手塚が九州で出会った少女・ミユキ。千歳の妹たる彼女は、『イップス』という極度の緊張により筋肉が萎縮し、体が動かなくなるという症状を抱えていた。
そして、
・・・・・・それは兄譲りだった。
お兄ちゃんも心配性
「もー! お兄ちゃん!! しっかりするっちゃ!!」
「そ・・・そげんこつ言うたってものう・・・」
去年の全国大会での事。獅子楽中の橘と並んで九州2強などと呼ばれているかの男は、ベンチで何やらうだうだやり妹に叱り飛ばされていた。
「じゃけんホラ・・・。やから言うたとね・・・。俺んプレッシャー弱いばい・・・。
・・・・・・ああ腹まで痛ぁなってきたとね・・・・・・」
「我が兄ながら情けなかー・・・」
くらくら揺れる頭を帽子の上から押さえるミユキ。全国の舞台で、お受験前の小学生並の事をホザく馬鹿兄の背中を、バシリと思い切りぶっ叩いた。
「しゃきっとしないよしゃきっと!!」
「う・う・・・。ミユキが冷たいばいね・・・。そない冷た妹に育てた覚えなかとね・・・」
「お兄ちゃんがしゃきっとしんからっちゃあああああああ!!!!!!!!!!」
そして試合が終わった。千歳が6−0で勝った。
「怖かったばい怖かったばい!! 体もよう動かんし、もー絶対負ける思とったばい!!」
「・・・・・・あーそー。そりゃ、よかったっちゃなあ・・・」
こうして、プレッシャーには負けるが相手には勝つ男・千歳にはまた1つ、伝説が加えられた。
* | * |
ちなみにこんな千歳、妹に先駆けイップスは克服出来た。
その後のJr.選抜合宿でこんな光景を見て。
「は〜っはっはっはっはっは!!! 景吾ってば負けてやんの!! 跡部様よっわ〜!!」
「〜〜〜〜!!!!
――――――まあいい。せっかくのJr.選抜だ。こんくらいやってもらわねえと、つまんねえしな」
「なるほど負け惜しみ」
「違げえ!!」
「あっれ〜? 負け犬の遠吠えがこ〜んな近くから聞こえる〜。なんでだろ〜?」
「俺は負けてねえ!!」
「『跡部様はその極度のプライドと妄想力により、己の負けを決して認めようとしない』―――」
「何メモってる!? 大体そのメモはどっから出した上ンなデータ取って何やるつもりだてめぇは!?」
「え? いろいろと?」
「やんのかマジで!?」
「まあまあそんなに怒るな」
「無理に決まってんだろ!?」
「それはきっとカルシウムが足りないからだ」
「てめぇが存在してやがるからだ!!」
「という事で」
「会話しろよ!!」
「あまりテニス合宿とは関係ないが牛乳を用意しておいた。これでしっかりカルシウムを取れ」
「・・・本格的に何の脈絡もねえな。
まあいいけどよ。それ飲みゃてめぇとの会話が終わらせられるんだったら」
ぐびぐび。
げふっ!! がはっ!!
「ああ。ちなみにそれ、よりカルシウムが取れるようにしいたけダシで煮込んだ小魚とブレンドされてるんだけど―――
―――生きてるか?」
「生きてるわ!! つーかてめぇを地獄の底に叩き込むため蘇ったわ!!」
がしっ!!
がくがく!!
「楽しいか!? てめぇは俺にンな事やって楽しいか!?」
「楽しいぞ?」
「・・・満足か!? 後一歩で泣き喚きそうな俺見て満足か!?」
「ああ、満足だ」
「・・・・・・」
「今更何わかりきった質問してるんだ? やっぱ大丈夫か景吾? 熱でもあるんじゃないのか? 体調悪いのか? 意識あるか? 瀕死の重症か?」
「・・・・・・・・・・・・」
ぺちぺち。
し〜〜〜〜〜ん・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さて、次の練習に入るか」
「あ、何1人で何か悟って終わらせてんだよ!? お前友達甲斐ないぞ!?」
「うるっせえ!! てめぇとは金輪際ダチでも何でもねえよ!!」
「・・・・・・」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ2名。1人は全国レベルで有名なヤツだ。跡部景吾。氷帝の俺様帝王。
さてではそんな彼を負かした挙句、本人曰く『後一歩で泣き喚きそうな』状況まで追い込んだあの銀髪は・・・・・・。
首を傾げている間に、
そいつと目が合った。
びくりと引く千歳。全く構わず、そいつはにこやかな表情を浮かべ言った。
「あ。お前だよな千歳って。
俺は佐伯虎次郎。お前の次の対戦相手だって。よろしくな」
「い・・・・・・
――――――嫌じゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
九州2強の片割れ千歳。
彼は、己にかかるプレッシャーが限界を超えた時、ブチ切れ悟り冷静になれるという稀有な特性を武器に、今日もまた新たな伝説を作り出す・・・。
―――Fin
* | * |
これでいいのか千歳!? 克服の仕方間違ってるぞ!? 妹より情けないぞ!?
いろいろと考えさせつつこんにちは。本日ようやっと買った最新巻でミユキちゃんが妹だと判明したおかげで、今まで謎に包まれていた千歳像が一気に明らかになりました(誤)!!
そーだ彼はこんな人だったんだ!!
と誤解を振りまいたままそれではさようなら。
なおこの特性は、むしろ千歳ではなく跡部に持っていて欲しいと思います。試合前は不安いっぱい。自分は、チームメイトは大丈夫かと。落ち着き払った表情の裏で、心臓は口から飛び出そうなほどバクバク状態。なのにそんな心配を全く気遣わず流れる氷帝コール。最早脳内パニック状態。善意の篭った悪質な洗脳と暗示により、氷帝帝王跡部様降臨!!
といった感じで。意味なく各シーンで高笑い上げちゃったりするのは、多分自分でも何やってるかよくわかっていないからだというのが理想です。大口で隠れた目元では、ちょっぴり涙も滲んでいたり。
・・・跡部こそ「これでいいのか!?」という状態です。そんな彼も素敵だと思うんですけどねえ・・・vv
ちなみにこの特性は私のものです。おかげで面接では「ハキハキした明るい子。話題もちゃんと論理性がある」と褒められますが・・・・・・すみません。実際自分が何をやっているのかは意味不明です。
2006.5.18