襲う(対手塚)


 「なんだ跡部こんなところへ連れて来て」
 「いいから黙って入れ」
 と、2人が入ったのは体育館倉庫。手塚を先に入れ、跡部は唯一の出入り口である扉を閉めた。自分が背後に庇う限り彼はもうここから出る事は出来ない。
 「で、話とはなんだ?」
 「つまりな―――」
 一応普通を装って。
 跡部は手塚との距離を0へと詰めた。
 「む・・・・・・?」
 短く呻く手塚の唇を塞ぐ。懐に潜り込むように身を寄せ、肩に手を回した。僅かに背伸びをしなければ届かない、4
cm差という微妙な距離にプライドが少し傷付けられるがまあその程度はいい。
 遊びは充分なれている。テクには自信がある。
 息継ぎの暇すら与えない濃厚なキス。持てる技術を全て駆使し、快感の波に酔わせる。これで墜ちなかった奴はいない。
 「なに、を・・・する・・・・・・?」
 「うっせえ」
 無表情を保っていても、その目は潤み、その頬は赤く染まっている。
 スキだらけとなった足元を狙い、軽く払ってやれば簡単に後ろに倒れた。
 マットの上に倒し、押さえつけて跡部は薄く笑った。
 「ざまあねえなあ、手塚」
 精一杯の余裕。かろうじて今ストップをかけてはいるが少しでも気を抜いたら本能に任せるまま犯してしまいそうだ。
 だがそれでは意味がない。そんな事をすればプライドの高い彼に一生消えない傷をつけることになる。
 (まずは告白だろ? 手塚の返事はともかくまずはそれからだ)
 かろうじて残っている理性。今までのどうでもいい遊びとは違うのだ。一手一手、確実に攻めなければならない。
 思い、荒くなる呼吸を抑え跡部は深く息を吸った。言うのはたった数文字だろうが、肺中の空気を使わなければ言えないような気がした。
 深く、深く、限界を越えなお深く息を吸う跡部。その間に―――
 ―――手塚は混乱から『立ち直った』。
 「跡部。貴様は俺を負傷させ試合を棄権させるつもりか・・・!?」
 跡部の吸気活動が、止まった。





 ごすばすがすげすげす!!!





 「―――あ、跡部君、手塚君知らない?」
 「俺様が? 知らねーよ。知るかンなヤロー」
 「そう? あーあ、せっかく手塚君にチョコ渡そうと思ったのに〜・・・・・・」
 体育館倉庫前にて、綺麗にラッピングされたもの―――もちろんチョコだろうが―――を手に持つ少女の質問に答える跡部。その手には―――
 ―――チョコにも見えなくもない暗赤色の半固体がこびりついていた。



―――バレンタイン・サスペンス?

2004.2.14