脅す(対忍足)
「おい忍足。今から俺様が言う事をよーく聞けよ?」
「せやなあ・・・。とりあえず聞くから落ち着きぃや跡部。その力で襟掴まれるとな、俺50秒後には死にそうやわ」
そんな忍足の反論(懇願?)を綺麗に無視して、跡部はさらに顔を近づけ(そしてより襟を閉め)言った。
「俺様の事好きだよな?」
「・・・・・・・・・・・・なんやて?」
「だから!
『俺様の事好きだよな』って訊いてんだろ? アーン?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ひとつ確認してええか?」
「俺様の質問に先答えろ」
「こら質問っちゅーより尋問やで・・・?
―――やなくてな。
お前こらもしかして・・・・・・
告白、のつもり、なんか・・・・・・?」
「他に何があんだよ?」
(ちゃう・・・。こら『告白』やあらへん・・・・・・!!)
なぜ普段あんなに人からされるクセにこんな壮大な間違いを犯せるのか不思議でたまらないが、自分の意見に100%の自信を持つ(つまりはいつも通りの)跡部に、忍足の突っ込みは心の中だけに止められた。こんな跡部の価値観を変えるのは恐らくジローに『部活中の睡眠禁止』というのと同程度に難しいだろう。あまりに無謀すぎるためやった事はないが。
突っ込みはしないが・・・・・・
さすがに洩れるため息は抑えようがなかった。
跡部の眉がぴくりと跳ね上がる。
(しもた・・・・・・)
「ああ? てめぇなんだよその態度。まさか、俺様の言う事に従えねえ、とか言うワケじゃねーよなあ・・・・・・?」
機嫌[テンション]一気に急降下。よく言えば切れ長普通目つきが悪いと言われる彼の目が、よく言ったところで吊り上がり怒りの形相を露にした。
(こら機嫌直すんめっちゃ大変そうやなあ・・・・・・)
今度はため息もまた心の中に止め、
―――忍足は迫りつつあった跡部を抱き締め、ディープキスを送った。
「う、ん・・・・・・」
吊り上がった目が吊り上がったままに閉じられる。どれだけの時間が経過したのか、ようやくそれが収まった頃に口を離した。
こちらもテクには自信があったのだが、かろうじて頬は染めるものの全く酔いしれた素振りも見せずむしろ妖艶に誘うかのように細められる目を見返し、もう一度軽く触れるだけのキスをする。
極僅かな隙間―――それこそ『間一髪』程度に開き、
「告白っちゅーんはな、こないなんを言うんや」
「で、てめぇの返事は?」
「そら『脅された』からなあ。受けな何されるかわからんし」
「ほお。なら決定だな」
「ええんかい、それで・・・・・・」
とりあえず、跡部に関して思い違いがひとつ。この男の感覚は意外と普通だった。少なくとも本気でさっきのを『告白』だと思っていたのではなくちゃんとあれは『脅し』だとわかっていたらしい。
「ま、どないな過程でも始まってもうたら最後までやり通さなあかんなあ。
ちゅーワケで、これからもよろしゅう。跡部」
挨拶と共に、僅かな隙間を舌で埋める。
ぺろりと舐められた唇を開き、跡部が軽く微笑んで見せた。にやりと笑う、とも言うが。
「クッ。俺様がやるんだ。最後まで出来ねえワケはねーだろ?」
「せやな」
笑い合い、2人の間が0になった。
今後2人がどうなるか、それは言うまでもないだろう。
―――バレンタイン・カップル
2004.2.15