甘える(対千石)


 「わ〜い跡部くんとデ〜トデ〜ト♪」
 「あ、ああ・・・・・・」
 腕を組みこちらへしなだれかかる千石へと、跡部はぎこちなく返事した。
 (落ち着け・・・。そうだ、こうやってやればいいんだ。俺様なら出来る。簡単だろ?)
 
100%偏見でいうなれば恋する女どもの専売特許兼最強武器[リーサルウェポン]。丁度いい例が今自分の隣にいるこの男。こんな事やられてウザいだけじゃないのかと思いつつも、世間一般の野郎どもはこうされるのが嬉しいらしい。少なくともコイツに関してはそうだろう。自分がやられて嫌な行為を俺様相手にやるとはとても思えない。もしもそうなら瞬殺決定だが。
 (大丈夫だ。俺様の美技を持ってすればこんなやつ酔わせるなんて簡単じゃねーか)
 ・・・・・・確か前回その『酔わせる』で失敗していたような気もするが、それはあえて突っ込まない事にして。
 てれてれと歩く2人。適当に人気もなくなってきたところで。
 ―――跡部は千石の腕を逆に取り、僅かに首を傾けた。
 と・・・・・・
 ずざざざざざざざざざざざざ―――!!!
 「何だその反応は!!?」
 血の気を引かせついでに腰も引かせて後ずさられ、思い切り怒鳴り返す。
 「だ、だだだだだだだだだってさあああああああ!!!」
 余程の驚きだったらしい。ロレツすらまともに回っていない。
 
10m以上向こうから(ここで突き当たりにぶち当たったためこれ以上の後退は断念したらしい)真っ青な顔でこちらを指差す千石に、跡部が殺気を放ちつつ拳を震わせた。
 とりあえずこちらの言いたい事は通じたらしい。指していた指を引っ込め、代わりとばかりに両手をぶんぶんと振る。
 ぶんぶんと振って―――
 「何があったのさ跡部くん!! 今君思いっ切り壊れてなかった!?」
 「・・・・・・・・・・・・」



 がす! ごす! どずっ!!



 「―――あ、跡部君、千石君見なかった?」
 「俺様が? 見てねーよ。見るかンなヤロー」
 「そう? あーあ、せっかく千石君にチョコ渡そうと思ったのに〜・・・・・・」
 再び出た大通りにて、綺麗にラッピングされたもの―――もちろんチョコだろうが―――を手に持つ少女の質問に答える跡部。ついでとばかりに『忠告』してやる。
 「とりあえず止めとけ。アイツは」
 「そ、そうなの・・・・・・?」
 「ああ・・・・・・!!!」
 力説するその顔が微かに赤いのは・・・・・・本人も千石に言われた事を納得しているから、だろうか・・・・・・?



―――バレンタイン・ホラー?
2004.2.15