世の中には避けようのない事態というものが存在する。
例えばそれは、思想の違う者同士の対立。得てしてこれは己を形作る『自分』―――個性だの人格だのと言われるものが強い者ほど起こりやすい。妥協点を知らないからだ。
そしてここにも2人、そんな者たちがいた。
The Moment
<一瞬の勝負。勝負は一瞬で付けられる>
「―――つまり?」
不二の説明を聞き、千石は思い切り首を傾げた。
「それで結局なんで跡部くんと手塚くんが決闘なんてするハメになったの?」
それが今、彼らの目の前にある事実だった。死屍累々と横たわる死体(と思しきもの)の上で左半身でリラックス姿勢で構える跡部。逆に右半身で軽く開いた手を胸元まで上げる手塚。
「だからね―――」
不二がさらににっこりと笑って説明を続ける。
「跡部には跡部の、手塚には手塚の、譲れない一線っていうのは確かに存在するんだよ。そしてそれがある以上、しかも2人のそれが全く噛み合わない以上対立せざるを得ないんだよ」
「・・・・・・・・・・・・はあ?」
余計にワケがわからない。いや意見が対立して拳を合わせるのはよくわかる。いつも見ているし(なお自分の場合はその意見すら取り合ってもらえず一方的にやられるだけだが)。
「つまり―――」
不二の抽象的過ぎる説明に苦笑し、同じく2人を遠目に見ていた佐伯が続けた。
「跡部が男達にインネンつけられたんだ。いつもの事だし気にせず逆リンチに遭わせたところで手塚が来て、『お前はなぜそうやって暴力で何でも解決しようとする!』って跡部非難したんだよな。そしたら跡部もムキになって『だったらてめぇが止めてみろよ!!』とか言い出して、手塚も『よかろう』とか乗ってそれで今の状況」
「あの〜、ちょっとサエくんタイム」
淡々と解説する佐伯に、千石がおずおずと手を上げた。なぜだろう? これから自分がする質問は極めて当り前なはずなのに妙にしにくいのは?
「手塚くん『よかろう』とか肯定しちゃった時点で暴力で解決するつもりじゃん。しかも第一問題で2人以外立ってない時点で今更『止めてみろ』も何もないんじゃないの?」
「手塚って何気に天然ボケ入ってるって思わない?」
「いやそういう問題じゃないっしょ」
「ある意味跡部と互角な理由がよくわかるよな。本気でいろんな意味で」
「だからそこじゃないって納得するトコ」
微笑ましげに2人を見守る不二と佐伯―――野次馬隊に静かに突っ込む千石。
「でもどっちが勝つだろうね?」
「普通に考えれば跡部か? なにせ人間凶器だし」
「けど手塚も侮れないよ? お祖父さんが警察で柔道教えてるっていうし、手塚自身も学んだんじゃないかな?」
「ああなるほど。それで手塚襟元狙ってんのか。拳構えればただの格闘マニアかって思ったけど、抜き手だしな」
「でも跡部も気付いてるみたいだね。手がいつもより前に出てる。多分後の先狙いじゃないかな?」
「後の先・・・? 初っ端突っ込んでいくのってそう呼んでいいのか・・・?」
「攻撃そのものは手が前にある手塚が先でしょ? 弾いて攻撃に移ればホラ、後の先だよ」
「・・・・・・すっごいヤな扇動だな」
全く聞いてもらえず、2人はなんちゃって解説に入っていた。まあ千石自身の見立てでもそんな感じだったので最早何も言わず。
互いの腹を探り合うように向かい合ったまま微動だにしない跡部と手塚。荒野の決闘シーン並の生暖かく、しかし鋭い風(低気圧接近中)が砂ぼこりを巻き上げる。緊迫感MAXの中で―――
「―――ああ、そういえば手塚」
不二が見事なまでにそれをぶち壊しにした。
「・・・・・・・・・・・・何だ?」
コケる跡部。眼鏡をずり落としながらも健気に振り向く手塚。
「跡部にさ、『ルール』とか『常識』とかそういう言葉期待しない方がいいよ」
「ああ? そりゃどういう意味だ」
「そのまんまの意味だろ?
とりあえず俺も助言しておくよ。争うなら徹底的に争え。争わないならさっさと負けとけ。跡部の攻撃は急所狙いの一撃必殺だ。急所以外を狙った攻撃はまず来ないぞ」
「そうだね。跡部曰く『人体は全て急所だ』だからね。たとえ手足でガードしようとそれごと砕かれるから頑張ってねv」
「対跡部戦でヘタなガードは怪我を2倍にするだけだからな。ま、いっそ開き直って一撃で沈まさせられるのが一番軽傷で済む方法かもな」
にこにこ笑ってのそんな発言。恐ろしい事を恐ろしく気楽に言われる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ああ!? 何だてめぇその目は!!」
「いや別に。何でもない」
「ああそうかよ! なら―――
――――――さっさと行くぜ!!」
・ ・ ・ ・ ・
そして始まった決闘とやらは、恐らく開始僅か3秒程度で終わりを告げた。
「だから言ったじゃないか。跡部にルールとかないって」
「跡部さ、唯一苦手なスポーツが格闘技全般なんだよな。始まって即座に反則負けするから」
「何だよ。一番効果のある方法で攻めてるだけだろ?」
「う〜ん。実戦以外じゃそのイイワケ通用しないんじゃないかな?」
ぱんぱんと手をはたく跡部と、何とも言えない半端な笑みを浮かべる3人。彼らが見下ろしているのは―――
―――脚に手を挟み込み地面でのたうち回る手塚だった。
勝負開始は解説者2名の予想した通りだった。言葉とともに突っ込んでいく跡部。冷静に見極め襟を取ろうとした手塚の手を寸前で払い、逆に手塚の襟に手を伸ばす。警戒して手塚が下がり・・・・・・
上に気を取られて隙の出来た手塚の股間へと、跡部は強烈な膝蹴りを放っていた。
「あ〜でも見てて痛そーだった〜・・・・・・」
「気の毒にな手塚。同じ男として心底同情するよ」
「でもホラ、おかげで人体の急所について1つ学べたよ?」
「・・・いや周ちゃん、多分さすがにそれは手塚も知ってると思うよ」
静かにいろいろ言うギャラリーは無視して。
「おし。
―――オラ手塚行くぞ」
服の乱れ(別に特には見られなかったが一応それでも振り程度で)を直し、跡部が手塚の襟首を持ち上げた。
「まず映画だったよな。間に合うのかンなトコで油売ってて? たとえ最初はCMだろうが俺は最初っからじゃねえと見る気になんねーんだよ」
「いや・・・跡部、待て・・・・・・。俺はまだショックが・・・・・・」
「次の回待ちなんて絶対イヤだぜ? また券から買い直しじゃねえか。まあそれはてめぇがやるからいいとしても、映画待ちって時間中途半端だろ? しかもずっと気にしながら行動しなきゃなんねえ。ンな時間に束縛されるなんてまっぴらだな」
何か言いかけた手塚もまた無視し、ずりずりと引きずり出す。
「つーワケだから、てめぇらも邪魔すんじゃねえぞ」
「しないってv」
「大丈夫大丈夫。俺たちは後から付いていってお前ら2人観察するだけだから」
「・・・・・・ならいいけどな」
「いいんだ。いや跡部くんがそう思うんならいいけどさ」
手を振ったりため息を付いたりして見送る野次馬兼時に解説者ことつまるところデバガメ隊。そんな彼らに見送られるまま―――
―――跡部と手塚の初デートは無事スタートを切ったのだった。
見送り、千石が結局首を傾げた。
「んで結局、不二くんは何が言いたかったワケ?」
オープニングでの不二の解説を思い出し、尋ねる。
「ああ、あれ?
跡部は手塚が自分を心配もせず非難したのが気に食わない。手塚は単純に跡部が他人に暴力を振るったのが許せない。
ね? 全然かみ合ってないでしょ?」
「それって・・・・・・」
「確かに跡部も手塚も自我は強いし妥協点も見つからないだろうな。そもそも点を探る以前に掠りすらしてないんだから」
「だめじゃん。全体的に」
「うん。僕もそう思う」
「っていうかこうなると一番の疑問はあの2人が付き合ってることだよな。何をどう間違えたらそうなるんだ?」
『さあ・・・・・・?』
・ ・ ・ ・ ・
次の日、部活にて。
「不二、聞きたいことがある」
「どうしたの手塚? そんなげっそりして」
「いいから教えてくれ。
―――跡部とどうやったら別れられる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
無理じゃないかな?
跡部ってば普段ものに執着しない分一度すると凄いよ。それが対人となれば完全に墜ちてくるまで攻め続けるだろうし。
ホラ、言ってるじゃない。『俺様の美技に酔いな』って。少なくとも酔うまではやられ続けるんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まあ・・・、
―――頑張って」
・ ・ ・ ・ ・
さらに余談だが、この日それもほとんどこの直後。
「手塚てめぇ何不二に言い寄ってる!!!!??」
「待て跡部! それは誤解―――!!」
「てめぇのイイワケなんぞ聞くかーーーーーー!!!!!!」
不二との接触によりあらぬ誤解を受け手塚は跡部に鉄拳制裁を食らった事は・・・・・・
・・・・・・・・・・・・わざわざ記すまでもないだろう。
・ ・ ・ ・ ・
そんなこんなで。
「なあ手塚。てめぇは誰のモンだ? 俺様のモンじゃねえのか? アーン?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだな」
手塚の幸せは、まだまだ遠い。
―――Fin
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
またわからん感じで塚跡?
です。ちょっぴりどころではなく跡部に大馬鹿を務めさせ―――ついでに途中で書く気を一気に無くした話(爆)です。だって〜!! 次週のラジプリ、わざわざ不二先輩が『次来るのは「副部長」だよ。どこの、だろうね?』なんて仰られるから、『副部長』の存在する学校は恐らく3校のみのため確率1/3で某六角中の副部長かと思い感激してその記念に話を何か作ろうと思っていたのに・・・・・・!! ってかそれで何ゆえ塚跡? いやいいのさ。冷静に解説するサエが書ければ。
・・・・・・違ったためやっぱ上げるの止めようかな、などと後ろ向きに考えつつもそういえば最近表に話あまり書いてないなあ、という妥協によりラストまで行きました。は〜。サエ〜。ゲスト来て〜〜〜〜〜〜(泣)。
で話を戻しましてあとがき。塚跡は好きなのですがというか塚跡ベースで跡部に絡むみんなが好きなのですが、ぶっちゃけこのCPほど前に進みにくいものって(取扱いCPの中では)ないなあという事で今回ちょっぴり異色に進めてみました跡部のみ。彼は目的に向かって猪突猛進しそうだなあ・・・。そして結果―――
――――――ダメでしたねもちろん。やっぱ塚跡はじれじれもたもたか。いや実はこのノリも好きなんですが。跡部の暴走ぶりが。
では、ヤる気完全0でだらだら進められた話、ようやっと終わりです。皆様お疲れ様でした。
2004.5.13