽子を取る。そこにいたのは、紛れもなく詐欺師仁王だった。
 「どうじゃそっちは?」
 「ばっちりばっちりv ちゃ〜んと撮れてるぜ?」
 「あの堅物真田副部長が女の子に差し入れされてどっきどき〜☆ 盛っ大にニュースになるでしょ〜ねえ!!」
 仁王が見やる先、草の陰からさらにブン太と切原が現れた。
 カメラを手ににやにや笑うブン太。対して切原は、
 「けど仁王先輩、その弁当どうするんスか?」
 「食っちまえば?」
 「それはいけん。俺が食うんは柳生のだけじゃ」
 「あーはいはい。お熱いね〜」
 「何なら切原食うか?」
 「いいんスか!? や〜りい! 俺昼メシまだなんスよ〜!!
  うっひょ〜vv うっまそ〜vv
  いっただっきま〜すvv
  ――――――――――――ぐげ」
 ばたっ。
 ぴくぴく。
 没した切原を『仁王』は見下ろし、
 「―――駄目じゃないか切原。相手はちゃんと確認しないと」
 穏やかな笑みで、銀髪のカツラを取る。現れたのは、部長幸村だった。
 「切原が体調不良で棄権。これでシングルスは真田・柳、それでお前で決まりじゃな」
 カメラを持った『ブン太』―――改めこちらこそ本物の仁王が、薄い笑みで倒れた切原を写真に収めていた。
 「悪く思うなよ切原。俺が戻ってきたおかげで枠が1つ足りないんだ」
 「心配ないでっしゃろ。レギュラー取りは常に争いじゃ。気ぃ抜きおったコイツが悪い」
 「それもそうだな」

 










おまけで続跡部の場合(跡杏)―――

   


 冷たい言い振りで寿葉を追い払った跡部。メス猫発言には賛否両論というか否しかないだろうが、彼がそうしたのには理由があった。
 「あ、跡部さん!」
 「ああ、杏か」
 「お昼もう食べた?」
 「いや?」
 「じゃあ、
  ―――私の、食べる//?」
 はにかみ笑いで訊いてくる杏。跡部もきょとんと目を見開き、
 「お前が? 作れたのか?」
 「何よそのしっつれいな言い方!!
  もーいいわよ!! モモシロ君にあげてくるから!!」
 「ああ悪りい悪りい。さすがに今のは予想外だったんでな」
 一応自分たちは付き合ってる身だ。他の女からの差し入れなど、見れば腹を立てるだろうと思い断ったのだが・・・
 (まさかコイツが作ってきたとはなあ・・・)
 周りに何か言われたのだろうか。お弁当持参をするのは女だけとも思ってはいないが、日々「女の子扱いしないでよ!」と言う彼女は実際今までこのような事をしてきたことはなかった。
 ぷりぷり怒って立ち去ろうとする杏を、後ろから片手で抱き締め、
 「な、何よ・・・」
 動揺する耳元に、囁く。



 「俺のために、用意してくれたんだろ? 杏ちゃん」



 「〜〜〜〜〜〜////」
 かああああっ・・・と、面白いように杏の頬が朱に染まった。
 むくれたように、口を尖らせ。
 「わかってんだったら・・・、つべこべ言わずに食べなさいよね・・・・・・」
 「はいはい」
 小さく吐き捨てられた立派な脅しを軽く流し、跡部は抱いたまま弁当を抜き取った。
 広げ、



 「――――――っ!!!???」



 「な、なあ杏・・・」
 「何?」
 「お前の料理って・・・、やっぱあのお兄ちゃんに教わった・・・のか?」
 「もちろん」
 「・・・・・・」
 だらだら汗を流し、見下ろす。兄のに負けず劣らずの怪物体を。
 「ちゃんと、食べるわよね?」
 「・・・・・・・・・・・・」





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 青学対氷帝戦にて、跡部がS2に下りてこなかったのは、
 ―――試合直前まで立ち上がる事すら出来なかったから・・・・・・らしい。

 




―――おしまい★













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 寿葉ちゃん。差し出した弁当に何かが仕込まれているというのが世間一般での見解ですが(そうか?)、純粋に料理ベタというのもいいなあというのがささやかな主張です。
 橘。料理ベタなのは映画短編ネタですね。実際は確か美味かったようなファンブック・・・・・・。すみません。好きでもない人にはここまで適当になれるという、とっても悪い例でした。
 そして下剤を普通に消化吸収する佐伯。彼なら多分、「腹が減ったから」という理由だけで、毒入りフグ肝もぺろりといくと思います。

2006.2.23