普通に告白する(対佐伯)
「佐伯!」
「・・・? なんだよ跡部改まって」
「好きだ」
うじうじ悩むのは性に合わない。思ったら即行動いやむしろ速行動の跡部は、『告白』という行為もまた前置き完全0で行なった。
向かい合う佐伯がきょとんとする。
瞬きを2・3度。じっとこちらを見つめる翠色の瞳に己のそれを重ねる。
彼の得意な束縛。だが今束縛されているのは彼。
無言で、佐伯が自分を指差す。それに軽く頷くと、指の向きを変え今度は佐伯自身を指差した。再び頷く。
さらに暫しの時経過。
佐伯が再び動く。こちらの顔に手を伸ばし、前髪を掻き上げ顔を寄せてくる。
「佐伯・・・・・・!!」
ゆっくり寄る彼を待たず、跡部は彼の痩せた体に両腕を回し一気に引き寄せた。
一気に引き寄せ―――
がん!
「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」」
おでこをぶつけ2人で蹲った。
「てめぇ何しやがる!!」
「それはこっちの・・・台詞なんだけどな・・・・・・」
跡部の不条理極まりない文句にボヤき、佐伯は先ほど同様蹲る跡部のおでこを掻き上げた。まるでぶつけたそこをいたわるように優しく撫で、
「―――!!」
―――さらに自分のおでこを当ててきた。
ある意味キスよりも遥かに緊張する間合い。唇が付きそうなほどに近付いているのに目はつぶれない。
「なに・・・して・・・・・・」
が、
「う〜ん。とりあえず熱はないな。痛がってる時点で夢遊病でもなさそうだし、となると後は妄想か・・・・・・」
「てめぇはどういう目で俺を見てる!?」
勢い任せに立ち上がりつつ、今更ながらに気付く。どうりでおでこがぶつかったわけだ。向こうは熱を測りたかったようで。
「いや、いきなりお前にそんな事言われたら10人中10人が同じ反応をすると思うけどね」
「ああそうかよ! もーいい!!」
眉を潜めそんな事をホザいてくる男にぶち切れた跡部。半分身をかがめたままの佐伯にかかと落としを食らわせようかと思ったが、なんだかそれすらも虚しくなってきた為止める。何が虚しいって、コイツなら絶対避ける。空振りする攻撃ほど寒いものはない。
身を翻し、ずがずがと歩き去ろうと―――
―――した足を止めた。正確には『止めさせられた』。
「―――で、てめぇは次何がやりてえんだ?」
後ろから抱き込まれ、全身を佐伯の温かさに包み込まれ・・・・・・
「熱測る次は全身でも検査するつもりか?」
・・・・・・跡部は全く以って興奮したり増してや酔ったりする事は出来なかった。なにせ相手はこの男。まともな告白を熱だ夢遊病だ挙句に妄想だなどと言うヤツの行動にどうやったらドキドキなど出来る!?
「ははっ。怒るなよ。冗談だって。まあ99.9%本気だったけど」
「そりゃ『本気だった』つーんだ!!」
耳元での笑いに思い切り振り向く。
怒鳴る、その声が。
「ん・・・・・・ふぁ・・・・・・」
全て、佐伯に飲み込まれた。
抱き締める、腕に力が篭る。返すように、跡部もまたその腕に自分の手を重ねきつく掴んだ。
「――――――俺も好きだよ、跡部」
唇は離した佐伯が、極上の愛しさを込めて跡部の髪をなで上げる。
それに対し跡部は―――
半眼で尋ねた。
「で、次は何の検査だ?」
「・・・。酷いなあ。今度は本気だって」
「0.2%位だろ?」
「残念。その600倍」
「100超えてんじゃねーか」
「だから、『120%本気』」
「馬鹿か」
「この程度の計算が出来るって意味じゃ馬鹿じゃない。お前に対して盲目って意味じゃ馬鹿だな。『跡部馬鹿』」
「それじゃ俺様が馬鹿みてえじゃねーか」
「お前だって充分馬鹿だろ? 『佐伯馬鹿』」
「言ってろ。勘違い野郎が」
「あらら。そりゃ残念。
―――ま、早くそうなってくれよ?」
「なるか馬鹿が」
抱かれたまま顔を背ける跡部。それでもこの腕から出ようとしない彼の髪をもう一度なで、耳元へと顔を寄せる。
「好きだよ跡部。愛してる」
顔を背けたままの彼の耳朶が赤くなる。今日のところはそれに満足して、佐伯は頬を緩め幸せそうな笑みを浮かべた。
―――バレンタイン・ロマンスv
2004.2.14