隣人事情再び





応用編.後日跡部と手塚の場合〔塚跡かろうじて付き合い始め〕





 「よお手塚」
 「来たか、跡部」
 「早く来て俺様を出迎えるとは感心じゃねーか」
 「
15分前行動はいつもの事だ。遅れるのは相手に失礼だからな」
 「ほお・・・・・・」
 「では行くぞ」
 「ま、ンなトコで意味ねえ会話で時間潰すってのもなんだしな。
  さっさと行くか」







 話は数日前から始まる。たまたま青学も氷帝も部活のなかったその日、それこそ偶然街で遭遇した手塚と跡部は、買ったばかり(問答無用で購入店の前で遭遇した)の手塚の竿の話で盛り上がった。釣りが趣味の手塚にフライフィッシングが趣味の跡部。分類すれば全くの別物だが、それでも類似点は多い。
 そんなワケで適当な休日たる今日。2人は共に川で釣り―――というかなんというか―――対決をすることにした。







 「勝負は簡単だ。この川で魚を多く釣った方が勝ち。まあ一匹でも釣りゃ勝ちだろうが。
  方法は自由。ただし場所の移動は不可。これでいいな?」
 「よかろう」
 「なら―――行くぜ!」
 自己合図と同時に竿を振り上げる跡部。エサのみ吊るされた釣り糸は綺麗に弧を描いて着水した。手塚もまた適当な位置に錘つきの釣り糸を垂らす。
 釣りとフライフィッシング。錘のつけたエサを沈め、好きな位置の魚を狙う釣りに対し、フライフィッシングは錘のないエサを水面付近に漂わせ魚が喰らいつくのを待つ。2者の違い、特にフライフィッシングの特徴として、綺麗であり同時にエサの少ない川で行うのが普通だ。だからこそ魚は水面に漂うそれを喰おうとする。エサの少ない川は―――同時に魚の数そのものも少ない。跡部の『一匹でも釣りゃ勝ち』発言は決して自分や手塚がド下手だと言っているのではなく、以上の理由にて大抵ひとつのエリアに魚はせいぜいつがいで2匹程度しかいないからだ。
 普通に考えれば無意味かつ無謀な行為。なんでこの広い川のこんな狭いエリアで1・2匹こっきりの魚を巡り争っているのか。だが異この2人においてはわりと向いていたらしい。入れ食いの如くばこばこ釣るのではなく、たった1匹のために自分の持てる力を総動員し、相手と争う。それはまるで1ポイントをひたすらに奪い合ったあの関東大会1回戦のようだ。
 静かな時の中で、川の流れにその身をまかせたゆたう糸をただ見守る。緊迫とリラックスの入り混じる空間。長い戦いの始まりに、2人は同時に長い息をついた。














 そんな2人を影から見守る一同もいてみたり。














 「あ〜なんっか理解不能な空間が広がってるね〜」
 岩場から覗き込みつつ千石がボヤく。
 「う〜ん。一応2人はあれで満足みたいだしいいんじゃないか?」
 それに苦笑して答える佐伯。
 「まあ・・・・・・特に手塚の人付き合いからしてみると一緒に釣り―――っていうか自分ひとりで済む空間に他人を置くっていうのはよっぽど親密度が高いってことじゃないかな? あくまで手塚視点でだけど」
 手塚との付き合いはこの中で最も多い不二も苦笑で答える。
 「せやなあ・・・。まあ跡部に関しても同じか」
 跡部との接触時間が現在最も長いであろう忍足もまた同意した。
 「ふわ〜。でも眠み〜。跡部も手塚もよくやるよな〜」
 ラストに、こちらにまで眠気を誘う大あくびと共にジローが呟いた。
 「でも・・・・・・
  ―――この調子で今日なんか進展ってあんのかな〜?」
 『確かに』







 さて、もう何時間経過したか、1匹も釣れてはいないがとりあえず昼の時刻になった。
 「昼、やな」
 「さてと、跡部は何持ってきたんだか」
 「とりあえず手塚の好物程度はそれとなく教えておいたけど・・・・・・」
 何の期待も込めずに呟く不二。まあ跡部の性格からしてそれを素直に持ってくるわけはないだろう断言して。
 実際―――







 「ほお、サンドイッチか」
 「てめぇはうな茶かよ。全く、ジジ臭え好物だな」
 「む? よくうな茶を知っているな」
 「ああ? てめぇ俺様バカにしてんのか? うな茶くれえ知ってて当然だろ?」
 「そうか。それは済まなかった」
 と、それきり黙々と食べる2人・・・・・・。







 「だ〜か〜ら〜・・・。な〜んで跡部くんもせ〜っかくのチャンス見事なまでにムダにするかなあ?」
 『跡部だから』
 千石2度目のボヤきに答えは即返ってきた。
 「そりゃま、そーだけどね・・・・・・」
 苦笑する彼は放っておいて進む会話。
 「でも・・・『知ってて当然』って、知らなかったじゃん跡部」
 「それは言うなや。ええやん。現時点で知ったんやから」
 「手塚にぜひともあの時の跡部の第一感想をを聞かせてあげたいよ」
 「うっは〜。即座に破談?」
 くつくつと全員が笑う。昨日跡部にうな茶を教えた際、不二が『受け売りで最近知った』という名目で勧めたところ、跡部の返答は、
 『さすが『類は友を呼ぶ』だな。見事に元の素材台無しにしてんじゃねえか。てめぇの周りにまともな感性持った奴ぁいねえのか?』
 ―――だった。
 手塚の好物だと真実を告げたところ、『・・・・・・。まあこういう新しい食い方もいいんじゃねえの?』に変わったが。







 が、跡部もまた一応頑張るつもりはあったらしい。
 「で、そりゃ上手えのか?」
 「食べた事はないのか?」
 「ぐ・・・・・・!」
 (嫌なカウンター出しやがって・・・。てめぇは不二か)
 どちらと答えようがおかしい。あるならば聞く意味がない。ないならばそれなのになぜ知っているのか。
 「どうした?」
 「なんでもねえよ・・・・・・・・・・・・知っちゃいるが食ったことはねえだけだ」
 「なるほど。上手いぞ」
 そこで、会話が終わる。
 「・・・・・・」
 「どうした?」
 「いや・・・。そうか」
 「ああ」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 ぱくぱくもぐもぐ・・・・・・・・・・・・







 「手塚・・・・・・・・・・・・」
 「うわ・・・。跡部くんも跡部くんだけど手塚くんも手塚くんだね」
 「さ〜すが跡部のカレシ・・・・・・」
 目元に手を当て顔を逸らす不二。大口を開けて(イメージ的に)呆然とする一同。
 「あげようよ手塚・・・。せっかく跡部が苦しい言い訳考えたのに・・・・・・」
 「普通バカップルはそこから発生やろ・・・? お弁当食べさせあいなんちゅー恥ずかしさ
MAXに跡部が挑もうとしたんやで・・・・・・? 気持ち汲んだらんか・・・・・・」
 は〜〜〜〜〜〜〜〜
 川のほとりにため息の五重奏が広がる・・・・・・。







 「あん?」
 「どうした? 跡部」
 「何でもねえ。
  ―――ちょっと見てろ」
 「了解した」
 そちらを見もせず竿を手塚に託す跡部。立ち上がり、向かうはトイレ―――ではもちろんなかった。







 「やば・・・! 跡部こっち来る!」
 「とりあえず普通の釣り客の振りして―――!!」
 こんな事は想定済み。5人の今日の格好は釣り客としてごく普通の格好だ―――竿がなければ登山客にも見えたが。
 垂らしておいた釣竿(厳密にいえば5人がやっているのはフライフィッシング。跡部の自慢タラタラによる受け売りとなれば自然とこちらになる)を手にとり、ついでになぜか喰らいついていた魚を適当に放流して改めて垂らす。
 後ろを跡部が通り過ぎ――――――
 ごんがんげすごすごしゃ!!
 通り過ぎざま殴り蹴りエルボーかかと落とし終いに踏みつけた。
 「何やってんだてめぇら」
 「質問は・・・殴る前にして欲しいな・・・・・・」
 痛そうに頭を押さえへたり込みつつも健気に返す不二。
 「でも・・・よくわかったね・・・・・・」
 後ろから蹴られ川に頭からダイブした千石が、ずぶ濡れのままというか川に座り込んだまま拍手した。
 「どこの世界に5人固まってフライフィッシングするバカがいる」
 「そら失敗やったなあ・・・。次は釣りにせな・・・・・・」
 強烈なエルボーによる衝撃でずれた眼鏡を直しながら、忍足がのんびりと呟く。
 「あ〜あ。せ〜っかく跡部に耳が腐るほど聞かされつづけた成果が出たと思ったのに全然役に立たないじゃん」
 「んだとてめぇ・・・」
 頭についた靴の埃を落とし、さもつまらなさそうにため息をつく佐伯に、跡部の頬が引きつった。
 「で〜も跡部〜。全っ然何にも進んでないじゃんさっきっから」
 「るっせー!!」
 さらに踏みつけた足元からジローの痛すぎる批評が飛んでくる。
 「てめぇらがンなデバガメやってっから進まねえんだろーが!!」
 「うあ・・・。凄いイイワケ・・・・・・」
 「気付いたの今さっきじゃ・・・・・・」
 「ちゅーか・・・、俺ら何か関係しおったか・・・・・・?」
 「いなくても進まなかったよね〜?」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 ヤブヘビというよりアリ地獄。藻掻けばその数倍状況が悪化する。
 お前らなんか嫌いだちくしょ〜〜〜!!! と叫んで走り去りたい気分にも駆られたが、さすがに人格を壊しすぎるそれはプライドが許さないのか、何とか残っているような気もする理性により紙一重で押さえつける。
 そんな、人知れず(いや多分ここにいる誰もが解っているのではあろうが)努力をする跡部へと。
 「ま、俺らに気を使わずに頑張って♪ ていうか俺らに気ぃ使うんだったらむしろ頑張ってvv」
 千石がトドメを刺した。
 「お前らなんか嫌いだちくしょ〜〜〜!!!」
 ずだだだだだだだだ・・・・・・!!!!!!
 『あ、壊れた』







 その後、気を使ったのかそれとも使わなかったのかまあどっちにしろ関係ないのだろうが当然の如く進歩は無いまま日が暮れた。
 帰路―――その別れ道で。
 「今日は楽しかった。礼を言うぞ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこがだ?」
 手塚の言葉に小さく小さくツッコミを入れる跡部。下を向いた彼の目の前に、
 手が差し出された。
 「あん?」
 つまりは握手を求めているらしい。
 「また行こう」
 などと言う手塚へと。
 「ったく、テニスの試合じゃねえんだよ」
 跡部はガリガリと頭を掻き・・・・・・
 その手を取った。
 「ま、気が向いたら行ってやるよ」
 「それは楽しみだ」







 「―――ねえ、あれホントにデート?」
 「ダメだよ周ちゃん。もうあの2人にまともな判断基準求めちゃ」
 「ま、い〜んじゃない?」
 「せやな。一応次の約束取り付けるまでは上手くいったんやし」
 「跡部〜! 頑張れよ〜!!」



―――そしてこの後デバガメ5人衆はどうなることやら・・・・・・











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 はい、キスプリラブプリ(最早英語による略が面倒になった)共通の部長対談よりでした。そして話書き始めはちゃんとラブプリ発売日だったのに、なぜか10日以上経過したおかげで企画話には使えそうにありません。
 それはともかく塚跡。いえそれはいいのですがかつて
Topにて語った通りラブプリの主役は跡部と真田だと思います。あ〜跡部様いい人だ〜!! 彼を世話女房だと思う人は感激雨嵐です! 裕太と杏ちゃんにはお兄ちゃんの代わりに練習に付き合ってあげ、ジローは探しに行けば振り回され、挙句殴れば監督に怒られ。この展開からすると『Smash Hit!2』、次のダブルス育成ペアは跡部と裕太あるいは跡部とジローか・・・!? な・ん・で、杏ちゃんは育成出来ないかなあ・・・(大会がミクスドでない以上当り前でしょうが)。そして真田はいいなあ。サエに同情したと思えば残りおおむね皆に同情され。挙句に跡部にまでかい・・・。

2004.2.1224