俺達には恋人がいる。そいつらは、いわゆる『女たらし』だ。
まあ、最終的に俺達を選んだのだから実際は違うのか、それともタラシの範囲が女に限定されていなかっただけなのかは知らないが。
いずれにせよ、どうしても気になる事がある。





―――そいつらが俺達を選んだのは、単に顔が良かったからなのではないか―――





気になってたまらないので、俺達は確かめるべく実験をしてみる事にした。










どっきどき☆謹賀新年大作戦!!







謹 賀 新 年
〜あけましておめでとうございます〜


 昨年は大変お世話になりました。
 今年もこんな感じで俺達僕達は楽しくやっていきます。
 よろしくお願いします。









 



 
2007年1月1日。この日、千石と跡部、リョーガと佐伯は、揃って初詣に出かける事になった。取り立てて深い意味はない。決してこの案が出た時、「初詣!? となるとやっぱ着物!?」「よっしゃ正月からサービスショット!! そのまんまぜひとも神社の影で!!」「ちゃっちゃっちゃ〜!! 俺らってラッキー!!」などとホザいたどこぞの2人をもう2人が殴り倒し蹴り倒し、かくて安全対策という互いの利害が一致したため、4人は共に出かける事になった・・・なんて理由でではない。たとえ決めて納得する跡部と佐伯の後ろで、千石とリョーガが責任の擦り付け合いをしていたりしたとしても。
 とりあえず決まったので出かけた。『連帯責任』を隠れ蓑に、千石とリョーガもまた着物を着たりして。
 4人の家の位置関係(注:リョーガは佐伯家に尚も同居中)により、行き先は成田山となった。なぜか現地集合だったため全員ばらばらに向かい・・・
 「―――はあ? 跡部クンも遅刻?」
 「ええ!? サエくんも? めっずらしーねえ」
 待ち合わせ場所にて、リョーガと千石は揃って首を傾げた。互いの待ち合わせ相手は揃って生真面目だ。やむを得ぬ事情があるならともかく、単なる遅刻などまずしない。そういうのは自分たちの役目だ。むしろ来た時まだいなかったのに驚いた位だ。
 もう一度メールを確認する。





 <遅れる>





 ただそれだけ。
 何も理由が書かれていない。しかも2人ともに送っている時点で、余裕がないのではないようだ(この文章の短さは絶対焦った成果ではないと断言する)。
 眉を顰めいろいろ考え・・・
 「・・・まいっか」
 「そだね。のんびり待とっか」
 「だよな。でもって遅れた罰とか名目つけてあんな事とかこんな事とか・・・」
 「・・・・・・多分そんな面倒な事やんなくても、サエくんなら『これ奢ってやるから』の一言で一発陥落だと思うよ」
 とりあえず待つ。一番見渡しの良い境内でなど待ち合わせているおかげで、暇つぶしはいくらでもあった。可愛い子とか美人のおねーさんとか可愛い子とか美人のおねーさんとかその他エトセトラ。
 かくいう千石とリョーガもまた、女性の考えるそれに入っていた。散々方々でエロ顔と言われるリョーガはそれを助長するように着流しを着崩し、千石はいつもの山吹カラー―――くすんだ緑に髪色のワンポイントをあしらった甚平を纏い。どちらも非常に冬には合わないように感じるが、頭の中身は常に夏男なので仕方あるまい。周りもその似合いぶりに、特に指摘する事もなかった。
 代わりに違う指摘をされる。
 「あの・・・お2人ですか?」
 「もしよければ私たちと一緒に行きません・・・か?」
 もじもじと2人組の少女に話しかけられ、千石とリョーガは目を見交わした。
 「(ど?)」
 「(
34点。パス)」
 「(俺もだね。媚びる姿が頂けない)」
 「ごめんね〜。俺らちょっと待ち合わせ中で」
 「また今度。
  ここで別れて次会えたら運命的じゃねえ? そん時ぁよろしくなv」
 苦笑して手を合わせる千石。ひらひら手を振るリョーガ。もちろん目での会話は表に出さず。
 そんな彼らに、さらに周りがぽ〜・・・// と頬を染めた。そんな周りを、彼らもまた鑑賞した。
 「(あ、あの子どう? 君好みのおねーさんタイプv)」
 「(髪傷んでんなー。無理矢理黒に染めたってか? シンデレラじゃねえんだから付け焼刃の美人なんて目指してんじゃねえよ。興ざめだっつーの。
   ・・・お? 次はどーだ?)」
 「(ダメだね。自信満々なのはいいけど、それに見合う存在じゃなきゃ。これじゃただの勘違い少女だよ)」
 「(酷っでーなあお前)」
 「(ん? リョーガくんこそそーいうタイプが好きっしょ?)」
 「(そりゃとーぜん。謙虚なヤツなんぞつまんなくてたまんねえ)」
 「(あはは。俺は分をわきまえた謙虚さは好きだけどねえ)」
 「(・・・とても信じらんねー発言だったな)」
 「(跡部くんは謙虚だよ〜? 出来る事と出来ない事の線引きはきっちり出来てるもん。
   んじゃ次は? ま、見た目だけならわりかし上々?)」
 「あー悪りい。俺あんたみたいなタイプ興味ねえ」
 「こ・・・の私を興味ないですって!? 酷い!!」
 「(あ、泣かした)」
 「(はい却下。この程度で折れるヤツに用はねえ)」
 「(・・・君今サイアクの限りを尽くしたね)」
 「(すぐ折れるプライドなんぞ邪魔でしかねえだろ。さらに攻めて初めて魅力っつーモンになんだよ)」
 「(それもそだね。折れないからこそこっちも攻め甲斐があるんだし)」
 鑑賞しながらも第2、第3の誘い手を軽くあしらう。もちろん辛口品評会も忘れない。
 何せ待ち合わせる相手が相手だ。そこらのちょっと可愛い子など、比較そのものが無駄でしかない。
 なおも暫く鑑賞と誘い受けを続け・・・・・・
 「(お? 次けっこ・・・・・・)」
 笑うリョーガの動きが止まった。
 「(何リョーガくん。そんなに凄い子? ・・・・・・)」
 茶化し、そちらを見た千石もまた。
 2人の動きを察し声を掛けていた少女らが、それには全く興味なかったがたまたま気付いた一同が、
 すべて止まる。
 そこにいたのは2人の女性だった。着物を着た女性。それのみを見れば、さしたる特徴のない2人組。
 何が違うのか。簡潔にまとめれば一言に過ぎない。





 その2人が絶世の美人だったというだけだ。





 1人は綺麗な銀髪をアップにした少女だった。着物の柄としては珍しいだろう、青空に髪と同じ白銀の羽根が舞い、首元にはまるでその元だと言うかのように真っ白なファーが巻かれている。
 可愛らしさとおしとやかさを全面に引き立てた格好通り、顔もまた可愛らしくおしとやかなものだった。染みのない白い肌、大きな瞳に小さな鼻、柔らかそうな薄ピンクの唇には、一足早い春を告げるような淡い笑みが零れている。
 小さな巾着バッグを1つ持ち、その他飾りは極めてシンプルな櫛が2つ程度だが、彼女自身が飾りのようなものだ。引き立て役はこれ以上いらないだろう。実際これだけの飾りを纏い自分が霞まない自信がある者はそうはいないらしい。今まで、こちらも頑張っていたナンパ族(男)ですら、誰一人として声をかけるどころか近寄ろうとすらしない。いや出来ない。
 それを崩し、同時により強固にするもう1人。隣にいながら全く見劣りしない、どころかその少女ですら己の引き立て役だと言わんばかりに堂々と歩くのは、少女とは対照的な女性だった。
 大きな薔薇をあしらった黒い着物。柄も大胆だがそれ以上に大胆なのは着方だった。
 同じ薔薇飾りで高く縛られた灰白色[アッシュ・グレイ]の髪下覗くうなじが綺麗だとかいうレベルではない。着物の襟は、横は肩まで、前は谷間寸前まで広げられていた。浮き出る鎖骨を覆う白く滑らかだろう肌に見惚れた者は、必ず中心へと視線を這わせるだろう。そしてそんな者らにとっては、これ以上見せないという意味で合わせ目に付けられた紅く小さな宝玉もまた、己を掻き立てる対象にしかならない。上に縛られず、胸の膨らみを薄く流れる一房の髪もまた。
 上に負けず下も大胆だった。普通の着物ではしないほどきつく帯を縛り、ウエストの細さを強調。反してヒップはさして出ていないが、脚の美しさは誰もの予想通り格別だった。・・・と確認出来るのは、どうもその着物は構造から特別仕様らしく帯下から合わせ目が真っ直ぐ下がるのではなく左右に開いているためだった。おかげで膝から下は、足袋すら履かず直接草履を引っ掛ける足に塗られた真っ赤なペディキュアまで丸見えだ。しかも歩幅により上の見え幅は違う。チラリズムが刺激されるせいか、尻まで見えそうな女子中高生の制服よりよっぽどエロくさい。
 総じて初詣客というより、出る時代と場所を間違えた遊女のようだ。さすがに火は差されていないが、軽く組む右手で遊ぶ煙管がより増徴している。
 それでありながらなぜ意外と普通に受け入れられるのか。理由はそんな格好をする彼女自身―――顔と雰囲気にあるのだろう。
 意志の強そうな吊り上がった眉に切れ長の涼しい目、一本筋の通った鼻そして隣の少女とはかけ離れた薄く剣呑な笑みを浮かべる唇。
 あえてきつさを強調するためだろう。唇と眉尻には濃い紅を差している。だが決して厚化粧なのではない。逆に強調する必要のない他の場所にはおしろいすら塗っていない。造られない白さの中で、唯一つけられた黒い染み、泣き黒子がきつさ以上に危険な甘さを含んでいた。
 まるでこの世のものではないほどの神がかりじみた美しさ。だからこそ一般から外れたものを纏い春の妖精を従えていても自然に見える。切れ長の目をさらに細め、この世の全てを見下すような様を滲ませていたとしても。
 そして逆に奇異に見えるのが隣の少女。1人でいたのならただ可愛いだけの少女なのだろう。そうして誰もを騙す。2人でいなければ、自分たちもまた騙されるところだった。
 一見女性に付き従っているように見え、その実全く引けを取ってはいない。どころか隙あらば取り込んでしまいそうなほどの底冷えする寒さを微笑みの奥に湛えている。一筋縄でいく相手ではない。ほぼ表に現さない分、タチの悪さでは女性を遥かに凌ぐ。
 呼吸する事すら失礼に当たりそうなほどの濃密な空間。全てから切り離されたそこでは、誰もがただ顔を赤らめ芯から込み上げる喘ぎを細いため息に乗せる事しか出来ない。
 殿に家臣がかしずくように―――いや、女神に下々の者がひれ伏すように、2人のためだけに誰もが道を開く。
 異様な光景だ。だがそれを当然のものと受け止めた2人はもちろん物怖じする事もなく、僅かに開いた口元だけに感謝の意を乗せ悠然と歩み去っていった。
 無限とも思える程の長い時を経・・・
 核をなくし、閉鎖された空間が開放される。
 ざわめく一同。先ほどまで千石とリョーガに迫ろうとしていた彼女らも、己とは比べる事がまずおこがましい者の存在に、嘆く事もなくただただ夢見心地で惚けるだけだった。
 そして、
 ―――彼女らの標的から外された千石とリョーガもまた。
 「・・・・・・マジで、最上級っていうか別格だったんですけど」
 「ヤベえ。見ただけでイくかと思った俺」
 普段表情を造り慣れ過ぎた彼らにはなかったはずの、素での照れ。
 手の甲で頬をごしごし擦って赤みを消した後、
 2人もまた剣呑極まりない笑みを浮かべた。
 「うん。あーいう子なら俺すっげー好み。ど真ん中ストライクだねまさに」
 「奇遇じゃねえか。俺もだぜ。
  あーいう薄ら寒い化けの皮剥いで本性暴き出してやったら、そりゃ気持ちいーだろうな」
 「あっはっは。俺らってホントどSだね。
  あのふてぶてしい笑み、屈辱まみれにして俺の前に跪かせんの。すんげー快感だろうね」
 「ハッ。そりゃお前だけだろ千石。
  俺は別にMでもいいぜ? 可愛い子ぶってSの本性出しゃその瞬間俺の勝ちが決まるんだからよ」
 「うわあきっつー。そんな君に惚れられるなんて、あの子も可哀相だね〜」
 「ンな事ねえって。俺は優しいぜ〜? 好きにやらせてやるんだからよ。
  それに運命っつーモン感じねえ? あの髪飾りなんて俺のとお揃いじゃねーか」
 と、今日もまた首から下げているペンダントネックレスを弄ぶ。金色の棒に水色の珠2つ。確かに少女の髪をたった1本でまとめる櫛と同じ飾り、と言えなくもないだろう。
 まるでかの少女を手の平で転がすように弄くり、
 リョーガは顔を上げた。今はもう見えない後姿を思い描き、囁く。少女の代わりに己の飾りに軽く誓いのキスをし。





 「俺に惚れとけよ。勝ち以外の全部くれてやる。
  身も心も、時間も金ももちろん命もな」





 「変態の極みみたいな台詞だね」
 千石に揶揄られ、リョーガは首を傾げた後大笑いした。
 「むしろあっちのおねーさんの方が気の毒だぜ! お前みたいな変態に好かれて」
 揶揄り返すが。
 千石の返事は実に簡素なものだった。
 瞬きし、さらっと答える。
 「別にいんじゃん?」
 「・・・何でだ?」
 問うリョーガを、千石もまた見ていなかった。
 哀れな獲物を前に、舌なめずりしながらも慈悲の微笑みを見せ、
 言う。





 「だってぐちょぐちょの君でも愛してあげるもん。
  俺なら愛してあげるよ? 君が大っ嫌いな君もね」





 互いに見交わし、小さく笑う。
 やる事は決まった。もうここに留まる意味はない。
 分かれていた人波が元に戻ろうとする。呑み込まれる前に小走りですり抜け、ひたすら前へと藻掻き進む。
 前へ―――己が求めるたった一人の存在へ向かって。
 「いた!」
 「よっしゃ!」
 2人が去って随分長い時が流れたと思ったが、意外とそうではなかったらしい。2人が散歩以下のペースでのんびり歩いていたのも理由の1つだろう。さらには・・・
 ・・・・・・こちらを待ってくれていた、というのもまた。
 近寄り、追いつく。
 軽くしか走っていないのに不思議なほど高鳴っている鼓動を無理矢理抑え、千石とリョーガはそれぞれ声をかけるべき存在を引き止めた。
 千石は妖艶美人の腕を引き耳元に伸び上がり、
 リョーガは可憐な美少女の肩を引き胸に抱き寄せ、
 囁く。






























 「君ともあろう人がな〜にベタなボケやっちゃってんのかなあ? ねえあ・と・べ・く・ん」



 「待ち合わせてんのに無視ってのはどーいう事だ? まず遅れた事お詫びすんのが筋ってモンじゃねえ? なあさ〜えきっ」






























 囁かれ、問題の2人が振り向いた。
 同じ笑みを浮かべ、
 口を開く。






























 「へえ?」



 「ほう?」










 『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!????????????』






























 千石とリョーガが、声をかけたまま固まった。面白いように顔色が青褪めていく。
 間違ってはいなかった。確かに引き止めた相手は、互いの想い人にして待ち合わせだった。
 ただ違ったのは、





 千石が腕を掴んだ妖艶美人が佐伯であり、

 リョーガが抱き寄せた可憐な美少女が跡部であったという、それだけだ。





 「恋人なら、まさか相手間違えるなんて事あるワケがないって思ってたけど」
 千石の手を跳ね除けた佐伯が己の目元を摩る。眉墨で書き加えたに過ぎない黒子はあっさり落ちた。
 「そーかそーか十分有り得んのか。気付かなかったとは俺もまだまだだな」
 リョーガを突き飛ばした跡部もまた目元を摩る。こちらはファンデーションで隠されていた黒子が現れた。
 「な・・・え・・・?」
 「嘘・・・だろ・・・・・・?」
 目にしたものが真実なのだが、それでも信じられずに千石とリョーガは2人を交互に指差し戦慄いた。
 実際、ある一定以上の美形になるとみんな顔が似るという。跡部と佐伯もこの例には洩れない。なまじ日本人として珍しい髪色なのにそれでも類似色な事が拍車をかける。
 違う点は眉の太さと目の大きさだろう。だがこういう変装の仕方だと、佐伯の太い眉は意志の強さを表すための化粧の一環だと認識させ、さらに切れ長の目を強調していたのはそれを隠れ蓑に大きい目を誤魔化すためだったのだろう。逆に跡部は化粧と己の努力でつぶらな瞳に見せていたようだ。前髪を垂らしていたのは、佐伯だと誤認させる理由の他に額に寄る皺を隠すためでもあったようだ。ついでに眉もか。ただし見えたところで『佐伯は人をからかうためなら被害を省みない。己の眉を剃る位朝飯前』という前知識があるため疑問視はされなかっただろうが。
 ただし顔が似ているだけでは千石とリョーガは騙せなかっただろう。この計画を成功たらしめた最大の要因は、2人の関係だろう。
 ほぼ生まれた時から幼馴染で、十把一絡げに育て上げられていた彼ら2人。元々の思考パターンが似ていたせいか、互いの似振りは実の双子以上と言われるほどだ。見た目よりも性格よりも、雰囲気そのものが。
 そういえばついこの間の
Jr.選抜時、柳生の変装に味をしめいろいろ遊んでいた仁王が苦笑して言っていたか。「跡部と佐伯。あいつらが狙って互いの変装しちょったら、俺でも多分見破れんやろのう」と。
 悪魔をも騙す詐欺師にすらそう言わしめる者がとても頑張って変装した。しかも普段とは全く違う様相で2重の罠を仕掛けた。
 そんなの・・・
 「・・・・・・俺らにわかるワケないじゃん!!」
 「アンフェア過ぎんだろこの勝負!?」
 素っ頓狂な声で怒鳴る2人ではあったが。
 佐伯と跡部は2人をじっと見つめ、
 尋ねた。
 「わからなかった? 本当に?」
 「ンな事ねえだろ? 俺らについてちっとでも考えりゃすぐわかったはずだ」
 「・・・・・・」
 「つまり?」
 佐伯が跡部を指差す。
 「この、破天荒なようでいて意外と生真面目で面白味のない人間な景吾が、こんな明らかに一般の概念から外れたド派手な着物着て堂々と外歩けるワケないだろ?」
 「ぐ・・・」
 「つーかそりゃ同時にお前自身はそんな事して微塵も恥ずかしいと感じないほど感性がずれた人間だっていう証明になってねえか? とか突っ込み入れる前に訊きてえんだが言われっ放しでいいのか跡部クン?」
 跡部が佐伯を指差す。
 「そんなコイツの頭に『リョーガとおそろのアクセサリー付けて密かにアピールv』なんつー乙女回路が搭載されてるワケねえだろ?」
 「ううう・・・」
 「つまりそんな君にはあるワケ乙女回路しかも対リョーガくんの!!」
 互いの言いたい事だけを言い(ついでにそれに対する突っ込みは無視し)、
 2人は揃って頷いた。
 言葉を続ける。
 「なのにそんな事すらわからない。即ちお前らは俺達の事を何も理解していなかった」
 「それでありながらお前らは俺達を選んだ。なぜか。何を元に俺達を選んだのか」
 再度じっと見つめる。その目が、
 冷たくなった。
 声を揃え、言う。











  「「つまりお前らが俺達を選んだのは、俺達自身を受け入れたのではなく単に顔が良かったからに過ぎない、と」」










 「違ああああああああああああう!!!!!!!!!!!!!」
 「待て佐伯頼むから俺の話を聞いてくれ!!!!」
 焦ってみても時既に遅し。失われた絆は再び結ばれる事もなく。
 伸ばした手を弾き飛ばし、佐伯と跡部は2人に背を向けた。
 白々しい棒読みだけが後へと残される。
 「あーたいへんー。俺千石に声掛けられちゃったー」
 「いーんじゃねーのお? アイツが誰に声かけよーがそりゃアイツの自由だしよお。
  後腐れのないその場限りの付き合いするにゃぴったりじゃねえ?」
 「んじゃ貰っていい?」
 「おーいいぜ? ンなモンのし付けてくれてやる。
  ならリョーガ貰っていいか? 俺も声掛けられた」
 「ああいーぞ? そいつ馬鹿だからちょっと甘えりゃ何でも買ってくれるぞ。財布代わり[パトロン]にはぴったりだv」
 「・・・いんねーよ別にンなモン。つーか俺が甘えたら怖ええだろーよ」
 「さりげにそれはそれでいいと思うけどな。その格好も良く似合ってるぞ景吾v」
 「ほっとけ」
 「まあそれはそれとしても、そいつは貰い得だぞ? 考えも浅いから好きなように手の平で転がせる」
 「ま、それならいいか。飽きたら捨てりゃいいんだしな。代理なんぞいくらでもいる」
 「そうだな。よくよく考えてみたらこんな狭い選択肢で悩む必要ないじゃん。
  今日はフリー2人、思う存分引っ掛けようぜ?」
 「いいな。ちゃんとオス猫メス猫うようよ近寄ってくるしな。
  んじゃ行くか」
 「いやあああああああ!!!!!!! 行かないでプリーーーーーーーーズ!!!!!!!!!!!」
 「俺らが悪かったー!!! 考え直してくれーーーー!!! 頼むーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」







●     ●     ●     ●     ●








 それよりちょっと後のちょっと違う場所で。
 「―――ん〜?」
 「どうしたとね金ちゃん?」
 千歳に下から声をかけられ、肩車されていた金太郎は目元に手を当てた後同じ方向を指差した。
 「アレ、千石とリョーガちゃう?」
 「どれ?」
 訊かれたので、他の者もそちらを見た。
 「確かに、千石とリョーガばいねえ」
 縦に小さく頭を倒す千歳に対し、一緒にいた柳生は横に倒した。
 「しかし・・・どなたでしょうね? 彼らと共にいる女性2人は」
 「せやねえ。めっちゃ仲良えし」
 千石と跡部・リョーガと佐伯ついでにあと一組が恋人同士だというのは、一部の者の間ではとてもとても有名だった。
 それが女性と親しそうにする。そんな事態があったとしたら、とっくに趣味の情報通:柳蓮二が掴んでいるだろうし、話は立海のみならず全国各所、もちろん四天宝寺にも伝わっているはずだ。
 首を傾げる素直な2人に対し、
 何となくわかった千歳は苦笑して答えた。
 右手に甘酒、左手に串団子2本と今川焼を挟み込みなおもぴこぴこ振る串でリョーガに次の食べ物指令を出す妖艶美人、一個の紙皿に2本の箸を突っ込み千石と楽しそうにお汁粉を分け合う可憐な美少女と指差し、
 「あれがあと―――」
 「ちゃうよ千歳」
 「リョーガにタカっちょるんが佐伯、千石とちちくりおうとんが跡部じゃ」
 「はしたないですよ仁王君!!」
 「なークララー。『ちちくりおう』って何?」
 「それはな〜・・・」
 「まだ知らんでええとよ金ちゃんは」
 今まで黙っていた他のメンバー―――白石と仁王に指摘を喰らった。
 改めてきょとんと瞬きする千歳に、
 変装といえばこの人仁王と、実力と個性が比例する恐ろしい劇団で今だ下っ端な白石がそれぞれ解答を与えた。
 「変装で大事なんは見た目やのうて雰囲気じゃ」
 「格好無視して見てみいあん2人。どう見よってもリョーガにタカっとんが佐伯で千石とちちくりおうとんが跡部やろ」
 「ああなるほどのう」
 今度こそ千歳が微笑んだ。2人の女装も含め、てっきり何かの罰ゲームでもやっているのかと思いきや普通に仲良く初詣らしい。全く微笑ましい事だ。
 納得する千歳に対し、柳生はまだ疑問が解け切らないらしい。更なる問いかけをする。
 「ですが、となるとあの2人はなぜあんな格好をしているのでしょうね?」
 「ペアルック気取りちゃうか?」
 「え・・・?」
 わからず振り向くと、なぜか今度は仁王が苦笑していた。言葉を発した白石は「付き合ってられんわ」と体中で呆れを表現している。
 「今度は格好の方見てみんしゃい。リョーガはだれた着流し、千石は小学生気分の甚平。
  ―――もし跡部と佐伯が逆ん格好しちょったらどう見える?」
 「・・・・・・・・・・・・ああ」
 ようやく柳生も納得した。色男気取りのリョーガに遊女もどきの佐伯、ガキくささ全開の千石に可愛らしさで対抗する跡部。確かに、相当幅は広くなるが類似系と言えなくもない。
 「なるほど。地の方が逆じゃけん服装だけでも合わそ言うつもりとね」
 「・・・まあ、素直になれないお2人にはぴったりでしょうね」
 「あ〜あっついあっつい。地球温暖化ぁ騒がれとんねんこれ以上熱うしなやバカップルが」
 ぱたぱた手で顔を仰ぐ白石へと、仁王が読めない笑みを向けた。
 「何? 敵対心か? きさんも熱いのう白石」
 「そら自分ちゃうか仁王? 愛しの紳士様は今日もそない自分の想いを全く理解してくれんと俺らに声掛けよって」
 「きさんこそ、わざわざ大阪から千葉くんだりまで出張ご苦労。コブ付デート思たらきさんもコブかコブ2号」
 素敵な笑顔で対峙する2名・・・・・・を放ってその他3名が歩き出した。
 「あ! 千歳千歳! 俺おみくじやりたいわー!」
 「ええとねえ。今年1年占うんも」
 「丁度そこで引けますしね。
  ―――ほらくだらない争いはお終いにして行きますよ仁王君!」
 「ああ行こかー」
 「くくっ。詐欺師も紳士には頭が上がらんか?」
 「俺は柳生の愛の奴隷とね」
 「ただの奴隷―――」
 「―――白石も行くばいよー!」
 「今行くわ!」
 「きさんも変わらんじゃて」
 「・・・・・・」





 何や俺ら、アイツらと何も変わらんねえ・・・。
 ええでっしゃろ。そんで世ん中平和になるんじゃったら。







●     ●     ●     ●     ●








 ちなみにさらに少し後の少し離れた場所にて。
 「よっし大吉!! 今年も良い事ありそうだ!
  《金運恋愛運共に良し。財布の紐は開けっ広げ恋人は馬車のように扱き使え―――》」
 「ちょっと待てえ!! 全然書いてねえだろンな事!?」
 「そんなお前はどうだ〜リョーガ」
 「え〜っと俺は〜・・・」
 「小吉か」
 「淡々と言うなよ!!」
 「ふむふむそれで?」
 「《健康運悪し金運悪し》。・・・すんげー納得出来る内容だけどよ、これでどこに『吉』があんだ?」
 「ああまだ下にあるぞ?」
 「いやもーこの先何も期待はしねーなあ」
 「まあそう落ち込まずに。とりあえず読んでみろよ」
 「どれどれ。
  《今年は運命の出会いの予感》・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「今までまあ楽しかったぞリョーガ。じゃあな」
 「だから待てよ佐伯ぃー!! 『まあ』って何なんだよ『まあ』って!!!」
 「よ〜し大吉! やっぱ今年も俺ってラッキー♪」
 「よーし凶ぉ―。やっぱ今年も俺ってアンラッキィ〜・・・♪」
 「うわわわわ跡部くんそんな遠い目して新年早々キャラぶち壊してないで戻ってきて!!
  ね? ホラホラ見て見て? こうして俺と君との分をちょちょいのちょ〜〜いと結んでみれば〜―――
  ―――ほ〜ら2人の愛の吉ハートvv」
 「千石・・・」
 「今年もず〜っと一緒にいようね? そうして君の凶を俺のラッキーで―――」
 「やっぱ凶じゃねえかあああああああああ!!!!!!!!!!」
 どごっ・・・!!!




―――完





















おまけ

 結局のところ何が本音だったのか女装してみた跡部と佐伯。
 となるともう1人もやっていると思われるのではないだろうか。





 もちろん彼もやっていた。





 「ふふふvv リョーマ君もこんな僕の姿みたらびっくりしちゃうかな〜?」





 さて・・・・・・







●     ●     ●     ●     ●








 同月同日相当後。今日も懲りずに遅刻したリョーマは、しかしながらなぜか待ち合わせ場所にいない恋人の事を訝しんでいた。
 「遅っそいなあ不二先輩。何やってんだろ?」
 ・・・・・・訂正。いつも遅刻魔なリョーマは、逆に相手が遅刻してもそれを当然と受け止めていた。
 とりあえず動くのも連絡を取るのも面倒なので待つ。肝心の待ち人はそんな彼を
10m離れて観察しているなどと露知らず。
 知らないので待ってみる。待ってみて・・・・・・
 「ねえねえキミ可愛いね」
 「今1人?」
 ・・・・・・こちらもまた、初詣ナンパ隊(女)に引っかかっていた。
 「1人じゃない」
 いつも通りの無表情で返す。が、
 「まったまたぁ〜。1人じゃんどう見ても」
 敵も負けてはいなかった。
 にまにま笑いながら3人がかりで取り囲む。その様はナンパというよりカツアゲだが、受けているリョーマが冷静すぎるせいかそれともハーレム状態を嫉妬されているせいか、どこからも助け舟は出なかった。
 冷静なリョーマは冷静なまま極めて冷たく返す。
 「だから?」
 「だったら一緒行こうよ」
 「ヤだ」
 「そー言わずにさあ」
 「一緒の方が楽しいよ?」
 「今全然面白くない」
 「だからほら、もっと面白くなろうよ。ね?」
 「だから楽しくないって」
 「一緒にいてくれたら何でも好きなもの買ってあげる」
 「じゃあ行く」
 (〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!????????)
 リョーマあっさり陥落。
 「リョーマくうううううん!!!!!!」
 物陰から不二が猛ダッシュで出てきた。リョーマに抱きつき、耳元でわめく。
 「駄目だよリョーマ君僕ってものがありながら他の人とデートに行っちゃうなんて〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 抱きつかれ耳元でわめかれ、リョーマの時が止まった。
 丁度良いのでここで問題の人物―――リョーマの恋人兼待ち合わせ相手たる不二周助の格好について説明する。
 こちらも佐伯と跡部の手を借り女装していた不二。彼の温かみを帯びた可愛らしさ(注:佐伯視点)をより引き立てるように、白地に梅の花が咲き首には粉雪のような柔らかいファーが降る。冬と春の共演。厳しい寒さの中、凍えた心をふんわりと包み込む陽だまりのようだ。合わせ、化粧もまた彼の冷たさを消し柔らかさを全面に出している。
 しかしながら変装は目的としていないため、髪は前髪を少しピンで留めただけだし、服装はともかく顔はさほど変わってもいない。仁王や白石でなくとも、彼を知る者なら
100人中99人は彼だとわかるだろう。が、
 ・・・・・・リョーマは残る1人だった。
 「・・・・・・・・・・・・何アンタ? いきなり抱きついてきて。変態?
  止めてよ。そういうのは知り合いに1人いれば十分だから」
 引くリョーマに、不二もまた引く。
 「え・・・? ちょっと待ってよ。僕だよ。わかんない?」
 「いや僕だよとか言われても。オレオレ詐欺?」
 「じゃないから。僕だよ。不二―――」
 「ああ」
 リョーマがぽんと手を叩いた。
 (ようやっとわかってもらえた嬉しさで)笑顔を輝かせる不二に、
 言う。
 「アンタ俺からかうために周助に頼まれたんだ」
 「え・・・・・・・・・・・・?」
 今度は不二の時が止まった。
 固まった不二を引っぺがし、ぽんぽんと肩を叩いて。
 「アンタも大変だね。ヤな人と知り合っちゃって。
  まあ、俺が言うのも何だけど、頑張って」
 「えと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「そうそう。アンタの変装上手いね。周助にそっくりだよ。騙されそうだった。
  じゃあね!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええ〜?」
 不二が戻ってきた頃には、遠ざかるリョーマの背中は既に人ごみに紛れていた。
 『あ〜ん待ってぇ〜vv』
 彼を追い、ナンパ族も去ってゆく。
 独り取り残され・・・





 「嘘でしょ〜!? 嘘だって言ってよリョーマく〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!!!!!!!」







●     ●     ●     ●     ●








 ピピピ。ピピピ。
 がばっ!!
 目覚まし音で飛び起きる。鼓動は早く、体中に嫌な汗をいっぱい掻いていた。
 時計を見、頭の中で事態を整理する。
 「・・・・・・ああ、何だ。初夢だったのか」
 安堵のため息をつき、
 不二は年明け最初の誓いを立てた。
 「絶対!! 紛らわしい格好では出かけない!!」



―――了

 
















 ―――さ〜って年が明けること早幾日。ようやっと新年バージョンとなりました。
 新年1発目から女装で騙し。それもどうかという感じですが、今年もそんな感じで幸不幸度に恐ろしく格差を孕んだままスタートです。
 そして跡部とサエ。何となく似てません? いやそんな事を言い出したらキリがないと思うのですが。
 2人とも原作は原作、アニメはアニメで髪が類似色、しかも分け目の位置が違うだけで前髪の垂らし方も同じおかげで、テニスシーン等の髪がなびいているところではそっくりになりそうな気がするのですが。
OVA1巻の、「サンキューオジイ(とは実際には言いませんでしたが)」という辺りでのアップがすっごく跡部に見えて笑えました。
 という事で、絵ではなるべく逆に見えるといいな〜と願いを込めて描いてみました。一応本文通り、努力と化粧の成果だそうです。その割には全く絵には現れていませんが。
 さらに出てきた
28&ちとくら+金。四天宝寺はメインで出てきたらまた変わるかもしれませんが、CPとしてはちとくら・蔵跡蔵それにもちろんちとサエと蔵虎蔵が好きです。金ちゃんはミユキと仲良くアイドルのままで。
 また仁王と白石。仁王とタッグを組むというとサエ、お互いいいトコだけ取るというと千歳、そして勝つというと幸村ですが、白石を『互角に張り合う相手』として推奨。あれ? 白石って確か跡部とも天井天下唯我独尊で互いに潰し合うという関係希望だったような・・・。なんでこんなに独自の道を突っ走る人にしたんだろう・・・? そうそう。彼が劇団員だというのはもちろん
My設定です。


 なおここから先はむしろ気付かれた方がいらっしゃった方が凄いと思われます。
 サエの髪型、ちょんまげスレスレのポニーテールですが、あれはかつて
Top絵でも挙げた薔薇之介(タイムスリップシリーズ)の想像画が元です。詳しくは絵の方にある【織田さんが大好きです!!】というのをどうぞ。そしてその前提の元『真っ赤な薔薇をあしらった派手な着物』。・・・そう。シリーズ第1作、薔薇之介登場シーンで彼が着ていた着物ですね。もちろん男につきこんな珍妙な着方はしていないでしょうが。そして薔薇模様に気を取られすぎ、地の色が黒ではなくクリーム色だった事をとんと見落としていましたが。
 残念ながらラジオドラマは再放送してくれないためこの1作目のみ存在する原作を読みましたが、すっごいカッコよかったですよ薔薇之介。読んだのが電車の中じゃなかったら登場シーンで「きゃー!! 薔薇之介―!!」と叫ぶところでした。話も良かったですよ〜。【すりすり】メンバーでまたやらせたいですね。結局アフターフォローが何もなかった薔薇之介いやいっそ七海とうらら改めサエと跡部の関係、そして特に沖田総司をリョーマにして、サエにさんざん遊ばれた挙句決定打で倒れたのはおやつの食い過ぎで気持ち悪かったためというのを!! ・・・って全然話違ってるって。
 それはともかくいよいよ今日からラジオ第4弾の川中島v テープの準備もばっちりあーもー楽しみです!!

2007.1.17